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素直になりたくて(5)
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小物雑貨の店を出た私達は、まだ11時前だったが昼食を摂ることにした。忙しい冒険者ギルドで働いていると早目早目の行動が癖になる。
「店へ入って座って食べるか、屋台を回って食べ歩きするか、ウィーはどっちにしたい?」
わぁ。ルパートが私に選択権を委ねてくれている! 聞き方も優しい!
彼と街は何度も歩いたけれど、いつだって先輩後輩の関係のままで色気も素っ気も無く、ルパートに「ここで食うぞ」と言われたら従うしかなかった。
これがデートなんだね……。感動。
「でしたらカフェに行ってみたいです! 実はまだ一度も行ったことが無いんです」
「え、そうなん? 一度も?」
「はい。私はカフェと言うものにお洒落な大人のイメージを抱いていて、敷居が高くて一人じゃ入る勇気が出なかったんですよ。この街では年の近い友達も居なかったし……。いつか恋人ができたら、一緒に訪れたいなーって密かに思っていました」
「……………………」
ん? ルパートが右手で自分の口元を押さえて俯いたよ。どした?
「あ」
私は口を滑らせてとんでもないことを発言していた。恋人ができたら一緒にって……。
「ぎゃー!! 違ーう、後半部分は間違いです! 忘れて!!」
ルパートは肩を震わせた。声を殺しているけど確実に笑っているよね?
「いいよ、カフェに行こう」
やっぱりと言うか手を離したヤツの口元はニヤけていた。ぬう。
「路に人が増えてきたな。はぐれるなよ?」
言ってルパートは私の手を取り、軽く曲げた自分の腕に絡ませた。ひゃあ私、ルパートと腕を組んじゃった!
のぼせた上でガチガチに緊張してしまった私を、彼は意外なほどスムーズにエスコートしてくれた。流石は元聖騎士様だ。貴族のパーティに招かれた経験が有るそうだし、レディの扱いについても学んだのだろう。
そうして連れていかれたのは、カップル客が多い正にデートにうってつけの店だった。同じカフェでも家族向けの開放的な店とは違い、こちらはテーブルごとに壁の仕切りが在るボックス仕様だ。周囲を気にせずお喋りを楽しめそう。
メニューを見てルパートはチキンハンバーグプレートを、私はオムライスを注文した。料理は美味しく頂いた。ザ・男メシ的な冒険者ギルド食堂では見られない、可愛い盛り付け方にもテンションが上がった。
見るもの触れるものにいちいち感動している私を、対面に座るルパートは温かい眼差しで見守っていた。
「すみません……初めてづくしで興奮しちゃって。田舎者丸出しですね、私」
「連れが楽しそうにしてんの見るのは気分イイよ。それに俺だって初めて王都に行った時はキョロキョロしまくった。ド田舎出身はお互い様だ」
ああ、そんなことを出会ってすぐの頃に聞いたっけ。自分も都会に憧れて田舎から出てきたクチだって。先輩で教育係だった彼のプライベートに踏み込むことに躊躇して、当時はそれ以上聞けなかったけど。
「先輩は子供時代どんな感じだったんですか?」
「村一番の美少年。降臨した天の使い」
「でしょうねぇ(呪)」
「マジな話、器用に何でもできたから神童って呼ばれてた。怖いもの知らずで、俺ならデカイ街に出ても成功するって信じてたよ」
「実際に出世しましたもんね」
天才と呼ばれる子供達はたくさん居る。しかしその大半が成人する頃には周囲と変わらない平均的な能力となり、平凡な人生を送ることになる。エリートである聖騎士となれたルパートは稀な例だろう。
彼がかつて在籍していた王国兵団の兵士には、大きく分けて三つのランクが存在する。志願すればなれる一般兵、難しい試験を突破した騎士、騎士の中から魔法特性を有する者が就ける聖騎士。
「出身村はここから遠いんですか?」
「まぁな。フィースノーからだと馬車でどれくらいになるのか……。徒歩は絶対にやめておけと言える距離だ」
「そう言えば先輩、待ち合わせの本屋で旅行関連のコーナーに居ましたよね? また遠くへ出動する予定が有るんですか?」
「あ、あれは……だな」
ルパートは何故か一瞬慌てたが、食後のコーヒーを口に含んで気持ちを落ち着かせていた。ちなみに私のデザートはフルーツサンデーだ。子供っぽいかもしれないけど、ずっと食べたかったんだよねコレ。
私が生クリームにデコレーションされたバニラアイスをうっとり食していると、ルパートが意を決したように切り出した。
「……おまえと二人で、いつか旅行したいと思ってさ」
「!」
私はむせそうになった。私と旅行? ルパートがした発言の意図を速攻で確認した。
「それは仕事で……?」
「いやプライベートでだよ」
にょ!?
「プ、プライベートでですか? ふふふ二人で!?」
今度は私が慌てる番だった。盛大にどもってしまった私に彼は苦笑した。
「すぐにって訳じゃねーよ。まだ先の話。出動班はずっと人手不足で中々連休を取れない状況だったけど、マキアにエン、それにユアンも入っただろ? アイツらがギルドに馴染んだ頃には多少の余裕ができるはずだ」
「そうですよね、三人も増えたんだから、もっとゆったり仕事ができるようになりますよね」
人手が増えることは大歓迎だ。連休を貰えることも。
「うん。そうなったらさ、三日間くらい休み取ってちょっと遠出しようや」
「遠出と言うことは……あの、と、と、泊りになりますよね?」
ここが最も重要なポイントだったりする。ルパートは頭を掻いた。
「まぁ……おまえさえ良ければだけど……」
うっはぁ。
日帰りではなく泊りの旅行。意識し合う二十代の男女がこの状況で何もしない訳がない。何も起きなかったら逆にビックリだ。
「店へ入って座って食べるか、屋台を回って食べ歩きするか、ウィーはどっちにしたい?」
わぁ。ルパートが私に選択権を委ねてくれている! 聞き方も優しい!
