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5章 帰郷!エルフの里へ ~記憶喪失編~
船に乗ろう ~回想編 エルの過去 inエリュシオンside~
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◆
俺がいたエルフの里は、“黒”である俺をそこまで差別する風習はなかった。
里で医者をしている父親と警備隊長として貢献している母親、その両親の影響が強かったんだろう。
仲間達は“黒”という色ではなく、“俺自身”をちゃんと見てくれた。
エルフの里はとても平和で時間が経つのも穏やかだ。
そんな平和すぎる日常に飽きる日が来るのは当たり前だった。
強い魔力を持っていても利用する機会がない、試す機会がない、魔道具を作っても自己満足で終わる。
俺はいろんなことを学びはしたが、学んだことを生かす方法がわからなかった。
エルフの里で“黒”を受け入れてもらってたことで忘れていた。
本来“黒”がどういう差別を受けるのかということを・・・――――――
周りの反対を押し切って、こっそり里を出た。
まだ髪色を変える魔道具まではなかったから、マントのフードを被ってやり過ごすことにし、近隣の村にまず辿り着いた。
冒険者登録をするつもりだったからまずは冒険者ギルドへ行ったが、そこからが苛立ちの連続だった。
まずはギルドの受付に行って“黒”だとバレたとき、登録を断られた。
その場にいた奴を全員ぶっ飛ばして登録はしたが、ランクアップは無理だろうなとそのとき悟った。
飯を食おうと食事処へ行っても断られるか、まずい食事ばかり。
自分で材料を買ったり採集したりして自炊する方がまだマシだった。
クエストを受けるのは諦めて、適当な森でモンスターを相手にしたり、ダンジョンを散策したり必要な時以外は村や町に行かずに過ごす日々が続く。
ある大きめのダンジョンに行って、野宿をしているときだった。
しばらく続いた野宿で疲労が溜まっていたんだろう。普段ならありえないが、蛇の毒に侵された。
即効性のある神経毒だったみたいで、毒消しを使いたくても身体が動かない。
時間が経てば経つほど“死”が近くなる。
“俺はこんなところで終わるのか、エルフの里を出た結果がこのざまか“
そう思って諦めかけていたその時・・・――――――
『あれ?こんな所に人?・・・あ、エルフ??』
緊張感のない女の声がした。だが俺には振り向いて確認する余裕すらない。
『うわっ、コイツの毒でやられちゃったの?ホントにこの蛇って神出鬼没だよね!アタシも何度か死にかけたし☆』
なんなんだこいつは・・・気づいてるなら早く助けるなりしろ。
『・・・あなた、“黒”だね。選ばせてあげるよ“生きたい”?・・・それとも“死にたい”?』
なんとか声のする方向に瞳を向けると、俺と同じ“黒”の狼の獣人女が、とても真剣な顔をしていた。
・・・こいつは知っているんだろう。“黒”が生きる辛さを、差別される哀しさを・・・
だが、俺に“死”という選択肢はなかった。
このまま死んでしまったら、今まで育ててくれたエルフの里にいる奴らに示しがつかない。
俺はどんなことをしても生き抜いてやる、これからずっと・・・と、そう思った。
黒狼の獣人女の名は“ノエル”。
ソロの冒険者だという。俺と同じで素材採集やダンジョンにもぐったりしながら、自分を鍛錬しつつ生きているとのこと。毒消しを飲んだが、飲むまでに時間がかかり思うように身体が動かないので、ノエルの家で少し休ませてもらうことになった。
ノエルには妹がいるらしいが“黒”ではない。
小さな村の端っこに家があるみたいだが、妹がノエルの作った薬草を売ったり、村の手伝いをして生活しているようだ。ノエルはなるべく村の奴らの前に顔を合わせないように過ごしているらしい。
『ただいま、ミリー』
『あ、お姉ちゃんおかえり・・・って誰?!その黒いのっ、また拾ってきたの?!』
『あは☆ちょっとそこのダンジョンで・・・』
『も~~~~っ!!』
ノエルはよく怪我した動物やらを拾ってくるらしい。
さすがに人・・・エルフは初めてだったみたいだが。
妹のミリーは元気な奴で、文句を言いながらも動けない俺の世話を買って出てくれる“黒”を差別しない奴だった。
だいぶ動けるようになったとき、ミリーがノエルにいつもの薬草は?と聞いていたので詳細を聞いてみた。
村に売りに行く薬草が少ないようで、これでは今夜の晩ご飯すら用意するのが難しいとのこと。
世話になっている礼も兼ねて、少しでも足しになれば・・・と俺が自分で調合して持ち歩いている薬草を分けることにした。
『ちょっ!!何この薬草!!お姉ちゃんのより何倍も品質良いんじゃない??』
『ミリー・・・さすがにそれは傷つくんだけど・・・でも、確かにすごいね、高く売れるんじゃない?』
調合はエルフの里で一通り習ったが、良い悪いまではわからない。
まぁ、教えてくれたのがエルフの里一番の医者である父親だから師の技術は確かに一流だろう。
『じゃあ、この薬草を売って今日の晩ご飯の材料買ってくるから!行ってきま~す!』
『気を付けてね~』
ミリーが売った薬草はすぐに話題になった。
品質が良いため、村だけでなく町へ向かう行商人も買い付けに村に来るようになったのだ。
・・・俺が売ろうとしたときは散々買いたたかれてたいした額にならなかったが、売り手が違うだけでこうも変わるものか・・・本当にこの世界の“黒”という差別はくだらないと思った。
