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土地に縛られるモノ(七)
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「そうか。それで陽菜ちゃんを助けようと、ボウズは佐々木を殴ったのか」
「でも佐々木は陽菜さんの恋人だから、陽菜さんにとっては少年こそが暴漢だ」
私達は想像力の限りを尽くして、殺人事件の顚末を推理してみた。
「佐々木は殴られて昏倒してしまっている。倒れた佐々木を見て、陽菜さんは恋人を殺されたと思い込んだかもしれない」
『少年を人殺しと酷く罵ったか、佐々木の仇を討とうと少年に掴みかかったかもしれないですね』
「それで返り討ちに合ったのか!?」
「少年は助けたと思った陽菜さんに責められて、きっと訳が解らなくなってしまったんだよ」
『興奮状態のまま陽菜さんの首を絞めて殺害。その後に我に返り、陽菜さんと佐々木を放置して逃亡。こんなところですかね?』
「そうかも、いや絶対そうだぜ!」
三人の意見が一致した。もちろんまだ仮説の段階だが、漂っていたモヤが晴れたような、清々しい気分だった。テンションが上がった坂元と私はハイタッチまでした。
『でも……、肝心の犯人が誰かは判らない』
宮司の言葉で浮かれた気分が萎えた。その通りだった。
「そうですね。当時、少年だったということくらいしか手がかりが有りません」
『少年は事件の後、どう過ごしていたのでしょうか。まともな神経なら罪悪感に押し潰されているはずですが。あの佐々木のように』
殺していないと言い張る佐々木ですら、巫女と目を合わせられず、真実を晒す神鏡に己の姿を映すことを拒否した。
「地域の男性の中に居なかったのですか? 事件後に妙に怯えた様子を見せた者は」
私の質問へ、坂元が嫌そうに答えた。
「……一人、俺に心当たりが有ります」
「えっ」
『誰だ。誰なんだ!?』
「優ちゃん……。田上家の長男の優一だよ」
田上優一とは家を赤路に放火された挙句に、ゴルフドライバーで頭を殴られて入院中の不運な男だ。
「優一くんは事件の時、いくつだったんだい?」
「俺のいっこ上の先輩だから、二十歳だったはずです」
二十歳……。青年と呼ばれる年代だが、童顔なら少年に見えたかもしれない。
「事件の後はみんな落ち込みましたよ。知ってる子が殺されて、犯人は村の人間かもしれないって疑われたんだから。でも落ち込んでばかりじゃ駄目なんです。俺達はそれぞれ、自分の人生を全うしなきゃならないんだから。そうでしょう?」
「坂元くんの感覚は正しいと思うよ」
「みんな少しずつ元の生活に戻っていったのに、優ちゃんだけは違ったんです。アイツも元々は村長と同じ進路だったんですよ。都市の大学に通っていて、就職もそこでする予定だったんです。なのに卒業したらこっちへ戻ってきて、地場産センターに就職したんです」
「地場産センターか……。陽菜さんも希望していた就職先だったね」
桃川が教えてくれた情報だ。
『進路変更なんてよく有ることだろう。向こうで就職先が見つからなかっただけじゃないのか?』
宮司が異を唱えたが、坂元は持論を曲げなかった。
「何かさ、優ちゃん、全体的に暗くなったんだよ。上手く言えないけど、楽しむことを放棄しているような。活発な英ちゃんと比べたら物静かな男だったけど、それでも以前はもっと生き生きしてた。恋人を作る気も無いみたいだし」
『優一くんが陽菜さんを殺めてしまったことを悔いて、自分の未来と幸せを放棄したと言いたいのか?』
「俺にはそう見える。今日改めて考えてみたら、だけどな」
もしも優一が陽菜殺害の真犯人なら、赤路の襲撃は正当性を持つ。
『優一くんはそもそも、十年前の夏祭りに来ていたのか?』
「俺は会場で会った記憶無いけど、桃川さんの話では、英ちゃんと一緒に来てたみたいだよ。大学の夏季休暇で実家に帰ってたんじゃねーの?」
情報通の桃川は、そんなことも言っていたなと私は思い出した。確か英司が祭りの途中で熱中症に罹り、優一が電話で父親を呼んだのだった。
『英司くんと一緒だったのなら、優一くんに陽菜さんを殺せる時間は無いじゃないか』
「そこはあれだよ、時々別行動を取ったりしたんだよ。俺金魚すくうわ~、じゃあ俺はあっちで花火見てくるわ~的な感じで」
『なるほど、それなら犯行も可能か。だが、いかんせん証拠が無いな』
「ええ。陽菜さんの幽霊からヒントを貰ったと言っても、警察は相手にしてくれないでしょうね。我々の推理も当たっている確証は有りません」
建設的な意見が出なくなり、議論は行き詰ってしまった。宮司が話題を替えた。
『犯人捜しは一旦置いておきましょう。今は会長の身の安全を図ることが先決です。幽霊は姿を現すだけではなく、攻撃まで仕掛けてきたのです。これはもう、御守り程度では防ぎ切れません』
「御守りですか?」
『ええ。視える友人に効果的な御守りの組み合わせを教えてもらったので、それを明日会長にお渡しするつもりだったのですが……』
スピーカー越しに宮司の溜め息が聞こえた。
『これは、友人と直接話してもらった方が良さそうだ。会うのは無理にしても、電話くらいならできるかもしれない。会長、お宅の電話番号を友人に教えても構いませんか?』
「それはもちろん。助けて頂く身で、断る理由は有りません」
『ではそのように致します。お昼休みの時間帯にでも、電話をくれるよう頼んでおきますね。友人の名前は柏木です』
「何から何まですみません」
