ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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大きなうねり(8)

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 ユーリが探る瞳で私達を見ていた。

「魔王……? 配下の魔物を飛ばさせた……?」

 あ。

「言っちゃった。でもユーリさんも仲間になったんだから話してもいいんじゃないかな?」

 マキアの確認にみんなが頷き、エンが説明することになった。

「ユーリ、三百年前にこの国に魔王が出現して、近隣諸国と戦った歴史は知っているか?」
「ああ。有名な話だからな」
「彼がその魔王だ」
「……………………」

 ユーリはアルクナイトの全身をしげしげと眺めた。それからエンに向き直った。

「…………何と?」

 だよね。信じられないよね。
 
「彼が強者ということは気配で判る。肌がずっとピリピリしているからな。しかし……魔王は三百年前の存在だろう?」
「彼はもうすぐ500歳だ」
「こら忍者、俺はそんなにお爺ちゃんじゃないわ。まだ482歳だ」

 似たようなもんだろう。
 もう一度ユーリはアルクナイトを頭から爪先まで見た。

「信じられるか。彼はどう見ても凛々しく美しい文学青年だろうが。彼の何処が凶悪な魔王だ」
「え」
「え」
「ええ?」

 私とマキアとキースは口をあんぐりと開けた。美しいと称された魔王は一人悦に入っていた。

「なかなかに見所の有る若者だな。だがユーリよ、真実とは時に残酷なものだ。俺は正真正銘、世界を震撼させた魔王アルクナイトその人なんだ!」

 大げさなポーズと共にアルクナイトは決め台詞を放った。そう言えばエリアスも芝居がかっていたなぁ。魔王軍と勇者一族で劇団組めるんじゃない?

「そんな……本当に魔王……?」
「そうだ。でも兵士達にはくれぐれも内緒だぞ? 奴らにとって俺は宿敵だからな。俺のことはアルと呼ぶように」
「こんな……美しい魔王がこの世に存在するのか……」
「え?」
「ちょっ……」
「この人大丈夫ですか?」

 アルクナイトをうっとり見つめるユーリを私達はいろいろな意味で心配した。確かに魔王は美形である。でもヤバイ言動を繰り返す絶対に憧れてはならない人物だ。
 エンが「あ」と短く漏らしてから話した。

「長く離れていたから忘れていた……。ユーリは美しいものに目が無いんだった」
「え」

 アンダー・ドラゴン首領も傷が多かったけれど美形だった。

「えと、もしかしてユーリさんが契約を結ぶ基準って、相手が美形かどうかが深く関係しますか?」

 質問した私にユーリはきっぱりと言い切った。

「当たり前だ。心惹かれない者の為に命を張れるか」

 何て曇りの無い真っ直ぐな目をするんだ。
 左隣の席のキースが急に私を抱きかかえた。

「おい白、何してる!」

 即座に右隣のアルクナイトが咎めた。この二人はユーリの護衛役のはずなのに、何故か私の左右に陣取っている。何しに来たんだか。

「ロックウィーナを護っているんです! 美しいものが好きなら、彼女も必ずユーリの興味対象となります!」
「なるほどだ! 俺も護ってやる!!」

 二人の男が私にしがみ付いてきた。い~や~。お風呂に入れてないんだってば。濡れタオルで頑張って皮脂汚れを拭き取っているけど、石鹼使って洗い流せてないから私は絶対に臭い。離れて~。

「ちょっと、ロックウィーナが困ってますよ。放してあげて下さい!」

 誰よりも常識人だったりするマキアが止めようとしてくれたが、男二人は離れなかった。絶対に三日間、私にちょっかいを出せなかった分を取り返そうとしている。男って。
 ジタバタしている私達の様子が可笑しかったようで、ユーリがフッと笑った。

「安心してくれ。その女はそこそこ可愛い程度で美形とまではいかない。俺の興味対象外だ。蹴りは見事だったがな」

 それってフォロー? けなしてない? いやそれでいいんだけどさ、何だか切ない。
 私以上に魔王と白魔術師が怒りを露わにした。

「おいコラ忍者Ⅱ、どういう了見だ」
「彼女の美しさが解らないなんて残念な男だな。一度深淵を覗いてこい」

 口調が乱暴になったキースが左手で前髪を掻き上げた。息を呑んで彼から顔を背けた。ユーリ以外の全員が。
 ……………………。
 ……………………。
 ……………………。
 強い精神力の持ち主だったようで、ユーリはしばらくは耐えていた。しかし結局はキースの瞳に魅了された。

「ぷわは☆✕○△♡!!!!!!」

 読解不可能な奇声を発してユーリが暴れ出した。馬車の座席から転げ落ちそうになったところをエンとマキアが支えて、そのまま押さえ込みに入った。

「ユーリ、落ち着け!」
「いたっ、脚、痛いっ、ユーリさん蹴らないで!!」

 馬車が横にガックンガックン揺れていた。

「よくやったぞ白」
「またつまらない相手を虜にしてしまった……」
「ただくれぐれも俺達には使うなよ? そう話し合ったよな?」
「ああ使わないよ。でも洗顔の為に前髪を上げた僕をうっかり見て、勝手に魅了された分に関してまでは責任取れないからな?」
「……執事のジジイ、鼻血噴いてたな」

 アスリーも墜とされていたのか。
 私は左右からギュウギュウに抱きしめられながら、対面の席で暴れるユーリと必死で押さえ付けるエンとマキアをぼんやり見ていた。
 本当にアルクナイトとキースは何をしに来たんだろう。
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