夏服と雨と君の席

神楽耶 夏輝

文字の大きさ
11 / 24

彼女の幼馴染の怒り

しおりを挟む
 教室に入ると、見事にグループ分けされた生徒の塊が数カ所できていて、やけにざわついている。自分の席に行き、バッグを机の横に引っかけると、こちらに向かって突進してくる男子生徒が一人。
 山口蓮人だ。
「てめぇ、ゆらに何しやがった?」
 蓮斗はシンジの肩を強く押した後、勢いよく胸倉を掴んだ。
 ゆらの事故の件はもう既にクラスでニュースになっているのだろう。
 クラスだけではない。きっと学校中がもう知っている。
 この学校での情報伝達スピードは、5G並みだ。
 こんな時、シンジはこの島がつくづくイヤになる。
「うるせぇな。てめぇに関係ねぇだろうが」
 冷めた口調で言い返したが、その言葉は蓮斗をさらにエスカレートさせる事となった。
 ガツっという音と共に、左頬に激痛が走り、一瞬にして視界から蓮斗が消えた。
 床に転げるほどではなかったが、顎の形が変わったかと思うぐらいには衝撃があった。
 先に手をだされたらやり返したっておあいこだ。シンジも拳を握ったが、振り上げる前に、さらに蓮斗の拳が左頬に直撃した。
 拳が鼻先をかすめたせいか、つーんと鼻の奥に刺激が走る。
 口の中にはじわりと鉄の味が広がった。
 蓮斗の怒りは収まる事を知らないのか、次は腹に膝が、不規則に繰り出される拳は、ことごとく顔面を捉え、シンジから視界を奪っていった。
 灼けつくような痛みの中で、シンジは思う。
 このまま殺してくれ。そしたらもう、大切な人を奪われる苦しみなんて味合わずに済む。
 ガシャン、ガシャンと机に体をぶつけながら、床にひっくり返ったシンジの体を蓮斗は更に足蹴りにする。上履きのゴムの匂いをこんなに間近で嗅いだのは、はじめての経験だった。
「やめてー。もうやめて」
 1人の女子生徒の声が響いた。
 それでも蓮斗は止まらない。
「やめてーーーーー」
 その叫び声で、生徒たちが動き出す。蓮斗は複数の男子生徒により引き離され、シンジはようやく自由に動けるようになった。
 しかし、どこがどう痛むのかも分からないほど全身は激痛と熱で包まれている。
 立ち上がろうにも、手にも足にも力が入らない。

「葉山君、大丈夫?」
 そう声をかけ、起き上がらせてくれたのは、水戸だった。
 立ち上がってみたら、どうにか手足は動く。骨に異常はなさそうだ。
 足を引きずりながら、どうにか自分の席に座った。
 机の上に両腕を置き、天板の木目を数える。
 鼻の下に冷たい感触と共に、ぬるついた液体が滴り、ぽたぽたと机に赤いシミを作った。
 まずい、鼻血出た。めんどくせー。そんな事を考えながらポケットからハンカチを探していたら、薄ピンクのハンカチが視界に映り込み、鼻を塞いだ。
 水戸だ。
 後頭部に手を添えて、鼻筋を圧迫してくれている。
「痛みはない?」
「ああ、鼻は大丈夫」
「15分以上止まらなかったら、保健室に行った方がいいと思う」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
「やり返さないなんて、えらいじゃん」
 水戸は元気づけてくれているのか、まるで弟でもはげますかのようにそう誉めた。

 空手の段持ちであるシンジが、蓮斗なんかに殴り合いで負けるわけなどない。
 しかし、シンジはやり返さなかった。
 やり返さなかったのではなく、やり返せなかったのだ。
 それほどまでに、闘うと言う事や、自分を守ると言う事に無気力だった。

 始業のチャイムが鳴り、しばらくして担任の教師が教室に入ってきた。
 学級委員の掛け声で、起立、礼、といつもの挨拶を終える。
 担任は血だらけのハンカチで鼻を抑えているシンジを見て少し目を丸くし「あらら、鼻血? 保健室行く?」と、廊下の方を指さした。
「いえ、もうすぐ止まるので大丈夫です」
 そういうと、教師は安心したようにうなづき「男の子はよく鼻血だすからねぇ」と言った後、神妙な顔を作った。

「今日は、皆さんに残念なお知らせをしなければなりません」

 残念なお知らせ――。
 シンジは直感した。ゆらの事だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

処理中です...