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燻る火種(3)
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「どうして首領はフィースノーへ来たがるの?」
「………………」
私の問いかけにユーリは更に表情を暗くして黙り込んでしまった。マシューが彼の代わりに答えた。
「フィースノーの隣にはレクセン地方が在るよね。レクセンはさ…、かつてアーク家が治めていた土地なんだよ」
「!」
アーク家は首領レスターの実家だ。
人の良さにつけ込まれた伯爵である父親が、騙されて知らぬ間に犯罪の片棒を担がされ、その罪で領地を取り上げられたと聞いた。……妻と共に自害して果てたとも。
レクセンの領主だったのか。
「でもそれだったら首領の潜伏先はレクセンでは……」
言いかけて私は意見を引っ込めた。
「土地勘が有るとはいえ、レクセンでは活動しにくいですね。領主の息子さんだったのなら、彼の顔を知っている人が大勢居るでしょうから」
「そうだね……」
同じく領主の息子であるマシューが哀しそうに頷いた。
「顔を知られているしご両親のことが有るから、首領はレクセンを意図的に避けていたんだと思う。それでもやっぱり、故郷のことが気になるんだろうね」
「………………」
レスターは隣のフィースノーから帰れぬ故郷を眺めていたのか。同情してはいけない相手なのだが、レスターの心情を考えると切なくなった。ユーリもそうなのだろう、テーブルの上に置かれた拳が強く握られていた。
ルパートが話を戻した。
「それで首領が潜伏先にフィースノーを選んだと兵団は見ているのか? 国境警備兵を買収して、奴が国外へ逃亡を図る可能性は?」
「それは無い」
断言したルービックが顔を引き締めた。
「現在、誰も国の外へは出られない状態なんだよ。国に在る三カ所の国境検問所は全て封鎖されている」
「アンドラ対策で国境封鎖までしてしまったのか? 他国からの物資や人員の流動までもが止まっちまうぞ」
「経済面で大きなマイナスとなるだろうな。だがそうせざるを得ない状況なんだよ。アンダー・ドラゴン関係無く、危険だという理由で」
「危険?」
「報告によると国境周辺が、一メートル先も見通せない程の深い霧に覆われてしまったそうなんだ」
「霧に……? 北、東、西の三カ所とも?」
我らがラグゼリア王国は南方が海に面している。
「そうだ。しかも様子を見に霧の中へ向かわせた兵士が、いくら待っても戻ってこなかったというオマケ付きだ。霧の発生は我々がアンダー・ドラゴン本拠地へ攻め入った時期とほぼ同じらしいから、首領は国の外へ出られてはいないだろう」
「ええっ!?」
初めてもたらされた物騒な情報に、冒険者ギルドメンバーは顔を見合わせた。
「国の周辺が霧に覆われた……。未曾有の異常気象が起きたのか?」
「兵士が戻らないって、生死すら不明なんですか?」
「今ラグゼリアは他の国から隔離状態という訳ですか?」
個々から質問を受けたルービックは頭を左右へ振った。
「気候関連については専門外だ。何とも言えない」
「そうですか……。賢者のアルが居れば何か判ったかもしれませんね」
キースのこの呟きに私はドキリとした。魔王領へ視察に帰ったアルクナイト、彼がまだ戻ってきていないのだ。
エリアスは久し振りの領地でゆっくりしているだけだろうとの見解だが……。
(アルクナイトは自分が見た世界崩壊の夢について調べている。領地へもきっとその為に帰ったんだろう)
胸騒ぎがした。霧の中から戻ってこなかった兵士。もしも調査の為にアルクナイトも霧の中へ入っていたとしたら……。
「ウィー、どうした?」
「気分が悪いのですか?」
俯いてしまった私の顔を、キースとルパートが覗き込んだ。
「……メシにもほとんど手を付けていないな」
首領のことで気落ちしているはずのユーリまでもが気遣ってきた。みんな優しい。
「ごめんね、食事時に暗い話をしちゃって」
そう言ったマシューは本日二度目の昼食をペロリと平らげていた。異常事態でも動じない肝の持ち主だ。私と同い年だが騎士として相当な場数を踏んできたのだろう。アンダー・ドラゴン本拠地へ突入した時も積極的だった。
冒険者ギルド職員だって危険な任務と日々向き合う職業なのに、私ときたら先輩達に護られてばかりで成長が遅い。
「大丈夫です。……………………ケホッ、ケホケホッ」
平静を装ってランチプレートのミートボールを口に運んだらむせた。「おいおい」と隣のルパートが私の背中を擦った。
「食ったらおまえは上がりな。皆さんの冒険者登録はキースさんに手伝ってもらうから。ユアンも見て勉強してくれ」
「そんな、私も仕事します」
「いいから今日は早退しろ。上司命令だ」
ルパートにぴしゃりと言われてしまった。あああ、情けないなぁ私。
「気にしないで休みなさいロックウィーナ。それはそうとルパート、冒険者登録とは?」
「ああ、ルービックさん達が身分を隠してアンダー・ドラゴンを追う為にさ……」
みんなが話し合うのを聞きながら私はモソモソと食事をした。心中に在るのはアルクナイトのことだ。
あの馬鹿、ちゃんと無事でいるんでしょうね……?
