或る魔女の告白

野洲たか

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4、あぁ、わたしは魔に憑かれてしまった。

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 保険金がおりてから、わたしたちは駅前の新築マンションへ引っ越した。

 いつまでも母が開けないダンボール箱が、ひとつだけあったわ。そこには、父の書いた原稿が詰まっていたの。どの作品も、本人と母、そして娘のわたしをモデルにして書いた私小説だったらしい。

 これだけは、どうしても捨てられなくてね…あんなロクデナシだったけれども、若いころは、夢を語る、希望に溢れたロマンチストだったのよ、と母は少しだけ涙をこぼした。

 胸が苦しくなった。やっと、何をしでかしたのかを理解したからだった…わたしは、実の父親を呪い殺してしまった。

 そして、気付いた。

 わたしを選んだのは、神なんかじゃない。

 闇に潜む、邪悪な存在なのだ。



 こんな力を使うことが許されるはずがなかった。

 …あぁ、わたしは魔に憑かれてしまった。

 誰も、信じてはくれないだろうけれど。

 ふたりの人間を殺めてしまったという罪悪感よりも、自分の中に今も魔物が巣食っているのだ…と考えることのほうが怖ろしく、苦しくて、悲しかった。

 これからも、わたしは気に入らない人間を葬り続けるのだろうか?



 その朝、わたしは学校に行かず、図書館の椅子にずっと座っていた。サガンの『悲しみよこんにちは』を読もうとしたけれど、一行も頭に入ってこなかった。

 こころが、このままでは壊れてしまう…誰かに話さなければ。わたしは遂に決心して、何もかも母に話すことにしたのよ。正気を疑われるだろうと覚悟した上で。

 ところが、母は驚かなかったわ。

 黙って、わたしの話を聞いた後で、

 そっくり…同じことが、お母さんにも起こったのですよ。

 と話し始めたの。


 …五人目が死んでから、お母さんも深く悩むようになった。結局、お婆ちゃんに打ち明けたわ。お婆ちゃんはすべてを知っていて、こう教えてくれた…


 それは血筋で受け継ぐ力なのよ。もし、あなたがその力を本当に必要としないのなら、平凡な人生を選びたいのなら、夢の少女を川に突き落としてしまいなさい、と。

 そうして、お母さんはその通りにしたわ。

 夢の中で…

 それっきり、無毛の少女が現れることはなかった。

 その日から、何処にでもいる、ごく普通のつまらない女になってしまったのよ。




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