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不気味な余韻
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林から沿路に出て、倒れた自転車を起こした。
ちょうど跨ったところで、正面からパトランプを点灯しながら、数台のパトカーがこちらにやって来るのが視界に映り込んだ。
パトカーはシンジに気付いたのかスピードを緩めて、サイレンの音を切り真横に停車する。
「君は、葉山君だね」
パトカーから顔を出したのは精悍な顔つきの若い警察官だ。威圧的な感じはないが、緊迫した様子はある。視線はシンジの持ってる金属バット。
「はい、そうです」
「不審な人物はいたか?」
「いました。真竹を持ってたので山で真竹を取ってたんだと思います。声をかけたら逃げて行きました」
「どっちに行った?」
「暗かったのでよくわかりませんでした。つかまえますか?」
「ここら辺の山は水戸さんが管理してる山だな。被害届が出れば捜索しなくちゃな。犯人がわかればいいんだが。どこの誰かはわからなかったか?」
「はぁ、暗かったので顔は見えませんでした」
そこへ、息を切らしながら晃とおばさんがやってきた。
「大丈夫だったか?」
晃が大ごとのように声を張り上げる。
「はい。全然大丈夫です。真竹を盗られました」
「まぁ、そんな事ならよかった。あなたが無事で何よりよ」
おばさんは額の汗をぬぐいながら、安堵の息を吐いた。
「被害届を出されますか?」
パトカーから降りて来た警官が、おばさんに訊ねると大きくかぶりを振った。
「そんな事でいちいち警察に通報してたら、切りがないですよ。うちは山菜を凌ぎにしているわけじゃないからね。酷く荒らされたのでなければ、何の問題もありません。元々管理も行き届かずで」
それを聞いて、シンジもほっと胸を撫でおろした。
「そうですか。それでは我々はこれで署に戻ります。また何かありましたら連絡ください。あ、そうだ」
警官は思いだしたように胸ポケットから手帳を出して、スマホのライトを当てながら、何やらこちらに見せてきた。
「林先生のとこの犬がいなくなったんですよ。見かけませんでしたか?」
林先生というのは、駅前の町医者である。家と医院が一緒になっていて島民御用達の病院だ。
警官が見せた物は犬の写真だった。大きな雑種で柴犬のような毛並みをしている。
「あの番犬にもならない大人しい犬ですよね。逃げ出したんですか?」
晃が写真を見ながら訊ねると、警官はかぶりを振る。
「いや、外につないでいたらしいのだが、今朝、犬小屋を見たら首輪が外されていていなくなってたそうだ。林先生が言うには、恐らく何者かに連れて行かれたのではないかと」
「雑種を、ですか?」
晃が不思議そうに写真を見つめる。
雑種を盗む――。不自然な気がする。売れば高値がつきそうな血統証付きならまだしも。
「何のために?」
晃の問いに警官は首を傾げた。
「まぁ、言っちゃ悪いですがもう老犬ですし、特別な芸をするわけでもない雑種ですからね。まぁ、最悪の事態が起こらなければいいなと思ってる所なんです」
最悪の事態――。
「殺したり、とかですか?」
シンジが訊くと、警官は表情を曇らせた。
「それもだし、逆に誰かを襲ったりですね」
「いや、あの犬はそんな事しませんよ。人が大好きで近寄ったら尻尾振って嬉しそうに寄って来る」
シンジは自信満々にそう言い切った。
「まぁ、もし見かけたら連絡ください。老犬とはいえ、林先生にとってはたった一人の家族ですから」
林先生も、もうだいぶおじいちゃんだ。
シンジがこの島に来た時は既に独り身だったが、10年ほど前に奥さんが他界したのだと、風の噂で聞いた事がある。
さぞ心配だろうと、シンジは林先生の気持ちをおもんばかった。
「もしかしたら、また事情を聴きに伺うかもしれませんので、連絡先を」
警察官はそう言って、他のパトカーに撤収するよう合図した後、それぞれの携帯番号と名前をメモして帰って行った。
