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放課後
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雨足の強くなった校庭は、色取り取りの傘が行きかう。
殺風景な校庭にまるで花が咲いたようだ。
生徒たちの解放に満ちた賑やかな声で溢れ、職員室を気怠く包み込んでいる。
シンジは、担任のお説教を上の空で聞き流し、ぼんやりと外を眺めていた。
「葉山君! 葉山君、聞いてるの?」
「え? あ、はい。聞いてます」
正確には聞き流していたのだが――。
担任で英語担当の小岩井先生は数枚のプリントを、呆れた顔で目の前にさし出している。
「はい。宿題。明日提出するように!」
授業中に居眠りしていたペナルティは自宅学習というわけだ。
シンジはため息を呑み込み、それを受け取り立ち上がろうとした。
「わかりました。それでは失礼します」
「あ、ちょっと待って。まだ終わってないわ」
小岩井先生はシンジの袖を引き再びデスクチェアに座らせた。
「この頃、なんだか変よ。いつもぼーっとしてるかと思ったら急にピリピリしだしたり。何か悩み事でもあるんじゃないの?」
その声は優しくて、シンジの張り詰めていた神経は一瞬解けた。
肯定も否定もせず、俯き考える。小岩井先生のたおやかな口調は、話してみてもいいかもしれないと思わせるのに十分だった。
きっとバカにしたりはしないのではないか。
「実は、最近変な夢を見るようになって、不吉な事が起きそうであまり眠れてないんです。少しだけ関わった人だったけど、助けたいと思っていた人が亡くなったりしたし」
「ああ、兵頭さんの事ね。あの方は気の毒だったわね」
「先生は悪夢について、どんな解釈をしますか?」
「そうねぇ……」
小岩井先生はきゅっと口元に力を入れて、考える素振りを見せた。
「夢っていうのは、人それぞれいろんな解釈があるわね。私は……、例えば誰かが死ぬ夢だった場合、直接その人が死ぬとは考えないわ」
当然だ。夢はあくまでも夢なのだから。そんな子供だましな解答はいらない。
「けど、心の中にある感情や心理的な状態を反映することがあるのは確かね。人間も生き物である以上、何かを察知する能力があるというのも否定はできない」
「察知する能力……。例えば?」
「例えば、大きな災害の前にねずみや犬や猫、それにカラスにも異常行動が見られたりするじゃない。災害と動物たちの異常行動を結びつけるというのは、科学的根拠の否定ができない現象なのよ。それと同じように、人間も無意識に何かを察知して、それが夢という現象になって胸を騒がせるという事は、あるのかもしれないわね」
「予知夢?」
「そういう現象も、私は否定しないわ」
しばし、沈黙が横切る。小岩井先生はシンジの言葉を待っているようだ。
「もしかして、渡辺さんに酷い事をしていたのと関係ある?」
シンジはかっと頬が熱くなるのを感じた。
彼女が死ぬ夢を予知夢だと決めつけて、学校から遠ざけようとしていたなんて。
そんな子供じみた思考は知られたくない。
「いえ、関係ありません。もういいですか? 部活なんで」
先生に話したからと言って、ゆらの安全が確保できるわけではないのだ。
小岩井先生はシンジの心情は理解するだろうが、事の重大さについてはきっと理解してくれない。
ゆらをいじめた言い訳のように受け止められるのもいやだったし、都合も悪い。
「いいわ。今度から夜はしっかり寝て、授業中は起きてるようにね」
「はい」
プリントを片手に立ち上がり、退室しようとして、また小岩井先生はシンジを呼び止めた。
「あ、そうそう。葉山君! 渡辺さんなんだけど、明日、退院するそうよ」
「え!?」
絶句しているシンジに再び先生はこう言った。
「検査の結果、頭には異常なし。骨折も単純骨折で、完治までは三ヶ月ほどかかるようだけど、来週から登校できるそうよ」
「そ、そうですか。転校は?」
「それは、ないわ。渡辺さん本人が強くこの学校に残る事を希望したそうよ」
小岩井先生の言葉にほっと胸を撫でおろしたのも束の間。
