或る魔女の告白

野洲たか

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2、わたしは自分が神に選ばれた特別な人間であるように感じたのよ。

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 最初、その力の存在に気付いたのは…十歳の時だったわ。

 夕方、学校から帰って、母の部屋の三面鏡を覗いていたら、鏡の一枚に、髪の毛も眉毛もない無毛の少女がわたしと同じ制服を着て映っていたの。一瞬だけだったけれど、あれは間違いなく、もう一人のわたしだった。

 それから、十四歳になると、すっかり忘れていた、その無毛の少女が夢に何度も現れるようになった。

 いつだって、晴れた日の川辺を、何も喋らず、ふたりで散歩する夢だった。

 美しいモンシロチョウが、たくさん飛んでいた。

 何故かしら…わたしは自分が神に選ばれた特別な人間であるように感じたのよ。


 その夢を見た日は、食べ物がからだを汚すような気がして、水しか飲めなかった。他人との会話も極力避けた。やはり、心が汚されるような気がしたから。

 …わたしは違う。他の凡人たちとは違うのだ、という思いは次第に強くなっていった。


 今では、わたしは自分の意思で、ほぼ確実に無毛の少女の夢を見ることが出来る。すると、何の根拠もないのに、絶対の自信が湧いてきて、どんな大物俳優が相手でも、難しい役柄でも大胆に演じられるの。

 神から見守られているのだから、どんなことだってやれるのだという、万能感に包まれてね。

 わたしの成功は、夢の少女のおかげなのよ。


 高校一年の時、『テス』というイギリス映画をボーイフレンドと一緒に観たわ。ナスターシャ・キンスキーというドイツ人が主演で、彼女の存在感に圧倒されて、わたしは女優になろうと決心したの。

 あの力で、なれる…という確信があった。


 翌日、すぐに演劇部に入部して、文化祭でやるハムレットのオフィーリア役を希望したのだけど、受け入れられるはずがなかった。先輩たちから、生意気だといじめられた。

 その頃、わたしは、演技について何も知らなかったわ。でも、誰よりもうまくやれる自信があった。実際、一晩で、すべてのセリフを覚えることが出来たのよ。

 もちろん、あの夢の力だった。


 結局、演劇部の部長が、オフィーリアを演じることになった。

 その二年生の部長というのは、有名温泉旅館のひとり娘だった。将来、女将になると決まっていた。正直、わたしよりもずっと美人で、真っ白な肌と真っ直ぐな黒髪が日本人形のようだった。彼女は、常に甘えるような舌足らずで話したけれど、何故か、みんなに頼られて、慕われていた。そのうえ、学業も優秀で、教師たちからも特別扱いされているように見えた。

 わたしは、彼女を見かける度、不愉快になり、死んでしまえばいいのに…と思っていたわ。


 そうして、あの夢の中で、散歩しながら、無毛の少女が初めて言葉を発した。

 わたしの声にそっくりだったわ。

 …死んでしまえばいい、と。

 たった一言だったけれど、何故か、わたしには理解出来た。

 あれは、演劇部の部長のことだったの。

 その翌朝、温泉旅館のひとり娘は逝ってしまった。誰もいない、広い露天風呂で溺れ死んでいるのを発見されたの。




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