ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
165 / 257

それぞれの想い(2)

しおりを挟む
「魔力測定器で、火と風の二属性に適性有りと出たんです。でも風魔法はコントロールと使い道が難しくて……、だからずっと単純な火魔法だけを伸ばしてきました」
「ま、風魔法は補助系だからな。ちょっとややこしいよな」
「はい。でもルパート先輩の戦う姿を見ていたら、風魔法がすっげぇ便利だって気づいて……。俺は剣とかはからっきしで魔法しか使えないから、今後の為に戦える手段を増やしたいんです!」

 明確な目標を掲げたマキアへ、ルパートはニッコリ笑った。

「いいぜ。俺で良ければ訓練に付き合おう。ヤル気の有るヤツは好きだ」
「やった! ありがとうございます!!」
「若いっていいねぇ、青春だねぇ」

 年寄り臭く頷いているマシューにキースが尋ねた。

「マシュー中隊長はおいくつなのでしょうか? ちなみに僕は29歳です」
「今年で25で~す」
「えっ、私と同じ!?」

 マシューは妙に落ち着いているので、若く見えるけどもっと上かと思っていた。

「何だロックウィーナ、俺達ってタメかぁ! これからもっと仲良くしよーね!!」

 斜め前に座るマシューに手を握られてブンブン振られた。

「おっ、小さいな。俺、女のコの手を握ったの久し振りかも!!」

 駄目、やめて、男達の不快指数がどんどん上がっていくから。
 バスッ。

「いってぇぇ!!」

 案の定だ。私の対面、マシューの隣に座るキースが彼の手首にをお見舞いしていた。
 キース特殊能力である魅了の瞳は、悪い目的で利用したがる輩が出そうなのでギルド外には内緒にしている。それにしたってエリート騎士相手にを繰り出すとは、キースは大した度胸だと冷や冷やした。

「ユアンも25と言っていましたよ。同い年で仲良くなれそうな相手が居て良かったですね中隊長」

 そっか、ユーリも25歳か。彼も苦労したせいか大人っぽいよね。久しく身近に同い年が居なかったから何だか新鮮。
 マシューは手首付近をさすりながら口を尖らせた。

「どうせ仲良くなるなら女のコがいい……」
「まだ言いますか。中隊長には心に決めた相手がいらっしゃらないのですか? 異性からモテそうですけれど」
「うんまぁ、はっきり言って俺はモテますね。貴族だし聖騎士だし容姿もまぁまぁイケてますからね」
「胸を張り過ぎて後ろへ倒れなさい。モテるならロックウィーナにちょっかいかけなくてもいいじゃないですか。彼女は僕達にとって大切な仲間であり女性なんです。遊びで手を出さないで頂けます? 出したら呪います。中隊長はあなたを慕う、周りの素敵な女性達と真剣に向き合うべきです」
「……キースさんって癒しと護りをつかさどる白魔術師ですよね?」
「そうですが?」
「うん……何か…………うん」

 魔王相手にもひるまないキースさんだから。

「マシュー中隊長には今、お付き合いしている人が居ないんですか?」

 恋バナ好きなマキアが身を乗り出した。

「うん。特定の相手と深く付き合うより、たくさんの女のコと広く浅く遊びたい感じ」
「ああ、うん、そういう気持ちは俺にも有りました」
「過去形ってことは……今は違うの? マキア」
「はい。真剣な恋をしてみたいです。実は俺……、交際経験は有りますけど恋というものをよく解ってないんです」

 マキアにとって恋を知らないことはコンプレックスだったはずだ。それを自分から打ち明けるなんて。ルパートに風魔法を教わろうとしたり、マキアは変わろうとしているんだな。

「………………」
「やっぱ恋を知らないって引きますか?」
「いいや。でも俺には上手いアドバイスができないな」

 マシューはルパートに視線を移した。

「ルパート先輩は? ロックウィーナのことが大のお気に入りみたいですけど、彼女と真剣交際をしたいって思ってるんですか?」

 ルパートが静かに肯定した。

「思ってますよ。俺は彼女の心に生涯の忠誠を誓いましたから」
「え……」

 まるで臆することなく言葉にしたルパートを、マシューは大きく見開いた瞳で見つめた。

「生涯の忠誠って……プロポーズをしたのですか?」
「ええ。ライバルは多いですけど」

 ルパートとキースは顔を見合わせて、ふっと不敵に笑い合った。

「キースさんも……? 二人同時にプロポーズを?」
「僕達だけではありません。エリアスさんとアルも彼女との結婚を望んでいます。エンも恋心に気づいたようですし、参戦してくるかもしれませんね」
「どうして二人とも笑っていられるんです? 四人もの男がロックウィーナに求婚しているんでしょう? 想いが成就するのは四分の一の確率……。いや、ロックウィーナが誰も選ばない可能性だって有るのに!」

 何故だかマシューの余裕が無くなっていた。先程までは飄々ひょうひょうとしていたのに。
 答えたのはキースだった。

「そうですね……。そりゃあ想いが届かなかった場合はつらいでしょうね。でも、好きだという気持ちを抱えたまま何もせず、諦めるよりはずっといいです。少し前まで僕はそうだったんです」
「どうして今は気持ちを表に出したんです? 諦めかけていたんでしょう?」

 キースはふふっと声に出して笑った後、の口調で心情を語った。

「僕の心がそうしたいと叫んだからだよ。自分の心に従ったまでだ」

 ルパートも続いた。

「俺も……そうだったな。ウィーへの気持ちをはっきり自覚した途端、想いが溢れて止められなくなった。切っ掛けをくれたのはキースさんだったけどな」
「あれは大失敗だった。おまえの恋心は眠らせておくべきだった」
「もう遅いよ」

 ライバル同士で笑い、堂々と本音を言い合うキースとルパート。対してマシューは目線を落として唇をキュッと結んでいた。
 その様子を見て私は、マシューが人に言えないつらい恋をしているのだと密かに察した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

処理中です...