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番外編置き場
ペルファル伯爵家にて
しおりを挟む○ミラのおじいちゃんとおばあちゃん
○時系列は卒業パーティーの少し前
ーーーーーーーー
その日、ペルファルの伯爵家の朝は早かった。
「そのお花はあっちに、そっちは向こうよ。急いでね、綺麗にしておきたいから」
「はい、大奥様!」
間もなく60歳を迎えようという伯爵夫人は、年齢を感じさせないほどキビキビと使用人たちに指示をしていた。
普段は息子の妻にその采配のほとんどを任せているが、今日は特別なのだ。
「それから、ああ、その子のお部屋の用意は終わっているのかしら。嫌いな食べ物はないのかしら、ああ、心配だわ」
ここ数日、ずっと頭を悩ませていた知らせが届いたのは、ひと月ほど前だ。
公爵家から届いたその知らせに伯爵家は震撼した。
『カノープスとその娘のミラと共に、伯爵領を訪問したいと思っている』
そんな内容が書かれた手紙に、伯爵はすぐに返事を出して、妻と息子夫婦に一丸となって準備をするように命じたのだ。
そして今日がその訪問の期日。落ち着かないのも仕方がないだろう。
「……カノープス。随分と久しぶりだわ」
窓の外をそっと見遣る夫人が呟いた言葉は、久方ぶりに再会する息子に向けられたものだった。
◇
かたり、と馬車が止まり、お父さんに手を引かれてそこから降りた私は、周囲をぐるりと見渡した。
「ここが、お父さんの実家なんだね」
「――ああ。あまり変わらないな」
「ずっと帰ってないって、本当なの?」
「そうだな。王都から逃げてからは、近付かなかったからな」
淡々と語る口調はどこかよそよそしく、緊張しているようにもとれる。
「すまない。カファル。全て私のせいだ。あの時力があれば、こんなことには……」
「いえ、ジーク様。貴方のせいということは絶対にありません。寧ろ、私がいない後の伯爵家を支援していただき本当にありがたく思っています」
公爵様が申し訳なさそうに頭を下げようとしたところを、お父さんは制止して、反対に自分が頭を下げた。顔を上げると、にかりと少年のように微笑む。
「どうせ俺はゆくゆくこの家を出たんですから。やりたかった料理人にもなれましたし、こうして娘も立派に育った。何も後悔はしていません」
「お父さん……」
命からがら王都を脱出したお父さんは、友人に頼んで実家の伯爵家から除籍してもらうように手紙を出したらしい。
冤罪でも、当時は有罪だ。
実家の伯爵家への影響は計り知れず、取り潰しの可能性もあったが、国家に忠実で有能な騎士を輩出した家としてそれは免れたらしい。
「悪いな、ミラ。これまで会わせることが出来なくて。その……俺もどんな顔して会えばいいか、分からなくてな」
ぽりぽりと頭を掻くお父さんは、やはり緊張していたようだ。
「ううん。嬉しいよ、私にもおじいちゃんとおばあちゃんと……それから伯父さんがいたなんてとっても素敵。あ、でも私、マナーとかまだ全然……」
「ははっ、それは父さんの方が全然できないから大丈夫さ。さあ行こう。ジーク様、ここまで連れてきていただきありがとうございます。1人では来れなかったと思うので」
「――そうか。カファルがそう言ってくれるのならば……私も救われる思いだ」
お父さんと公爵さまは視線を合わせて、お互いに笑みを零す。
その様子をにこにこと見守っていると、伯爵家の玄関が突然開いた。
そして、「カノープス! 早く入ってきなさい!」という声とともに、腕組みをして仁王立ちをしているご婦人がそこに立っていた。
その隣には人の良さそうなおじいさんがにこにことしている。
「……母さん。相変わらず元気そうだな」
お父さんがそう言うので、あのしゃきっとした快活な女性が私の祖母らしい。
私たちがなかなか家に入らずに外で話していたために焦れてしまったようだ。
「ジークハルト様、遠路はるばるおいで頂き誠にありがとうございます。それに……カノープス、いや、いまはカファルだったか。お帰り。そしてミラよ、よく来たね」
公爵様に頭を下げたあと、お父さんそっくりの顔で、しわくちゃになりながらその人は私に笑いかけてくれた。
ペルファル伯爵。私のおじいちゃん。
隣で固まってしまっているお父さんを肘で小突くと、子供のように眉を下げて困った顔をしている。
全くもう、お父さんったら。
「カファルの娘のミラです。お会いできて光栄です。ほら、お父さんも!」
ぺこりと頭を下げたあと、お父さんの背中をぐぐっと押して、おじいちゃんとおばあちゃんの前に差し出す。
お父さんが絞り出した「ただいま」の声に、堰き止めていたものが溢れたのか、おばあちゃんは涙を流しながらお父さんに抱きつき、おじいちゃんもそんな2人の肩に手を置いている。
私が祖父母に会いたかったのは勿論だけど、こうしてお父さんが両親に再会出来たことがとても嬉しく、私の胸中は温かいもので満たされていった。
ーーそして。
「ミラ、このぷりんと言うお菓子は、とても優しい味ね」
「儂でも食べられるぞ、まるで飲み物のようだ」
ふたりのために振る舞った蒸しプリンはとても好評で、ふたりともとても優しく、私の初めての実家訪問は楽しく過ぎて行ったのだった。
その後、ペルファル伯爵ーーおじいちゃんは家督をお父さんの兄にあたる伯父さんに譲った。元々ほとんどの役目を果たしていた伯父さんだったが、これで名実ともに伯爵となる。
「願掛けだったのだ。カファルが自ら戻るまで……儂が伯爵であり続けたいという我儘だったのだよ」
息子を守れず、さらには除籍までする事になった祖父の後悔は如何程だったのだろう。
優しく語る祖父の眼差しは真っ直ぐだった。
ーーーーーーーーーー
※一部加筆しました。
【お知らせ】
ご存知の方もいるかもしれませんが、悪役令嬢ベラトリクスを主役に据えたスピンオフ作品『悪役令嬢なのに下町にいます~略』を執筆中です。
興味がある方は覗いてみてくださいませー!
ベラトリクスが下町の食堂に入り浸る話です。笑
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