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予知夢か悪夢か?
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珍しく一日雨が降らず、暑い一日だった。
シンジは気怠い体をブロック塀にもたれかけて、赤く染まっている空を、一人眺めていた。
この島では比較的新しく、小じゃれた一軒家の前は何度も訪れた事のある場所だ。
中からはひと気を察したトイプードルが甲高い声で吠えている。
まるでぬいぐるみのようなゴールドの毛並みを持つ可愛らしい犬だ。
ゆらがよく散歩をさせていたっけ。
そんな事を思いながら、グレーの外壁に包まれた洋風の戸建てを遠目に眺めていた。
何の変哲もない真面目そうな白いセダンが、ゆらの家の前で停まった。
後部座席が開き、中から涼し気な水色のワンピースに身を包んだゆらが降りて来た。
腕は包帯が巻かれていて直角に固定されている。完璧に17歳の女の子であり、ゆらのはずなのに、その部分だけがなんだか不自然で無機質だ。
なんだか随分長く会っていないような気がするが、たった一週間ほどだ。
なんと声をかけようか、迷う。
ゆらはシンジの存在に気付かない。
ゆらより先にシンジに気付いたのは父親で、すごい形相でこちらを睨みつけた。
ずんずんとこちらに迫り視界を支配する。
怖い、と思ったのは、きっと動物的な本能だ。
原始的な反応。直感。
頭の中では挨拶をしなくては、そう思うのに苦手意識が邪魔をして、声が上手く出せない。
父親の動向に気付いたゆらの視線が、こちらに移動して目が合った。
その瞬間「シンジ!」と声を上げて父親を追い越しこちらに走って来た。
「ゆら」
両手を広げて抱きとめようとしたその時――。
キキキキーーーと激しいブレーキ音と共に、バン!!! という衝突音が響き、ブロック塀に車が激突した。
一瞬の出来事だった。
噴煙が濃厚な焦げた匂いと、鮮烈な血の匂いを立たせる。
ぼろぼろに崩れた壁と車の間には、無惨に押しつぶされた、ゆら。
「ゆらーーーーー!!!」
そう声を上げながら、シンジは飛び起きた。
鼻の奥を突いた焦げた鉄の匂いは、跡形もなく消えていて、夢だったのだと認識した。
それでも、車と壁の狭間で押しつぶされていた、血まみれのゆらの残像は消えず、胸をざわつかせる。
一体、どうなっているのだ?
もはや、どれが予知夢でどれがただの夢なのかわからない。
しかし、やはりゆらの身に何か起きる事は間違いないはずだ。
彼女の命を守れるのはシンジしかいない。
そう強く思った。
小岩井先生は、今日が退院の日だと言っていた。壁掛けの時計は2時を示している。窓の外はまだ真っ暗。
シンジは枕元のスマホを手繰り寄せ、ラインを開いた。
トーク履歴から、ゆらのアイコンをタップしてメッセージを打ち込む。
『明日、退院何時ごろ?』
メッセージに既読は付かない。
ほんの数秒がもどかしくて、再びメッセージを入力する。
『明日っていうか、もう今日だ』
シンジがゆらを守るために、遠ざけるのではなく近くで守るという方法にシフトしたのは、昨夜の祖父との会話だった。
学校からの連絡で、シンジがゆらをいじめているという事実を知った祖父は、いつも通りの冷静な口調でこう言った。
「人は無意味に人を傷つけたりはせん。それ相応の理由があるのならちゃんと話しなさい。それともお前は女の子を意味もなくいじめる情けない男なのか?」
「違う!」
誰になんと思われてもいい。しかし祖父だけはがっかりさせたくなかったのだ。
シンジは、ゆらと付き合っている事。大切な人である事。夢で見た事が現実になる事。両親も東京の友達も、夢の通りに死んでしまった事。この頃、ゆらが死んでしまう夢を二度も見て、毎日が不安でいっぱいな事を涙ながらに話した。
「お前の彼女を守りたいという気持ちはわかった。じゃがな、お前は間違っとるぞ。守りたいなら一番近くで、お前自身の手で守れ」
そしてこうも言った。
「人は誰しもいつかは死ぬ。必ずな。みんな明日生きてる確率なんて五分じゃよ。死ぬか生きるかの二択しかないんじゃからな。
未来に起こる事など誰にもわからん。例え予知夢だったとしても、その時が来なければわからん事じゃ。先の事を心配して迎える明日は闇じゃろう。そんな事を心配するより、明日何があっても後悔しないように、自分に正直に生きろ」
そうだ。
そんな話をして、明日はゆらに会いに行こうと思っていたのだ。
