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冒険者ギルドへ帰還です!(6)
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☆☆☆
お風呂は最高だった。気持ち良過ぎて湯船の中で寝落ちしそうになるくらいに。頭も身体も二度洗いした。つるピカ肌だし自分の髪がいい匂い♡
「女、おまえも風呂だったか」
浴室から廊下へ出たタイミングで、隣りのドアから出てきたユーリと鉢合わせした。女性用と男性用の浴室は並びの構造だ。ユーリも湯上り状態で頬がピンク色に染まっていた。
……そして、彼の横には弟分のエンも居た。
「………………」
エンは無言で私に会釈して、そそくさとその場を後にした。自分の部屋へ戻ったのだろう。それを見送ったユーリが苦笑した。
「なぁ女、アイツのこと、フッた?」
「…………!」
答えに困った。それでどうでもいい返しをしてしまった。
「……私の名前はロックウィーナだよ」
「え? 俺がおまえの名前を呼んでいいのか?」
「?」
ユーリからはよく解らない質問をされた。
「呼べば?」
「いや俺さ……、おまえに多大な迷惑をかけただろう? 気安く名前を呼ばれるのは嫌なんじゃないかと思って」
「へ?」
もしかしてユーリ、気を遣って私を「女」呼びしていたの? その結果として余計に失礼を働いているぞ馬鹿ちんが。
「女と呼ばれる方が嫌だよ。名前が有るんだから名前で呼んでよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
少年時代から戦場に身を置いていたユーリには、一般常識が欠如しているのかもしれない。
「んじゃロックウィーナ、おまえにはエンの様子がおかしい理由が判るか?」
「………………」
「マキアと喧嘩したと聞いたが、エンが避けているのはマキアじゃなくておまえのような気がするんだ。昨日の昼までは、おまえに積極的に近付いてみんなを驚かせたアイツがさ」
しっかり観察されていた。
「……うん、私が原因。でもゴメン、これ以上は聞かないで」
昨夜のことを明かすとエンの立場が悪くなる。せっかくマキアが動いてくれたのが無駄になってしまう。
「今はそっとしておいてくれるかな? 急いで解決しようとすると、かえってエンとの関係がこじれてしまいそうなんだ」
私達には時間が必要だ。
「……そうか」
ユーリが片手で頭を搔いたのでシャンプーの香りが漂った。頭皮がシャキッとする男性に人気のやつだ。エンから借りたんだろう。去ったエンも同じ香りを残していったから……。
「アイツは俺以上に不器用だからな。迷惑をかけて悪いな」
「どうしてユアンが謝るの?」
「何となくだ」
微笑んだユーリからは首領の側近としてのピリピリした空気が消えていた。じっと見つめてしまった私へ彼は不思議そうに尋ねた。
「どうした? ロックウィーナ」
「……早くユーリって名前を呼べるようになるといいね」
「………………」
ユーリは私の洗い髪をくしゃっと撫でると、その手を上げて立ち去った。
エンのことが気になるだろうに、しつこく追及しないでくれた。エンが兄と慕うだけあってユーリも良い人だ。
ふう、と廊下の壁にもたれて一息吐いたところへ、また男性浴室のドアが開いて誰か出てきた。
「あ……!」
マキアだった。顔を見合わせた私達は妙にドギマギした。
「……はは、みんな風呂に集結したみたいだね」
「そうなるよね。旅の間はお風呂のことばっかり考えていたもん」
「男は人数多いからシャワーの争奪が大変だったよ? エリアスさんとアルが肉体美を競ってポージング始めたり、もうゴッチャゴチャ」
「あはは……。まだ誰か入ってるの?」
「いや俺で最後。みんな部屋に戻ったんじゃない?」
「そっか……」
「うん………」
会いたかったのに何故か気まずい。自然に言葉が出てこなくてぎこちない会話となった。マキアと話したいことがいっぱい有ったはずなのに。
互いに少し沈黙した後、マキアがつらそうな顔をした。そして私へ聞いたのだ。
「ロックウィーナ、泣きたいんじゃない……?」
「!…………」
その瞬間、私の両眼から涙が零れて頬を伝った。
自覚は無かった。でもマキアの言葉で自分が泣きたかったんだと思い知った。
エンに襲われて怖かった。そうなってしまったことが悲しかった。それなのに誰にも言えなくて、相談できなくて、無理やり感情を押し込めてしまっていたんだ。
私の頬に引かれた涙の線を、マキアが肩に掛けていた自分のタオルで優しく拭いた。前にも彼に顔を拭かれたことが有ったなぁ。
