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どうなる王都編
第二王女から見た世界・その1
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「……困ったことになったわ」
狭い離宮の片隅で、第二王女ビアンカは途方に暮れていた。
きらびやかとは言えない内装と調度品、数少ない地味なドレスがクローゼットもない部屋の壁に掛けてある。
月夜の光に照らされる室内で、彼女の飾り気のない銀の髪がきらきらと揺れる。
十六歳になったばかりのビアンカはとんでもない醜聞を耳にした。
""第一王女アデーレが情夫を連れて宰相子息に婚約破棄を命じた""
""王も認めたものであると言い放ち、冤罪の上職も奪った""
""シェーンハイト辺境伯を貶める発言をし、強引に婿入りを宣言した""
どれも、ビアンカが寝ている間に起こったことだ。
身分の低い側妃の娘であり、第二王女であるビアンカは明らかに第一王女のアデーレと差をつけられていた。
王宮に住まうことはなく、離れに追いやられ、とても王族とは言えない暮らしを強いられている。
反対に、王は第一王女に惜しみない愛を注ぎ、どんな我儘も叶えてきた。
(頭が痛いわ。お姉様がジルヴェスター様を手放すだなんて)
ビアンカは、この国はこのままではゆるやかに退廃してゆくだろうと思っていた。
中央の貴族たちは贅沢をして自分たちの私腹を肥やすことにしか興味がない。
北のシェーンハイトや南のザウアーラントといった辺境の民たちが国防の要であるということを理解しようとしない。
姉の暴言を聞くに耐えかねて反論した結果、ビアンカは全ての夜会への出席を禁じられてしまった。
――それでも、ジルヴェスター様が王配になられるのであれば。
この暮らしや国の向きが変わると思った。それまでの我慢だと信じていたのに。
「……よりによって、婚約破棄。それも横領だなんて根も葉もない罪を着せて……どうせ捏造したことなんてすぐに露見してしまうわ」
おまけにシェーンハイト家まで侮辱しただなんて。呆れてしまう。
「これからどーしよっか~?」
こめかみを抑えるビアンカを前に、陽気な声がする。その声に顔を上げると、窓の外では褐色肌の人物が少年のような笑みを浮かべてにこやかに微笑んでいた。
この人物こそ、寝ていたビアンカを起こし、先程の情報を教えてくれた人物だ。
ビアンカの寝室は二階にある。ベッドのそばにある窓は、外からだと普通では見えない高さにあるのだが。
「アルバン、そうは言っても私に出来ることなんてほとんどないもの」
幼い頃に知り合ったその人は、離宮にいるビアンカの元によく訪ねてきていた。そして外の話を教えてくれる。
ほとんど軟禁されているような形のビアンカにとって、アルバンが教えてくれる情報はとても有益で楽しいものだった。
『ビアンカ、みてこれ。市で売ってた木の実』
『ビアンカ。今日は城下で祭りがあったらしいよ。ほらこれ、お土産』
『ビアンカ。この国の情勢はそんなに良くない。宰相が尽力しているけど、なかなか厳しいかもね』
大人になるにつれ、その内容はどんどん難しくなってきた。
――きっとアルバンは、どこかの貴族の出なのだわ。
王宮しか知らないビアンカでもそう感じるくらい、アルバンの知識量や知見は素晴らしいものだった。
だからこそ、碌に家庭教師もつけてもらえないビアンカがかの人から本や新聞を与えられながら育った。
歳の頃はあまり変わらないのに、アルバンは聡明だ。
「そんなことはない、君は第二王女だろう。これからこの国は荒れるぞ。宰相派とシェーンハイトを敵に回した」
「でも……私には本当に何も無いのよ」
涙目になったビアンカは友人の瞳をじっと見つめた。吸い込まれそうな赤い瞳。
(あら……赤い瞳……?)
