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木蓮二つ
しおりを挟む「おーい、猫ちゃ~ん。朝ご飯の時間だよー」
ヒヨリとライトがやって来た次の日朝に、そんなに寒いところに居ないよなと当たりを付けて朝食のテーブルの下を、昨夜見た黒猫を探していたら、
「何をやってる」
後ろから声が掛かる。
床に這いつくばって精一杯照れ隠ししてるんである。何で夜ってああいう事平気で出来るんだろう。
「昨日の猫探してるんだ。今まで見なかったけど飼ってるのか? 名前なんて言うんだ」
名前呼んだ方が出て来易いよな。
「猫?」
「え? 猫いるの?」
ライトも猫が好きらしい。彼らは疲れてる様子もなく元気だ。水死体に成りかけた俺とは違う。
「猫は居ない」
断言するリロイに、
「昨夜いたって。あんたが部屋に来た時……」
言い淀むと、グエンが、耳聡く聞きつけた。
「ほほう、部屋にリロイ一人で」
「俺たち寝てる時?」
ライトはきょとんとしてる。
「いや、あんたが入って来る前に入って来たって。気を取られてる内に居なくなって」
「何に気を取られてたのかな。そこら辺詳しく教えて?」
「いやいやいやいや。居たよ。黒猫」
グエンの突っ込みなんかに構ってられない。
「黒猫?」
「飼ってないなら、迷い込んで来たとか」
「この雪に?」
ホラーなの?!
やっぱりホラーなの?!
ファンタジーからオカルトに路線変更なの?!!
「妖精の類かも知れませんね」
キールが言う。
「妖精? 黒猫の? 路線変更はなくていい?」
まあここは魔法が存在する世界。居ても不思議はないんだろうけど。
「何言ってるんだ」
あろう事か、リロイはしゃがみ込んでいた俺を立たせて、キスして来た。
「なななな何?!」
驚いて仰け反ってしまった。魔力馴染ませでも人工呼吸でもなく。
これ完全におはようのキスでは!
「ほうほう、朝からそんな事する様な中に?」
グエン殿下が近過ぎる。覗き込んで来るのを避けて、キスして来るのを避けて、窓の下を見ているヒヨリに近付く。
何でこんな人前でする事になってんの、あの人。
「あれ、木蓮だね」
邸の玄関から少し離れたところにある、二階の窓部分まである木を見て言った。
「木蓮?」
ヒヨリの誕生日の頃に咲く花が俺たちは大好きなんだが、俺は花が咲いてないと分からない。
香りも好いんだ。
木蓮は俺とヒヨリの家の玄関に一つずつあって、俺ん家のは烏木蓮、ヒヨリん家のは白木蓮。同じ様に花をつけて、とっても仲良しな感じなんだが。
ライトも覗き込んで来る。
「二つくっついてる?」
そうだった。今はライトん家だ。
こちらのは向こうのと違って完全にくっついてる。結合していて、お互いの中に枝を伸ばしてる。こっちのもピンクと白と咲くのかな。
「何か似てる部分多くない?」
妖精の森とか、泉とか。あっちは池なんだけど。規模が違うし、微妙にズレてはいるんだけど。
何か意味があるのかと疑ってしまう。
黒猫にも意味があるのか?
外は昨日とは打って変わって、優しい雪がひらひら降ってる。
「雪の結晶って全部形が違うんだっけ? 一万分の1の確率で同じ? もっとだったっけ?」
その数字は、一万分の1の確率で同じ物が存在するという事でなく、同じ物は全く存在しないという意味らしい。
「こっちではどうだろう?」
「月は一つなんだよ」
「え?」
「そうなの?」
「異世界って、最低二つはあるんじゃないの?」
俺たち現代っ子の偏見だよな。
かぐや姫の話なんかしてみる。
ついでに、今回は成功したが転移が失敗した時にはどういう事になるかも。何故なら、「半年が5年」とまだ十四歳のライトを二十歳になったヒヨリが見ているので。
もう少し歳を近くしたいらしく、転移なんか出来ないのは分かってるが、浦島太郎的調整をを狙っている様子。
「子供が大きくなるのはすぐだ。耐えろ、ヒヨリ」
呟く幼馴染が思い直してくれて良かった。ライトは十四。お隣(元の俺の家)に引越して来たのは十歳になるやならずの小学生。この年齢差に思う所がある様で。日本じゃ完全に犯罪だもんな。
ヒヨリが可愛い。
いつもぽやぽやしるのに思い悩んで眉間に皺寄せてるの初めて見た。
ヒヨリはゲイの自覚はあったが誰か特定の人を好きになった事は俺の知る限りではない。
初恋かな。
頑張れ。幼馴染。
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