【完結】孤高の皇帝は唯一欲した

マロン株式

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孤高の皇帝と民

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もう間も無く処刑の時間となる夕暮れ時。
石垣の上にある処刑台の存在が、ここ暫く平和だった民にとって見ただけで異質さを感じさせた。


広場には様々な思いの元に集まった人々が居た。

レヴァネルの侵略行為で、深い傷を負ったもの、愛する人を失った者、住まいを無くした者、全てをなくした者

果ては、平和な世に刺激が欲しいだけの者、物珍しさに興味を抱いた者。

ここにいる理由は人それぞれだ。
だけど、その実、目的は同じ。

人の首が跳ねられるのを、今か今かと待ち望んでいる。
それが正義の鉄槌と言わんばかりに。


ぁあ、この世はくだらない。


人はこんな事を繰り返している。


執行時間10分前、処刑執行人が両脇から、後ろ手で縛られた少女の腕を掴んで現れた。

その姿に、どよめきが起きる。

「あれが、レヴァネルの王?」

「若いな……。見ろ、あの輝く綺麗な御髪を。」

「王女の間違いじゃないのか?男尊女卑が激しいあの国は、女王は認めぬと聞いた。」


動揺が民の中に広がる中、ギロチンの前に立たされた少女は、眉一つ動かさず
恐れもなく。

涼しい顔で、ただ運命の赴くままにしたがっている。

身なりの良い
執行人の1人が、声高に処刑理由を説明する。


「この者は、15年前、我がフロイス皇国に住まう国民全てを殲滅し

己の領土の一部とするよう、前王に進言した現レヴァネル王国第7代国王にして、A級戦犯者 ニーニャ・ルイス・レヴァネル。

レヴァネル王国は降伏の証として、王自らが罰を受けることで許してくれと跪いてきた。

我々は正義の名の下に、完全勝利を果たした!

我々も、戦をなど望むところではない。
これ以上の争いは無意味であると考える!

よってこれより

今ここに、和平の証、戦犯者断罪として、第7代レヴァネル国王の処刑を執り行なう!」


広場は一帯歓声でつつまれる。
下から石を投げてくる者は数多く居たが、石垣の上には届かない。皆が「殺せ!」「自業自得だ!」「胴と頭を分けるだけでは生温い!」

そんな声が聞こえてくる。


少女はただ真っ直ぐにその光景を紫紺の瞳で静かに見ていた。


そっと処刑台に登り始めようとした瞬間

後ろ手で縛られた縄が強い力で横に引っ張られてよろめく。

そのまま転倒するかと思えば、白い手袋を付けた手に、肩を抱き寄せられ、赤く気品溢れるマントが身体にかかる。





「公開処刑は中止だ。」



叫んでいるわけではないのに、
広場一帯に行き渡る声に、先程までの騒めきが一転して、静寂につつまれる。



〝何を言っているのだ〟と、困惑と怒りを滲ませる少女の表情が目端にはいる。

15年前のわたしならば、お膳立てされた運命に、泣く泣く背中を押されて歩いたかもしれない。

「何を…フロイスの皇帝、気は確かなのですか?」

高い石垣の上なので普通に会話しているだけではここのやり取りは聞こえない。

だが、周りの処刑執行人を意識してか、その口調はとても他人行儀な少女を一瞥もせず答える。

「わたしが15年もの間、何も変わらぬとでも思うたのが、貴殿の誤算だな。

もう、貴殿の知るわたしは居ない。」


ニーニャ、君は本当に凄い女だ。ここまでの間、寸分の狂いもなく君の用意立てた物語に沿っているだろう。

だけど、わたしは、君が思うよりも愚かな皇帝だ。

君が用意したわたしの皇帝の道は、つまらぬ。

わたしこそが今皇帝なのだ。

君ではない、わたしが。

わたしの国の行末はわたしが握る。



「レヴァネル王国はフロイス皇国を欺いた。
和平は中止だ。」


今まで、国を豊かにし、英断を繰り返して
冷血と言われながらも民の指示を集めてきた孤高の皇帝のその言葉に

すぐ理解が及ばない。
チラホラと、「欺いた?」「信じられない。何があった…」との声が囁かれはじめた。


「民よ、其方たちはこの者を見ておかしいと思わぬか?
15年前の戦争時、この者は10歳にも満たぬであろう。
そんな子供が、ましてや女が
他国との戦争を囁く。

本当に、そんな事があり得ると思うのか?」


孤高の皇帝の言葉に、民は「本当だ。おかしい。」「だとすれば何と非道な国なのだ。」
皆が口々に呟く。



「この者はレヴァネルの王女とお見受けするが、レヴァネル王国は知っての通り男尊女卑の国だ。

己が国の危うさを今になって悟り、あろうことかか弱き女を犠牲にして助かろうとする国の申す事など

わたしは信用する事が出来ない。

油断させて、和平をすぐ破るものと考える。」


少女はその言葉にはっとなり、「やめて、レイシス。違う、やめて。」と皇帝の服にしがみ付く。
けれども国民にも、周りの処刑人にも、少女の言葉はこの場の人間の騒めきで掻き消されるか細いものだった。



「よって、レヴァネル王国との和平を今一度考え直そうと、わたしは考えている。

反対意見のある者は述べるが良い。

この場を持って聞いてやろう。」




この日

姿を現した事がなく、見たこともなかった雲の上の存在である皇帝を

初めて見た感動と 



一帯に響く力の籠もった声に、心の震えない者など居なかった。
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