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第一章 最狂ダディは絆される
第二十九話 恋のお相手は
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「……それは通信機だ」
シリウスがナプキンで口元を拭い、噛んで含めるように言った。
シャーロットがあははと笑う。
「やーだ、知ってるわよ。以前に何度か使ったことあるじゃない。でも、ほら、パパは異性にアクセサリーなんて贈らないでしょ? だから、ちょっと揶揄ったのよ。ほら、これ、ペアリングでしょう? パパも付けているから、もうバッチリよね」
見れば、確かにシリウスの左手にも同じ指輪がはまっていた。通信機だと知らなければ、勘違いする者もいそうである。気恥ずかしくてセレスティナは俯き、自分の手をさっとテーブルの下に隠した。シャーロットが再び楽しげに笑う。
「うふふ、通信機だからペアで当然なんだけど、なんか意味深って思っちゃって」
ふっとシャーロットは、食事の手が止まっているシリウスに目を止めた。
「え? あれ? あの……。パパ?」
シャーロットは、そろりとシリウスの顔を覗き込む。
「もしかして、その、ティナのこと、少し意識しちゃった、とか?」
「……いいから食べなさい」
吹き出すシリウスのオーラが怖い。
「は、はあい!」
シャーロットは慌てて食事に戻った。怒られる前に逃げた、そんな感じである。
「怒ることないと思うの」
食事を終え、三人で庭に向かいながら、シャーロットが言う。
「大体、パパの好みって、ぜんっぜん分からないのよ。夜会で顔を合わせた女性には見向きもしないし? まぁ、多分、ママに未練があったからだと思うけど、誰が綺麗かって聞いても、芳しい反応がないんだもの。無反応よ、無反応。なのに、時々すっごい不細工を綺麗だって言い出すから、もう、何が何やら」
誰が綺麗か……
「それなら……」
セレスティナがシリウスから聞いた話を口にすると、シャーロットはぽかんと口を開けた。
「え! 何それ! 人の美醜が分からない? あ、そういえば、パパが褒めるとこって……ドラゴンの鱗とか翼とか尾っぽとか、そういうとこばっか!」
「まぁ、好みは人それぞれ?」
イザークがけろりと言う。
「そーいう問題?」
シャーロットが眉間に皺を寄せた。
「シャルの事は可愛いって言ってくれるんだから、いーじゃんか、それで」
イザークの台詞に、シャーロットが地団駄を踏む。
「よくなーい! 美人かどうかわからないなら、お世辞って事じゃないの!」
「親なんてそんなもんだろ? 大抵は自分の子が一番可愛いって思うんだから。たとえ不細工だろうが何だろうが、可愛いって言うよ。それにシャルの場合は、本当に美人なんだから、問題ねーじゃん」
断言するイザークに、シャーロットがじっとりとした視線を送る。
「……そーいうところは、恥ずかしげもなく言うわね?」
「お前相手じゃーな。恥ずかしがりようがない」
「どーいう意味よ!」
シャーロットがイザークの赤毛を鷲掴みにする。
「だから一々、人の髪を引っ張るなっつーの!」
二人で散々すったもんだしたあげく、すっとシャーロットが真顔になる。
「ね、ティナ」
「なあに?」
「もしも、もしもなんだけど……パパからプロポーズされたらどうする?」
セレスティナの心臓がどきんと跳ね上がる。そこへすかさずイザークが割って入った。
「な! 馬鹿言うな! んなこと、あるわけねーだろ! 父上とティナじゃ、年が違いすぎる! ティナは俺達と同じ十六才……いや、誕生日前だからまだ十五才だぞ! 父上は三十四才で十九も年が違う!」
シャーロットが考え考え言う。
「う、ん……でもさ、ほら……ティナはパパのお気に入りだし? そういう事もあるかなーって……。それに、政略結婚がつきまとう貴族の間じゃ、親子ほど年の離れた夫婦なんてざらよ。特別珍しくもないわ」
イザークが憤然と腕を組んだ。
「そ、それに! 結婚なんて話は、まだ俺達には早すぎる!」
「えー? それはちょっと……。お兄様ったら、本当にお子ちゃまね」
シャーロットがちろりと見やる。困ったちゃんと言いたげな視線だ。
「それこそ、どーいう意味だよ!」
「そのまんまの意味よ、そのまんま。王族なら十才くらいで婚約するしぃ? 普通の貴族だって、わたくし達の年になれば恋バナくらいするものよ。ああ、でも、そう言えば、同い年の男の子達はみーんなお子ちゃま、なんて女の子達に言われているわよ? うふふ、その通りねぇ?」
イザークが地団駄を踏む。
「あー! だったらな! シャルはティナをお母様って呼ぶ気か?」
シャーロットが、はふうっとため息を漏らした。
「そこよねぇ……さっきは洒落でティナの事をお母様って言ったけど、なんか嫌」
そ、そうよね。同じ年の母親なんて…
セレスティナがどんよりとなると、シャーロットがため息交じりに言った。
「ティナにお姉様って言われなくなるの、とっても悲しいわ」
え? そこ? セレスティナは、目を瞬いた。
「やっぱり、呼び方はシャルお姉様一択よね。これじゃないとしっくりこないわ」
「気にするところが、違うだろーが!」
イザークが速攻突っ込んだ。
「あら、お兄様はお父様に幸せになって欲しくないの?」
「いや、んなことはねーけど……」
「だったら笑顔で賛成……」
「できるかぁ! 俺だってティナのことが……」
イザークは何かを言いかけ、慌てたように口を閉じる。
「ティナの事が?」
「なんでもねー……」
「あ、はーん……」
