149 / 257
大きなうねり(8)
しおりを挟む
ユーリが探る瞳で私達を見ていた。
「魔王……? 配下の魔物を飛ばさせた……?」
あ。
「言っちゃった。でもユーリさんも仲間になったんだから話してもいいんじゃないかな?」
マキアの確認にみんなが頷き、エンが説明することになった。
「ユーリ、三百年前にこの国に魔王が出現して、近隣諸国と戦った歴史は知っているか?」
「ああ。有名な話だからな」
「彼がその魔王だ」
「……………………」
ユーリはアルクナイトの全身をしげしげと眺めた。それからエンに向き直った。
「…………何と?」
だよね。信じられないよね。
「彼が強者ということは気配で判る。肌がずっとピリピリしているからな。しかし……魔王は三百年前の存在だろう?」
「彼はもうすぐ500歳だ」
「こら忍者、俺はそんなにお爺ちゃんじゃないわ。まだ482歳だ」
似たようなもんだろう。
もう一度ユーリはアルクナイトを頭から爪先まで見た。
「信じられるか。彼はどう見ても凛々しく美しい文学青年だろうが。彼の何処が凶悪な魔王だ」
「え」
「え」
「ええ?」
私とマキアとキースは口をあんぐりと開けた。美しいと称された魔王は一人悦に入っていた。
「なかなかに見所の有る若者だな。だがユーリよ、真実とは時に残酷なものだ。俺は正真正銘、世界を震撼させた魔王アルクナイトその人なんだ!」
大げさなポーズと共にアルクナイトは決め台詞を放った。そう言えばエリアスも芝居がかっていたなぁ。魔王軍と勇者一族で劇団組めるんじゃない?
「そんな……本当に魔王……?」
「そうだ。でも兵士達にはくれぐれも内緒だぞ? 奴らにとって俺は宿敵だからな。俺のことはアルと呼ぶように」
「こんな……美しい魔王がこの世に存在するのか……」
「え?」
「ちょっ……」
「この人大丈夫ですか?」
アルクナイトをうっとり見つめるユーリを私達はいろいろな意味で心配した。確かに魔王は美形である。でもヤバイ言動を繰り返す絶対に憧れてはならない人物だ。
エンが「あ」と短く漏らしてから話した。
「長く離れていたから忘れていた……。ユーリは美しいものに目が無いんだった」
「え」
アンダー・ドラゴン首領も傷が多かったけれど美形だった。
「えと、もしかしてユーリさんが契約を結ぶ基準って、相手が美形かどうかが深く関係しますか?」
質問した私にユーリはきっぱりと言い切った。
「当たり前だ。心惹かれない者の為に命を張れるか」
何て曇りの無い真っ直ぐな目をするんだ。
左隣の席のキースが急に私を抱きかかえた。
「おい白、何してる!」
即座に右隣のアルクナイトが咎めた。この二人はユーリの護衛役のはずなのに、何故か私の左右に陣取っている。何しに来たんだか。
「ロックウィーナを護っているんです! 美しいものが好きなら、彼女も必ずユーリの興味対象となります!」
「なるほどだ! 俺も護ってやる!!」
二人の男が私にしがみ付いてきた。い~や~。お風呂に入れてないんだってば。濡れタオルで頑張って皮脂汚れを拭き取っているけど、石鹼使って洗い流せてないから私は絶対に臭い。離れて~。
「ちょっと、ロックウィーナが困ってますよ。放してあげて下さい!」
誰よりも常識人だったりするマキアが止めようとしてくれたが、男二人は離れなかった。絶対に三日間、私にちょっかいを出せなかった分を取り返そうとしている。男って。
ジタバタしている私達の様子が可笑しかったようで、ユーリがフッと笑った。
「安心してくれ。その女はそこそこ可愛い程度で美形とまではいかない。俺の興味対象外だ。蹴りは見事だったがな」
それってフォロー? けなしてない? いやそれでいいんだけどさ、何だか切ない。
私以上に魔王と白魔術師が怒りを露わにした。
「おいコラ忍者Ⅱ、どういう了見だ」
「彼女の美しさが解らないなんて残念な男だな。一度深淵を覗いてこい」
口調が乱暴になったキースが左手で前髪を掻き上げた。息を呑んで彼から顔を背けた。ユーリ以外の全員が。
……………………。
……………………。
……………………。
強い精神力の持ち主だったようで、ユーリはしばらくは耐えていた。しかし結局はキースの瞳に魅了された。
「ぷわは☆✕○△♡!!!!!!」
読解不可能な奇声を発してユーリが暴れ出した。馬車の座席から転げ落ちそうになったところをエンとマキアが支えて、そのまま押さえ込みに入った。
「ユーリ、落ち着け!」
「いたっ、脚、痛いっ、ユーリさん蹴らないで!!」
馬車が横にガックンガックン揺れていた。
「よくやったぞ白」
「またつまらない相手を虜にしてしまった……」
「ただくれぐれも俺達には使うなよ? そう話し合ったよな?」
「ああ使わないよ。でも洗顔の為に前髪を上げた僕をうっかり見て、勝手に魅了された分に関してまでは責任取れないからな?」
「……執事のジジイ、鼻血噴いてたな」
アスリーも墜とされていたのか。
私は左右からギュウギュウに抱きしめられながら、対面の席で暴れるユーリと必死で押さえ付けるエンとマキアをぼんやり見ていた。
本当にアルクナイトとキースは何をしに来たんだろう。
「魔王……? 配下の魔物を飛ばさせた……?」
あ。
「言っちゃった。でもユーリさんも仲間になったんだから話してもいいんじゃないかな?」
マキアの確認にみんなが頷き、エンが説明することになった。
「ユーリ、三百年前にこの国に魔王が出現して、近隣諸国と戦った歴史は知っているか?」
「ああ。有名な話だからな」
「彼がその魔王だ」
「……………………」
ユーリはアルクナイトの全身をしげしげと眺めた。それからエンに向き直った。
「…………何と?」
だよね。信じられないよね。
「彼が強者ということは気配で判る。肌がずっとピリピリしているからな。しかし……魔王は三百年前の存在だろう?」
「彼はもうすぐ500歳だ」
「こら忍者、俺はそんなにお爺ちゃんじゃないわ。まだ482歳だ」
似たようなもんだろう。
もう一度ユーリはアルクナイトを頭から爪先まで見た。
「信じられるか。彼はどう見ても凛々しく美しい文学青年だろうが。彼の何処が凶悪な魔王だ」
「え」
「え」
「ええ?」
私とマキアとキースは口をあんぐりと開けた。美しいと称された魔王は一人悦に入っていた。
「なかなかに見所の有る若者だな。だがユーリよ、真実とは時に残酷なものだ。俺は正真正銘、世界を震撼させた魔王アルクナイトその人なんだ!」
大げさなポーズと共にアルクナイトは決め台詞を放った。そう言えばエリアスも芝居がかっていたなぁ。魔王軍と勇者一族で劇団組めるんじゃない?
