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土地に縛られるモノ(八)
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「友人って、修兄ちゃんの友達ッスか? どういう人なんです?」
坂元が興味津々に聞いてきた。
「所謂霊感の強い人らしいよ。宮司さんと同じ大学出身で、別の神社で働いているそうなんだ」
坂元は壁時計に目をやった。十時四十五分。
「その人が連絡くれるの昼でしたよね? ちょっと時間が有りますが、飯でも食いに行きますか?」
坂元が当たり前のように言った。霊に襲われて不安になった私と今日一緒に過ごすつもりらしい。非常に面倒見の良い暇人だ。
しかし友人さんが早めに電話をくれるかもしれない。できれば家を空けることは避けたい。
「焼きソバくらいならウチでも出せるけど……、食べるかい?」
坂元が頷いたのでホットプレートを出して、二人で焼きソバを作り早めの昼食とした。
その後に坂元が車から携帯ゲーム機を二台持ってきて、彼に教えられながら一緒に通信プレイで遊んだ。どうしてゲーム機は都合良く二台有ったのか? 坂元は桃を届けに来ただけのはずだよな?
私は何をしているんだろうと思い始めた頃に、居間の電話がけたたましく鳴った。時刻は十三時近くだった。
「ああ、もう、いいところで!」
坂元が吠えた。ゲームの中で私達は、大型の肉食獣らしきものを討伐するミッションを、もう少しでクリアするところだった。
「空気読めよ、ったく」
ゲームを邪魔されてグチグチ言う坂元を無視して電話に応答した。坂元にも話を聞いてもらおうと、またスピーカー機能を使った。
「もしもし」
『立花さんのお宅でしょうか~?』
男に軽い感じで問われた。
「そうです」
『シューから紹介を受けた者ですが~』
「シュー?」
『あれ、加賀見シューからお聞きでは無かったですか~?』
シューとは修のことか。気の抜ける喋り方だ。
「あ、ああ、失礼しました。柏木さんですよね、加賀見町自治会長の立花と申します。お昼の時間を潰してしまって申し訳ありません」
『いいんですよ~。お困りなんですよね~?』
柏木と言う男は、飄々と話す癖が有るが親切そうな人物だった。
『シューから簡単に聞きましたが、殺された女の子の霊に憑かれたそうですね~?』
「はい。今は見えなくなりましたが、彼女はまだ私の傍に居るのでしょうか?」
柏木は少し間を空けて、そしてあっさり言った。
『うん、居ますね~。女の人』
「ひゃっ!?」
驚いて間抜けな擬音を発してしまった。会話を聞いていた坂元もキョロキョロと、落ち着きの無い視線を周囲に送って警戒した。
「ま、まだ居るんですか。彼女は私をまだ怒っているんでしょうか?」
何に対する怒りか。真犯人の情報は陽菜からちゃんと受け取ったつもりだ。その後の推理が間違っていると伝えたいのだろうか?
『怒ってる~……のかな?』
柏木は再び間を空けた。考えているというよりも、何かを掴もうとしているように感じた。これが霊視……?
『電話越しなので、うっすらとしたイメージしか伝わってこないんですよ~。霊にもモヤが掛かって、性別がどうにか判るレベルです。でも、立花さんの傍の女の人は、少なくとも怒ってはいないと思いますよ~?』
「え、本当ですか?」
私は胸を撫で下ろした。
「陽菜さん、私にメッセージを送れたから、怒りを収めてくれたのかな……?」
では何故まだ私の傍に居るのだ。
『メッセージ?』
「はい。実は……」
陽菜に見せられた光景を柏木に説明した。
「陽菜さんは犯人が捕まらないから、だから私に犯人の顔を見せたんだと思います」
『………………』
「とは言っても、十年前の顔から現在の顔が割り出せず、手詰まりの状態なんですが」
『………………』
柏木が黙っているので私は不安になった。
「あの、私の解釈は間違っているのでしょうか?」
『立花さん』
電話向こうの彼が急に真面目な口調になった。
『あなたの傍に居る霊ですが、僕にもメッセージを送ってきてるんです』
何と。霊感の有る人間というのはすごいものだな。
「柏木さんも犯人の顔を見たんですか!?」
『いえ、映像ではなく言葉を受け取りました』
私は生唾を呑み込んだ。
「陽菜さんは、何と?」
『気をつけて』
「え?」
『気をつけるよう、立花さんに伝えてくれと頼まれました』
「え、ええ!?」
私を襲った陽菜が、今度は私の身を案じている? どういうことだろう。
「意味が解りません……」
『すみませ~ん、僕もこれ以上は掴めませ~ん』
柏木の真面目スイッチが切れたようだ。
『ただ~、あなたの傍に居る霊が悪さをする心配は無さそうです~』
それは喜ばしいことだ。しかし気をつけてとは、別の危険が迫っているということではないのか。一難去ってまた一難。泣きたかった。
「危険とは、霊的なものでしょうか? それとも物理的な何かでしょうか?」
『判らないです~』
「私はどうすれば良いのでしょう……」
『明日シューに会うんですよね~? 彼から御守りを受け取って身に付けて下さい~』
「ああ、柏木さんが選んで下さったそうで」
『はい~。状況がはっきり掴めないので細かい処置はできないんですが~、そんな御守りでも気休め程度にはなると思いますよ~』
気休めって言った。
『できるだけ一人にならずに、信頼できる誰かと行動を共にして下さいね~。霊って騒がしいことを嫌いますから~』
「誰かと……」
幸い明日から夏祭りの準備が始まり、数日間は嫌でも大勢の人間と関わることになる。危険が物理的なものだとしても、周りに人が居るなら彼らの助けを借りられるだろう。でも、その後は……?
坂元が胸を張った。頼ってくれという意志表示だろうが、私は気が進まなかった。この善い男を危険に巻き込みたくなかったのだ。
自分で何とかするしかないと、私は決意した。
(気をつけて)
誰かが私に囁いた気がした。音ではなくイメージで。
(気をつけて)
また感じた。気のせいかもしれない。それでも私は僅かに元気づけられたのであった。
坂元が興味津々に聞いてきた。
「所謂霊感の強い人らしいよ。宮司さんと同じ大学出身で、別の神社で働いているそうなんだ」
坂元は壁時計に目をやった。十時四十五分。
「その人が連絡くれるの昼でしたよね? ちょっと時間が有りますが、飯でも食いに行きますか?」
坂元が当たり前のように言った。霊に襲われて不安になった私と今日一緒に過ごすつもりらしい。非常に面倒見の良い暇人だ。
しかし友人さんが早めに電話をくれるかもしれない。できれば家を空けることは避けたい。
「焼きソバくらいならウチでも出せるけど……、食べるかい?」
坂元が頷いたのでホットプレートを出して、二人で焼きソバを作り早めの昼食とした。
その後に坂元が車から携帯ゲーム機を二台持ってきて、彼に教えられながら一緒に通信プレイで遊んだ。どうしてゲーム機は都合良く二台有ったのか? 坂元は桃を届けに来ただけのはずだよな?
