大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ

文字の大きさ
26 / 26

★王太子殿下のままならない恋情★アーサー視点

しおりを挟む
「あ、ちょっと待ってコレ、やばい……っ!」

「くっ……!?」

 アリスの金色の魔力とアーサーの黒色の魔力が、石造りの魔塔の一室で大きな渦を描いている。

 始めは小さかった渦が、途中から制御をなくして大きく膨らむ。今にも爆ぜそうだ。

 そうならないように、ルーカスを始めとした周りの魔術師たちも力を注ぐが、そもそもの二人の力が強力すぎて太刀打ちが出来ない。

「ごめん、もう無理~~~!」
「……っ!」

 ボン、という大きな爆発音と共に閃光弾が破裂したような目を開けていられない程の眩い光が室内を包み込んだ。


 * * *


「私の心の声が漏れ聞こえる……?」

「そう。姉さんはなんともないみたいだけど、アーサーに触れるとほら……考えてることが俺に伝わってくる。""フェリシアのとの約束の時間が楽しみ""だろ?」

 魔法事故の処理後、解析したルーカスに伝えられたのはそんな結果だった。

 アリスと共に開発していたのは、謀反者などを洗い出すために必要な自白のための術式。

 かなり高度な技術が必要で、失敗する可能性も大いにあった。
 一度は定着しつつあったあの球体が、少しの力加減の変化により暴走し、爆ぜた。

 なんということだろう。
 その結果、アーサーは触れたものに自分の気持ちが伝わってしまうようになってしまったらしい。

 フェリシアとの久しぶりの茶会をワクワク楽しみにしていた心理まで言い当てられてしまった。

 この局面で婚約者に想いを馳せているなんて、それこそ心の中を覗かれでもしなければ露見しないだろう。

「そんな、まさか……」

「本当だって。""今日のドレスは何色だろうか""じゃないんだよ! 本当にフェリシアのことばっかだな!?」

「それは当然だろう。私は四六時中フェリシアのことを考えているからな」

「なんで偉そうなんだよ……」


 本当に、少し指先が触れるだけでルーカスはアーサーの心の中を読み取っているようだ。

「これはいつまで続く?」

「姉さんの見立てでは、かなり複雑な術式だから解呪までは時間がかかると。『めっちゃ面白い状態じゃん、ウケる。なるはやで見付けるね』って言って早速魔塔にこもってるよ」

「そうか……」

 あの稀代の天才魔術師であるアリスがすぐに解呪出来ないとあれば、これは本当に煩雑な魔術が身にふりかかってしまったのだろう。

 これから、アーサーの考えていることは触れた相手に露見する。

 間違っても、政敵や反対勢力には触れないようにしないと――……


(いや待て。だとしたら、フェリシアとの交流はどうする? 今日は久しぶりに会うから、手を繋いだり、あわよくばハグでもしようと思っていたのだが)

