ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
153 / 257

エリアスの背中(4)

しおりを挟む
「私も彼らと共に残ろう。アンドラの陽動部隊は何処に現れるか判らない。ここも決して安全じゃない」

 エリアスが申し出た。アルクナイトが幼馴染みの肩を軽く叩いて賛成した。

「そうだな。俺の次に強いエリーが残るなら小娘も忍者Ⅱも安全だろう。頼んだぞ」
「任せろ」
「小娘はナイーブだからな? 悪人解体ショーで怖がらせて泣かせるなよ?」
「さっさと行け馬鹿」

 魔王と勇者の平和なやり取り見ていると、横からにゅっとエンが顔を出した。ビビった。彼は覆面を付け直していたが、露出している部分の肌がまだ赤かった。

「ロックウィーナ、後で二人きりで話がした……」
「はいはいアナタも行きますよー。エンお兄様ー」

 棒読みのリリアナがエンの腕を組む形で引っ張った。

「待て。彼女と大切な約束を取り付け……」
「はいはーい。素直に一緒に来て下さーい。暴れないでねー? 変なトコに触れると銃が暴発しますよー?」
「ち……」

 聖騎士と冒険者ギルドメンバーは財宝馬車の在る中央エリアへ走り去った。その後ろ姿を見送ったユーリが苦笑した。

「いちいち賑やかな連中だな」

 そして私へ軽い謝罪をした。

「悪い。俺のせいで貧乏クジを引かせたようだ。戦いたかったんだろう? おまえは強いものな」
「……いや、弱いんだよ。だからいっつも先陣には入れてもらえない」
「自分を卑下するな。おまえに倒された俺の立場が無くなる」

 私は乾いた笑いで返した。

「あなたに勝てたのは奇跡だって、みんなに言われたよ……」
「ああ……?」

 ユーリは共に残ってくれたエリアスを睨んだ。

「ギルドの男どもはコイツの実力を認めてやっていないのか?」

 エリアスは躊躇ためらいがちに否定した。

「そんなことは無い。ロックウィーナは充分に強いと認識している」
「じゃあ何でコイツはこんなに自分に自信が持てないんだ? 卑屈のヒッちゃんになっているんだ?」

 ヒッちゃんって何だ。

「ヒッちゃんにさせてしまったのは悪いと思っている」

 エリアスも乗っちゃ駄目。二十代後半の男性の会話じゃない。

「だが……」
「だが?」
「惚れた女を命懸けの戦場へ出したくない。男のエゴだと批判されたとしても」
「……………………」

 素直な自分の気持ちをエリアスから吐露されて、ユーリは黙った。私はというとこんな時なのに、物憂げなエリアスの面持ちに見とれていた。だって色っぽかったんだもん。

「ロックウィーナ」
「は、はいぃっ!?」

 エロい妄想中だった私はエリアスに声をかけられて動揺した。

「さっき私に何を言おうとしたんだ?」
「さっき?」
「森で会う前から……どうとか」
「森……ああ」

 エリアスに強烈な既視感を抱いたんだった。ずっと前から彼を知っているような。それを確かめようと質問したけれど中断されたんだよね。

「あのですね、もしかしたらエリアスさんと私は前から……」

 私はまたもや最後まで言えなかった。肌がピキっと引きる感覚に襲われたから。
 殺気だ。
 鞭を握って気配を窺う。エリアスとユーリも抜刀して構えている。
 嫌な予感が的中か。アンダー・ドラゴンの陽動部隊、こちらにも現れたようだ。

(敵は何人だ……?)

 今の時刻は19時半頃だろうか。月光と焚き火のほのかなあかりだけでは広範囲を探れない。
 右斜め十メートル先がポンッと明るく光ったと思ったら、二連のファイヤーボールがこちらへ向かって飛んできた。敵には魔術師が居るのか!
 てい。私は軌道かられるように横っ飛びした。物理攻撃ならガードが可能だけれど、魔法攻撃に関してはけるしかない。
 とか思ったけどエリアスが大剣で火球をぎ払った。その剣には魔封じの印が彫られているんでしたね。

「ぎゃっ」

 男の短い悲鳴と誰かが倒れた音がした。ファイヤーボールの発射位置を読んだユーリが、クナイを投げ刺して敵の魔術師を倒したのだ。この暗い中でよく投擲とうてき武器を命中させられるものだ。

「畜生が……」

 暗闇から男達がゾロゾロと武器を手に現れた。遠距離攻撃が効かなかったので接近戦に切り替えた模様。夕飯の為に起こした焚き火の炎が招かれざる客の姿を照らし出した。
 総勢二十五名ほどだが、モヒカン率が異様に高い。素肌に革製のジャケット、棘の付いた肩当てを装着し、あまり精巧ではないタトゥーを入れている。この終末臭はアンダー・ドラゴン構成員に間違いない。の組織には服装規定でも有るのだろうか?

「ヒヒッ、殺すには惜しいイイ女が居る…………んん?」
「へ? あ、アンタはユーリさんかい!?」
「死んだって聞いたけど、生きてたのか!?」

 近付くことで私達側の細やかな容貌が敵へ伝わった。ユーリを見たアンダー・ドラゴン構成員達は皆一様に驚愕の表情を浮かべた。
 ユーリはマキアから借りた服でイメージチェンジを図ったものの、東国の特殊武器クナイを構える姿は首領の側近そのものであった。

「おいユーリさん、アンタは何でそっちに居るんだ……?」
「俺達を……組織を裏切ったのか!?」

 かつての仲間から問われてユーリは舌打ちをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

処理中です...