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どうなる王都編
その2
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アルバンの問いに、ダニエルはにっこりと微笑んで見せた。
辺境領で兄弟のように育った彼は、とても優秀な諜報員である。
色々と未熟なアルバンに反して、ダニエルの諜報員としての技術は高かった。
今回も商人という肩書きを自ら手にし、保守派の貴族たちをお得意さまとして成り上がった。
皮肉なことに、そのせいで王女と親しくなり、お気に入りになってしまった訳だが。
「最後に、アルバンの顔でも見ておこうかと思ってさ。あと、こっちの姫さんも」
「……行くのか」
「ああ。追放の身だし~?」
ぐぐっと伸びをした男は、軽やかに立ち上がるとその辺の床に置いてあった荷物を肩にかける。
「……どこまで計画してたんだよ」
何も知らないアルバンは、そう問いかける他ない。ビアンカのことを大切にしていて、それを頭領には黙認されていた。
『王女殿下に危険があればお守りしろ』とだけ言われていたから、ビアンカに関係しそうな情報収集は欠かさなかった訳だが。
「ああ、あの夜会?」
アルバンの問いに、ダニエルは口を開く。
「夜会の時はびっくりしたけどな。婚約破棄で終わりかと思ったら、飛び入りのシェーンハイトのご令嬢が……くくっ、本当に跳んできたよな? あれはビビった」
「……じゃああれは、仕込みじゃないのか」
あの会場の片隅で情報収集をしていたアルバンも、天から降ってきた令嬢を見た。
二階の欄干からくるりと一回転して、あの場に現れたのだ。
(シェーンハイトの令嬢の出現は偶然だったのか)
てっきりアレも父親の計画のうちかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「あの夜会の目的は""マルツ侯爵子息を辱める""ことにあったようだし、あの子が出てきて総崩れだったな、くく」
「それであの合図をしたのか」
「うん。アルバンがいたのは知ってたからなぁ。アデーレがダメなら、次はビアンカってなるだろ、アホな大人は」
立ち去る直前、アデーレ王女の後を追う素振りを見せたダニエルは、一度アルバンの方をきつく睨んだ。
位置的にジルヴェスターを睨んだかのように見えたかもしれないが、あれは背後のアルバンに向けたものだ。
(あの合図を受けて、俺はいそいでビアンカのところに向かったんだよな)
危機一髪だった。まさかあんなに早く保守派も動くなんて。
「――んじゃそろそろ間に合わなさそうだから、行くな」
「間に合う? 何に?」
アルバンが尋ねるとダニエルはどこかほの暗い笑みを浮かべた。
「アデーレが出立するだろ? 途中でもらってこうと思って」
「え……」
「頭領には内緒な。まあ知ってるかもだけど」
「えええ」
「商人上がりのオレが爵位もらって無理やり王配になるより、向こうに王の座から堕ちてもらう方が確実だろ。こんな急になるとは思ってなかったけど、最後にお前に会えて良かった。じゃな~」
ひらひらと手を振ったかと思えば、ダニエルは部屋の窓を開けてサッと飛び降り、いなくなってしまった。
(え? ダニエルはアデーレ王女が本気で好きだったわけ? それになんかやばいこと言ってたよな)
アデーレ王女は西方に向けて発つ。
その道すがら、彼女は行方不明になってしまうのだろう。
(どこからどこまでが策なのか、俺にはわかんないな)
アルバンはそこで考えるのをやめた。
「えっと……大丈夫? なんだか嵐のような人ね。あの人がお姉さまの恋人なのね」
「うん……」
首を傾げているこの儚げな銀髪の王女だけがアルバンの全てだ。もう、それでいい。
なんだかアデーレに同情したいような気持ちにもなるが、それはそれとして、彼女はずっとこのビアンカを虐げていたのだ。許せるはずもない。
アルバンとビアンカは、開けっぱなしになった窓を見つめて呆然とした。
――そしてその後。西方の離宮に向かったアデーレ王女殿下を乗せた馬車が事故に遭い、馬車は大河に呑まれたという報せが王都に舞い込んだ。
加えて、王女の安否は不明だという。