雨は完全に止み、おびただしい湿気が揺蕩う。
犬の失踪は、シンジの脳裏に不気味な余韻を残した。
ちょうど跨ったところで、正面からパトランプを点灯しながら、数台のパトカーがこちらにやって来るのが視界に映り込んだ。
パトカーはシンジに気付いたのかスピードを緩めて、サイレンの音を切り真横に停車する。
「君は、葉山君だね」
パトカーから顔を出したのは精悍な顔つきの若い警察官だ。威圧的な感じはないが、緊迫した様子はある。視線はシンジの持ってる金属バット。
「はい、そうです」
「不審な人物はいたか?」
「いました。真竹を持ってたので山で真竹を取ってたんだと思います。声をかけたら逃げて行きました」
「どっちに行った?」
「暗かったのでよくわかりませんでした。つかまえますか?」
「ここら辺の山は水戸さんが管理してる山だな。被害届が出れば捜索しなくちゃな。犯人がわかればいいんだが。どこの誰かはわからなかったか?」
「はぁ、暗かったので顔は見えませんでした」
そこへ、息を切らしながら晃とおばさんがやってきた。
「大丈夫だったか?」
晃が大ごとのように声を張り上げる。
「はい。全然大丈夫です。真竹を盗られました」
「まぁ、そんな事ならよかった。あなたが無事で何よりよ」
おばさんは額の汗をぬぐいながら、安堵の息を吐いた。
「被害届を出されますか?」
パトカーから降りて来た警官が、おばさんに訊ねると大きくかぶりを振った。
「そんな事でいちいち警察に通報してたら、切りがないですよ。うちは山菜を凌ぎにしているわけじゃないからね。酷く荒らされたのでなければ、何の問題もありません。元々管理も行き届かずで」
それを聞いて、シンジもほっと胸を撫でおろした。
「そうですか。それでは我々はこれで署に戻ります。また何かありましたら連絡ください。あ、そうだ」
警官は思いだしたように胸ポケットから手帳を出して、スマホのライトを当てながら、何やらこちらに見せてきた。
「林先生のとこの犬がいなくなったんですよ。見かけませんでしたか?」
林先生というのは、駅前の町医者である。家と医院が一緒になっていて島民御用達の病院だ。
警官が見せた物は犬の写真だった。大きな雑種で柴犬のような毛並みをしている。
「あの番犬にもならない大人しい犬ですよね。逃げ出したんですか?」
晃が写真を見ながら訊ねると、警官はかぶりを振る。
「いや、外につないでいたらしいのだが、今朝、犬小屋を見たら首輪が外されていていなくなってたそうだ。林先生が言うには、恐らく何者かに連れて行かれたのではないかと」
「雑種を、ですか?」
晃が不思議そうに写真を見つめる。
雑種を盗む――。不自然な気がする。売れば高値がつきそうな血統証付きならまだしも。
「何のために?」
晃の問いに警官は首を傾げた。
「まぁ、言っちゃ悪いですがもう老犬ですし、特別な芸をするわけでもない雑種ですからね。まぁ、最悪の事態が起こらなければいいなと思ってる所なんです」
最悪の事態――。
「殺したり、とかですか?」
シンジが訊くと、警官は表情を曇らせた。
「それもだし、逆に誰かを襲ったりですね」
「いや、あの犬はそんな事しませんよ。人が大好きで近寄ったら尻尾振って嬉しそうに寄って来る」
シンジは自信満々にそう言い切った。
「まぁ、もし見かけたら連絡ください。老犬とはいえ、林先生にとってはたった一人の家族ですから」
林先生も、もうだいぶおじいちゃんだ。
シンジがこの島に来た時は既に独り身だったが、10年ほど前に奥さんが他界したのだと、風の噂で聞いた事がある。
さぞ心配だろうと、シンジは林先生の気持ちをおもんばかった。
「もしかしたら、また事情を聴きに伺うかもしれませんので、連絡先を」
警察官はそう言って、他のパトカーに撤収するよう合図した後、それぞれの携帯番号と名前をメモして帰って行った。
雨は完全に止み、おびただしい湿気が揺蕩う。
犬の失踪は、シンジの脳裏に不気味な余韻を残した。
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