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第2章
夜の呟き
夜も更けた頃ーールアティア教会の医務室。
ベッドの上でリディアは、室長から届いた手紙の短い文章の意味を考えていた。
室長からの手紙には、一行でこう書かれていた。
〝魔法の理屈は、おまえが研究してきたものと変わらん。応用しろ〟
(…私のしてきた研究。配合によって効果の変わる薬…その理屈を応用して、私の魔力に素材を配合して出来るポーション。
それをさらに応用するということは…)
横たえていた身体の半身を持ち上げて、両手の掌を見ながらポツリと呟いた。
「私の魔力と別の魔力を配合してーー別の魔法を生み出す?」
ぽつりと口にすると、ベッドを近付けて隣で眠っていたはずのバンリも、身を起こし声をかけてきた。
「ジゼ王子がナイアス侯爵令嬢を聖剣として扱える理屈も、それなんだろうね」
そして片手の平をリディアの前にかざす。何も言わずとも、何をしたいのかを悟ったリディアはその掌に、自らの手を重ねて握った。
バンリが目を閉じると、同じように目を閉じて重ねた掌に魔力を集中させる。
すると、掌に集まった魔力が新しい魔力に変化を遂げるのを感じた。
セレイア王国にいた頃から、一緒だからだろうかーー寸分の狂いもなく一つになる魔力が心地良い。
ポーションはその組み合わせの相性が大事だ。相性の悪い物は分離してしまう。だからバンリと私は親和性の高い魔力なんだろう。
それを嬉しく思うのはーーきっと、私の中にバンリへの恋心が残っているからなのだ。
「ねぇ、バン」
目を開いて、バンリに声をかけた。
「なに?」
「私ね、ずっとーーあなたを奴隷から解放したいと言ってたでしょ」
「……」
「必ず、解放したい。
セレイア王国で起こったことを聞いた後にその気持ちは強まって…
その為ならどんなことをしてでもってーー強く思ったのは、本当なの」
「うん」
「でもーー本気でバンを奴隷から解放するために行動するなら…バンのことを思うなら、何よりも優先してルア王国に来る前にモルトに聞くことも出来た筈なのに。
私は、モルトに何も聞かなかったの」
ーーいや、聞けなかったが正しい。
モルトに聞くなら、相応の対価として実験台になる必要があったけれど、セレイア王国でバンリが経験したことを考えるなら、そんな対価で済むなら小さなことだと思えた。
でも、聞けなかった。
奴隷紋を解いてしまったなら、バンリが自分の近くに居続ける理由も無くなるから。
セレイア王国での悲劇を忘れて前に進むなら、互いに別の道をゆき忘れるのが健全な道であるとわかっていたけど。
だからこそ、バンリを本来あるべき玉座に返してしまったなら、一緒には居られないと思っていた。
別れを先延ばしにしたくて、ルア王国を言い訳に奴隷紋の解除を追求するのを後回しにした。
ルア王国に一人で来ることが不安で堪らなかったからーーセレイア王国にすぐバンリを返した方が良いと思っていたのに、一緒に付いてきてもらうことにしてしまった。
バンリが奴隷であるのを良いことに。
(でも…)
「今回のことが終わったら、モルトにちゃんと聞くから。これは約束する」
(もう、有耶無耶にして誤魔化さないと決めたわ。
此処までバンが隣にいてくれたことで、充分勇気を貰えたし、何より嬉しかったから。
きっと一人だったなら、まだ不安に負けてルア王国へ来るか迷い続けて、侯爵令嬢のことは手遅れになっていた。
そうしたらきっと私は強く後悔してた)
「……」
バンリは何も言わずに、リディアの決意を受け止めて視線を逸らすことはなかった。
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