それで、あんな夢を見たのかもしれない。
再び布団にもぐったが、なかなか寝付けないまま朝を迎えた。
シンジは気怠い体をブロック塀にもたれかけて、赤く染まっている空を、一人眺めていた。
この島では比較的新しく、小じゃれた一軒家の前は何度も訪れた事のある場所だ。
中からはひと気を察したトイプードルが甲高い声で吠えている。
まるでぬいぐるみのようなゴールドの毛並みを持つ可愛らしい犬だ。
ゆらがよく散歩をさせていたっけ。
そんな事を思いながら、グレーの外壁に包まれた洋風の戸建てを遠目に眺めていた。
何の変哲もない真面目そうな白いセダンが、ゆらの家の前で停まった。
後部座席が開き、中から涼し気な水色のワンピースに身を包んだゆらが降りて来た。
腕は包帯が巻かれていて直角に固定されている。完璧に17歳の女の子であり、ゆらのはずなのに、その部分だけがなんだか不自然で無機質だ。
なんだか随分長く会っていないような気がするが、たった一週間ほどだ。
なんと声をかけようか、迷う。
ゆらはシンジの存在に気付かない。
ゆらより先にシンジに気付いたのは父親で、すごい形相でこちらを睨みつけた。
ずんずんとこちらに迫り視界を支配する。
怖い、と思ったのは、きっと動物的な本能だ。
原始的な反応。直感。
頭の中では挨拶をしなくては、そう思うのに苦手意識が邪魔をして、声が上手く出せない。
父親の動向に気付いたゆらの視線が、こちらに移動して目が合った。
その瞬間「シンジ!」と声を上げて父親を追い越しこちらに走って来た。
「ゆら」
両手を広げて抱きとめようとしたその時――。
キキキキーーーと激しいブレーキ音と共に、バン!!! という衝突音が響き、ブロック塀に車が激突した。
一瞬の出来事だった。
噴煙が濃厚な焦げた匂いと、鮮烈な血の匂いを立たせる。
ぼろぼろに崩れた壁と車の間には、無惨に押しつぶされた、ゆら。
「ゆらーーーーー!!!」
そう声を上げながら、シンジは飛び起きた。
鼻の奥を突いた焦げた鉄の匂いは、跡形もなく消えていて、夢だったのだと認識した。
それでも、車と壁の狭間で押しつぶされていた、血まみれのゆらの残像は消えず、胸をざわつかせる。
一体、どうなっているのだ?
もはや、どれが予知夢でどれがただの夢なのかわからない。
しかし、やはりゆらの身に何か起きる事は間違いないはずだ。
彼女の命を守れるのはシンジしかいない。
そう強く思った。
小岩井先生は、今日が退院の日だと言っていた。壁掛けの時計は2時を示している。窓の外はまだ真っ暗。
シンジは枕元のスマホを手繰り寄せ、ラインを開いた。
トーク履歴から、ゆらのアイコンをタップしてメッセージを打ち込む。
『明日、退院何時ごろ?』
メッセージに既読は付かない。
ほんの数秒がもどかしくて、再びメッセージを入力する。
『明日っていうか、もう今日だ』
シンジがゆらを守るために、遠ざけるのではなく近くで守るという方法にシフトしたのは、昨夜の祖父との会話だった。
学校からの連絡で、シンジがゆらをいじめているという事実を知った祖父は、いつも通りの冷静な口調でこう言った。
「人は無意味に人を傷つけたりはせん。それ相応の理由があるのならちゃんと話しなさい。それともお前は女の子を意味もなくいじめる情けない男なのか?」
「違う!」
誰になんと思われてもいい。しかし祖父だけはがっかりさせたくなかったのだ。
シンジは、ゆらと付き合っている事。大切な人である事。夢で見た事が現実になる事。両親も東京の友達も、夢の通りに死んでしまった事。この頃、ゆらが死んでしまう夢を二度も見て、毎日が不安でいっぱいな事を涙ながらに話した。
「お前の彼女を守りたいという気持ちはわかった。じゃがな、お前は間違っとるぞ。守りたいなら一番近くで、お前自身の手で守れ」
そしてこうも言った。
「人は誰しもいつかは死ぬ。必ずな。みんな明日生きてる確率なんて五分じゃよ。死ぬか生きるかの二択しかないんじゃからな。
未来に起こる事など誰にもわからん。例え予知夢だったとしても、その時が来なければわからん事じゃ。先の事を心配して迎える明日は闇じゃろう。そんな事を心配するより、明日何があっても後悔しないように、自分に正直に生きろ」
そうだ。
そんな話をして、明日はゆらに会いに行こうと思っていたのだ。
それで、あんな夢を見たのかもしれない。
再び布団にもぐったが、なかなか寝付けないまま朝を迎えた。
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