マキアと二人だけの廊下。私はしばし声を殺して静かに泣いた。そんな私にマキアは黙って付き添ってくれていた。
お風呂は最高だった。気持ち良過ぎて湯船の中で寝落ちしそうになるくらいに。頭も身体も二度洗いした。つるピカ肌だし自分の髪がいい匂い♡
「女、おまえも風呂だったか」
浴室から廊下へ出たタイミングで、隣りのドアから出てきたユーリと鉢合わせした。女性用と男性用の浴室は並びの構造だ。ユーリも湯上り状態で頬がピンク色に染まっていた。
……そして、彼の横には弟分のエンも居た。
「………………」
エンは無言で私に会釈して、そそくさとその場を後にした。自分の部屋へ戻ったのだろう。それを見送ったユーリが苦笑した。
「なぁ女、アイツのこと、フッた?」
「…………!」
答えに困った。それでどうでもいい返しをしてしまった。
「……私の名前はロックウィーナだよ」
「え? 俺がおまえの名前を呼んでいいのか?」
「?」
ユーリからはよく解らない質問をされた。
「呼べば?」
「いや俺さ……、おまえに多大な迷惑をかけただろう? 気安く名前を呼ばれるのは嫌なんじゃないかと思って」
「へ?」
もしかしてユーリ、気を遣って私を「女」呼びしていたの? その結果として余計に失礼を働いているぞ馬鹿ちんが。
「女と呼ばれる方が嫌だよ。名前が有るんだから名前で呼んでよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
少年時代から戦場に身を置いていたユーリには、一般常識が欠如しているのかもしれない。
「んじゃロックウィーナ、おまえにはエンの様子がおかしい理由が判るか?」
「………………」
「マキアと喧嘩したと聞いたが、エンが避けているのはマキアじゃなくておまえのような気がするんだ。昨日の昼までは、おまえに積極的に近付いてみんなを驚かせたアイツがさ」
しっかり観察されていた。
「……うん、私が原因。でもゴメン、これ以上は聞かないで」
昨夜のことを明かすとエンの立場が悪くなる。せっかくマキアが動いてくれたのが無駄になってしまう。
「今はそっとしておいてくれるかな? 急いで解決しようとすると、かえってエンとの関係がこじれてしまいそうなんだ」
私達には時間が必要だ。
「……そうか」
ユーリが片手で頭を搔いたのでシャンプーの香りが漂った。頭皮がシャキッとする男性に人気のやつだ。エンから借りたんだろう。去ったエンも同じ香りを残していったから……。
「アイツは俺以上に不器用だからな。迷惑をかけて悪いな」
「どうしてユアンが謝るの?」
「何となくだ」
微笑んだユーリからは首領の側近としてのピリピリした空気が消えていた。じっと見つめてしまった私へ彼は不思議そうに尋ねた。
「どうした? ロックウィーナ」
「……早くユーリって名前を呼べるようになるといいね」
「………………」
ユーリは私の洗い髪をくしゃっと撫でると、その手を上げて立ち去った。
エンのことが気になるだろうに、しつこく追及しないでくれた。エンが兄と慕うだけあってユーリも良い人だ。
ふう、と廊下の壁にもたれて一息吐いたところへ、また男性浴室のドアが開いて誰か出てきた。
「あ……!」
マキアだった。顔を見合わせた私達は妙にドギマギした。
「……はは、みんな風呂に集結したみたいだね」
「そうなるよね。旅の間はお風呂のことばっかり考えていたもん」
「男は人数多いからシャワーの争奪が大変だったよ? エリアスさんとアルが肉体美を競ってポージング始めたり、もうゴッチャゴチャ」
「あはは……。まだ誰か入ってるの?」
「いや俺で最後。みんな部屋に戻ったんじゃない?」
「そっか……」
「うん………」
会いたかったのに何故か気まずい。自然に言葉が出てこなくてぎこちない会話となった。マキアと話したいことがいっぱい有ったはずなのに。
互いに少し沈黙した後、マキアがつらそうな顔をした。そして私へ聞いたのだ。
「ロックウィーナ、泣きたいんじゃない……?」
「!…………」
その瞬間、私の両眼から涙が零れて頬を伝った。
自覚は無かった。でもマキアの言葉で自分が泣きたかったんだと思い知った。
エンに襲われて怖かった。そうなってしまったことが悲しかった。それなのに誰にも言えなくて、相談できなくて、無理やり感情を押し込めてしまっていたんだ。
私の頬に引かれた涙の線を、マキアが肩に掛けていた自分のタオルで優しく拭いた。前にも彼に顔を拭かれたことが有ったなぁ。
マキアと二人だけの廊下。私はしばし声を殺して静かに泣いた。そんな私にマキアは黙って付き添ってくれていた。
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