「そんな……本当に魔王……?」
「そうだ。でも兵士達にはくれぐれも内緒だぞ? 奴らにとって俺は宿敵だからな。俺のことはアルと呼ぶように」
「こんな……美しい魔王がこの世に存在するのか……」
「え?」
「ちょっ……」
「この人大丈夫ですか?」
アルクナイトをうっとり見つめるユーリを私達はいろいろな意味で心配した。確かに魔王は美形である。でもヤバイ言動を繰り返す絶対に憧れてはならない人物だ。
エンが「あ」と短く漏らしてから話した。
「長く離れていたから忘れていた……。ユーリは美しいものに目が無いんだった」
「え」
アンダー・ドラゴン首領も傷が多かったけれど美形だった。
「えと、もしかしてユーリさんが契約を結ぶ基準って、相手が美形かどうかが深く関係しますか?」
質問した私にユーリはきっぱりと言い切った。
「当たり前だ。心惹かれない者の為に命を張れるか」
何て曇りの無い真っ直ぐな目をするんだ。
左隣の席のキースが急に私を抱きかかえた。
「おい白、何してる!」
即座に右隣のアルクナイトが咎めた。この二人はユーリの護衛役のはずなのに、何故か私の左右に陣取っている。何しに来たんだか。
「ロックウィーナを護っているんです! 美しいものが好きなら、彼女も必ずユーリの興味対象となります!」
「なるほどだ! 俺も護ってやる!!」
二人の男が私にしがみ付いてきた。い~や~。お風呂に入れてないんだってば。濡れタオルで頑張って皮脂汚れを拭き取っているけど、石鹼使って洗い流せてないから私は絶対に臭い。離れて~。
「ちょっと、ロックウィーナが困ってますよ。放してあげて下さい!」
誰よりも常識人だったりするマキアが止めようとしてくれたが、男二人は離れなかった。絶対に三日間、私にちょっかいを出せなかった分を取り返そうとしている。男って。
ジタバタしている私達の様子が可笑しかったようで、ユーリがフッと笑った。
「安心してくれ。その女はそこそこ可愛い程度で美形とまではいかない。俺の興味対象外だ。蹴りは見事だったがな」
それってフォロー? けなしてない? いやそれでいいんだけどさ、何だか切ない。
私以上に魔王と白魔術師が怒りを露わにした。
「おいコラ忍者Ⅱ、どういう了見だ」
「彼女の美しさが解らないなんて残念な男だな。一度深淵を覗いてこい」
口調が乱暴になったキースが左手で前髪を掻き上げた。息を呑んで彼から顔を背けた。ユーリ以外の全員が。
……………………。
……………………。
……………………。
強い精神力の持ち主だったようで、ユーリはしばらくは耐えていた。しかし結局はキースの瞳に魅了された。
「ぷわは☆✕○△♡!!!!!!」
読解不可能な奇声を発してユーリが暴れ出した。馬車の座席から転げ落ちそうになったところをエンとマキアが支えて、そのまま押さえ込みに入った。
「ユーリ、落ち着け!」
「いたっ、脚、痛いっ、ユーリさん蹴らないで!!」
馬車が横にガックンガックン揺れていた。
「よくやったぞ白」
「またつまらない相手を虜にしてしまった……」
「ただくれぐれも俺達には使うなよ? そう話し合ったよな?」
「ああ使わないよ。でも洗顔の為に前髪を上げた僕をうっかり見て、勝手に魅了された分に関してまでは責任取れないからな?」
「……執事のジジイ、鼻血噴いてたな」
アスリーも墜とされていたのか。
私は左右からギュウギュウに抱きしめられながら、対面の席で暴れるユーリと必死で押さえ付けるエンとマキアをぼんやり見ていた。
本当にアルクナイトとキースは何をしに来たんだろう。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!
宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。
静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。
……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか?
枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと
忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称)
これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、
――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!
月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの!
一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。
今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか?
※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる