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第2章
処刑日の幕開け1 ミミルside
とうとうこの日がやって来た。
ナイアス侯爵令嬢、ローズマリア・ナイアスが火炙りにされる日が。
本当ならば断頭台にて斬首されるのがルア王国の死刑制度だけれど、何とか制度を改革してもらい火炙りの刑に処せることになった。
断頭台など一瞬で終わる苦しみよりも、私の受けた同等かそれ以上の苦痛を伴って貰わないと赦せないと考えていたからだ。
どれだけこの日を待ち望んだことだろうーー
「ね、楽しみねジゼ。
きっと彼女は綺麗に燃え上がるわ、ジゼのおかげで完璧な舞台が整えられたの感謝してるんだから。
ありがとう!私とっても嬉しいわ」
隣にいる王子様の腕に自らの腕を絡めて頭を寄せる。
「ぁあ、ミミルが喜んでるなら良かった」
「ドキドキするわ、やっと此処から私がしたい事が叶えられてゆくのだから」
ナイアス侯爵令嬢の公開処刑は、これから私の人生を幸せにしてくれる狼煙に過ぎない。
この後からが本番なのだ。
火炙りの刑が終われば次は私を火炙りにしたセレイア王国の民達への報復。
ーーそしてバンリを私の奴隷にして受けた屈辱の何倍もの屈辱を味あわせてやることだ。
一国の民全てに復讐するのは時間のかかることかもしれないけれど、それをしてやっと私は前を向いて生きていける気がしていた。
その後は乙女ゲームに出てくる悪役令嬢を全員処刑台に送る旅に出なければならない。
実は乙女ゲームは第五シリーズまであるので、少なくともメインの悪役令嬢は後三人いる。
大物悪役令嬢は三人としても、木っ葉のような悪役令嬢を含めると十人以上はいるのだろうか。
まぁ、木っ葉は後に置いといて、まずは大きい悪を処さなければ落ち着かない。
全てが王侯貴族生まれの者達だから、これもまた処刑まで持って行くのに時間のかかる話だけれど、ゲームは気長に行うものだから仕方がないと思える。
広場の中心に置かれた火炙り用に用意された空間を中心に、群衆が集まっているのを、少し高い位置の席で見下ろしていた。
この席は本来断頭台の処刑の様子を王室の者が見届けるために設置されたものだけど、見下ろすにしても良く見える。
火炙りの刑で一つ惜しいのは、断頭台故に皆が見えるような高い位置に設置されているので、後ろの群衆にも処刑の様子が見えるが、土の上で行う火炙りではそうもいかないことだ。
考え事をしているうちに、小さな騒めきが起きる。
後ろ手に拘束され、そこからのびる縄を処刑人の補助が握りしめているナイアス侯爵令嬢が姿を現したからだ。
火炙りの刑執行の道を、素足のまま歩いている姿は何とも言えない敗北者そのものだった。
こちらからも表情がよく見えるけれど、相変わらず動揺のかけらも見受けられないのが癪に触るけれどーー
(いざ、火が灯されても、まだあんな澄ました顔をしてられるのかしら?
いや無理ね、ちっぽけな虚勢なんてあの苦痛を前にしたら吹っ飛ぶわ。その時が見ものよね)
ふふっと口元に笑みが浮かぶ。
(まず、棒に吊るされるだけで、これから起きる出来事を想像して恐怖にみっともなく慄くでしょうね)
♢♢♢
ナイアス侯爵令嬢が輪の真ん中までくると、速やかに棒に括り付けられて行き、どんどん足が宙に浮いていく。
それでも凛とした面持ちで、その目は群衆もミミルも目に入っていないかのように、ただ伏せられているだけだった。
棒につるされ終わると、処刑人はナイアス侯爵令嬢の足元の地面に、大量の藁、その上に小枝・細い木を組み、外側を乾燥した薪で囲い山の形にする。
その上からさらに燃えやすいように松脂を蒸留して作る黒い樹脂質であるピッチをかけた。
その様子をミミルはじっと見ていた。自分の時と同じ方法だと確認する為に。
火炙りの刑で即死は出来ない。最初は足元から熱が伝わる恐怖を味わい、ゆっくりと炎が上がってくるのだ。
(まだ表情を崩さないなんて、感情が無いのかしら…まぁでも、いざ火が点火されたら流石にナイアス侯爵令嬢の泣き叫ぶ姿がやっと見れるわね)
準備が終わると処刑人は松明を掲げて叫んだ。
「これより、ナイアス侯爵令嬢 ローズマリア・ナイアスの処刑を執行する」
周囲からは、大きな歓声があがる。
処刑人は、掲げた火のついた松明をナイアス侯爵令嬢の足元へとやると、ナイアス侯爵令嬢は静かに目を閉じた。
(流石に、火をつけられる様子は見たく無いってことねーー)
そこへ、一粒の雫がぽつりとミミルの頬を濡らした。
(雨…かしら?
これからって時に…でも無駄よ。多少の雨が降ったところで、火の魔法で火力は消えたりしないわ)
とうとう松明から足元の木材に火が灯ったときーー
ナイアス侯爵令嬢はゆっくりと頭をもたげ、すっと瞼を開いた。
その瞳に宿ったのはいつもの桃色の瞳ではなく、炎すら呑み込む鮮紅の光。
次の瞬間、広場の空気がひとつ震えた。
ナイアス侯爵令嬢の唇がわずかに開き、声とは呼べぬほど澄みきった響きが、ぽつりと零れ落ちる。
それは炎の爆ぜる音を押し返し、落ちていた雨粒すべてに紅い魔力を宿らせ、その力を処刑場中に 奔らせていく。
細いはずなのに、どこまでも伸びていく。
美しいのに、背筋がひやりとする。
人の声であって、人の声ではないーーそんな響き。
処刑場を満たす旋律に、処刑場にいた全ての人間が、知らずのうちに息を呑んだ。
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