ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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素直になりたくて(12)

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(私ってば……。ルパートとデートしたばかりなのに、他の男性に気を持っていかれるなんて)

 私の為に今日いろいろしてくれたルパートを裏切った気分になった。合意の上でキスまでした仲なのに。
 だけどこの際認めよう、私はエリアスにもかれている。貴族と平民という身分差さえ無ければプロポーズを承諾したかもしれない、そのくらい彼を好きになってしまっている。
 ……たとえエリアスに対するこの温かい気持ちが、私を生み出した岩見鈴音から受け継いだものだとしても。彼女が創造した十日間を過ぎても変わらずにエリアスを好きなのだから、これはもう私の中から湧き上がる想いなんだ。

「どうか……したか?」

 遠慮がちに後ろから声がかかった。振り返るとそこにエンが居た。
 不安そうに私を見る彼は精彩さに欠けていた。

「廊下で突っ立って、何か困り事か?」
「あ、いや、ただボ~ッとしてただけ」
「それならいい。じゃあ……」

 エンは自分の部屋へ向かって歩き出した。今は私をけたいだろうに、心配して声をかけてくれたのだ。

「エン、今日の出動は?」

 すれ違う瞬間に彼へ尋ねた。エンは歩みを止めた。

「もう済んだ。残りの就業時間はギルド内の雑務をやる予定だったんだが、出動中に負傷した俺は早退扱いになった」
「えっ、怪我したの!?」

 エンを観察すると左腕の肘付近の服が少し破れており、真新しい包帯が巻かれていた。

「大した傷じゃない。薬師のマーカスさんに手当てしてもらったし、キースさんが戻ったら回復魔法をお願いする」
「手強いモンスターが出たの?」

 エンは悔しそうに眉を歪めた。

「いや……。今日の探索フィールドはDランクだった。負傷してしまったのは戦闘中に俺の集中力が切れた結果だ」

 Dランクなら私でも余裕を持ってのぞめるフィールドだ。戦闘のプロである忍者のエンが苦戦するような敵は居ない。となると……。

「エン、私のことで悩んでるの?」

 覆面で顔半分を隠していても判った。図星を刺された彼は表情を強張こわばらせた。

「……………………」

 エンは私から目をらした。

「俺はこれほどまでに……、自分が余裕の無い人間だと知らなかった」

 苦しそうに彼は心情を吐露した。

「自分勝手な欲望でアンタを襲って、後悔して、任務中に気持の切り替えができずにミスを犯した」
「………………」
「それなのに……こんなに情けない状態なのに……、今アンタと話せていることが嬉しい」

(エン……)

 恋をすると誰でも不器用になるよ。私もそうだった。
 こう思えるのはマキアの胸を借りて泣いたおかげだな。溜めたストレスの多くをあの時に吐き出せた気がする。

「話せて嬉しいならいくらだって会話するよ。エンは大切な仲間なんだから」
「!…………」

 私の発言にエンは驚いて目を丸くした。

「ロックウィーナ、俺を…………許すのか?」
「許す訳ないでしょう」

 即座に否定されたエンは一歩後ろへよろめいた。

「相手の気持ちを無視して襲うのは絶対に駄目。怖かったし、信頼していたのに心を踏みにじられた気がして悲しかったよ」
「すまない…………」
「でもエンが悩んで怪我をするのは嫌だから、お喋りするし、同じテーブルでご飯食べるし、出動中は協力し合う」
「………………」
「くだらないことで笑い合ったり、つらい時には一緒に泣いてあげる。あの晩のことは許さないけどね!」
「ロックウィーナ……」

 まだ語調に力は無いが、エンは私を真っ直ぐ見た。

「ありがとう。いつか……アンタに背中を預けてもらえるような男になれるよう精進する」

 背中を預ける相手か。エンらしい表現だ。
 彼は私にペコリと頭を下げた後、今度こそ自分の部屋へ引っ込んだ。怪我の具合が軽ければいいな。

(私も休もう……)

 身体が重くてダルイ。そりゃそうだ、疲れているよ。アンダー・ドラゴン本拠地壊滅作戦で一週間近く遠征、帰った後も二日間働いて今日は久し振りの休日だった。
 デート中に足取りが軽く感じたのは、楽しくて気持ちが浮ついていたからだな。

「ふうっ……」

 共同水場で顔を洗ってメイクを落とした後、私は自室へ戻りベッドに大の字で寝転んだ。そうしたらチクッと軽く、枕に沈めた後ろ頭が刺激された。そうだ、バレッタを付けていたんだった。
 起き上がって外した髪飾りの蝶を、そっと机の上に着陸させてしばし眺めた。

(ありがとう、ルパート)

 エリアスにエン、ごめんなさい。今日一日はルパートへ捧げたい気分なんだ。彼のことだけを考えて過ごしたい。
 早めにデートを切り上げることになったけど、あのまま夜まで街に居たらどうなっていたのかな。お酒とか飲んじゃったり? 冬だったら公園のイルミネーションを二人で見ただろうな。

 私は再びベッドに横になり、目覚まし時計をセットして夕食の時間まで昼寝をすることにした。
 夢の中で、ルパートとデートの続きができることを期待して。
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