モブ令嬢と敵国赤ちゃんの育児日記〜婚約破棄寸前ですが後の皇帝に国が滅ぼされないよう頑張ります〜

マロン株式

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第1部

遭遇2③

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「ーーそれ、は」

 勉強や情勢など知らない私でもーーいや、前世である程度の基礎勉強をしていたからこそわかる。
 
 戦争は弱者に優しくない。
 弱い者を生かす概念ーーつまり福祉は二の次になる。皆、余裕が無いからだ。


 自分の国の民ですらそうなのに、敵国の赤ちゃんなら、どの様なことになるのだろうか。
 ミルクはちゃんと与えてもらえる?おむつは変えて貰える?清潔を保った環境においてもらえる?

(でも、孤児院だとしても…)

 孤児院には、親を戦争で亡くしたから孤児院へ来た者達が多くいる。そして孤児院経営に回すお金は戦争の軍事費にほとんど回されるので、貴族の気紛れな寄付によりやっと成り立っている状態でーー敵国の赤ちゃんがどう扱われるかなど、火を見るより明らかだ。

 部屋に、シリアスな雰囲気が流れはじめた。

「フェー…」
(話が難しくて何が何だかわからないフェレ)

(俺はここに居て良いのか?)
 居た堪れないレオンだったが、ここに来て不意に声をかけられた。

「……れ、レオン」

「はい、なんでしょう?」

「私の絵、幾らになった?」

「え?あーー、あれ結構良い先が見つかりましたよ!」
「良い先?」
「高位貴族のご令嬢が、丁度絵師を探していたとかで、是非お嬢さんを紹介して欲しいと」
「それってーー」
「ぇえ、継続雇用の打診です」
「……」


 エミリアは考え深く俯いた。
 カイルは、話を逸らす訳にいかないと口を開く。

「エミリア、今はその話は後にしてくれ、今はーー「今だから!今だから重要なの!」

 言葉を遮ったことで、カイルは(まさか…)と目を見開く。


「お嬢さん、継続雇用と言っても値段も期間も決まってませんし。そのーーまだ決まった話でも無いですから兎に角、ここは落ち着いて考えてください…

敵国の赤ん坊の為に、お嬢さんが〝そこまで〟考えることないんですよ?」

「…赤ちゃんは赤ちゃんよ。敵国なんか、関係ないわ。
私が、ラファエルを無事に国へ返すって決めたの」

 
 ぎゅうっとおくるみを持つ手に力を込める。赤ちゃんはミルクを飲む手を止めて、丸い目をして苦しそうな表情のエミリアを見上げた。

「あぅ…」

(……)

「何でだーー何故おまえが、そこまでするんだエミリア」
「何故って…だって、このまま他の誰かに渡したら、ラファエルがどんな目にあうか…」
「どんな目にあったっていいだろ」
「なっ…!赤ちゃんだよ?まだ、大人の庇護が必要なことくらいわかるでしょ?」

(どうして、カイルはもっと、昔はどんな小さい命にも優しかったのに。何でこんなこと言うの)

「そんなの…エミリアだって、そうだっただろ?」


 カイルの言葉に、エミリアはハッとした。



「敵国の獣人共が、おまえの父親を殺した。母親の流行病だって敵国の戦略で流行らせたものだ。

それなのにーーおまえが敵国の赤ん坊を生かす道理はないだろ!?」



「ーー」

 
『お母様、お父様は、どうしたの?』

 てっきり父からの手紙かと思っていたのに、悲しそうに涙を流す母を見上げたあの日、お母様は言った。

『……っ。エミリア、お父様はね、私達を守るために死んだの。だからね』
『お父様が?どうして?そんな訳ないよ。絶対今度はすぐ帰ってくるって言ってたもん。
お父様は約束を破らないんだよ』
『エミリア…っ』

 忘れもしない。あの雨の日、父の遺骨すらも残らなかった。

 そして、十二歳になった頃ーー今度は流行病により母が亡くなって。

『お母様!私を一人にしないで、お母様ぁ!!!』
『エミ…リ…ア』



 何かを言いかけて、伸ばされた手が頬に触れた。その手に自分の両手を重ねるも、程なくして母は力尽きてしまった。

 悲しくて、立ち直れないと思った。

(ーーだけど)

「ラファエルが殺したんじゃないわ」

「何?」

「誰がはじめた戦争なの?
赤ちゃんのせいで、戦争が起きたって言うの? 