ぷいっとイザークはそっぽをむくも、勘の良いシャーロットは気が付いたようだ。揶揄うような顔つきになる。
シリウスがナプキンで口元を拭い、噛んで含めるように言った。
シャーロットがあははと笑う。
「やーだ、知ってるわよ。以前に何度か使ったことあるじゃない。でも、ほら、パパは異性にアクセサリーなんて贈らないでしょ? だから、ちょっと揶揄ったのよ。ほら、これ、ペアリングでしょう? パパも付けているから、もうバッチリよね」
見れば、確かにシリウスの左手にも同じ指輪がはまっていた。通信機だと知らなければ、勘違いする者もいそうである。気恥ずかしくてセレスティナは俯き、自分の手をさっとテーブルの下に隠した。シャーロットが再び楽しげに笑う。
「うふふ、通信機だからペアで当然なんだけど、なんか意味深って思っちゃって」
ふっとシャーロットは、食事の手が止まっているシリウスに目を止めた。
「え? あれ? あの……。パパ?」
シャーロットは、そろりとシリウスの顔を覗き込む。
「もしかして、その、ティナのこと、少し意識しちゃった、とか?」
「……いいから食べなさい」
吹き出すシリウスのオーラが怖い。
「は、はあい!」
シャーロットは慌てて食事に戻った。怒られる前に逃げた、そんな感じである。
「怒ることないと思うの」
食事を終え、三人で庭に向かいながら、シャーロットが言う。
「大体、パパの好みって、ぜんっぜん分からないのよ。夜会で顔を合わせた女性には見向きもしないし? まぁ、多分、ママに未練があったからだと思うけど、誰が綺麗かって聞いても、芳しい反応がないんだもの。無反応よ、無反応。なのに、時々すっごい不細工を綺麗だって言い出すから、もう、何が何やら」
誰が綺麗か……
「それなら……」
セレスティナがシリウスから聞いた話を口にすると、シャーロットはぽかんと口を開けた。
「え! 何それ! 人の美醜が分からない? あ、そういえば、パパが褒めるとこって……ドラゴンの鱗とか翼とか尾っぽとか、そういうとこばっか!」
「まぁ、好みは人それぞれ?」
イザークがけろりと言う。
「そーいう問題?」
シャーロットが眉間に皺を寄せた。
「シャルの事は可愛いって言ってくれるんだから、いーじゃんか、それで」
イザークの台詞に、シャーロットが地団駄を踏む。
「よくなーい! 美人かどうかわからないなら、お世辞って事じゃないの!」
「親なんてそんなもんだろ? 大抵は自分の子が一番可愛いって思うんだから。たとえ不細工だろうが何だろうが、可愛いって言うよ。それにシャルの場合は、本当に美人なんだから、問題ねーじゃん」
断言するイザークに、シャーロットがじっとりとした視線を送る。
「……そーいうところは、恥ずかしげもなく言うわね?」
「お前相手じゃーな。恥ずかしがりようがない」
「どーいう意味よ!」
シャーロットがイザークの赤毛を鷲掴みにする。
「だから一々、人の髪を引っ張るなっつーの!」
二人で散々すったもんだしたあげく、すっとシャーロットが真顔になる。
「ね、ティナ」
「なあに?」
「もしも、もしもなんだけど……パパからプロポーズされたらどうする?」
セレスティナの心臓がどきんと跳ね上がる。そこへすかさずイザークが割って入った。
「な! 馬鹿言うな! んなこと、あるわけねーだろ! 父上とティナじゃ、年が違いすぎる! ティナは俺達と同じ十六才……いや、誕生日前だからまだ十五才だぞ! 父上は三十四才で十九も年が違う!」
シャーロットが考え考え言う。
「う、ん……でもさ、ほら……ティナはパパのお気に入りだし? そういう事もあるかなーって……。それに、政略結婚がつきまとう貴族の間じゃ、親子ほど年の離れた夫婦なんてざらよ。特別珍しくもないわ」
イザークが憤然と腕を組んだ。
「そ、それに! 結婚なんて話は、まだ俺達には早すぎる!」
「えー? それはちょっと……。お兄様ったら、本当にお子ちゃまね」
シャーロットがちろりと見やる。困ったちゃんと言いたげな視線だ。
「それこそ、どーいう意味だよ!」
「そのまんまの意味よ、そのまんま。王族なら十才くらいで婚約するしぃ? 普通の貴族だって、わたくし達の年になれば恋バナくらいするものよ。ああ、でも、そう言えば、同い年の男の子達はみーんなお子ちゃま、なんて女の子達に言われているわよ? うふふ、その通りねぇ?」
イザークが地団駄を踏む。
「あー! だったらな! シャルはティナをお母様って呼ぶ気か?」
シャーロットが、はふうっとため息を漏らした。
「そこよねぇ……さっきは洒落でティナの事をお母様って言ったけど、なんか嫌」
そ、そうよね。同じ年の母親なんて…
セレスティナがどんよりとなると、シャーロットがため息交じりに言った。
「ティナにお姉様って言われなくなるの、とっても悲しいわ」
え? そこ? セレスティナは、目を瞬いた。
「やっぱり、呼び方はシャルお姉様一択よね。これじゃないとしっくりこないわ」
「気にするところが、違うだろーが!」
イザークが速攻突っ込んだ。
「あら、お兄様はお父様に幸せになって欲しくないの?」
「いや、んなことはねーけど……」
「だったら笑顔で賛成……」
「できるかぁ! 俺だってティナのことが……」
イザークは何かを言いかけ、慌てたように口を閉じる。
「ティナの事が?」
「なんでもねー……」
「あ、はーん……」
ぷいっとイザークはそっぽをむくも、勘の良いシャーロットは気が付いたようだ。揶揄うような顔つきになる。
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