【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

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番外編:IF辺境伯もう一つの展開だったら2

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 そこから何が見えるのか気になって前を見ると、コートの隙間から見えた目の前の景色に、マーガレットは息をのむ。

 亡くなられた王妃様が残した華園で、王子とお2人過ごした時の光景と、その時言ってくれた言葉が鮮明に思い浮かぶ。



『マーガレット、この花、やっぱり君に1番似合うね。僕のお嫁さんはこの世で1番綺麗だ。』




  いつだったかそう言って、王子が私の髪に淡いピンク色をした花を一輪、髪に飾ってくれた日を思い出す。

 とても、穏やかで、甘やかで優しい宝物みたいに大事に大事に秘めていた記憶。

 其処まで思い出してから、ふと横に視線をやると、長椅子の上に誰かが摘んで、置き去りにした、白い花がマーガレットの隣に落ちていた。


 白い花は、あの時王子が私にくれた淡いピンクの花よりもずっと、今の私を表していた。

 それが、あまりにもタイムリーだったものだから、少し切なくも、おかしくて。思わず笑い声が漏れ出る。

「ふふっ。辺境伯様が先程私にここへ来るよう促したのは、が、あったからなのですね。」


「いや…深い意味はなかったのですが。
宰相宅に来た時、皆は薔薇園を見たがるのですが、わたしはこちらの花々の方が薔薇園よりも美しく、綺麗で心が安らぐと感じたものですから。」


  「この花の名前はご存知ではなかったのですか?」

「あまり花は詳しくなくて…。何と言う名前なのですか?」


  マーガレットはそう聞かれてから、コートを掴んで狭めていた隙間を開いて、庭園を見つめた。

 そこには同じ形をしている彩豊な花々が確かに、美しく素朴に咲き誇っている。


「此処に咲き乱れている花は全て
〝マーガレット〟と言う名前の花です。

王子が昔、この花の名前を知って。嬉しそうに、可愛らしいピンクのマーガレットの花を一輪、私の髪に飾ってくれました。

私には、不釣り合いなものでしたが…あの時は凄く、嬉しくて。幸せでした。

募らせてしまえば…せいぜい白いマーガレットが似合いになるだけとわかっていたのに。」


  ー・刹那、風が強く吹いた事で花弁が僅かに舞いあがる。

 隣で辺境伯が驚いているのが伝わってくる。

「そう言えば、この花は雰囲気が妃殿下に似ていますね。」

「…ふふ。私には分かりませんが…。」

「似ていますよ。だから王子はマーガレット様に似合うと言ったのでしょう。美しく愛らしく可憐で穏やかで綺麗で気高くて、見る者を和ませて…」

 「あの…や、やめて…やめてください。」

(お世辞と分かっていても、とても恥ずかしくなってきたわ。)

 コートを被っているせいで真っ赤になっているマーガレットに気付かずに、辺境伯は聞いた。

「それにしても、同じ花なのに、色によって意味が違うのですか?」

「厳密に言うと…ですが。
王子のくれたピンクのマーガレットは〝真実の愛〟と言う意味です。  

ふふっ。王子はそんなの、考えてもいなかったでしょうが。」

 それでも。

  手渡された花が、そのまま愛の言葉を語っているようで。嬉しかった。


「白いマーガレット…さまは良くない意味なんですか?」

 

「ふふふっ、辺境伯様。
花に〝さま〟なんて、つけないでください。花に重ねられていると意識して照れてしまいます。」

「すみません、そんなつもりではなかったんですが…どうも。その…」



「ふふっ。白いマーガレットの意味は 


〝秘密の恋〟です。」


 それから、何故か辺境伯は言葉を失ったみたいに黙り込んだ。

 先程廊下で見られた私の姿から、私の王子への苦しい恋心を悟られたのだと思う。
 
 6つも年下の、弟のように可愛がって来た王子に抱いてしまった。

 抱くはずがないと思い、抱かないようにしていた。

 王子にも、王子だからこそ伝えられない私の秘密。

  それからは、再び沈黙がながれ

 マーガレットは思い出に思いを馳せていた。もう直ぐ、その幸せが終わってしまうであろう事に悲しさと寂しさを受け止めながら。


 暫くして、涙が止まっている事に気が付いたマーガレットは、頭から被っていたコートをとって横に立っている辺境伯へと差し出した。

「コート、有り難うございました。もう大丈夫です。
私はもう少し此処に居ますので、辺境伯様は気にせず、もう会場へお戻りください。」

「あ…。」

 辺境伯はコートを受け取ろうと手を伸ばした。

 向けた視線の先に見えたのは、話す事もなく遠くから見つめる事しか出来なかった筈の人、その人が今目の前で自分と言葉を交わしている。

 先程まで泣いていたせいで未だ目は潤み、あからんでいるマーガレットの目元。柔らく優しい色合いをした髪が綺麗に後ろで纏め上げられている。そして小さく艶やかな唇。

 たれ目がちの大きな瞳で辺境伯を直視しながら見上げていた。


 辺境伯は先程から既にザワリザワリと漣だっていた己の心臓が、更に荒れるのがわかった。
 
 動揺した辺境伯はコートを勢いよく受け取る。

「わ、わかりました。わたしはこれで失礼します。マーガレット様は此処でゆっくりなさってください。」


  そう言って辺境伯は受け取ったコートをバサっと羽織った瞬間、フワリと香る匂いに辺境伯の顔がボッと一瞬で赤く染まった。

「……っ」

「?どうかされましたか?」


「…っ、…いえ、あの、香りが…何でもありません!」


 慌てた様子で辺境伯は、頬を朱く染めつつも、鼻下を指で擦りながら顔を背ける。




「ふふっ、おかしな辺境伯様ですね。」



 ーその瞬間ー


 満面の笑みを浮かべたマーガレットの姿に、辺境伯は仕草をとめ、それを食い入るように見つめた。




「辺境伯様?」


  何を思ったのか辺境伯は、首を傾げているマーガレットの横に落ちている白い花を、そっと手に取り、胸ポケットにおさめようとし。そして、手を止める。

「……?」

「…妃殿下。」

「なんでしょうか?」

「ー・もし、お許し頂けるのなら。」

  踵を返した辺境伯が、ゆっくりとした動作で片膝をついたかと思うと、白い花をマーガレットへ差し出して言葉を紡いだ。


「妃殿下が、今の恋は辛いと…秘めたまま諦めると言うのであれば、代わりに。

わたしの想いはなを受け取っては、貰えませんか?」



「…ー。」




「…ーなんて、わたしは貴方に笑っていて欲しいのです。マーガレット妃殿下。」




 ほんの一瞬、本気の眼差しが見えた気がした。けれども、次の瞬間には和ませるような人懐っこい笑顔を浮かべ語りかけてきた。

(気のせい…かしら。)


「辺境伯様……。」


   柔らかな風が目の前にある白い花と髪を優しく揺らす中。

 穏やかなペリドットの瞳がマーガレットの事を、ただ真っ直ぐに見つめている。

 差し出されたままの白い花を、マーガレットはそっと受け取って御礼を伝えた。


「ありがとう…ございます。」


 そして、その白い花を胸の前で握りしめた。
 
 秘めた気持ちを、無駄では無いと言うように拾ってくれた。この時。

 悲しみの渦巻いていた心はいつの間にか穏やかになり、優しいペリドットの瞳から感じる事の出来た暖かさに心は元気付けられた。



 







             ifルートend


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