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エリアスの背中(3)
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(あああああ! これはヤバ──イ!!!!)
身の危険を感じた私は腕を踏ん張って、エリアスの拘束から逃れようとした。怪力の勇者はビクともしませんでしたけどね。逆に肩を抱く腕に更に力を込めてきたよ。
そして……。エリアスの顔がゆっくりと下がってくる。私の顔へ。
(キ、キスされるの!? 人前だよ!?)
いつもだったらルパートが力技で止めてくれるか、キースが障壁で護ってくれるか、魔王が金ダライを落としていた。しかし間が悪いことに、皆の注意は照れで身をよじる忍者へと移っていた。
ヤバイ。これは本気でヤバイ。
尚も接近を続けるエリアスの端正な顔。私は彼の腕の中でジタバタ暴れた。
「そこまでに。ロックウィーナが困っている」
穏やかな声がエリアスを止めた。私を挟んで反対側に座るルービック師団長だった。気づいてくれた人が居た!
しかも私達以外の者には届かない小さな声だった。その細やかな気配りが嬉しい。
「…………あ」
我に返ったエリアスが即座に私から顔を離した。抱きしめていた腕も外して、彼もまた小さな声で謝罪してきた。
「すまないロックウィーナ。キミの気持ちを無視するところだった」
落ち込んだ様子の彼を見て私は罪悪感に苛まれた。
この人にはいつも我慢をさせてしまっているな。
誰よりも早く私へ「好きだ」と想いを伝えてくれた人。それから今日に至るまで、私の気持ちを最優先して優しく見守ってくれている。
だからこそ戸惑う。
こんな日が来るとは思わなかった。
遠くから見ることしかできなかったのに。
言葉を交わしたのはあの日、たった一度だけ。
憧れだった。初恋だった。
(………………………………?)
はて。
不意に脳裏に浮かんだ今の記憶は何だろう。
遠くから見ていた? 行き倒れた彼を捜索出動で発見するまで、エリアスのことは全く知らなかったよ?
それに私の初恋は、ムカつくけどあの金髪ロン毛だよね?
「ロックウィーナ……?」
私はエリアスの顔をマジマジと見ていた。
(おかしいな。私は彼のことをずっと前から知っている気がする。あの日、森で見つけたよりもずっと前から)
私の知る「彼」はこんなに彫りの深い顔じゃなかった。瞳の色も違う。顔立ちについてはエンの方がよく似ている。
でも強く、そして温かいこの眼差しは私の記憶に刻まれている。見ず知らずの下級生に親切にしてくれた優しさも。
(…………下級生?)
何を考えているのだろうか私は。エリアスと私は同郷じゃない。そもそも貴族の彼は学校に通わず、家庭教師が付いていたんじゃないかな。
「ロックウィーナ、どうかしたか?」
あ、数十秒もの間エリアスを凝視していたよ。不審がられた。
「あの、エリアスさんは森で会う前から私のことを……」
知っていましたか? という質問は最後まで言えなかった。遠くの方からワーッと、何人もの声が上がったからだ。
「!?」
兵士の誰かが羽目を外して馬鹿騒ぎをしていたのなら良かった。しかしその騒ぎは緊迫した雰囲気を孕んでいた。
ルービックら聖騎士三名がスッと立ち上がった。上官に倣ってミラとマリナも。全員で音の方を窺っていると、やがて一人の兵士がこちらへ駆けてきた。師団長が冒険者ギルドのメンバーと一緒に居ると知っていたのだろう。
「敵襲、敵襲です!」
兵士の報告を聞いて、私達ギルドメンバーも立ち上がった。スープが入った器がいくつかひっくり返った。
ルービックが冷静に兵士へ問うた。
「何処だ?」
「北東エリアです! 見張りの兵が襲われ、賊と戦闘中です!」
「……エドガー、身近な兵を率いて北東へ向かい賊を鎮圧せよ。ただしそちらは陽動の可能性が高い」
「そうですね。賊がアンダー・ドラゴンの残党なら、目当ては回収された財宝でしょうから」
「財宝を積んだ馬車については私とマシューで守りを固める。冒険者ギルドの諸君にも無理のない範囲で協力を願いたい」
「はい。ここまで来たらトコトン付き合いますよ」
ルパートが頷いた。他のメンバーも。
「それでは私は北東へ参ります。おまえと、ミラとマリナも共に来い」
「は、はいっ!」
鼻の下のお髭が印象的なエドガー連隊長は、伝令に来た兵士とミラとマリナを連れて駆けていった。みんな無事に帰ってきてね。
私も軽い腕のストレッチをして戦いに備えた……のだが、ルパートに水を差された。
「ウィー、おまえはユアンと一緒にここで待機だ」
また後ろへ下げられるのか。私の不満は口にする前にキースが封じた。
「そうですね。公民館でユアンが戦う姿を見ている兵士が居ますから、彼は前へ出ない方がいいでしょう。ロックウィーナ、ユアンと一緒に居てあげて下さい」
それは解るよ。首領の側近ユーリは毒で死んだことになっているのだから、生きているとバレたら面倒だよね。
でも、それで何で私が付き添い役になるの?
