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大きなうねり(5)
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唇を噛んで長い間沈黙して、迷いの中に居たユーリはついに顔を上げて右隣のルービック師団長を見た。
そしてその名を告げたのだった。
「……グラハムです」
「…………ん?」
「アンダー・ドラゴンに兵団の情報を流していたのは、グラハム・ロニックという男です」
「グラハムさんが!?」
ルービックが目を見開き、マシューは大声で驚きを表現した。私達ギルドメンバーも衝撃を受けていた。
グラハムって……師団長暗殺未遂事件の後に、テントで文句ばかり垂れていたあのオッサン? 彼が内通者だったの!?
「グラハムは情報提供の見返りとして、組織から多額の謝礼金を受け取っていました」
「待って、嘘だろ!? グラハムさんはこの第七師団の兵士半数を、師団長から任されている連隊長だぞ!?」
「………………」
「ああでも、異常な出世スピードだったからおかしいとは思っていたんだ! だけどまさかそんな、アンダー・ドラゴンと通じていたなんて!!」
「マシュー、落ち着け」
「ですが師団長、これは一大事ですよ!?」
完全に取り乱してしまったマシューを落ち着かせようと、私はゆっくり口調で質問を試みた。
「名字を持っているならグラハムさんも貴族なんでしょう? スピード出世してもおかしくないのでは?」
「ああ……うん、でも貴族と言ってもロニック家は……え~とね」
マシューは幾分か冷静さを取り戻したようだ。クセっ毛に指を絡めながら自分の身上を交えて話してくれた。
「実は俺も貴族なんだよ。正式名はマシュー・エディオン。父が男爵の爵位を持っている。だから貴族社会の内情にはちょっと詳しい」
ミラとマリナの情報通りだな。エディオンって名字が何気にカッコイイ。
「グラハムさんもウチと同じ男爵家だ。男爵は貴族の中では一番下の爵位だからあんまり力が無いし、ロニック家が所有する領地は農耕に向かず発掘資源も乏しくて、とうてい裕福とは言えない暮らしぶりだったんだ」
名ばかりの貧乏貴族というヤツか。
「ぶっちゃけ高官に渡す賄賂も碌に用意できないから、グラハムさんは貴族と言えどポンポン出世するのは不可能なはずなんだよ」
「実力で出世したとかは?」
「あぁう~、それは……」
マシューは困った顔をして言い淀んだ。代わりにルービックが答えた。
「グラハムは能無しという訳ではないが、平凡な能力の持ち主だな。国からの任命だが、連隊長職は彼にとって荷が重い役職だと私は思っていた」
……印象通りだったか。正直言って、勇敢で魔法も使える聖騎士三人に比べてグラハムは見劣りしていた。
「グラハムさんの異例の出世について貴族の間では、ロニック家は密造酒でも手掛けて隠し財産を築いたんじゃないかって噂が出ていたんだ。それも犯罪だけどさ、国王陛下が討伐命令を出したアンダー・ドラゴンに加担していたとなると、罪の重さが跳ね上がるよね」
ルービックが厳しい眼差しでユーリに確認を取った。
「キミの証言が真実だと誓えるか?」
ユーリは目を逸らさずに言った。
「誓えます。グラハムが組織との連絡役に使っていた、彼の部下の名前も挙げられます」
「毒を仕込んだのもそいつか……」
そうか。兵団内の地位が高いグラハムが自ら動くと目立つ。彼の代わりの実行役として、部下の兵士が何人か抱き込まれているんだね。はたしてどれだけの人数が犯罪に加担してしまったのか……。
ルービックが頭を左右に振った。
「面倒なことになったな」
「え、グラハム連隊長を捕まえるくらいお二人には簡単でしょう?」
マキアの疑問に苦い表情でルービックは返した。
「グラハムを逮捕してそれで終わり、とはならないんだ。彼を連隊長に推した兵団の高官や任命した大臣の責任も問われる。ひょっとしたら、グラハム以外にもアンダー・ドラゴンに協力していた貴族が居るかもしれない」
「芋づる式に国の偉い人達が捕まるかもしれないんですか……?」
「そういうことだ。だから事は慎重に運ばなければならない。キミ達、ここでの会話は他言無用に頼む」
ルービックへ頷きかけたが、マシューが待ったをかけた。
「フィースノー支部の冒険者ギルドの皆さんには、情報を共有して協力してもらうべきだと思います」
「おいマシュー、国の大事に民間人の彼らを巻き込むのか?」
「民間人、だからです。国から多少の支援を受けているとはいえ、冒険者ギルドは軍にも政府にも所属していない独立した組織です。誰が味方で誰が敵か判らない兵団の者より、彼らの方がよほど信じられますよ。ギルドマスターであるケイシーさんは冒険者時代に、王族や有力貴族と交流を持っていたくらい顔の広い方らしいですし」
つくづく、S級冒険者だった我らがマスターは凄い人なんだなと感心した。ギルドではルパートと阿保らしい言い合いをよくしているけど。
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唇を噛んで長い間沈黙して、迷いの中に居たユーリはついに顔を上げて右隣のルービック師団長を見た。
そしてその名を告げたのだった。
「……グラハムです」
「…………ん?」
「アンダー・ドラゴンに兵団の情報を流していたのは、グラハム・ロニックという男です」
「グラハムさんが!?」
ルービックが目を見開き、マシューは大声で驚きを表現した。私達ギルドメンバーも衝撃を受けていた。
グラハムって……師団長暗殺未遂事件の後に、テントで文句ばかり垂れていたあのオッサン? 彼が内通者だったの!?
