やさしい竜と金の姫

白乃いちじく

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第二章 私の騎士様

第四話 旅立ちはあなたと共に(シーラ編)

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 悲鳴を上げたわたしをケインがそっと両手で包み込む。すまない、捕まったとそんなことを口にした。広場に墜落し、彼は気絶したようだった。
 急ぎ彼の腕から這い出し、彼の顔をなでさする。

「大丈夫? ケイン、しっかりして」

 うっすらとケインの目が開くも、誰かに腕を引っ張られ、目にした姿に顔をしかめた。アルバートである。

「は、いい気味だ」

 憎々しげに彼が吐き捨てる。

「どういうこと?」
「いい加減目を覚ませ、シーラ。俺は見たぞ。そいつ、ケインだろ? 化け物のくせに、よくもまぁ、シーラに手を出しやがって。ほんっと厚かましい。ほら、見てみろ。隣国からわざわざ魔術師様がきてくださったんだ。危険なドラゴンを退治しにね」
「危険ですって? 危険なんか一つもないわ。追い返してちょうだい!」
「そうはいくか。わざわざ俺が呼んだのに、何で追い返さなくちゃならないんだよ?」
「なんですってぇ!」

 目を剥いた。一体どういう了見か。
 アルバートがすかさずわたしの腕を掴んで歩き出す。

「シーラ、来るんだ。こんな化け物と一緒にいては駄目だ」
「放して、放して頂戴!」

 アルバートの股間を蹴り上げ、悶絶させる。わたしは急ぎ皆に向き直った。

「みんな、聞いて! このドラゴンはケインなの!」

 ざわつく町の人々に再度たたみかけた。

「今までずっと人の姿に化けていたのよ! でも、皆知ってるでしょう? ケインはいい人よ? 彼は決して人に危害を加えたりなんかしないわ! だからお願い! 助けて!」

 ナイフを手にした魔術師は不気味な存在感がある。
 けど、ここで引くわけにはいかない。
 両手を広げて、ケインの前に立ちはだかった。
 と、その魔術師の後頭部にフライパンが突き刺さった。予想外の攻撃に威厳ある魔術師がよろめき、頭を押さえてうずくまる。相当痛かったようで、涙目だ。

「あんた! ケインに何する気だ! 勝手な真似は許さないよ!」

 この時ほどソフィの存在をありがたく感じたことはない。
 半信半疑だった町の者達も、ソフィにつられるようにして加勢し始めた。ケインの飲み仲間を中心に、結束してくれたようである。拳を振り上げ、撃退の態度を取り始めた。

「ケインはね! 馬鹿で間抜けで大酒飲みだけど、気の良い奴なんだ! そいつを手にかけるっていうのなら、あたし達全員を敵に回すことになるよ! 覚悟しな!」

 ソフィが啖呵を切り、再びそーだ、そーだという声が上がる。じんっと胸が熱くなった。みんなありがとう!
 シーラ、逃げた方がいいというケインの囁きは無視する。拳を握り、戦う構えを取った。

「絶対にあなたを死なせないわ!」

 そう、絶対死なせない。ここから一歩も引くもんか。兵士達が動き……空気がぴんっと張り詰める。それをぱっちんと割ったのは、何と当のケインだった。

 いつの間に拘束を抜け出したのか、巨大な手が彼らの頭上に振り下ろされたのである。蛙がひっつぶれたような悲鳴を上げ、下敷きになった兵士達はそろって目を回す。恐れおののく兵士達に向かって、巨大な黒竜がにやりと笑った。
 ちょっとニヒルで良い感じかも。こんな時になんだが、つい見とれてしまう。

「油断大敵だな」

 ふてぶてしい感じが、脅し文句とよくあった。
 目に見えて兵士達は狼狽し、浮き足立つ。

「術が緩めば拘束できないって事を知っておいた方が良いぞ」

 どうやら魔術師が攻撃を受けたことで、術の拘束が緩んだようだ。彼の尾っぽの一振りで兵士達はぶっとびなぎ倒される。ああ、やっぱりケインって強いんだ。魔術の縛りさえなければ、彼にかなう者なんかいないに違いない。
 ふと見ると、ソフィが魔術師をすりこぎで撃沈させていた。
 完璧白目を剥いている。ナイスファイト!

 その後、ケインに蹴散らさられ、気絶した兵士達を、町の者達が総出で手分けして縛り上げ、教会の奥へ押し込める。これで当分は安心だわ。
 人の姿に戻ったケインの傍に、町の人々が寄り集まった。この先どうしようかと思案する彼に、ソフィがあっけらかんと言う。

「このままここにいればいいんじゃないか?」

 町の者達もソフィの言葉に頷く。ケインは首を横に振った。このままだと、ここに秘薬目当ての連中がわんさと押し寄せるから、それは出来ないと言う。

「また追い払ってやるよ」

 ソフィの気っ風の良い台詞に、ケインは再び首を横に振った。今回は不意を突いたから撃退できたのだと指摘される。彼の言う事はいちいちもっともで納得せざるを得ない。
 結局、旅立つことになってしまった。
 町の者達に別れを告げ、わたしを置いていこうとする彼に、がんとして食い下がった。冗談じゃない。置いてけぼりなんて絶対許さないんだから!

「連れて行ってやんなよ。ここへ置いていってもシーラの事だ。あんたを追いかけるよ」

 ソフィの言葉で、ようやく彼は覚悟を決めてくれたらしい。
 わたしの手を引いて歩き出す。大きな手にわたしの手がすっぽりと包まれて、何だか幸せな気分に包まれる。天気は上々で、スキップを踏みたい気持ちになった。

「……子供が欲しいな」

 道々、そんな彼の台詞が耳元をかすめ、意味を理解し、顔が耳まで赤くなる。全く頓着することなく、ケインの台詞が続いた。

「たくさん欲しいけど、無理だろうなぁ……俺達って交わっても中々子供が出来ないんだよな。だから数が全然増えない。いや、出来れば御の字か……よし、がんばってみよう。もしかしたら神様が一人くらいプレゼントしてくれるかもしれないしな」
「が、がんばる?」

 思わず声が裏返った。

「うん、がんばる。毎日毎日やってればそのうち……っておーい、シーラ。どこいくんだ?」

 そ、そんな事大声で言わないでよ! 恥ずかしいじゃないの! 何? 結婚式とかすっとばして、いきなり初夜になっちゃうわけ? しかも毎日って何よ? よ、予定外よ! こんなの! 全然予想してなかったわ!
「こ、心の準備が!」

 心臓はばくばくだ。

「準備? 何の?」

 この! 天然男! にぶちん!

「だから、子作りの!」
「子作りの準備? ああ、そうか産着とか? じゃあ、次の町で見てみよう」

 のほほんとケインが言う。

「そこじゃなくて! 飛びすぎてるわよ!」

 真っ赤になって抗議した。背後から抱き締められて、びくりと身をすくめるも、ついばむようなキスは温かくて、とろけるように優しい。

「愛している」

 そんな言葉を耳元で囁かれ、もはや完全にノックアウトである。ああ、駄目だ。これは絶対押し切られる……。抵抗なんかできっこない。既にメロメロである。
 未来の姿を想像し、わたしはあきらめの吐息を吐き出した。

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