最強令嬢は恋愛戦も制圧します!~婿探しをしたら宰相子息に溺愛されました~

ミズメ

文字の大きさ
25 / 26
一章 番外編

軍部秘密会議

しおりを挟む

 シェーンハイト城東棟奥、軍専用の食堂の一角にて。
 ガッチリムッチリした筋骨隆々の男たちがぎゅうぎゅうに肩を並べて険しい顔をしていた。もはや劇画である。


「……さあ、どうするんだあっ!!」

 一人が雄叫びのような声をあげ、木製のテーブルを力強く叩く。バァンという大きな音がしたが、すっごく頑丈だったのでテーブルは無事だ。

「もう、時間がないぞ」
「どうしてこんなに時間がかかってしまったのだァ!? お前たち、もっとシャキッとだな」
「軍曹こそ!! 毎日緊張してちゃんと聞き込みが出来ないからじゃないっスかぁ!? 初日の威勢はどうしたんですか!!」
「う、五月蝿いっ!!」

 一同はお互いに捲し立てあい、議論は喧喧囂囂となる。
 その一角で、とある人物は静かにその動静を見守っていた。なんだこれ、と思いながら。

「……そうだっ! ここは、アルフレッド殿に御高説を賜っては!?」

 壮年の軍人が閃いたような顔をしてそう言えば、皆の熱い視線は一心に隅で気配を消そうとしていたアルフレッドの元へと集中する。

(げ………気付かれた)

 アルフレッドは内心そんな事を思う。

『ぜひにご参加を! 大切な会議ですので!』と誘われてここに来た訳だが、いざ到着してみれば議題が議題なので、なんとなく黙っていた。

 暑苦しい視線がギラギラと眩しい。アルフレッドの意見に期待していることが窺えて、正直本当にどうしようかと思う。

 こほん、とひとつ咳払いをする。
 アルフレッドは覚悟を決めた。

「……確認なのですが」

 アルフレッドが話し始めると、軍人たちの瞳は輝きを増す。期待が込められている事がよく分かる。

「本日の議題は、この紙にあるとおり、『ようこそ婿殿☆歓迎パーティの開催について』のことで間違いないのですよね?」

 アルフレッドはまさにそのタイトルが書かれた紙を軍人たちに指し示す。
 重要会議と言っていただろ。なんだこれ。そうつっこみたい気持ちを必死におさえる。

「そのとおりである!」
「パーティーをしようと思ったが、婿殿の好物が分からず!! 聞き込みも出来ずじまい!!」
「き、緊張しちゃって……」
「……いい香りがするんだぁ。王都って、すごいなあ……」

 大きな体躯の男たちが揃いも揃ってモジモジとしている様は、滑稽をとおりすぎてちょっと怖い。

 シェーンハイトの男たちにとって、『ジルヴェスター・マルツ』という存在は、絵に書いた様な貴族子息で王都の人間だ。

 おそらく軍人からするとかけ離れた存在であるため、話しかけるのも躊躇してしまうということだろう。
 領主であるウルズスは貴族だけどあれであるため、確かにこれまでシェーンハイトには存在しない人材だ。

 揃いも揃って歓迎会を企てつつ、肝心なジルヴェスターの好きな食べ物などの調査が出来ていないということなのだ。

(全く……この人たちは……)

 アルフレッドは呆れた顔をしながら、どこか温かな気持ちになる。
 幼い頃からの顔見知りの人もいる。豪快で快活で憧れる軍人たちが、ジルヴェスターの好物のことで筋肉まで萎縮させているとは、なんとも微笑ましい事だ。

「アルフレッド殿ならば、王都から来ておるし、婿殿の好きな食べ物などについてもご存知ではないかと思って来ていただいたのだ」
「よっ! さすがです大佐!!」
「頼れる軍師!!」

 元気を取り戻してきた軍人たちを前に、アルフレッドは腕を組む。ジルヴェスターの好きな食べ物はなんだろう。

 お互いに王都の出であるが、あちらは生粋の貴族子息で政権の中心にいた。対してアルフレッドは騎士団に所属していて、その生活は異なる。

(食事について何か話していたか……? そういえば)

『忙しくて、あまり寝食について考えたことはなかったですね。夜会でも挨拶回りが多かったので……』

 ジルヴェスターがそんなことを話していた事を思い出す。あの人は忙しすぎて、誰かとゆっくり食事をとる事がほとんど無かったようだ。

 仕事人間であることは間違いない。声をかけなければ寝食を疎かにするタイプだ。
 いまは皆で食卓を囲む事にしているため、朝夕はきちんと食堂に行っているようだが。

「……シナモンロールは、とても美味しそうに食べていました。あとは、クラウディアと食べていたサーモンのサンドイッチ。それからベリーのパンケーキ」

 思いつくまま、アルフレッドはこれまでジルヴェスターが喜んで食べていたものを挙げてゆく。

 王都では関わりが無かったからほとんど知らないが、シェーンハイトで見る彼の表情はとても明るかったように思う。

「しかしそれは、シェーンハイトのものばかりだ」
「王都に負けないような、ご馳走を並べなくて良いのだろうか」

 軍人たちは困惑する。どれもシェーンハイトでは食べ慣れた、日常的な食事といえる。
 そんなものを歓迎会のメニューとして出していいのか。

「俺から見たジルヴェスター殿は、シェーンハイトを知りたいと深く思っておられる。難しいことは考えずに、シェーンハイトを紹介するつもりでもてなせば喜んでくださると思います」

 戸惑う筋肉たちに、アルフレッドはそう結論を告げた。
 きっと、そうであろう。あの人ならば。

「あとは、そうですね……」

 アルフレッドはじとりとした視線を諸先輩方に向ける。その鋭い視線に、軍人たちがたじろいでいる。

「そうして萎縮して彼の人を遠巻きにしてしまうのは良くないかと。軍から距離を取られているのではと気にしてましたよ」

 アルフレッドは、これまでのジルヴェスターの様子を思い返す。

 みなチラチラとジルヴェスターのことを気にしてはいるものの、老兵と一部の者以外はあまり話しかけて来ないことを気にしていたようだった。

「な、なにィぃぃぃぃ!?」
「そそれは!! 誠かっっ!!??」
「至急対処する! ご意見ありがたし!」
「では料理などをきめて早く取り掛かりましょう! 軍の歓迎の気持ちをお伝えしなければ」

 慌てた様子の軍人たちが、急いで歓迎会の計画の詳細をつめていく。その様子をアルフレッドも見守る。

 料理の詳細、日時、招待状の体裁……色々な事を決めながら、熱い夜が更けて行く。

 きっと楽しい歓迎パーティーになるだろう。

 計画の最終確認を求められたアルフレッドは、その書類を眺めながら口の端から笑みを逃がす。

(温かな人たちだな。やっぱり)

 シェーンハイトの軍に入れて良かった。アルフレッドは心からそう思いつつ――

「これは却下で。むしろ禁止です」

 計画書に書かれていた『ここで婿殿を胴上げ』の部分に大きくバツ印を付けたのだった。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。