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彼女の幼馴染の怒り
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教室に入ると、見事にグループ分けされた生徒の塊が数カ所できていて、やけにざわついている。自分の席に行き、バッグを机の横に引っかけると、こちらに向かって突進してくる男子生徒が一人。
山口蓮人だ。
「てめぇ、ゆらに何しやがった?」
蓮斗はシンジの肩を強く押した後、勢いよく胸倉を掴んだ。
ゆらの事故の件はもう既にクラスでニュースになっているのだろう。
クラスだけではない。きっと学校中がもう知っている。
この学校での情報伝達スピードは、5G並みだ。
こんな時、シンジはこの島がつくづくイヤになる。
「うるせぇな。てめぇに関係ねぇだろうが」
冷めた口調で言い返したが、その言葉は蓮斗をさらにエスカレートさせる事となった。
ガツっという音と共に、左頬に激痛が走り、一瞬にして視界から蓮斗が消えた。
床に転げるほどではなかったが、顎の形が変わったかと思うぐらいには衝撃があった。
先に手をだされたらやり返したっておあいこだ。シンジも拳を握ったが、振り上げる前に、さらに蓮斗の拳が左頬に直撃した。
拳が鼻先をかすめたせいか、つーんと鼻の奥に刺激が走る。
口の中にはじわりと鉄の味が広がった。
蓮斗の怒りは収まる事を知らないのか、次は腹に膝が、不規則に繰り出される拳は、ことごとく顔面を捉え、シンジから視界を奪っていった。
灼けつくような痛みの中で、シンジは思う。
このまま殺してくれ。そしたらもう、大切な人を奪われる苦しみなんて味合わずに済む。
ガシャン、ガシャンと机に体をぶつけながら、床にひっくり返ったシンジの体を蓮斗は更に足蹴りにする。上履きのゴムの匂いをこんなに間近で嗅いだのは、はじめての経験だった。
「やめてー。もうやめて」
1人の女子生徒の声が響いた。
それでも蓮斗は止まらない。
「やめてーーーーー」
その叫び声で、生徒たちが動き出す。蓮斗は複数の男子生徒により引き離され、シンジはようやく自由に動けるようになった。
しかし、どこがどう痛むのかも分からないほど全身は激痛と熱で包まれている。
立ち上がろうにも、手にも足にも力が入らない。
「葉山君、大丈夫?」
そう声をかけ、起き上がらせてくれたのは、水戸だった。
立ち上がってみたら、どうにか手足は動く。骨に異常はなさそうだ。
足を引きずりながら、どうにか自分の席に座った。
机の上に両腕を置き、天板の木目を数える。
鼻の下に冷たい感触と共に、ぬるついた液体が滴り、ぽたぽたと机に赤いシミを作った。
まずい、鼻血出た。めんどくせー。そんな事を考えながらポケットからハンカチを探していたら、薄ピンクのハンカチが視界に映り込み、鼻を塞いだ。
水戸だ。
後頭部に手を添えて、鼻筋を圧迫してくれている。
「痛みはない?」
「ああ、鼻は大丈夫」
「15分以上止まらなかったら、保健室に行った方がいいと思う」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
「やり返さないなんて、えらいじゃん」
水戸は元気づけてくれているのか、まるで弟でもはげますかのようにそう誉めた。
空手の段持ちであるシンジが、蓮斗なんかに殴り合いで負けるわけなどない。
しかし、シンジはやり返さなかった。
やり返さなかったのではなく、やり返せなかったのだ。
それほどまでに、闘うと言う事や、自分を守ると言う事に無気力だった。
始業のチャイムが鳴り、しばらくして担任の教師が教室に入ってきた。
学級委員の掛け声で、起立、礼、といつもの挨拶を終える。
担任は血だらけのハンカチで鼻を抑えているシンジを見て少し目を丸くし「あらら、鼻血? 保健室行く?」と、廊下の方を指さした。
「いえ、もうすぐ止まるので大丈夫です」
そういうと、教師は安心したようにうなづき「男の子はよく鼻血だすからねぇ」と言った後、神妙な顔を作った。