再び、シンジが絶望のどん底に突き落とされたのは、この日の夜の事だった。
殺風景な校庭にまるで花が咲いたようだ。
生徒たちの解放に満ちた賑やかな声で溢れ、職員室を気怠く包み込んでいる。
シンジは、担任のお説教を上の空で聞き流し、ぼんやりと外を眺めていた。
「葉山君! 葉山君、聞いてるの?」
「え? あ、はい。聞いてます」
正確には聞き流していたのだが――。
担任で英語担当の小岩井先生は数枚のプリントを、呆れた顔で目の前にさし出している。
「はい。宿題。明日提出するように!」
授業中に居眠りしていたペナルティは自宅学習というわけだ。
シンジはため息を呑み込み、それを受け取り立ち上がろうとした。
「わかりました。それでは失礼します」
「あ、ちょっと待って。まだ終わってないわ」
小岩井先生はシンジの袖を引き再びデスクチェアに座らせた。
「この頃、なんだか変よ。いつもぼーっとしてるかと思ったら急にピリピリしだしたり。何か悩み事でもあるんじゃないの?」
その声は優しくて、シンジの張り詰めていた神経は一瞬解けた。
肯定も否定もせず、俯き考える。小岩井先生のたおやかな口調は、話してみてもいいかもしれないと思わせるのに十分だった。
きっとバカにしたりはしないのではないか。
「実は、最近変な夢を見るようになって、不吉な事が起きそうであまり眠れてないんです。少しだけ関わった人だったけど、助けたいと思っていた人が亡くなったりしたし」
「ああ、兵頭さんの事ね。あの方は気の毒だったわね」
「先生は悪夢について、どんな解釈をしますか?」
「そうねぇ……」
小岩井先生はきゅっと口元に力を入れて、考える素振りを見せた。
「夢っていうのは、人それぞれいろんな解釈があるわね。私は……、例えば誰かが死ぬ夢だった場合、直接その人が死ぬとは考えないわ」
当然だ。夢はあくまでも夢なのだから。そんな子供だましな解答はいらない。
「けど、心の中にある感情や心理的な状態を反映することがあるのは確かね。人間も生き物である以上、何かを察知する能力があるというのも否定はできない」
「察知する能力……。例えば?」
「例えば、大きな災害の前にねずみや犬や猫、それにカラスにも異常行動が見られたりするじゃない。災害と動物たちの異常行動を結びつけるというのは、科学的根拠の否定ができない現象なのよ。それと同じように、人間も無意識に何かを察知して、それが夢という現象になって胸を騒がせるという事は、あるのかもしれないわね」
「予知夢?」
「そういう現象も、私は否定しないわ」
しばし、沈黙が横切る。小岩井先生はシンジの言葉を待っているようだ。
「もしかして、渡辺さんに酷い事をしていたのと関係ある?」
シンジはかっと頬が熱くなるのを感じた。
彼女が死ぬ夢を予知夢だと決めつけて、学校から遠ざけようとしていたなんて。
そんな子供じみた思考は知られたくない。
「いえ、関係ありません。もういいですか? 部活なんで」
先生に話したからと言って、ゆらの安全が確保できるわけではないのだ。
小岩井先生はシンジの心情は理解するだろうが、事の重大さについてはきっと理解してくれない。
ゆらをいじめた言い訳のように受け止められるのもいやだったし、都合も悪い。
「いいわ。今度から夜はしっかり寝て、授業中は起きてるようにね」
「はい」
プリントを片手に立ち上がり、退室しようとして、また小岩井先生はシンジを呼び止めた。
「あ、そうそう。葉山君! 渡辺さんなんだけど、明日、退院するそうよ」
「え!?」
絶句しているシンジに再び先生はこう言った。
「検査の結果、頭には異常なし。骨折も単純骨折で、完治までは三ヶ月ほどかかるようだけど、来週から登校できるそうよ」
「そ、そうですか。転校は?」
「それは、ないわ。渡辺さん本人が強くこの学校に残る事を希望したそうよ」
小岩井先生の言葉にほっと胸を撫でおろしたのも束の間。
再び、シンジが絶望のどん底に突き落とされたのは、この日の夜の事だった。
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