189 / 257
素直になりたくて(12)
しおりを挟む
(私ってば……。ルパートとデートしたばかりなのに、他の男性に気を持っていかれるなんて)
私の為に今日いろいろしてくれたルパートを裏切った気分になった。合意の上でキスまでした仲なのに。
だけどこの際認めよう、私はエリアスにも惹かれている。貴族と平民という身分差さえ無ければプロポーズを承諾したかもしれない、そのくらい彼を好きになってしまっている。
……たとえエリアスに対するこの温かい気持ちが、私を生み出した岩見鈴音から受け継いだものだとしても。彼女が創造した十日間を過ぎても変わらずにエリアスを好きなのだから、これはもう私の中から湧き上がる想いなんだ。
「どうか……したか?」
遠慮がちに後ろから声がかかった。振り返るとそこにエンが居た。
不安そうに私を見る彼は精彩さに欠けていた。
「廊下で突っ立って、何か困り事か?」
「あ、いや、ただボ~ッとしてただけ」
「それならいい。じゃあ……」
エンは自分の部屋へ向かって歩き出した。今は私を避けたいだろうに、心配して声をかけてくれたのだ。
「エン、今日の出動は?」
すれ違う瞬間に彼へ尋ねた。エンは歩みを止めた。
「もう済んだ。残りの就業時間はギルド内の雑務をやる予定だったんだが、出動中に負傷した俺は早退扱いになった」
「えっ、怪我したの!?」
エンを観察すると左腕の肘付近の服が少し破れており、真新しい包帯が巻かれていた。
「大した傷じゃない。薬師のマーカスさんに手当てしてもらったし、キースさんが戻ったら回復魔法をお願いする」
「手強いモンスターが出たの?」
エンは悔しそうに眉を歪めた。
「いや……。今日の探索フィールドはDランクだった。負傷してしまったのは戦闘中に俺の集中力が切れた結果だ」
Dランクなら私でも余裕を持って臨めるフィールドだ。戦闘のプロである忍者のエンが苦戦するような敵は居ない。となると……。
「エン、私のことで悩んでるの?」
覆面で顔半分を隠していても判った。図星を刺された彼は表情を強張らせた。
「……………………」
エンは私から目を逸らした。
「俺はこれほどまでに……、自分が余裕の無い人間だと知らなかった」
苦しそうに彼は心情を吐露した。
「自分勝手な欲望でアンタを襲って、後悔して、任務中に気持の切り替えができずにミスを犯した」
「………………」
「それなのに……こんなに情けない状態なのに……、今アンタと話せていることが嬉しい」
(エン……)
恋をすると誰でも不器用になるよ。私もそうだった。
こう思えるのはマキアの胸を借りて泣いたおかげだな。溜めたストレスの多くをあの時に吐き出せた気がする。
「話せて嬉しいならいくらだって会話するよ。エンは大切な仲間なんだから」
「!…………」
私の発言にエンは驚いて目を丸くした。
「ロックウィーナ、俺を…………許すのか?」
「許す訳ないでしょう」
即座に否定されたエンは一歩後ろへよろめいた。
「相手の気持ちを無視して襲うのは絶対に駄目。怖かったし、信頼していたのに心を踏みにじられた気がして悲しかったよ」
「すまない…………」
「でもエンが悩んで怪我をするのは嫌だから、お喋りするし、同じテーブルでご飯食べるし、出動中は協力し合う」
「………………」
「くだらないことで笑い合ったり、つらい時には一緒に泣いてあげる。あの晩のことは許さないけどね!」
「ロックウィーナ……」
まだ語調に力は無いが、エンは私を真っ直ぐ見た。
「ありがとう。いつか……アンタに背中を預けてもらえるような男になれるよう精進する」
背中を預ける相手か。エンらしい表現だ。
彼は私にペコリと頭を下げた後、今度こそ自分の部屋へ引っ込んだ。怪我の具合が軽ければいいな。
(私も休もう……)
身体が重くてダルイ。そりゃそうだ、疲れているよ。アンダー・ドラゴン本拠地壊滅作戦で一週間近く遠征、帰った後も二日間働いて今日は久し振りの休日だった。
デート中に足取りが軽く感じたのは、楽しくて気持ちが浮ついていたからだな。
「ふうっ……」
共同水場で顔を洗ってメイクを落とした後、私は自室へ戻りベッドに大の字で寝転んだ。そうしたらチクッと軽く、枕に沈めた後ろ頭が刺激された。そうだ、バレッタを付けていたんだった。
起き上がって外した髪飾りの蝶を、そっと机の上に着陸させてしばし眺めた。
(ありがとう、ルパート)
エリアスにエン、ごめんなさい。今日一日はルパートへ捧げたい気分なんだ。彼のことだけを考えて過ごしたい。
早めにデートを切り上げることになったけど、あのまま夜まで街に居たらどうなっていたのかな。お酒とか飲んじゃったり? 冬だったら公園のイルミネーションを二人で見ただろうな。
私は再びベッドに横になり、目覚まし時計をセットして夕食の時間まで昼寝をすることにした。
夢の中で、ルパートとデートの続きができることを期待して。