彼と街は何度も歩いたけれど、いつだって先輩後輩の関係のままで色気も素っ気も無く、ルパートに「ここで食うぞ」と言われたら従うしかなかった。
これがデートなんだね……。感動。
「でしたらカフェに行ってみたいです! 実はまだ一度も行ったことが無いんです」
「え、そうなん? 一度も?」
「はい。私はカフェと言うものにお洒落な大人のイメージを抱いていて、敷居が高くて一人じゃ入る勇気が出なかったんですよ。この街では年の近い友達も居なかったし……。いつか恋人ができたら、一緒に訪れたいなーって密かに思っていました」
「……………………」
ん? ルパートが右手で自分の口元を押さえて俯いたよ。どした?
「あ」
私は口を滑らせてとんでもないことを発言していた。恋人ができたら一緒にって……。
「ぎゃー!! 違ーう、後半部分は間違いです! 忘れて!!」
ルパートは肩を震わせた。声を殺しているけど確実に笑っているよね?
「いいよ、カフェに行こう」
やっぱりと言うか手を離したヤツの口元はニヤけていた。ぬう。
「路に人が増えてきたな。はぐれるなよ?」
言ってルパートは私の手を取り、軽く曲げた自分の腕に絡ませた。ひゃあ私、ルパートと腕を組んじゃった!
のぼせた上でガチガチに緊張してしまった私を、彼は意外なほどスムーズにエスコートしてくれた。流石は元聖騎士様だ。貴族のパーティに招かれた経験が有るそうだし、レディの扱いについても学んだのだろう。
そうして連れていかれたのは、カップル客が多い正にデートにうってつけの店だった。同じカフェでも家族向けの開放的な店とは違い、こちらはテーブルごとに壁の仕切りが在るボックス仕様だ。周囲を気にせずお喋りを楽しめそう。
メニューを見てルパートはチキンハンバーグプレートを、私はオムライスを注文した。料理は美味しく頂いた。ザ・男メシ的な冒険者ギルド食堂では見られない、可愛い盛り付け方にもテンションが上がった。
見るもの触れるものにいちいち感動している私を、対面に座るルパートは温かい眼差しで見守っていた。
「すみません……初めてづくしで興奮しちゃって。田舎者丸出しですね、私」
「連れが楽しそうにしてんの見るのは気分イイよ。それに俺だって初めて王都に行った時はキョロキョロしまくった。ド田舎出身はお互い様だ」
ああ、そんなことを出会ってすぐの頃に聞いたっけ。自分も都会に憧れて田舎から出てきたクチだって。先輩で教育係だった彼のプライベートに踏み込むことに躊躇して、当時はそれ以上聞けなかったけど。
「先輩は子供時代どんな感じだったんですか?」
「村一番の美少年。降臨した天の使い」
「でしょうねぇ(呪)」
「マジな話、器用に何でもできたから神童って呼ばれてた。怖いもの知らずで、俺ならデカイ街に出ても成功するって信じてたよ」
「実際に出世しましたもんね」
天才と呼ばれる子供達はたくさん居る。しかしその大半が成人する頃には周囲と変わらない平均的な能力となり、平凡な人生を送ることになる。エリートである聖騎士となれたルパートは稀な例だろう。
彼がかつて在籍していた王国兵団の兵士には、大きく分けて三つのランクが存在する。志願すればなれる一般兵、難しい試験を突破した騎士、騎士の中から魔法特性を有する者が就ける聖騎士。
「出身村はここから遠いんですか?」
「まぁな。フィースノーからだと馬車でどれくらいになるのか……。徒歩は絶対にやめておけと言える距離だ」
「そう言えば先輩、待ち合わせの本屋で旅行関連のコーナーに居ましたよね? また遠くへ出動する予定が有るんですか?」
「あ、あれは……だな」
ルパートは何故か一瞬慌てたが、食後のコーヒーを口に含んで気持ちを落ち着かせていた。ちなみに私のデザートはフルーツサンデーだ。子供っぽいかもしれないけど、ずっと食べたかったんだよねコレ。
私が生クリームにデコレーションされたバニラアイスをうっとり食していると、ルパートが意を決したように切り出した。
「……おまえと二人で、いつか旅行したいと思ってさ」
「!」
私はむせそうになった。私と旅行? ルパートがした発言の意図を速攻で確認した。
「それは仕事で……?」
「いやプライベートでだよ」
にょ!?
「プ、プライベートでですか? ふふふ二人で!?」
今度は私が慌てる番だった。盛大にどもってしまった私に彼は苦笑した。
「すぐにって訳じゃねーよ。まだ先の話。出動班はずっと人手不足で中々連休を取れない状況だったけど、マキアにエン、それにユアンも入っただろ? アイツらがギルドに馴染んだ頃には多少の余裕ができるはずだ」
「そうですよね、三人も増えたんだから、もっとゆったり仕事ができるようになりますよね」
人手が増えることは大歓迎だ。連休を貰えることも。
「うん。そうなったらさ、三日間くらい休み取ってちょっと遠出しようや」
「遠出と言うことは……あの、と、と、泊りになりますよね?」
ここが最も重要なポイントだったりする。ルパートは頭を掻いた。
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