「うわ……本当にやってるし」
新聞を見つめるアルバンは、某商人の笑顔を脳裏にチラつかせながらそう呟いた。
辺境領で兄弟のように育った彼は、とても優秀な諜報員である。
色々と未熟なアルバンに反して、ダニエルの諜報員としての技術は高かった。
今回も商人という肩書きを自ら手にし、保守派の貴族たちをお得意さまとして成り上がった。
皮肉なことに、そのせいで王女と親しくなり、お気に入りになってしまった訳だが。
「最後に、アルバンの顔でも見ておこうかと思ってさ。あと、こっちの姫さんも」
「……行くのか」
「ああ。追放の身だし~?」
ぐぐっと伸びをした男は、軽やかに立ち上がるとその辺の床に置いてあった荷物を肩にかける。
「……どこまで計画してたんだよ」
何も知らないアルバンは、そう問いかける他ない。ビアンカのことを大切にしていて、それを頭領には黙認されていた。
『王女殿下に危険があればお守りしろ』とだけ言われていたから、ビアンカに関係しそうな情報収集は欠かさなかった訳だが。
「ああ、あの夜会?」
アルバンの問いに、ダニエルは口を開く。
「夜会の時はびっくりしたけどな。婚約破棄で終わりかと思ったら、飛び入りのシェーンハイトのご令嬢が……くくっ、本当に跳んできたよな? あれはビビった」
「……じゃああれは、仕込みじゃないのか」
あの会場の片隅で情報収集をしていたアルバンも、天から降ってきた令嬢を見た。
二階の欄干からくるりと一回転して、あの場に現れたのだ。
(シェーンハイトの令嬢の出現は偶然だったのか)
てっきりアレも父親の計画のうちかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「あの夜会の目的は""マルツ侯爵子息を辱める""ことにあったようだし、あの子が出てきて総崩れだったな、くく」
「それであの合図をしたのか」
「うん。アルバンがいたのは知ってたからなぁ。アデーレがダメなら、次はビアンカってなるだろ、アホな大人は」
立ち去る直前、アデーレ王女の後を追う素振りを見せたダニエルは、一度アルバンの方をきつく睨んだ。
位置的にジルヴェスターを睨んだかのように見えたかもしれないが、あれは背後のアルバンに向けたものだ。
(あの合図を受けて、俺はいそいでビアンカのところに向かったんだよな)
危機一髪だった。まさかあんなに早く保守派も動くなんて。
「――んじゃそろそろ間に合わなさそうだから、行くな」
「間に合う? 何に?」
アルバンが尋ねるとダニエルはどこかほの暗い笑みを浮かべた。
「アデーレが出立するだろ? 途中でもらってこうと思って」
「え……」
「頭領には内緒な。まあ知ってるかもだけど」
「えええ」
「商人上がりのオレが爵位もらって無理やり王配になるより、向こうに王の座から堕ちてもらう方が確実だろ。こんな急になるとは思ってなかったけど、最後にお前に会えて良かった。じゃな~」
ひらひらと手を振ったかと思えば、ダニエルは部屋の窓を開けてサッと飛び降り、いなくなってしまった。
(え? ダニエルはアデーレ王女が本気で好きだったわけ? それになんかやばいこと言ってたよな)
アデーレ王女は西方に向けて発つ。
その道すがら、彼女は行方不明になってしまうのだろう。
(どこからどこまでが策なのか、俺にはわかんないな)
アルバンはそこで考えるのをやめた。
「えっと……大丈夫? なんだか嵐のような人ね。あの人がお姉さまの恋人なのね」
「うん……」
首を傾げているこの儚げな銀髪の王女だけがアルバンの全てだ。もう、それでいい。
なんだかアデーレに同情したいような気持ちにもなるが、それはそれとして、彼女はずっとこのビアンカを虐げていたのだ。許せるはずもない。
アルバンとビアンカは、開けっぱなしになった窓を見つめて呆然とした。
――そしてその後。西方の離宮に向かったアデーレ王女殿下を乗せた馬車が事故に遭い、馬車は大河に呑まれたという報せが王都に舞い込んだ。
加えて、王女の安否は不明だという。
「うわ……本当にやってるし」
新聞を見つめるアルバンは、某商人の笑顔を脳裏にチラつかせながらそう呟いた。
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