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第21話 不確定な感情

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「大丈夫ですか?」

 薄暗い中、不意に若い男の声でそう聞かれたステラはハッとする。

「えっ、えぇ!」

 ステラは驚き、促されても生返事だけ。
 突然つまづいたことでグラっと体勢を崩し、自分の身に何が起こったのか訳も分からず頭の中は混乱していたのだ。
 しかもまるで一瞬、時が止まったかのように感じられた出来事でしばらく体も動けずにいて――。

「あ、えっと……」

「――っ! あぁ、失礼」

 と、パッと離された男の手の温もりでステラは理解する。
 床板の一部が剥がれ、それにつまづいてつんのめって前に倒れそうになっていた自分を咄嗟に前に居たこの男が腕で支えてくれたのだと。
 状況を理解した途端にステラは恥ずかしさから赤面した。

「あ……ありがとうござい、ま……すぅ」

 お礼を言わなければという焦りと羞恥心からステラは次第に小声になってしまい、男がそれを見てフッと笑う。

「いやぁ、なに。偶然出くわしたからなだけで大したことはしていない。それよりもお嬢さんが無事で良かった」

 心が限界となっていたステラはただ首を横に振った。

「私たちはこの部屋に今日から泊っている。これも何かのご縁だし、明朝にでもまた話そう」

 そう言ってこの男はステラたちが泊っている部屋の隣の部屋へと消えていったのだった。

「あっ!」

 あぁやはりという思いと共にホッとした感情がステラの中を駆け巡る。
 部屋に帰るとグズりだした赤ん坊を抱き上げようとしているハンナと目が合った。

「おかえりなさい」

「――ただいま」

「ん? どうかされましたか?」

 ハンナにそう問われて先ほどの出来事を思い出してしまい、ステラの顔は更に熱を帯びてしまった。

「抱っこ、代わるわ。ハンナは先に寝ていいわよ」

 誤魔化すようにステラはそう提案した。
 窓から差し込む月明かりしかない薄暗い中とはいえ、バレるのは時間の問題。
 だからハンナにはサッサと布団の中に入ってもらい、顔を見られる時間を短くしたかったのだ。

「でも……」

「いいから、いいから。何だか私、今日はちょっと目が冴えてしまっているのよ」

 今夜はどうしたのだろうかと不思議に思いながらも、遠慮がちにハンナは答える。

「そう……ですか? それならお言葉に甘えさせていただいて」

「えぇ、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

 明らかに様子がおかしいなという戸惑いはあったものの、言われるがままハンナは布団にもぐって眠りについた。
 少しの間を置き、ハンナから寝息の音が聞こえてくるとステラも安堵した。

「ハァ……まだドキドキしてる」

 これは恥ずかしさからなのか恋なのか。
 自分でも分からない何とも言えない気持ちに振り回されていたが、現実が腕の中にあった。
 今はただ、夜泣きでグズる赤ん坊をあやさなければと。
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