それで私の両親が殺されたっていうの?」


「ーーそれは」


「違うでしょ?

私の両親が死んだのと、ラファエルを生かすのは全く別の話だわ」


 赤ちゃんは、エミリアの顔を見ながら大きく目を見開いた。

 エミリアは徐に立ち上がり、部屋の隅にあったバッグを手に取ると駆け出した。

「お、おい!?」

「フェレ助!連続ロケット水!!」


「おまかせフェレ!」

 一か八かでフェレ助の技名を言うと、バトルモンスターよりはやや威力のない水が口元の魔法陣から出てきてカイルとレオンにかかる。

「うわっ!!エミリアちょっと待てどこにーー」
「何で俺まで!?」
 




♢♢♢


 謎の生物からの水攻撃が止んだかと、カイルはポタポタと落ちる水を切るように髪をかき上げた。

「あー。くそっ。何なんだあの謎の生き物は」


 上着を脱いで、シャツの水も絞る。

(…これじゃダメだな。一旦着替えに戻るか)

「小伯爵様は、お嬢さんの親戚か何かで後腐れがあって後見人をしているんですか?」
「は?俺はエミリアのーー」
「面倒なのはわかるんですけど、せめてメイド服でも良いから衣服は提供してあげるくらいしていたら、敵国の赤ん坊に執着することも無かったかもしれませんよ」
「メイド?
見ての通り、あいつは貴族令嬢だぞ!?そんな服与えられるか!」
「商人の目から見ての通りで言えばーー行く宛が無くて困り果てている没落令嬢ですよ」
「没落…!?貴様!言うにことかいて、エミリアを侮辱したら赦さないぞ!!あいつが言ってることは確かに貴族にあるまじきーー「そう言うことを言ってるんじゃ無いんです」

 カイルに胸ぐらを掴まれたレオンが両手を広げて、部屋の中を指し示す。


「見てください。
この何もない部屋。
赤ちゃんのおむつやら寝床やら、赤ちゃんのお世話に使ったものを除けばお嬢さんのものはスケッチブックくらいです。
小伯爵様の言う貴族令嬢と言う扱いをするなら、本やら花やら自分好みのカーテン、テーブルクロス、ソファ、置物、絵を描いているなら絵の具や画材道具があってもおかしくないですよね」


「何だと…?」


 カイルは手を離して辺りを見渡す。

 レオンは部屋の中に崩れ落ちたおむつの束を見る。そして、部屋の隅にあるクローゼットを開けた。

「…おい!勝手にーー」
「やっぱり」

 カイルはレオンの視線の先を辿ると、衣服が三着かけられているだけだった。

「先日お会いした時と、着ている物が同じだったし、あれは一昔前に流行った貴婦人の衣装です。お嬢さんのご年齢よりもまだ上の方々が好む衣装です」
「何だと?」
「先程、お母様がお亡くなりになられたと言ってましたよね?それはいつ頃ですか?」
「それは、エミリアが十ニ歳の時の話で…」



「…なるほど、恐らくサイズが合わなくなって、亡くなられたお母様の服を自分の丈に直していたんですね。それで、自分の服は雑巾やタオルに繕い直してますね。材質を見たらわかります」

「な、そんな嘘をついて、あいつの言い分を聞けと言う気か!?」

 動揺するカイルの足元に転がっているおむつの布を、拾いあげて目の前に出した。

「いや、本当のことを言ってるんです。

このおむつ用に裂いた布ーー良く見てください。かなり色褪せて、使い古されてる。
多分ですが、衣装のサイズがあわ無くなっているなら、肌着もあわなくなったでしょうから、これもお母様の物で、使用できる物…

そんなに枚数も無かった中で、あの赤ん坊の為に裂いたんじゃないですかね」


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