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第四話 ジャガ芋とワイバーン家の人々
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見渡すかぎり、麦畑が広がっていた。あと三ヶ月もすれば収穫の時期をむかえるだろう。
グレイの話ではドレイク村の人口は二百人ほどだという。絵にかいたような辺境の田舎の村だった。
村に入り、数人の農民に出会った。皆くったくなくグレイに挨拶する。
王都の貴族にたいする一般民衆はけっしてそんんなことはしない。貴族などは民衆から良くはおもわれない存在だ。払った税で贅沢する寄生虫だと民衆は考えている。逆に貴族は民衆を搾取して当然の相手だと考えている。このグレイのようにあきらかに慕われ、くったくなく会話をする相手ではない。
大きく手をふって近づく人物がいる。その人物は赤毛の背の高い女性であった。革の鎧を身にまとい、腰の左右に短剣をぶらさげていた。
「グレイ様!! やっと帰ってこられたのですね」
そう言い、その赤毛の女性はグレイに抱きついた。
グレイも両手を広げて、抱き合う。
その様子を見て、エリナは心臓の奥がちくちく痛むのを覚えた。それが嫉妬ではないかという考えが頭をよぎり、彼女は驚愕した。わずか二週間の旅をしただけなのに、自分はグレイにそのような感情を抱くようになっただなんて。
「アナベル、ああ、帰って来たぞ」
「ああっ確かにグレイ様だ。で、そこの御仁は?」
アナベルと呼ばれた女性はエリナを見る。
「緑の髪にとがった耳。まさかメルクド人なのか。やったなグレイ様!! 前から言ってたメルクド人の花嫁をみつけてきたんだな。しかもなんてかわいいんだ!!」
じろじろとエリナの顔を見たあと、アナベルはエリナの小柄な体を抱きしめた。高い高いの要領で抱き上げる。
なんなのグレイにしろ、このアナベルにしろどうしてこう私を抱き上げるの。目をまわしながら、エリナは思った。
「クロード様も兄上の帰りをお待ちかねだ。さあ、屋敷にもどろう」
アナベルは言い、オリオンの手綱を握る。オリオンは旧友に挨拶するようにぶるるっと鳴いた。
その屋敷は貴族のものとは思えないほど質素なものだった。敷地だけは広いが、建物の築年数はかなりたっているようにエリナには見えた。エリナの感想だが、百年はすぎてそうだ。
グレイの話ではこのアナベルという女性は西のファルス王国出身の剣士でドレイク村の警護を一手にになっているという。
屋敷の住人はほかにグレイの弟のクロード。兄のグレイと同じぐらいの身長であったが、弟のほうはほっそりとしていた。女性のように優しげな風貌でグレイよりもよほど貴族的だとエリナは思った。
もう一人はメイドのアンナ。砂色の髪をした女性でぽっちゃりとした体型をしていて、歩くたびに胸とおしりがゆれる。その姿がエリナにはおかしかった。けど、ちょっとうらやましかった。
これがグレイの屋敷に住む、全員であった。
貴族の家に住むのがこれだけということにその日、二度目の衝撃をエリナは受けた。
「さあさあ、奥様はお風呂に入って旅の汚れを落としてください。わたくしはその間に夕食の用意をしますからね」
メイドのアンナに案内され、エリナは浴場に向かう。この屋敷にはなんと温泉がひかれていることに彼女は素直に喜んだ。
旅の汗を流して、アンナの用意した服に着替える。エリナが着てきた服はアンナが洗濯してくれるという。
さっぱりとしたエリナは台所に向かった。
台所ではアンナが夕食の用意をしていた。
「あらあら、奥様は休んでいただいてけっこうですよ」
エリナの姿を見つけたアンナが言う。
「いや、なんだかじっとしてられなくて」
台所からはいい匂いがしていた。
ふとエリナは台所の端にある樽を見た。そこには茶色の丸い芋が山とつまれていた。
「あの……アンナさん、あれは?」
「ああっあれは前にグレイ様が旅の商人からもらってきたものなんですがね。土に植えたらすぐ増えるし、それを食べた猟師のハンスさんはお腹をこわすしで捨てる予定なんですよ。食料事情が改善すればってグレイ様がもらってきたんですけどね」
困った顔でアンナは言った。
「これ、たべられますよ」
エリナは茶色の皮をしたその芋を右手にとって、じっとみつめる。
「えっでもハンスさんはお腹をこわしましたよ。それは苦しそうでしたよ」
アンナは不思議そうに首をひねる。
「それって緑色になったのを食べたんじゃないですか。古くなって緑色になったのは食べられませんよ」
「そういえば、そんな色だったような……」
記憶をアンナはたどる。
「これはねジャガ芋っていうの。百年前の冒険家マルコ・パウロがはるか南にあるジャガリア王国から持ち帰ったものよ。まさかこの目で見られるとは思わなかったわ。そのジャガ芋は芽と緑になったものは毒だから食べられないの」
そう言い、エリナは樽の中のジャガ芋を選別する。
「これとこれと、あっこれもたべられるわね。ねえ、アンナさん。騙されたと思ってこれを茹でてみてよ」
エリナは言った。
アンナはエリナが選んだジャガ芋を茹でる。熱々の茹で上がったジャガ芋の皮を二人はむいていく。それにエリナはバターを乗せた。
「マルコ・パウロの南方見聞録にあった食べ方です。さあっアンナさん食べてみましょう」
パクリとエリナは溶けたバターの乗ったジャガ芋を食べる。
「はあーホクホクして美味しいですよ」
幸せそうな笑みをエリナは浮かべる。
それを見たアンナもパクリと食べる。