私は何をしているんだろうと思い始めた頃に、居間の電話がけたたましく鳴った。時刻は十三時近くだった。
「ああ、もう、いいところで!」
坂元が吠えた。ゲームの中で私達は、大型の肉食獣らしきものを討伐するミッションを、もう少しでクリアするところだった。
「空気読めよ、ったく」
ゲームを邪魔されてグチグチ言う坂元を無視して電話に応答した。坂元にも話を聞いてもらおうと、またスピーカー機能を使った。
「もしもし」
『立花さんのお宅でしょうか~?』
男に軽い感じで問われた。
「そうです」
『シューから紹介を受けた者ですが~』
「シュー?」
『あれ、加賀見シューからお聞きでは無かったですか~?』
シューとは修のことか。気の抜ける喋り方だ。
「あ、ああ、失礼しました。柏木さんですよね、加賀見町自治会長の立花と申します。お昼の時間を潰してしまって申し訳ありません」
『いいんですよ~。お困りなんですよね~?』
柏木と言う男は、飄々と話す癖が有るが親切そうな人物だった。
『シューから簡単に聞きましたが、殺された女の子の霊に憑かれたそうですね~?』
「はい。今は見えなくなりましたが、彼女はまだ私の傍に居るのでしょうか?」
柏木は少し間を空けて、そしてあっさり言った。
『うん、居ますね~。女の人』
「ひゃっ!?」
驚いて間抜けな擬音を発してしまった。会話を聞いていた坂元もキョロキョロと、落ち着きの無い視線を周囲に送って警戒した。
「ま、まだ居るんですか。彼女は私をまだ怒っているんでしょうか?」
何に対する怒りか。真犯人の情報は陽菜からちゃんと受け取ったつもりだ。その後の推理が間違っていると伝えたいのだろうか?
『怒ってる~……のかな?』
柏木は再び間を空けた。考えているというよりも、何かを掴もうとしているように感じた。これが霊視……?
『電話越しなので、うっすらとしたイメージしか伝わってこないんですよ~。霊にもモヤが掛かって、性別がどうにか判るレベルです。でも、立花さんの傍の女の人は、少なくとも怒ってはいないと思いますよ~?』
「え、本当ですか?」
私は胸を撫で下ろした。
「陽菜さん、私にメッセージを送れたから、怒りを収めてくれたのかな……?」
では何故まだ私の傍に居るのだ。
『メッセージ?』
「はい。実は……」
陽菜に見せられた光景を柏木に説明した。
「陽菜さんは犯人が捕まらないから、だから私に犯人の顔を見せたんだと思います」
『………………』
「とは言っても、十年前の顔から現在の顔が割り出せず、手詰まりの状態なんですが」
『………………』
柏木が黙っているので私は不安になった。
「あの、私の解釈は間違っているのでしょうか?」
『立花さん』
電話向こうの彼が急に真面目な口調になった。
『あなたの傍に居る霊ですが、僕にもメッセージを送ってきてるんです』
何と。霊感の有る人間というのはすごいものだな。
「柏木さんも犯人の顔を見たんですか!?」
『いえ、映像ではなく言葉を受け取りました』
私は生唾を呑み込んだ。
「陽菜さんは、何と?」
『気をつけて』
「え?」
『気をつけるよう、立花さんに伝えてくれと頼まれました』
「え、ええ!?」
私を襲った陽菜が、今度は私の身を案じている? どういうことだろう。
「意味が解りません……」
『すみませ~ん、僕もこれ以上は掴めませ~ん』
柏木の真面目スイッチが切れたようだ。
『ただ~、あなたの傍に居る霊が悪さをする心配は無さそうです~』
それは喜ばしいことだ。しかし気をつけてとは、別の危険が迫っているということではないのか。一難去ってまた一難。泣きたかった。
「危険とは、霊的なものでしょうか? それとも物理的な何かでしょうか?」
『判らないです~』
「私はどうすれば良いのでしょう……」
『明日シューに会うんですよね~? 彼から御守りを受け取って身に付けて下さい~』
「ああ、柏木さんが選んで下さったそうで」
『はい~。状況がはっきり掴めないので細かい処置はできないんですが~、そんな御守りでも気休め程度にはなると思いますよ~』
気休めって言った。
『できるだけ一人にならずに、信頼できる誰かと行動を共にして下さいね~。霊って騒がしいことを嫌いますから~』
「誰かと……」
幸い明日から夏祭りの準備が始まり、数日間は嫌でも大勢の人間と関わることになる。危険が物理的なものだとしても、周りに人が居るなら彼らの助けを借りられるだろう。でも、その後は……?
坂元が胸を張った。頼ってくれという意志表示だろうが、私は気が進まなかった。この善い男を危険に巻き込みたくなかったのだ。
自分で何とかするしかないと、私は決意した。
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誰かが私に囁いた気がした。音ではなくイメージで。
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