「今日は、皆さんに残念なお知らせをしなければなりません」
残念なお知らせ――。
シンジは直感した。ゆらの事だ。
山口蓮人だ。
「てめぇ、ゆらに何しやがった?」
蓮斗はシンジの肩を強く押した後、勢いよく胸倉を掴んだ。
ゆらの事故の件はもう既にクラスでニュースになっているのだろう。
クラスだけではない。きっと学校中がもう知っている。
この学校での情報伝達スピードは、5G並みだ。
こんな時、シンジはこの島がつくづくイヤになる。
「うるせぇな。てめぇに関係ねぇだろうが」
冷めた口調で言い返したが、その言葉は蓮斗をさらにエスカレートさせる事となった。
ガツっという音と共に、左頬に激痛が走り、一瞬にして視界から蓮斗が消えた。
床に転げるほどではなかったが、顎の形が変わったかと思うぐらいには衝撃があった。
先に手をだされたらやり返したっておあいこだ。シンジも拳を握ったが、振り上げる前に、さらに蓮斗の拳が左頬に直撃した。
拳が鼻先をかすめたせいか、つーんと鼻の奥に刺激が走る。
口の中にはじわりと鉄の味が広がった。
蓮斗の怒りは収まる事を知らないのか、次は腹に膝が、不規則に繰り出される拳は、ことごとく顔面を捉え、シンジから視界を奪っていった。
灼けつくような痛みの中で、シンジは思う。
このまま殺してくれ。そしたらもう、大切な人を奪われる苦しみなんて味合わずに済む。
ガシャン、ガシャンと机に体をぶつけながら、床にひっくり返ったシンジの体を蓮斗は更に足蹴りにする。上履きのゴムの匂いをこんなに間近で嗅いだのは、はじめての経験だった。
「やめてー。もうやめて」
1人の女子生徒の声が響いた。
それでも蓮斗は止まらない。
「やめてーーーーー」
その叫び声で、生徒たちが動き出す。蓮斗は複数の男子生徒により引き離され、シンジはようやく自由に動けるようになった。
しかし、どこがどう痛むのかも分からないほど全身は激痛と熱で包まれている。
立ち上がろうにも、手にも足にも力が入らない。
「葉山君、大丈夫?」
そう声をかけ、起き上がらせてくれたのは、水戸だった。
立ち上がってみたら、どうにか手足は動く。骨に異常はなさそうだ。
足を引きずりながら、どうにか自分の席に座った。
机の上に両腕を置き、天板の木目を数える。
鼻の下に冷たい感触と共に、ぬるついた液体が滴り、ぽたぽたと机に赤いシミを作った。
まずい、鼻血出た。めんどくせー。そんな事を考えながらポケットからハンカチを探していたら、薄ピンクのハンカチが視界に映り込み、鼻を塞いだ。
水戸だ。
後頭部に手を添えて、鼻筋を圧迫してくれている。
「痛みはない?」
「ああ、鼻は大丈夫」
「15分以上止まらなかったら、保健室に行った方がいいと思う」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
「やり返さないなんて、えらいじゃん」
水戸は元気づけてくれているのか、まるで弟でもはげますかのようにそう誉めた。
空手の段持ちであるシンジが、蓮斗なんかに殴り合いで負けるわけなどない。
しかし、シンジはやり返さなかった。
やり返さなかったのではなく、やり返せなかったのだ。
それほどまでに、闘うと言う事や、自分を守ると言う事に無気力だった。
始業のチャイムが鳴り、しばらくして担任の教師が教室に入ってきた。
学級委員の掛け声で、起立、礼、といつもの挨拶を終える。
担任は血だらけのハンカチで鼻を抑えているシンジを見て少し目を丸くし「あらら、鼻血? 保健室行く?」と、廊下の方を指さした。
「いえ、もうすぐ止まるので大丈夫です」
そういうと、教師は安心したようにうなづき「男の子はよく鼻血だすからねぇ」と言った後、神妙な顔を作った。
「今日は、皆さんに残念なお知らせをしなければなりません」
残念なお知らせ――。
シンジは直感した。ゆらの事だ。
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