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惨劇(二)
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「イヤアァァ!!」
「わああああ!!」
悲鳴は一度きりではなかった。そしてドンドンと壁を打ちつける音。立て続けに起きた怪音に身構えた世良達であったが、まず副寮長の花蓮が立ち上がった。寮母も寮長も居ない今、彼女が寮の責任者だ。
花蓮は階段を駆け下り、一階に集まっていた生徒達の元へ行った。
「何、どうしたの!?」
生徒達はただでさえ密集している状態であるのに、更に複数人で抱き合うように固まって、玄関の方へ怯えた視線を向けていた。
「グオアァァッ!!!!」
悲鳴を通り越した獣の咆哮のような叫びは、寮の外から聞こえてきた。寮前で涼んでいた少女の誰かが発したのだろう。
ガチャガチャガチャ!
玄関扉のレバー型ノブが狂ったように上下した。付近に居た生徒達が一斉に退いた。
「助けて! 開けてぇ!!」
緊迫した声が扉越しに響いた。外に居る少女が寮の中へ入りたがっているのだ。しかしノブが動くだけで扉は開かなかった。鍵をかけていないのに。
「パニックを起こしてるんだ!」
花蓮の背後から世良がすり抜け、玄関へ向かった。
「今開ける! そっち側の手を放して、少し離れて!」
世良はレバーノブを上げ、扉を外へ押し開いた。
「お姉様!」
扉の側に居たのは世良を慕う一年生だった。彼女を含む四人の生徒が寮内へ雪崩れ込んだ。
「お姉様ドアを、ドアを閉めてえぇ!!」
「えっ……でも、他の人は? まだ何人か居たよね?」
「いいから早く! お願いです!!」
「いったい何なのさ!?」
花蓮が世良の近くへ来て、二人は玄関から外の様子を覗った。
「!…………」
発光する校舎のおかげで、暗いながらもぼんやりとソレが見えた。
数人の女生徒が地面に横たわり、人とは微妙に違うナニかが彼女達に馬乗りになっていた。そのナニかは顔を生徒の身体に近付けて、クチャクチャと音を立てている。
「え? え? 何? アイツら……」
花蓮に問われたが世良にだって判る訳がない。
ナニかは手足が異様に細いのに、頭と腹だけが大きかった。地獄絵図に描かれた餓鬼を思わせる風貌だ。
世良と花蓮の視線に気づいたのか、一体が顔を上げて二人を見た。そして四つん這いになってこちらへ駆けてくる。
「高月、閉めて!」
本能で危険を感じ取った二人は玄関扉を閉めようとした。しかし完全に閉まり切る前に、扉に腕を差し込まれてしまった。どうして日本の建築物には外開きドアが多いのか。
骨張ってゴツゴツとした手には長く鋭い爪が付いていた。
「何なんだよ、コイツはぁ!!」
「くっ……」
二人がかりで扉を手前に引っ張っるものの、相手の力が強くて拮抗した。
そして至近距離で世良は見てしまった。相手の全貌を。
ソイツは世良がイメージする餓鬼そのものだった。抜け落ちた髪、剥き出しになった眼球は白濁しており、皮膚は緑色に変色していた。
「化け物!」
花蓮が叫んだ通りだ。寮の玄関扉には化け物が張り付いていた。そんな現実が有るなんて。
餓鬼は口が耳まで裂け、赤い液体が口周辺に滴っていた。
(アレは……血?)
まさか、まさか、まさか。
(コイツ、生徒達を喰ったのか!?)
状況を掴んだ瞬間、世良の全身が総毛立った。恐れよりも怒りの感情が勝った。
「このおぉぉぉ!!」
世良は扉の隙間から、餓鬼の腹に思いきり蹴りを叩き込んだ。
『グキャッ』
しわがれた声と共に餓鬼は後方へ吹っ飛んだ。腕が外れたので、すぐさま扉を閉めて鍵をかけた。
振り返った花蓮は、寮内で縮こまっている生徒達に指示を出した。
「レクレーションルームの窓を閉めて! ああ、それだけじゃ駄目だ。ソファーを立て掛けて、窓全体を隠して!」
「はぁ? ソファー無いと困るんだけどぉ」
暗闇の中から煽る声がした。ソファーにゆったり腰かけている桐生茜だろう。花蓮は尚も怒鳴った。
「言う通りにしろ、外に化け物が居るんだよ!」
「化け物? あっは江崎、アンタ何言ってんの?」
「外の悲鳴が聞こえなかったんか、マジでヤバイんだよ!」
「熱くなっちゃって。下級生の悪ふざけに乗せられちゃったの? 副寮長さぁん」
三年生二名のやり取りを聞き流しながら、世良は靴箱の一番上の棚から靴を取り出した。誰のものでも構わない、足先につっかけるだけだ。世良は靴をサンダル履きして食堂へ走った。割れた皿の破片を靴で踏み付けて、目指すは調理台だ。
「どけって、バリケードを造るんだよ!」
花蓮はソファーからどかない茜と取り巻き二人の側まで行った。
「ちょっとアンタ、誰にモノ言ってる訳?」
「そこに居るおまえだよ、この馬鹿女が!」
「何ですって!? 副寮長風情が!」
「じゃあおまえは何様だ、何の役職にも就いてないくせに威張るな! 生徒会長選でシオンに完敗した雑魚の分際で!」
「おまえぇ……!」
花蓮の言葉は茜のコンプレックスを刺激した。立ち上がり花蓮に掴みかかろうとした茜を、詩音の澄んだ声が引き留めた。
「やめなさい、あなたの振る舞いがおじ様の名前を傷付けることを忘れないで!」
「シオン……!」
理事である父親を引き合いに出された茜は舌打ちした。
「江崎先輩も、落ち着いて下さい。いったい外で何が遭ったんですか?」
詩音と一緒に来た杏奈はできるだけゆっくりと話し、花蓮の怒りを削ごうとした。
「……外にヤバイ奴が居る。入ってこられないようにバリケードを築かないと」
「ヤバイ奴って……?」
説明の必要は無かった。開けられたままだった窓から一体の餓鬼がレクレーションルームへ飛び込んできて、近くに居た生徒の一人に襲いかかったのだ。
「キャアァァァ──ッ!!」
再び悲鳴が上げられた。
「わああああ!!」
悲鳴は一度きりではなかった。そしてドンドンと壁を打ちつける音。立て続けに起きた怪音に身構えた世良達であったが、まず副寮長の花蓮が立ち上がった。寮母も寮長も居ない今、彼女が寮の責任者だ。
花蓮は階段を駆け下り、一階に集まっていた生徒達の元へ行った。
「何、どうしたの!?」
生徒達はただでさえ密集している状態であるのに、更に複数人で抱き合うように固まって、玄関の方へ怯えた視線を向けていた。
「グオアァァッ!!!!」
悲鳴を通り越した獣の咆哮のような叫びは、寮の外から聞こえてきた。寮前で涼んでいた少女の誰かが発したのだろう。
ガチャガチャガチャ!
玄関扉のレバー型ノブが狂ったように上下した。付近に居た生徒達が一斉に退いた。
「助けて! 開けてぇ!!」
緊迫した声が扉越しに響いた。外に居る少女が寮の中へ入りたがっているのだ。しかしノブが動くだけで扉は開かなかった。鍵をかけていないのに。
「パニックを起こしてるんだ!」
花蓮の背後から世良がすり抜け、玄関へ向かった。
「今開ける! そっち側の手を放して、少し離れて!」
世良はレバーノブを上げ、扉を外へ押し開いた。
「お姉様!」
扉の側に居たのは世良を慕う一年生だった。彼女を含む四人の生徒が寮内へ雪崩れ込んだ。
「お姉様ドアを、ドアを閉めてえぇ!!」
「えっ……でも、他の人は? まだ何人か居たよね?」
「いいから早く! お願いです!!」
「いったい何なのさ!?」
花蓮が世良の近くへ来て、二人は玄関から外の様子を覗った。
「!…………」