「ねえアルバン、あなた……」
ビアンカがそう切り出した時、けたたましく離宮の扉を叩く音がする。
「な、なに……!?」
「ち。早速 保守派が囲い込みに来たか。ビアンカ、こっちに来い!」
「え、ええっ!?」
来いと言われてもそこは二階の窓だ。木の上にいるアルバンが手を広げているけれど、ビアンカはいたって普通の女の子である。
かの領地の令嬢とは訳が違う。
「はやく!」
「う、うわ~~ん」
半ばやけくそになったビアンカは、呼ばれるままに窓の外に飛び出した。
狭い離宮の片隅で、第二王女ビアンカは途方に暮れていた。
きらびやかとは言えない内装と調度品、数少ない地味なドレスがクローゼットもない部屋の壁に掛けてある。
月夜の光に照らされる室内で、彼女の飾り気のない銀の髪がきらきらと揺れる。
十六歳になったばかりのビアンカはとんでもない醜聞を耳にした。
""第一王女アデーレが情夫を連れて宰相子息に婚約破棄を命じた""
""王も認めたものであると言い放ち、冤罪の上職も奪った""
""シェーンハイト辺境伯を貶める発言をし、強引に婿入りを宣言した""
どれも、ビアンカが寝ている間に起こったことだ。
身分の低い側妃の娘であり、第二王女であるビアンカは明らかに第一王女のアデーレと差をつけられていた。
王宮に住まうことはなく、離れに追いやられ、とても王族とは言えない暮らしを強いられている。
反対に、王は第一王女に惜しみない愛を注ぎ、どんな我儘も叶えてきた。
(頭が痛いわ。お姉様がジルヴェスター様を手放すだなんて)
ビアンカは、この国はこのままではゆるやかに退廃してゆくだろうと思っていた。
中央の貴族たちは贅沢をして自分たちの私腹を肥やすことにしか興味がない。
北のシェーンハイトや南のザウアーラントといった辺境の民たちが国防の要であるということを理解しようとしない。
姉の暴言を聞くに耐えかねて反論した結果、ビアンカは全ての夜会への出席を禁じられてしまった。
――それでも、ジルヴェスター様が王配になられるのであれば。
この暮らしや国の向きが変わると思った。それまでの我慢だと信じていたのに。
「……よりによって、婚約破棄。それも横領だなんて根も葉もない罪を着せて……どうせ捏造したことなんてすぐに露見してしまうわ」
おまけにシェーンハイト家まで侮辱しただなんて。呆れてしまう。
「これからどーしよっか~?」
こめかみを抑えるビアンカを前に、陽気な声がする。その声に顔を上げると、窓の外では褐色肌の人物が少年のような笑みを浮かべてにこやかに微笑んでいた。
この人物こそ、寝ていたビアンカを起こし、先程の情報を教えてくれた人物だ。
ビアンカの寝室は二階にある。ベッドのそばにある窓は、外からだと普通では見えない高さにあるのだが。
「アルバン、そうは言っても私に出来ることなんてほとんどないもの」
幼い頃に知り合ったその人は、離宮にいるビアンカの元によく訪ねてきていた。そして外の話を教えてくれる。
ほとんど軟禁されているような形のビアンカにとって、アルバンが教えてくれる情報はとても有益で楽しいものだった。
『ビアンカ、みてこれ。市で売ってた木の実』
『ビアンカ。今日は城下で祭りがあったらしいよ。ほらこれ、お土産』
『ビアンカ。この国の情勢はそんなに良くない。宰相が尽力しているけど、なかなか厳しいかもね』
大人になるにつれ、その内容はどんどん難しくなってきた。
――きっとアルバンは、どこかの貴族の出なのだわ。
王宮しか知らないビアンカでもそう感じるくらい、アルバンの知識量や知見は素晴らしいものだった。
だからこそ、碌に家庭教師もつけてもらえないビアンカがかの人から本や新聞を与えられながら育った。
歳の頃はあまり変わらないのに、アルバンは聡明だ。
「そんなことはない、君は第二王女だろう。これからこの国は荒れるぞ。宰相派とシェーンハイトを敵に回した」
「でも……私には本当に何も無いのよ」
涙目になったビアンカは友人の瞳をじっと見つめた。吸い込まれそうな赤い瞳。
(あら……赤い瞳……?)
「ねえアルバン、あなた……」
ビアンカがそう切り出した時、けたたましく離宮の扉を叩く音がする。
「な、なに……!?」
「ち。早速 保守派が囲い込みに来たか。ビアンカ、こっちに来い!」
「え、ええっ!?」
来いと言われてもそこは二階の窓だ。木の上にいるアルバンが手を広げているけれど、ビアンカはいたって普通の女の子である。
かの領地の令嬢とは訳が違う。
「はやく!」
「う、うわ~~ん」
半ばやけくそになったビアンカは、呼ばれるままに窓の外に飛び出した。
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