『いえ。それでは失礼します』
宮司が電話を切るのを確認してから、こちらもスピーカーフォンをオフにした。
「でも佐々木は陽菜さんの恋人だから、陽菜さんにとっては少年こそが暴漢だ」
私達は想像力の限りを尽くして、殺人事件の顚末を推理してみた。
「佐々木は殴られて昏倒してしまっている。倒れた佐々木を見て、陽菜さんは恋人を殺されたと思い込んだかもしれない」
『少年を人殺しと酷く罵ったか、佐々木の仇を討とうと少年に掴みかかったかもしれないですね』
「それで返り討ちに合ったのか!?」
「少年は助けたと思った陽菜さんに責められて、きっと訳が解らなくなってしまったんだよ」
『興奮状態のまま陽菜さんの首を絞めて殺害。その後に我に返り、陽菜さんと佐々木を放置して逃亡。こんなところですかね?』
「そうかも、いや絶対そうだぜ!」
三人の意見が一致した。もちろんまだ仮説の段階だが、漂っていたモヤが晴れたような、清々しい気分だった。テンションが上がった坂元と私はハイタッチまでした。
『でも……、肝心の犯人が誰かは判らない』
宮司の言葉で浮かれた気分が萎えた。その通りだった。
「そうですね。当時、少年だったということくらいしか手がかりが有りません」
『少年は事件の後、どう過ごしていたのでしょうか。まともな神経なら罪悪感に押し潰されているはずですが。あの佐々木のように』
殺していないと言い張る佐々木ですら、巫女と目を合わせられず、真実を晒す神鏡に己の姿を映すことを拒否した。
「地域の男性の中に居なかったのですか? 事件後に妙に怯えた様子を見せた者は」
私の質問へ、坂元が嫌そうに答えた。
「……一人、俺に心当たりが有ります」
「えっ」
『誰だ。誰なんだ!?』
「優ちゃん……。田上家の長男の優一だよ」
田上優一とは家を赤路に放火された挙句に、ゴルフドライバーで頭を殴られて入院中の不運な男だ。
「優一くんは事件の時、いくつだったんだい?」
「俺のいっこ上の先輩だから、二十歳だったはずです」
二十歳……。青年と呼ばれる年代だが、童顔なら少年に見えたかもしれない。
「事件の後はみんな落ち込みましたよ。知ってる子が殺されて、犯人は村の人間かもしれないって疑われたんだから。でも落ち込んでばかりじゃ駄目なんです。俺達はそれぞれ、自分の人生を全うしなきゃならないんだから。そうでしょう?」
「坂元くんの感覚は正しいと思うよ」
「みんな少しずつ元の生活に戻っていったのに、優ちゃんだけは違ったんです。アイツも元々は村長と同じ進路だったんですよ。都市の大学に通っていて、就職もそこでする予定だったんです。なのに卒業したらこっちへ戻ってきて、地場産センターに就職したんです」
「地場産センターか……。陽菜さんも希望していた就職先だったね」
桃川が教えてくれた情報だ。
『進路変更なんてよく有ることだろう。向こうで就職先が見つからなかっただけじゃないのか?』
宮司が異を唱えたが、坂元は持論を曲げなかった。
「何かさ、優ちゃん、全体的に暗くなったんだよ。上手く言えないけど、楽しむことを放棄しているような。活発な英ちゃんと比べたら物静かな男だったけど、それでも以前はもっと生き生きしてた。恋人を作る気も無いみたいだし」
『優一くんが陽菜さんを殺めてしまったことを悔いて、自分の未来と幸せを放棄したと言いたいのか?』
「俺にはそう見える。今日改めて考えてみたら、だけどな」
もしも優一が陽菜殺害の真犯人なら、赤路の襲撃は正当性を持つ。
『優一くんはそもそも、十年前の夏祭りに来ていたのか?』
「俺は会場で会った記憶無いけど、桃川さんの話では、英ちゃんと一緒に来てたみたいだよ。大学の夏季休暇で実家に帰ってたんじゃねーの?」
情報通の桃川は、そんなことも言っていたなと私は思い出した。確か英司が祭りの途中で熱中症に罹り、優一が電話で父親を呼んだのだった。
『英司くんと一緒だったのなら、優一くんに陽菜さんを殺せる時間は無いじゃないか』
「そこはあれだよ、時々別行動を取ったりしたんだよ。俺金魚すくうわ~、じゃあ俺はあっちで花火見てくるわ~的な感じで」
『なるほど、それなら犯行も可能か。だが、いかんせん証拠が無いな』
「ええ。陽菜さんの幽霊からヒントを貰ったと言っても、警察は相手にしてくれないでしょうね。我々の推理も当たっている確証は有りません」
建設的な意見が出なくなり、議論は行き詰ってしまった。宮司が話題を替えた。
『犯人捜しは一旦置いておきましょう。今は会長の身の安全を図ることが先決です。幽霊は姿を現すだけではなく、攻撃まで仕掛けてきたのです。これはもう、御守り程度では防ぎ切れません』
「御守りですか?」
『ええ。視える友人に効果的な御守りの組み合わせを教えてもらったので、それを明日会長にお渡しするつもりだったのですが……』
スピーカー越しに宮司の溜め息が聞こえた。
『これは、友人と直接話してもらった方が良さそうだ。会うのは無理にしても、電話くらいならできるかもしれない。会長、お宅の電話番号を友人に教えても構いませんか?』
「それはもちろん。助けて頂く身で、断る理由は有りません」
『ではそのように致します。お昼休みの時間帯にでも、電話をくれるよう頼んでおきますね。友人の名前は柏木です』
「何から何まですみません」
『いえ。それでは失礼します』
宮司が電話を切るのを確認してから、こちらもスピーカーフォンをオフにした。
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