私の為に今日いろいろしてくれたルパートを裏切った気分になった。合意の上でキスまでした仲なのに。
だけどこの際認めよう、私はエリアスにも惹かれている。貴族と平民という身分差さえ無ければプロポーズを承諾したかもしれない、そのくらい彼を好きになってしまっている。
……たとえエリアスに対するこの温かい気持ちが、私を生み出した岩見鈴音から受け継いだものだとしても。彼女が創造した十日間を過ぎても変わらずにエリアスを好きなのだから、これはもう私の中から湧き上がる想いなんだ。
「どうか……したか?」
遠慮がちに後ろから声がかかった。振り返るとそこにエンが居た。
不安そうに私を見る彼は精彩さに欠けていた。
「廊下で突っ立って、何か困り事か?」
「あ、いや、ただボ~ッとしてただけ」
「それならいい。じゃあ……」
エンは自分の部屋へ向かって歩き出した。今は私を避けたいだろうに、心配して声をかけてくれたのだ。
「エン、今日の出動は?」
すれ違う瞬間に彼へ尋ねた。エンは歩みを止めた。
「もう済んだ。残りの就業時間はギルド内の雑務をやる予定だったんだが、出動中に負傷した俺は早退扱いになった」
「えっ、怪我したの!?」
エンを観察すると左腕の肘付近の服が少し破れており、真新しい包帯が巻かれていた。
「大した傷じゃない。薬師のマーカスさんに手当てしてもらったし、キースさんが戻ったら回復魔法をお願いする」
「手強いモンスターが出たの?」
エンは悔しそうに眉を歪めた。
「いや……。今日の探索フィールドはDランクだった。負傷してしまったのは戦闘中に俺の集中力が切れた結果だ」
Dランクなら私でも余裕を持って臨めるフィールドだ。戦闘のプロである忍者のエンが苦戦するような敵は居ない。となると……。
「エン、私のことで悩んでるの?」
覆面で顔半分を隠していても判った。図星を刺された彼は表情を強張らせた。
「……………………」
エンは私から目を逸らした。
「俺はこれほどまでに……、自分が余裕の無い人間だと知らなかった」
苦しそうに彼は心情を吐露した。
「自分勝手な欲望でアンタを襲って、後悔して、任務中に気持の切り替えができずにミスを犯した」
「………………」
「それなのに……こんなに情けない状態なのに……、今アンタと話せていることが嬉しい」
(エン……)
恋をすると誰でも不器用になるよ。私もそうだった。
こう思えるのはマキアの胸を借りて泣いたおかげだな。溜めたストレスの多くをあの時に吐き出せた気がする。
「話せて嬉しいならいくらだって会話するよ。エンは大切な仲間なんだから」
「!…………」
私の発言にエンは驚いて目を丸くした。
「ロックウィーナ、俺を…………許すのか?」
「許す訳ないでしょう」
即座に否定されたエンは一歩後ろへよろめいた。
「相手の気持ちを無視して襲うのは絶対に駄目。怖かったし、信頼していたのに心を踏みにじられた気がして悲しかったよ」
「すまない…………」
「でもエンが悩んで怪我をするのは嫌だから、お喋りするし、同じテーブルでご飯食べるし、出動中は協力し合う」
「………………」
「くだらないことで笑い合ったり、つらい時には一緒に泣いてあげる。あの晩のことは許さないけどね!」
「ロックウィーナ……」
まだ語調に力は無いが、エンは私を真っ直ぐ見た。
「ありがとう。いつか……アンタに背中を預けてもらえるような男になれるよう精進する」
背中を預ける相手か。エンらしい表現だ。
彼は私にペコリと頭を下げた後、今度こそ自分の部屋へ引っ込んだ。怪我の具合が軽ければいいな。
(私も休もう……)
身体が重くてダルイ。そりゃそうだ、疲れているよ。アンダー・ドラゴン本拠地壊滅作戦で一週間近く遠征、帰った後も二日間働いて今日は久し振りの休日だった。
デート中に足取りが軽く感じたのは、楽しくて気持ちが浮ついていたからだな。
「ふうっ……」
共同水場で顔を洗ってメイクを落とした後、私は自室へ戻りベッドに大の字で寝転んだ。そうしたらチクッと軽く、枕に沈めた後ろ頭が刺激された。そうだ、バレッタを付けていたんだった。
起き上がって外した髪飾りの蝶を、そっと机の上に着陸させてしばし眺めた。
(ありがとう、ルパート)
エリアスにエン、ごめんなさい。今日一日はルパートへ捧げたい気分なんだ。彼のことだけを考えて過ごしたい。
早めにデートを切り上げることになったけど、あのまま夜まで街に居たらどうなっていたのかな。お酒とか飲んじゃったり? 冬だったら公園のイルミネーションを二人で見ただろうな。
私は再びベッドに横になり、目覚まし時計をセットして夕食の時間まで昼寝をすることにした。
夢の中で、ルパートとデートの続きができることを期待して。
1
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる