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孤高の皇帝と再開を果たしました
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しおりを挟む「ー…逃げろ。」
「え?」
皇帝は心の中でわかっていました。
それは、この国の皇帝である以上言ってはならないことであると。
「逃げろニーニャ。
駄目なんだ。
君だけは 駄目だ。」
それでも、皇帝は色褪せる事のない記憶を糧に、今までやってこれたのです。
全てはこの少女のいるであろう国を、何処に居るかも分からない少女が笑顔で過ごせるようにと。
「レイシス…。」
信じられない、いや、今まで正しくあり続けた皇帝の言葉とは、おおよそ思えず
動揺から少女は瞼をまたたかせた。
「…やめて。
昔馴染みだからと、情けは無用よ。
私の手ではじまった戦争を
この命を持って終わらせに来たに過ぎない。」
「わたしが、今の話を聞いても何もわからない愚鈍な者だと、思っているのか?
君が〝私欲〟と言ったそれは
その私欲とは…ー「関係ないわ。」
「レイシス、貴方には関係ない事よ。」
そうだ、少女は賢いのに
何処か抜けていて、素直なものだから
嘘など得意ではなかったな。
わたしはもう既に確信している。
君の私欲とは
わたしを 誰もが認める皇帝にする事だ。
あの時、こちらの準備が出来た直ぐ後に起こった隣国からの侵略行為。
あまりにも天の導きかのような、奇跡的なタイミング。
あんなにも早く、チャンスが訪れるなど、誰が思っただろうか。
これは天が味方しているのだと、確信したのを覚えている。
けれど違った。
全ては、いつもそばで、わたしを見ていた少女の采配だったのだ。
見事なまでに、お膳立てされていた。
わたし1人では、やり遂げられなかった事を
少女の手腕によって可能にしてくれていたのだ。
そうだ、君こそ 名君になるべき人だったのに。
君1人なら得られるはずの物を、あの時全てわたしにやると決めていたのだろう。
恐らく
お膳立てをした時から少女は、その胸の奥で覚悟を決めていたのだ。
「一族が…。」
皇帝は、呟くように話しはじめました。
「皆処刑されたと聞いた時
わたしは死を選んでいた。
誇り高く死ぬと決めていた。」
自分の姿を『滑稽だ』と己で笑っていた。
もう行き止まりだと狼狽えて、絶望して。
後は
惨めに愚民共に晒される己の未来しか描けず。
奴等にこの首を死んでも渡してなるものかと嘆くばかりのわたしに
少女が別の道へ引き上げ、進む先を指し示した。
希望を抱かせて。
そして
わたしが折れないように、ずっと傍で見守っていた。
「一度死を決めたわたしを、
生かしたのは君だろう。
なのに その君が
死を選ぶのか?」
「……昔から…貴方は、とても優しく暖かな心を持っていたわね。
だから、王の首一つで、戦を終わらせてくれると信じていたわ。」
私達はとても似ていた
だけど
貴方は私と正反対で、優しく情に深い人だった。
貴方は家族を処刑され 嘆き悲しみ苦しみ己も死ぬとまで言った。
その姿は非常に人間らしくも、王者の誇りを併せ持っていた。
私は 家族が死んだとしても、誰が死んだとしても何も思わなかった。
自分だけは生き抜くのだと言う思いだけを激しく苛烈に燃やして。
誰を犠牲にしようとも、この世を醜くも生きながらえてやると思っていた。
だけど、貴方と過ごした日々で、ふと思ったのだ。
私が治める国よりも、貴方が治める国を見たいと。
「…ニーニャ、君は…」
(やっと君を見つけたのに。
この残酷しか無い世で
1人で生きて行けと 君は言うのか。)
「…、ふざけるな…ーふざけるなよ」
皇帝から不意に伸ばされた手に、少女はよける間もなく、反射的に固く目を閉じた。
予想した衝撃はなく、言葉とは裏腹に、頭に回された優しい手に
そっと目を開ける。
気付けば少女は、皇帝の胸に抱かれていた。
静まった室内で
この日 初めて流した皇帝の涙は
誰にも見られることはなかった。
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