そして、その薬草をきっかけにある事件が起こることになる ――――――
俺がいたエルフの里は、“黒”である俺をそこまで差別する風習はなかった。
里で医者をしている父親と警備隊長として貢献している母親、その両親の影響が強かったんだろう。
仲間達は“黒”という色ではなく、“俺自身”をちゃんと見てくれた。
エルフの里はとても平和で時間が経つのも穏やかだ。
そんな平和すぎる日常に飽きる日が来るのは当たり前だった。
強い魔力を持っていても利用する機会がない、試す機会がない、魔道具を作っても自己満足で終わる。
俺はいろんなことを学びはしたが、学んだことを生かす方法がわからなかった。
エルフの里で“黒”を受け入れてもらってたことで忘れていた。
本来“黒”がどういう差別を受けるのかということを・・・――――――
周りの反対を押し切って、こっそり里を出た。
まだ髪色を変える魔道具まではなかったから、マントのフードを被ってやり過ごすことにし、近隣の村にまず辿り着いた。
冒険者登録をするつもりだったからまずは冒険者ギルドへ行ったが、そこからが苛立ちの連続だった。
まずはギルドの受付に行って“黒”だとバレたとき、登録を断られた。
その場にいた奴を全員ぶっ飛ばして登録はしたが、ランクアップは無理だろうなとそのとき悟った。
飯を食おうと食事処へ行っても断られるか、まずい食事ばかり。
自分で材料を買ったり採集したりして自炊する方がまだマシだった。
クエストを受けるのは諦めて、適当な森でモンスターを相手にしたり、ダンジョンを散策したり必要な時以外は村や町に行かずに過ごす日々が続く。
ある大きめのダンジョンに行って、野宿をしているときだった。
しばらく続いた野宿で疲労が溜まっていたんだろう。普段ならありえないが、蛇の毒に侵された。
即効性のある神経毒だったみたいで、毒消しを使いたくても身体が動かない。
時間が経てば経つほど“死”が近くなる。
“俺はこんなところで終わるのか、エルフの里を出た結果がこのざまか“
そう思って諦めかけていたその時・・・――――――
『あれ?こんな所に人?・・・あ、エルフ??』
緊張感のない女の声がした。だが俺には振り向いて確認する余裕すらない。
『うわっ、コイツの毒でやられちゃったの?ホントにこの蛇って神出鬼没だよね!アタシも何度か死にかけたし☆』
なんなんだこいつは・・・気づいてるなら早く助けるなりしろ。
『・・・あなた、“黒”だね。選ばせてあげるよ“生きたい”?・・・それとも“死にたい”?』
なんとか声のする方向に瞳を向けると、俺と同じ“黒”の狼の獣人女が、とても真剣な顔をしていた。
・・・こいつは知っているんだろう。“黒”が生きる辛さを、差別される哀しさを・・・
だが、俺に“死”という選択肢はなかった。
このまま死んでしまったら、今まで育ててくれたエルフの里にいる奴らに示しがつかない。
俺はどんなことをしても生き抜いてやる、これからずっと・・・と、そう思った。
黒狼の獣人女の名は“ノエル”。
ソロの冒険者だという。俺と同じで素材採集やダンジョンにもぐったりしながら、自分を鍛錬しつつ生きているとのこと。毒消しを飲んだが、飲むまでに時間がかかり思うように身体が動かないので、ノエルの家で少し休ませてもらうことになった。
ノエルには妹がいるらしいが“黒”ではない。
小さな村の端っこに家があるみたいだが、妹がノエルの作った薬草を売ったり、村の手伝いをして生活しているようだ。ノエルはなるべく村の奴らの前に顔を合わせないように過ごしているらしい。
『ただいま、ミリー』
『あ、お姉ちゃんおかえり・・・って誰?!その黒いのっ、また拾ってきたの?!』
『あは☆ちょっとそこのダンジョンで・・・』
『も~~~~っ!!』
ノエルはよく怪我した動物やらを拾ってくるらしい。
さすがに人・・・エルフは初めてだったみたいだが。
妹のミリーは元気な奴で、文句を言いながらも動けない俺の世話を買って出てくれる“黒”を差別しない奴だった。
だいぶ動けるようになったとき、ミリーがノエルにいつもの薬草は?と聞いていたので詳細を聞いてみた。
村に売りに行く薬草が少ないようで、これでは今夜の晩ご飯すら用意するのが難しいとのこと。
世話になっている礼も兼ねて、少しでも足しになれば・・・と俺が自分で調合して持ち歩いている薬草を分けることにした。
『ちょっ!!何この薬草!!お姉ちゃんのより何倍も品質良いんじゃない??』
『ミリー・・・さすがにそれは傷つくんだけど・・・でも、確かにすごいね、高く売れるんじゃない?』
調合はエルフの里で一通り習ったが、良い悪いまではわからない。
まぁ、教えてくれたのがエルフの里一番の医者である父親だから師の技術は確かに一流だろう。
『じゃあ、この薬草を売って今日の晩ご飯の材料買ってくるから!行ってきま~す!』
『気を付けてね~』
ミリーが売った薬草はすぐに話題になった。
品質が良いため、村だけでなく町へ向かう行商人も買い付けに村に来るようになったのだ。
・・・俺が売ろうとしたときは散々買いたたかれてたいした額にならなかったが、売り手が違うだけでこうも変わるものか・・・本当にこの世界の“黒”という差別はくだらないと思った。
そして、その薬草をきっかけにある事件が起こることになる ――――――
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