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第一章
010「クラスメートは探索者《シーカー》」
しおりを挟むこの世界にはダンジョンという謎の巨大構造物に入って資源やお宝を回収する仕事がある。
そして、それを生業としている者たちのことを『探索者』と呼んだ。
その探索者になるには試験を受けて合格する必要があるのだが、平均して合格率が高いのは20代中盤の24~5歳が多い。しかし、そんな中たまに10代⋯⋯高校生の探索者が誕生することがある。
一応、探索者の試験に合格すれば高校生でもなれるのだが、試験課題である『初級魔法』と『初級スキル』の獲得は未成年ではかなり難しいというのが世の常識である。
その理由は、噂ではあるが「ある程度、心身ともに成熟していないと魔法やスキルが発現しづらいんじゃないか?」と言われているからだ。
なので『高校生探索者』というのは、なかなかなれるものではなかった。
逆に、もし『高校生探索者』になれたとしたら、その高校生は『一流探索者になれるだけの素質がある』と評価されるので、ギルド内でも一目置かれる存在となる。
そして、この学校には俺以外にももう一人『高校生探索者』が存在する。それがこの男、
「やあ、みんな! おはよう!」
スポーツ万能でイケメン、誰にでも優しいしフレンドリーな性格、おまけに親は有名巨大企業の社長という、三拍子どころか何拍子も揃った完璧超人⋯⋯それが彼『竜ヶ崎真司』だ。
「おはよう、竜ヶ崎くん!」
「おはようございます、真司様!」
「キャー、真司様ー! 今日もかっこいいー!」
竜ヶ崎が教室に入ると、いつもの男子や女子がワラワラと彼のところに集まってきた。しかも、その中には『ファン』のような女の子も2~3人いた。
しかも噂通り、竜ヶ崎はイケメンだけでなく性格も良いのだろう⋯⋯女子だけでなく男子にも好かれているように見える。
「⋯⋯なるほど。すごい人気だな。これが『高校生探索者』竜ヶ崎真司か」
この世界では『高校生探索者』は芸能人みたいに皆からチヤホヤされるとのこと(ネット調べによる)だったので、試験合格した次の日、学校に行って「みんな、突然だけど『高校生探索者になったんだよね~」などと言ったらチヤホヤされるんじゃないかと考えていたが、俺のクラスにはすでに『高校生探索者』になっている奴がいて、そして、そいつはすでに皆からのチヤホヤを独占していた。
それが、この爽やかイケメン『竜ヶ崎真司』である。
********************
「まー、それでも高校生探索者がすごいことに変わりないのだから公表すればチヤホヤされるのでは?」
などと、考えた俺はいっそ公表しようかと思った。
え? そんなにチヤホヤされたいのかって?
当たり前じゃないか。『異世界転生チートもの』が大好物なラノベオタクにとって、周りからチヤホヤされるのは夢じゃないか。そのために強くなりたいのだろう?(※偏見です)
しかし、俺はここで少し考えた。
「待てよ? 今、公表したところで『高校生探索者』以外で竜ヶ崎のスペックと比べられたら結局、俺への評価は霞むのでは?」
危ない。これは巧妙な罠だったか。
迂闊に公表してたらかえって俺の評価は下がっていたやもしれん。危ない、危ない。
「やはり、公表は今ではなくもっと強くなってからだな。少なくとも竜ヶ崎を超えるくらいに強くなってからでいいだろう。そのほうが『旨味』は大きいはずだ」
ということで、俺は周囲からの『最大チヤホヤ』を獲得するため、竜ヶ崎より強くなることを決意した(※動機不純)。
「そういえば、その竜ヶ崎は今どのくらいの強さ⋯⋯探索者なのだろう?」
と思って、俺は早速近くにいた女子に聞いてみた。
「あのぅ⋯⋯すまない」
「(ビクン!)な、ななななな、何よっ!?」
「え⋯⋯?」
声を掛けたその子は、俺を見るなりに一瞬ビクッとしたあと『クワッ!』と睨みつけてきた。
「わ、悪い⋯⋯」
普段、人を避けていた俺に話しかけられたのがよほど嫌だったように見えたので、俺は彼女に謝って別の人に話を聞こうとした。すると、
ガシッ!
「えっ!?」
「な、何よ! は、ははは、話しがあるんでしょっ!!」
立ち去ろうとした俺の腕を彼女が強く掴んだ。
「あ、えーと⋯⋯⋯⋯いいの?」
「い、いいわよ、別に!」
「あ、ありがとう。えっと、竜ヶ崎のことなんだけど⋯⋯」
とりあえず話を聞いてもらえるようなので、俺は『探索者の竜ヶ崎』について情報を知っていれば教えて欲しいと頼んだ。
ちなみに、彼女は『胡桃沢星蘭』という子だった。「なんか見たことあるな~」と思ったら、テレビのCMや雑誌などでモデルとして活躍している校内ではかなりの有名人らしい。
なんで、そんなことまで知っているかというと、このあと「お前、よくあの胡桃沢に話しかけたな! 尊敬するわ!」と絡んできた男から話を聞いたのだが⋯⋯⋯⋯その話はまた後で。
そんなこんなで、彼女⋯⋯胡桃沢星蘭に竜ヶ崎の話を聞いた。
「そ、そうね⋯⋯。彼は見た目も一流だし、家柄も性格も一流ね。非の打ちどころのない完璧超人といったところかしら。そんな彼は3ヶ月前入学してすぐに『高校生探索者』となって、その後、すぐに頭角を現して今では『C級探索者』へとなったらしいわ」
「C級探索者。たった3ヶ月の間に⋯⋯か」
たった3ヶ月で『C級探索者』? まだ高校生になって間もないってのに⋯⋯⋯⋯『竜ヶ崎真司』すごい逸材のようだな。
「つまり、彼は『天才』なんでしょうね。有体な言葉だけどシンプルで的確に彼のことを捉えているでしょ?」
「⋯⋯そうですね」
確かに、胡桃沢が言うように『天才』という言葉がしっくりきた。
「それだけ?」
「え?」
「聞きたいのはそれだけって聞いてるの」
「え、あ、はい。そう⋯⋯ですね。すみません、時間取らせてしまって⋯⋯」
「別にいいわよ、このくらい。ていうか、あなた名前は?」
「新屋敷ソラ⋯⋯です」
「ふ~ん、新屋敷ソラ⋯⋯ね(※迫真)。⋯⋯⋯⋯あなたも探索者なの?」
「えっ?!」
ふいに、そんなことを聞かれた俺は動揺した。「なぜ、そんなことを聞くのだろう」と。もちろん、
「⋯⋯いや、探索者に憧れているだけだ」
と、公表はせずに隠した。
「⋯⋯そう」
「?」
一瞬、彼女が何か言いたげだったように見えたが、とりあえず竜ヶ崎の情報は聞けたので彼女にお礼を言った。
「ありがとう。おかげでいろいろと勉強になった。それじゃ」
「!⋯⋯⋯⋯あ」
俺は彼女に感謝の言葉を告げるとそのまま席へと戻った。
ちなみに、この時、彼女は俺を呼び止めたらしいのだが、その時の俺はそれに気づけなかった。
それから数日後、このことを彼女から直接聞かされ、軽く説教されることになるのだが、それはまたもう少し後のお話。
俺が席に戻ると、タイミングを見計らっていたのかそいつはいきなり話しかけてきた。
「お前、よくあの胡桃沢に話しかけたな! 尊敬するわ!」
これから長いつきあいとなる親友『唐沢利樹』の登場である。
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