戦いたいと訴えても聞き入れてもらえないだろう。みんなして私に過保護だから。そして私には説得できるだけの強さが無い。
身の危険を感じた私は腕を踏ん張って、エリアスの拘束から逃れようとした。怪力の勇者はビクともしませんでしたけどね。逆に肩を抱く腕に更に力を込めてきたよ。
そして……。エリアスの顔がゆっくりと下がってくる。私の顔へ。
(キ、キスされるの!? 人前だよ!?)
いつもだったらルパートが力技で止めてくれるか、キースが障壁で護ってくれるか、魔王が金ダライを落としていた。しかし間が悪いことに、皆の注意は照れで身をよじる忍者へと移っていた。
ヤバイ。これは本気でヤバイ。
尚も接近を続けるエリアスの端正な顔。私は彼の腕の中でジタバタ暴れた。
「そこまでに。ロックウィーナが困っている」
穏やかな声がエリアスを止めた。私を挟んで反対側に座るルービック師団長だった。気づいてくれた人が居た!
しかも私達以外の者には届かない小さな声だった。その細やかな気配りが嬉しい。
「…………あ」
我に返ったエリアスが即座に私から顔を離した。抱きしめていた腕も外して、彼もまた小さな声で謝罪してきた。
「すまないロックウィーナ。キミの気持ちを無視するところだった」
落ち込んだ様子の彼を見て私は罪悪感に苛まれた。
この人にはいつも我慢をさせてしまっているな。
誰よりも早く私へ「好きだ」と想いを伝えてくれた人。それから今日に至るまで、私の気持ちを最優先して優しく見守ってくれている。
だからこそ戸惑う。
こんな日が来るとは思わなかった。
遠くから見ることしかできなかったのに。
言葉を交わしたのはあの日、たった一度だけ。
憧れだった。初恋だった。
(………………………………?)
はて。
不意に脳裏に浮かんだ今の記憶は何だろう。
遠くから見ていた? 行き倒れた彼を捜索出動で発見するまで、エリアスのことは全く知らなかったよ?
それに私の初恋は、ムカつくけどあの金髪ロン毛だよね?
「ロックウィーナ……?」
私はエリアスの顔をマジマジと見ていた。
(おかしいな。私は彼のことをずっと前から知っている気がする。あの日、森で見つけたよりもずっと前から)
私の知る「彼」はこんなに彫りの深い顔じゃなかった。瞳の色も違う。顔立ちについてはエンの方がよく似ている。
でも強く、そして温かいこの眼差しは私の記憶に刻まれている。見ず知らずの下級生に親切にしてくれた優しさも。
(…………下級生?)
何を考えているのだろうか私は。エリアスと私は同郷じゃない。そもそも貴族の彼は学校に通わず、家庭教師が付いていたんじゃないかな。
「ロックウィーナ、どうかしたか?」
あ、数十秒もの間エリアスを凝視していたよ。不審がられた。
「あの、エリアスさんは森で会う前から私のことを……」
知っていましたか? という質問は最後まで言えなかった。遠くの方からワーッと、何人もの声が上がったからだ。
「!?」
兵士の誰かが羽目を外して馬鹿騒ぎをしていたのなら良かった。しかしその騒ぎは緊迫した雰囲気を孕んでいた。
ルービックら聖騎士三名がスッと立ち上がった。上官に倣ってミラとマリナも。全員で音の方を窺っていると、やがて一人の兵士がこちらへ駆けてきた。師団長が冒険者ギルドのメンバーと一緒に居ると知っていたのだろう。
「敵襲、敵襲です!」
兵士の報告を聞いて、私達ギルドメンバーも立ち上がった。スープが入った器がいくつかひっくり返った。
ルービックが冷静に兵士へ問うた。
「何処だ?」
「北東エリアです! 見張りの兵が襲われ、賊と戦闘中です!」
「……エドガー、身近な兵を率いて北東へ向かい賊を鎮圧せよ。ただしそちらは陽動の可能性が高い」
「そうですね。賊がアンダー・ドラゴンの残党なら、目当ては回収された財宝でしょうから」
「財宝を積んだ馬車については私とマシューで守りを固める。冒険者ギルドの諸君にも無理のない範囲で協力を願いたい」
「はい。ここまで来たらトコトン付き合いますよ」
ルパートが頷いた。他のメンバーも。
「それでは私は北東へ参ります。おまえと、ミラとマリナも共に来い」
「は、はいっ!」
鼻の下のお髭が印象的なエドガー連隊長は、伝令に来た兵士とミラとマリナを連れて駆けていった。みんな無事に帰ってきてね。
私も軽い腕のストレッチをして戦いに備えた……のだが、ルパートに水を差された。
「ウィー、おまえはユアンと一緒にここで待機だ」
また後ろへ下げられるのか。私の不満は口にする前にキースが封じた。
「そうですね。公民館でユアンが戦う姿を見ている兵士が居ますから、彼は前へ出ない方がいいでしょう。ロックウィーナ、ユアンと一緒に居てあげて下さい」
それは解るよ。首領の側近ユーリは毒で死んだことになっているのだから、生きているとバレたら面倒だよね。
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