ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
177 / 257

冒険者ギルドへ帰還です!(6)

しおりを挟む
☆☆☆


 お風呂は最高だった。気持ち良過ぎて湯船の中で寝落ちしそうになるくらいに。頭も身体も二度洗いした。つるピカ肌だし自分の髪がいい匂い♡

「女、おまえも風呂だったか」

 浴室から廊下へ出たタイミングで、隣りのドアから出てきたユーリと鉢合わせした。女性用と男性用の浴室は並びの構造だ。ユーリも湯上り状態で頬がピンク色に染まっていた。
 ……そして、彼の横には弟分のエンも居た。

「………………」

 エンは無言で私に会釈して、そそくさとその場を後にした。自分の部屋へ戻ったのだろう。それを見送ったユーリが苦笑した。

「なぁ女、アイツのこと、フッた?」
「…………!」

 答えに困った。それでどうでもいい返しをしてしまった。

「……私の名前はロックウィーナだよ」
「え? 俺がおまえの名前を呼んでいいのか?」
「?」

 ユーリからはよく解らない質問をされた。

「呼べば?」
「いや俺さ……、おまえに多大な迷惑をかけただろう? 気安く名前を呼ばれるのは嫌なんじゃないかと思って」
「へ?」

 もしかしてユーリ、気を遣って私を「女」呼びしていたの? その結果として余計に失礼を働いているぞ馬鹿ちんが。

「女と呼ばれる方が嫌だよ。名前が有るんだから名前で呼んでよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」

 少年時代から戦場に身を置いていたユーリには、一般常識が欠如しているのかもしれない。

「んじゃロックウィーナ、おまえにはエンの様子がおかしい理由が判るか?」
「………………」
「マキアと喧嘩したと聞いたが、エンがけているのはマキアじゃなくておまえのような気がするんだ。昨日の昼までは、おまえに積極的に近付いてみんなを驚かせたアイツがさ」

 しっかり観察されていた。

「……うん、私が原因。でもゴメン、これ以上は聞かないで」

 昨夜のことを明かすとエンの立場が悪くなる。せっかくマキアが動いてくれたのが無駄になってしまう。

「今はそっとしておいてくれるかな? 急いで解決しようとすると、かえってエンとの関係がこじれてしまいそうなんだ」

 私達には時間が必要だ。

「……そうか」

 ユーリが片手で頭を搔いたのでシャンプーの香りが漂った。頭皮がシャキッとする男性に人気のやつだ。エンから借りたんだろう。去ったエンも同じ香りを残していったから……。

「アイツは俺以上に不器用だからな。迷惑をかけて悪いな」
「どうしてユアンが謝るの?」
「何となくだ」

 微笑んだユーリからは首領の側近としてのピリピリした空気が消えていた。じっと見つめてしまった私へ彼は不思議そうに尋ねた。

「どうした? ロックウィーナ」
「……早くユーリって名前を呼べるようになるといいね」
「………………」

 ユーリは私の洗い髪をくしゃっと撫でると、その手を上げて立ち去った。
 エンのことが気になるだろうに、しつこく追及しないでくれた。エンが兄と慕うだけあってユーリも良い人だ。

 ふう、と廊下の壁にもたれて一息吐いたところへ、また男性浴室のドアが開いて誰か出てきた。

「あ……!」

 マキアだった。顔を見合わせた私達は妙にドギマギした。

「……はは、みんな風呂に集結したみたいだね」
「そうなるよね。旅の間はお風呂のことばっかり考えていたもん」
「男は人数多いからシャワーの争奪が大変だったよ? エリアスさんとアルが肉体美を競ってポージング始めたり、もうゴッチャゴチャ」
「あはは……。まだ誰か入ってるの?」
「いや俺で最後。みんな部屋に戻ったんじゃない?」
「そっか……」
「うん………」

 会いたかったのに何故か気まずい。自然に言葉が出てこなくてぎこちない会話となった。マキアと話したいことがいっぱい有ったはずなのに。

 互いに少し沈黙した後、マキアがつらそうな顔をした。そして私へ聞いたのだ。

「ロックウィーナ、泣きたいんじゃない……?」
「!…………」

 その瞬間、私の両眼から涙がこぼれて頬を伝った。
 自覚は無かった。でもマキアの言葉で自分が泣きたかったんだと思い知った。
 エンに襲われて怖かった。そうなってしまったことが悲しかった。それなのに誰にも言えなくて、相談できなくて、無理やり感情を押し込めてしまっていたんだ。
 私の頬に引かれた涙の線を、マキアが肩に掛けていた自分のタオルで優しく拭いた。前にも彼に顔を拭かれたことが有ったなぁ。

 マキアと二人だけの廊下。私はしばし声を殺して静かに泣いた。そんな私にマキアは黙って付き添ってくれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

処理中です...