「グラハムは情報提供の見返りとして、組織から多額の謝礼金を受け取っていました」
「待って、嘘だろ!? グラハムさんはこの第七師団の兵士半数を、師団長から任されている連隊長だぞ!?」
「………………」
「ああでも、異常な出世スピードだったからおかしいとは思っていたんだ! だけどまさかそんな、アンダー・ドラゴンと通じていたなんて!!」
「マシュー、落ち着け」
「ですが師団長、これは一大事ですよ!?」
完全に取り乱してしまったマシューを落ち着かせようと、私はゆっくり口調で質問を試みた。
「名字を持っているならグラハムさんも貴族なんでしょう? スピード出世してもおかしくないのでは?」
「ああ……うん、でも貴族と言ってもロニック家は……え~とね」
マシューは幾分か冷静さを取り戻したようだ。クセっ毛に指を絡めながら自分の身上を交えて話してくれた。
「実は俺も貴族なんだよ。正式名はマシュー・エディオン。父が男爵の爵位を持っている。だから貴族社会の内情にはちょっと詳しい」
ミラとマリナの情報通りだな。エディオンって名字が何気にカッコイイ。
「グラハムさんもウチと同じ男爵家だ。男爵は貴族の中では一番下の爵位だからあんまり力が無いし、ロニック家が所有する領地は農耕に向かず発掘資源も乏しくて、とうてい裕福とは言えない暮らしぶりだったんだ」
名ばかりの貧乏貴族というヤツか。
「ぶっちゃけ高官に渡す賄賂も碌に用意できないから、グラハムさんは貴族と言えどポンポン出世するのは不可能なはずなんだよ」
「実力で出世したとかは?」
「あぁう~、それは……」
マシューは困った顔をして言い淀んだ。代わりにルービックが答えた。
「グラハムは能無しという訳ではないが、平凡な能力の持ち主だな。国からの任命だが、連隊長職は彼にとって荷が重い役職だと私は思っていた」
……印象通りだったか。正直言って、勇敢で魔法も使える聖騎士三人に比べてグラハムは見劣りしていた。
「グラハムさんの異例の出世について貴族の間では、ロニック家は密造酒でも手掛けて隠し財産を築いたんじゃないかって噂が出ていたんだ。それも犯罪だけどさ、国王陛下が討伐命令を出したアンダー・ドラゴンに加担していたとなると、罪の重さが跳ね上がるよね」
ルービックが厳しい眼差しでユーリに確認を取った。
「キミの証言が真実だと誓えるか?」
ユーリは目を逸らさずに言った。
「誓えます。グラハムが組織との連絡役に使っていた、彼の部下の名前も挙げられます」
「毒を仕込んだのもそいつか……」
そうか。兵団内の地位が高いグラハムが自ら動くと目立つ。彼の代わりの実行役として、部下の兵士が何人か抱き込まれているんだね。はたしてどれだけの人数が犯罪に加担してしまったのか……。
ルービックが頭を左右に振った。
「面倒なことになったな」
「え、グラハム連隊長を捕まえるくらいお二人には簡単でしょう?」
マキアの疑問に苦い表情でルービックは返した。
「グラハムを逮捕してそれで終わり、とはならないんだ。彼を連隊長に推した兵団の高官や任命した大臣の責任も問われる。ひょっとしたら、グラハム以外にもアンダー・ドラゴンに協力していた貴族が居るかもしれない」
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「そういうことだ。だから事は慎重に運ばなければならない。キミ達、ここでの会話は他言無用に頼む」
ルービックへ頷きかけたが、マシューが待ったをかけた。
「フィースノー支部の冒険者ギルドの皆さんには、情報を共有して協力してもらうべきだと思います」
「おいマシュー、国の大事に民間人の彼らを巻き込むのか?」
「民間人、だからです。国から多少の支援を受けているとはいえ、冒険者ギルドは軍にも政府にも所属していない独立した組織です。誰が味方で誰が敵か判らない兵団の者より、彼らの方がよほど信じられますよ。ギルドマスターであるケイシーさんは冒険者時代に、王族や有力貴族と交流を持っていたくらい顔の広い方らしいですし」
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