「本当ですね、奥様。ホクホクで甘くってとっても美味しいですわ」
エリナとアンナはジャガ芋を頬張りながら、笑いあった。
グレイの話ではドレイク村の人口は二百人ほどだという。絵にかいたような辺境の田舎の村だった。
村に入り、数人の農民に出会った。皆くったくなくグレイに挨拶する。
王都の貴族にたいする一般民衆はけっしてそんんなことはしない。貴族などは民衆から良くはおもわれない存在だ。払った税で贅沢する寄生虫だと民衆は考えている。逆に貴族は民衆を搾取して当然の相手だと考えている。このグレイのようにあきらかに慕われ、くったくなく会話をする相手ではない。
大きく手をふって近づく人物がいる。その人物は赤毛の背の高い女性であった。革の鎧を身にまとい、腰の左右に短剣をぶらさげていた。
「グレイ様!! やっと帰ってこられたのですね」
そう言い、その赤毛の女性はグレイに抱きついた。
グレイも両手を広げて、抱き合う。
その様子を見て、エリナは心臓の奥がちくちく痛むのを覚えた。それが嫉妬ではないかという考えが頭をよぎり、彼女は驚愕した。わずか二週間の旅をしただけなのに、自分はグレイにそのような感情を抱くようになっただなんて。
「アナベル、ああ、帰って来たぞ」
「ああっ確かにグレイ様だ。で、そこの御仁は?」
アナベルと呼ばれた女性はエリナを見る。
「緑の髪にとがった耳。まさかメルクド人なのか。やったなグレイ様!! 前から言ってたメルクド人の花嫁をみつけてきたんだな。しかもなんてかわいいんだ!!」
じろじろとエリナの顔を見たあと、アナベルはエリナの小柄な体を抱きしめた。高い高いの要領で抱き上げる。
なんなのグレイにしろ、このアナベルにしろどうしてこう私を抱き上げるの。目をまわしながら、エリナは思った。
「クロード様も兄上の帰りをお待ちかねだ。さあ、屋敷にもどろう」
アナベルは言い、オリオンの手綱を握る。オリオンは旧友に挨拶するようにぶるるっと鳴いた。
その屋敷は貴族のものとは思えないほど質素なものだった。敷地だけは広いが、建物の築年数はかなりたっているようにエリナには見えた。エリナの感想だが、百年はすぎてそうだ。
グレイの話ではこのアナベルという女性は西のファルス王国出身の剣士でドレイク村の警護を一手にになっているという。
屋敷の住人はほかにグレイの弟のクロード。兄のグレイと同じぐらいの身長であったが、弟のほうはほっそりとしていた。女性のように優しげな風貌でグレイよりもよほど貴族的だとエリナは思った。
もう一人はメイドのアンナ。砂色の髪をした女性でぽっちゃりとした体型をしていて、歩くたびに胸とおしりがゆれる。その姿がエリナにはおかしかった。けど、ちょっとうらやましかった。
これがグレイの屋敷に住む、全員であった。
貴族の家に住むのがこれだけということにその日、二度目の衝撃をエリナは受けた。
「さあさあ、奥様はお風呂に入って旅の汚れを落としてください。わたくしはその間に夕食の用意をしますからね」
メイドのアンナに案内され、エリナは浴場に向かう。この屋敷にはなんと温泉がひかれていることに彼女は素直に喜んだ。
旅の汗を流して、アンナの用意した服に着替える。エリナが着てきた服はアンナが洗濯してくれるという。
さっぱりとしたエリナは台所に向かった。
台所ではアンナが夕食の用意をしていた。
「あらあら、奥様は休んでいただいてけっこうですよ」
エリナの姿を見つけたアンナが言う。
「いや、なんだかじっとしてられなくて」
台所からはいい匂いがしていた。
ふとエリナは台所の端にある樽を見た。そこには茶色の丸い芋が山とつまれていた。
「あの……アンナさん、あれは?」
「ああっあれは前にグレイ様が旅の商人からもらってきたものなんですがね。土に植えたらすぐ増えるし、それを食べた猟師のハンスさんはお腹をこわすしで捨てる予定なんですよ。食料事情が改善すればってグレイ様がもらってきたんですけどね」
困った顔でアンナは言った。
「これ、たべられますよ」
エリナは茶色の皮をしたその芋を右手にとって、じっとみつめる。
「えっでもハンスさんはお腹をこわしましたよ。それは苦しそうでしたよ」
アンナは不思議そうに首をひねる。
「それって緑色になったのを食べたんじゃないですか。古くなって緑色になったのは食べられませんよ」
「そういえば、そんな色だったような……」
記憶をアンナはたどる。
「これはねジャガ芋っていうの。百年前の冒険家マルコ・パウロがはるか南にあるジャガリア王国から持ち帰ったものよ。まさかこの目で見られるとは思わなかったわ。そのジャガ芋は芽と緑になったものは毒だから食べられないの」
そう言い、エリナは樽の中のジャガ芋を選別する。
「これとこれと、あっこれもたべられるわね。ねえ、アンナさん。騙されたと思ってこれを茹でてみてよ」
エリナは言った。
アンナはエリナが選んだジャガ芋を茹でる。熱々の茹で上がったジャガ芋の皮を二人はむいていく。それにエリナはバターを乗せた。
「マルコ・パウロの南方見聞録にあった食べ方です。さあっアンナさん食べてみましょう」
パクリとエリナは溶けたバターの乗ったジャガ芋を食べる。
「はあーホクホクして美味しいですよ」
幸せそうな笑みをエリナは浮かべる。
それを見たアンナもパクリと食べる。
「本当ですね、奥様。ホクホクで甘くってとっても美味しいですわ」
エリナとアンナはジャガ芋を頬張りながら、笑いあった。
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