【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

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(元?)運命の人は片思いをしている

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 わたしの名はヴォーレン・バウセラム ミストロイア辺境伯爵。今年で22歳になった。

 17歳の時に爵位を継承し5年間、有難い事にこんなわたしでも、幾つもの縁談の申し出があった。

 当初爵位を継ぐ予定では無かったわたしは、己の本当の価値を知っていた。

 人から好かれやすい人柄などと友人は言ってくれるけど、確かに子供や動物からは好かれやすいが、恋愛対象とすると、女性に物足りなさを与えてしまうようだ。

 爵位を継ぐ事がわかる前にお付き合いをしていた女性からは「優しければ良いという訳じゃない。」と言って振られた。
 1番の原因は心の奥底でずっと初恋を忘れられないせいなんだけど。それに関してはお付き合いしていた女性に本当に申し訳ない事をしたと思った。

 貴族は恋愛と結婚を割り切るべきだと良く聞くが、わたしはまだ若輩だからか割り切れずにいる。

 実は長年、密かに想いを寄せている人がいるのだ。
 元 デルシアハイム公爵令嬢 マーガレット・デルシアハイム。
 現在は王子妃という、恐れ多く、そして手の届かない報われない恋だ。

 忘れるために他の女性とお付き合いはしたけれど、気持ちは変わらなかったばかりか前述通り振られた。

 彼女を諦めきれないのは彼女が完全なる政略結婚をしているせいもあるだろう。

 彼女の周囲には色々と憶測や噂があって、いつか王子が王になったときに寂しい想いをするのでは…と言われているし、王子は彼女を姉として慕ってはいるが女性として見たことがなく、自分より年下の若い女性と懇意にしているとか。マーガレット妃殿下は女性としての幸せは望めないだろう…とか。

 真実はわからない。ただ、たまに遠くから見る彼女がふと、切なく笑っている事しかわからない。

 本人に聞けたならそれが1番良いのに。
 でも、親しい間柄でもないわたしが聞ける訳もなく。

 あのおっとりとして、慈愛の溢れる瞳が悲しみに濡れているのではと思うと、どうしても自分の結婚の事を考える気になれなかった。






 彼女の存在を知ったのは、彼女が王子の妃として迎えられた結婚式。

 周囲の祝福ムードの最中、まだ生まれたばかりの赤子の王子との結婚に妬みもあってか「将来は、側妃を愛しむ王子を傍で見ている事だろう。お気の毒に。」と裏で囁いている不埒な輩も含めて、人の悪意も羨望の眼差しも。

 おっとりとして柔らかな面立ち、年齢の割には落ち着いた態度で受け止めている彼女の姿は、子供のわたしに初めて(柔らかそうなのに、ひっそりと芯もありそうで、何より凄く可愛い…。)と、淡い感情を抱かせた。



 それが重症な初恋になったのは今から8年前の事だった。わたしが12歳だからマーガレット妃殿下は10歳。

 宰相と父が懇意にしていたわたしは父が宰相の話し相手をしている間、王宮で新しく出来たという本来王族しか立ち入れない噴水広場を見せてもらえる事になった。

 宰相が自慢していた通り、とても美しい場所で、木々に囲まれながらも大きな噴水の周りには小さな噴水が並んでおり、ただ何故か水の落ちる音はさほど煩くもなく耳に心地よい。

 其処にあの方はいた。

 小鳥の囀る中で、呼応するかの如く一際綺麗な子守唄が聴こえてきて、自然と足がその場所へと進む。


 その姿を目にした時、景色が其処だけやけに鮮やかに写り込み、自分の中で〝ドッ〟と音をたてて心臓に今までにない衝動が、心の奥底から湧き上がるのを感じた。

 薄桃色をした小さな唇から子守唄を紡ぐ声の柔らかく暖かな旋律。
 木々の木漏れ日を受けて天使の輪が光輝くウェーブがかった髪。

 垂れ目がちで大きな瞳が慈愛の満ちた表情で、膝の上で寝ている幼い王子の髪を子猫を撫でるように梳いている。

 
 それがわたしの中での 元デルシアハイム公爵令嬢 マーガレット・デルシアハイムとの出会いだった。

 彼女が隣にいる空間はさぞ心地良く、わたしは幸せでいられるだろうと恐れ多くもこの時思ってしまったのだ。

 要するに、厄介な初恋をしてしまった。
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