発光する校舎のおかげで、暗いながらもぼんやりとソレが見えた。
数人の女生徒が地面に横たわり、人とは微妙に違うナニかが彼女達に馬乗りになっていた。そのナニかは顔を生徒の身体に近付けて、クチャクチャと音を立てている。
「え? え? 何? アイツら……」
花蓮に問われたが世良にだって判る訳がない。
ナニかは手足が異様に細いのに、頭と腹だけが大きかった。地獄絵図に描かれた餓鬼を思わせる風貌だ。
世良と花蓮の視線に気づいたのか、一体が顔を上げて二人を見た。そして四つん這いになってこちらへ駆けてくる。
「高月、閉めて!」
本能で危険を感じ取った二人は玄関扉を閉めようとした。しかし完全に閉まり切る前に、扉に腕を差し込まれてしまった。どうして日本の建築物には外開きドアが多いのか。
骨張ってゴツゴツとした手には長く鋭い爪が付いていた。
「何なんだよ、コイツはぁ!!」
「くっ……」
二人がかりで扉を手前に引っ張っるものの、相手の力が強くて拮抗した。
そして至近距離で世良は見てしまった。相手の全貌を。
ソイツは世良がイメージする餓鬼そのものだった。抜け落ちた髪、剥き出しになった眼球は白濁しており、皮膚は緑色に変色していた。
「化け物!」
花蓮が叫んだ通りだ。寮の玄関扉には化け物が張り付いていた。そんな現実が有るなんて。
餓鬼は口が耳まで裂け、赤い液体が口周辺に滴っていた。
(アレは……血?)
まさか、まさか、まさか。
(コイツ、生徒達を喰ったのか!?)
状況を掴んだ瞬間、世良の全身が総毛立った。恐れよりも怒りの感情が勝った。
「このおぉぉぉ!!」
世良は扉の隙間から、餓鬼の腹に思いきり蹴りを叩き込んだ。
『グキャッ』
しわがれた声と共に餓鬼は後方へ吹っ飛んだ。腕が外れたので、すぐさま扉を閉めて鍵をかけた。
振り返った花蓮は、寮内で縮こまっている生徒達に指示を出した。
「レクレーションルームの窓を閉めて! ああ、それだけじゃ駄目だ。ソファーを立て掛けて、窓全体を隠して!」
「はぁ? ソファー無いと困るんだけどぉ」
暗闇の中から煽る声がした。ソファーにゆったり腰かけている桐生茜だろう。花蓮は尚も怒鳴った。
「言う通りにしろ、外に化け物が居るんだよ!」
「化け物? あっは江崎、アンタ何言ってんの?」
「外の悲鳴が聞こえなかったんか、マジでヤバイんだよ!」
「熱くなっちゃって。下級生の悪ふざけに乗せられちゃったの? 副寮長さぁん」
三年生二名のやり取りを聞き流しながら、世良は靴箱の一番上の棚から靴を取り出した。誰のものでも構わない、足先につっかけるだけだ。世良は靴をサンダル履きして食堂へ走った。割れた皿の破片を靴で踏み付けて、目指すは調理台だ。
「どけって、バリケードを造るんだよ!」
花蓮はソファーからどかない茜と取り巻き二人の側まで行った。
「ちょっとアンタ、誰にモノ言ってる訳?」
「そこに居るおまえだよ、この馬鹿女が!」
「何ですって!? 副寮長風情が!」
「じゃあおまえは何様だ、何の役職にも就いてないくせに威張るな! 生徒会長選でシオンに完敗した雑魚の分際で!」
「おまえぇ……!」
花蓮の言葉は茜のコンプレックスを刺激した。立ち上がり花蓮に掴みかかろうとした茜を、詩音の澄んだ声が引き留めた。
「やめなさい、あなたの振る舞いがおじ様の名前を傷付けることを忘れないで!」
「シオン……!」
理事である父親を引き合いに出された茜は舌打ちした。
「江崎先輩も、落ち着いて下さい。いったい外で何が遭ったんですか?」
詩音と一緒に来た杏奈はできるだけゆっくりと話し、花蓮の怒りを削ごうとした。
「……外にヤバイ奴が居る。入ってこられないようにバリケードを築かないと」
「ヤバイ奴って……?」
説明の必要は無かった。開けられたままだった窓から一体の餓鬼がレクレーションルームへ飛び込んできて、近くに居た生徒の一人に襲いかかったのだ。
「キャアァァァ──ッ!!」
再び悲鳴が上げられた。
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