 婚約式を終え、なにかとバタバタしていて会えなかったフェリシアとようやく会える。

 そう思うだけで興奮してくるのに、今のルーカスの所見からいけば、フェリシアに触れるとこの心の声は全てフェリシアに筒抜けだ。


「……フェリシアに会うとき、いつもそんなこと考えてるの? いやアーサーのそういうの知りたくなかったっていうか」

「お前が勝手に覗いているんだろう」


 まだルーカスはアーサーに触れたままだ。

 つまりは先程の邪な気持ちも全てバレている。こうして会話をできているのが何よりの証拠だ。

「フェリシアが知ったら卒倒しそうな声だと思うよ、正直」

「む……それはそうだな」

 フェリシアはとても美しく優しい女性だ。幼い頃から共に成長を見守ってきて、彼女に秋波を送るヤツがいれば、秘密裏に処理してきた。

 アーサーの大切なお姫様。

 本人は表情筋が働かずに無表情でいることを気にしているようだが、アーサーほどの腕前になれば、微々たる変化を感じ取ることが出来る。

 喜ぶと目尻がちょんと下がるし、恥ずかしいとうなじが色付く。それがまた色っぽくて――……

「……フェリシアには、しばらく会わない方がいいかもしれない」

「奇遇だね、アーサー。俺もそう思う」

 アーサーが導き出した答えに、どこか疲れた顔をしたルーカスが頷いた。そっと触れていた手を離したのは、アーサーの心情を覗くのがいたたまれなくなったからかもしれない。

 このまま彼女に会えば、アーサーは絶対に彼女に触れる。そうすれば、この下心も全て丸出しになってしまう。

 彼女の前では紳士で優しい最高の王太子でいたいのだ。

「……今日、フェリシアにはしばらく会えないと伝えようと思う。ルーカスもフォローを頼む」

「もちろん。俺もできる限り協力する」

「フェリシアのところにはロージーもいるしな」

「んなっ!!!!??? なんでそれを」

「今日も共に城に来ると思うが」

「ヒュッ……! こうしてはいられない。ごめんアーサー。俺ちょっと偶然を装わないといけないから!!」

「ああ。ありがとうルーカス」

 急に慌て出したルーカスは、そそくさと部屋を出ていった。彼はフェリシアの侍女であるロージーにずっと前から片思いをしている。

 ルーカスの態度はめちゃくちゃに分かりやすいが、ロージーはフェリシアのことしか考えていない同志だ。悲しいほどに伝わっていない。
 

(フェリシアに会えない……婚約したから少しは触れてもいいと思ってイメトレしていたというのに……)

 眉目秀麗で非の打ち所のない王太子は、ままならない執愛を婚約者のフェリシアに注いでいた。
 
 はあ、とため息をつく。
 すると机の上に置いていたとある釣り書が目に付いた。隣国の王女を輿入れさせようと画策する侯爵から送られて来たものだ。


「……この機会に、全て炙り出すか……?」

 フェリシアを婚約者から外そうとする勢力に前々から鬱憤が溜まっていた。今度の夜会にフェリシアと出席するのは絶望的だろう。

 であればその機会に、違う令嬢を連れたアーサーが現れれば、奴らは慌てて尻尾を出すに違いない。

 その令嬢の役目はルーカスに任せるとして、フェリシアに会えない間は仕事に邁進して気を紛らわせるしかない。

 全てを一掃してやろう。
 紫水晶のようだと持て囃されるアーサーの瞳に、ほの暗い闇が広がる。とてもではないがフェリシアには見せられない顔だ。

 そうしてフェリシアに会えない鬱憤をはらすかのように、アーサーは暗躍する者たちの尻尾を根こそぎ掴み取り、厳しい処分をした。


 ちなみに、あの日久しぶりに会ったフェリシアがあまりにも美しく愛らしいものだから、アーサーはすぐにでも手を取って愛をささやきたい自分の抑制にひどく忙しかったのだとか。



***


「……フェリシア以外には本当に厳しいからな」

 家に戻って自宅でベッドに転がったルーカスは、怒涛の勢いで案件を処理した友人を思い返してそう零した。

 無事にかは分からないが、フェリシアがああしてアーサーのことを受け入れてくれて本当に良かった。

 アーサーのあの魔王のような強大な力が制御されているのは、ひとえにフェリシアという存在があるからだ。彼からフェリシアを取り上げたら、世界を滅ぼすくらいはしそうだ。

 そして、きっとそれよりも強い力を持つアリスも「なにそれ楽しそ」と言ってアーサーに加担する未来が見える。

 考えただけで胃が痛い。
 なのに、それを分かっていない奴が多すぎる。

 はあ、と大きくため息をついたルーカスはごろりと寝返りを打った。もう寝よう。疲れた。

 破天荒な姉と魔王な親友、それから行動力がありすぎるお姫様に囲まれた苦労人ルーカスの日々はこれからもまだ続いていく。


 ちなみにフェリシアを勝手に猫の姿にしたことについて怒られるかと思ったルーカスだったが、「得難い経験ができた」とピカピカ笑顔のアーサーにいたく感謝された。


~完~


───────────────
最後までお読みいただきありがとうございます!
蓋を開ければ…なお話でした。少しでも楽しんでいただけたなら幸いですꕤ︎︎·͜·
2024.9.8
しおりを挟む
感想 27

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(27件)

佳月
2024.09.08 佳月
ネタバレ含む
2024.09.09 ミズメ

感想ありがとうございます〜!!
苦労人ルーカスの未来が輝かしかったらいいなと切望します(*^^*)すごく時間はかかりそうですが👏
楽しんでいただけたなら幸いですꕤ︎︎·͜·

解除
umiiro
2024.09.08 umiiro
ネタバレ含む
2024.09.09 ミズメ

感想ありがとうございます。
わあ……っ、色々と読み取っていただけて本当にうれしいです( *´꒳`*)
ルーカスくんは、まずド緊張してしまうのを直さなければ…!!番外編希望もうれしいです✨

解除
こいぬ
2024.09.08 こいぬ
ネタバレ含む
2024.09.08 ミズメ

最後までお付き合いいただきありがとうございました!!感想嬉しかったです( *´꒳`*)
アーサーとフェリシアのその後…!機会がありましたらがんばります!!

解除

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。 でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。 周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。 ――あれっ? 私って恋人でいる意味あるかしら…。 *設定はゆるいです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。