仲間内で誰よりも強い彼。だからこそ独りで突っ走ってしまうことが有る。
(無茶なことしないで、そろそろ戻ってきなさいよ)
嫌な想像が頭から離れず、非常に味気の無い昼食となってしまった。
「………………」
私の問いかけにユーリは更に表情を暗くして黙り込んでしまった。マシューが彼の代わりに答えた。
「フィースノーの隣にはレクセン地方が在るよね。レクセンはさ…、かつてアーク家が治めていた土地なんだよ」
「!」
アーク家は首領レスターの実家だ。
人の良さにつけ込まれた伯爵である父親が、騙されて知らぬ間に犯罪の片棒を担がされ、その罪で領地を取り上げられたと聞いた。……妻と共に自害して果てたとも。
レクセンの領主だったのか。
「でもそれだったら首領の潜伏先はレクセンでは……」
言いかけて私は意見を引っ込めた。
「土地勘が有るとはいえ、レクセンでは活動しにくいですね。領主の息子さんだったのなら、彼の顔を知っている人が大勢居るでしょうから」
「そうだね……」
同じく領主の息子であるマシューが哀しそうに頷いた。
「顔を知られているしご両親のことが有るから、首領はレクセンを意図的に避けていたんだと思う。それでもやっぱり、故郷のことが気になるんだろうね」
「………………」
レスターは隣のフィースノーから帰れぬ故郷を眺めていたのか。同情してはいけない相手なのだが、レスターの心情を考えると切なくなった。ユーリもそうなのだろう、テーブルの上に置かれた拳が強く握られていた。
ルパートが話を戻した。
「それで首領が潜伏先にフィースノーを選んだと兵団は見ているのか? 国境警備兵を買収して、奴が国外へ逃亡を図る可能性は?」
「それは無い」
断言したルービックが顔を引き締めた。
「現在、誰も国の外へは出られない状態なんだよ。国に在る三カ所の国境検問所は全て封鎖されている」
「アンドラ対策で国境封鎖までしてしまったのか? 他国からの物資や人員の流動までもが止まっちまうぞ」
「経済面で大きなマイナスとなるだろうな。だがそうせざるを得ない状況なんだよ。アンダー・ドラゴン関係無く、危険だという理由で」
「危険?」
「報告によると国境周辺が、一メートル先も見通せない程の深い霧に覆われてしまったそうなんだ」
「霧に……? 北、東、西の三カ所とも?」
我らがラグゼリア王国は南方が海に面している。
「そうだ。しかも様子を見に霧の中へ向かわせた兵士が、いくら待っても戻ってこなかったというオマケ付きだ。霧の発生は我々がアンダー・ドラゴン本拠地へ攻め入った時期とほぼ同じらしいから、首領は国の外へ出られてはいないだろう」
「ええっ!?」
初めてもたらされた物騒な情報に、冒険者ギルドメンバーは顔を見合わせた。
「国の周辺が霧に覆われた……。未曾有の異常気象が起きたのか?」
「兵士が戻らないって、生死すら不明なんですか?」
「今ラグゼリアは他の国から隔離状態という訳ですか?」
個々から質問を受けたルービックは頭を左右へ振った。
「気候関連については専門外だ。何とも言えない」
「そうですか……。賢者のアルが居れば何か判ったかもしれませんね」
キースのこの呟きに私はドキリとした。魔王領へ視察に帰ったアルクナイト、彼がまだ戻ってきていないのだ。
エリアスは久し振りの領地でゆっくりしているだけだろうとの見解だが……。
(アルクナイトは自分が見た世界崩壊の夢について調べている。領地へもきっとその為に帰ったんだろう)
胸騒ぎがした。霧の中から戻ってこなかった兵士。もしも調査の為にアルクナイトも霧の中へ入っていたとしたら……。
「ウィー、どうした?」
「気分が悪いのですか?」
俯いてしまった私の顔を、キースとルパートが覗き込んだ。
「……メシにもほとんど手を付けていないな」
首領のことで気落ちしているはずのユーリまでもが気遣ってきた。みんな優しい。
「ごめんね、食事時に暗い話をしちゃって」
そう言ったマシューは本日二度目の昼食をペロリと平らげていた。異常事態でも動じない肝の持ち主だ。私と同い年だが騎士として相当な場数を踏んできたのだろう。アンダー・ドラゴン本拠地へ突入した時も積極的だった。
冒険者ギルド職員だって危険な任務と日々向き合う職業なのに、私ときたら先輩達に護られてばかりで成長が遅い。
「大丈夫です。……………………ケホッ、ケホケホッ」
平静を装ってランチプレートのミートボールを口に運んだらむせた。「おいおい」と隣のルパートが私の背中を擦った。
「食ったらおまえは上がりな。皆さんの冒険者登録はキースさんに手伝ってもらうから。ユアンも見て勉強してくれ」
「そんな、私も仕事します」
「いいから今日は早退しろ。上司命令だ」
ルパートにぴしゃりと言われてしまった。あああ、情けないなぁ私。
「気にしないで休みなさいロックウィーナ。それはそうとルパート、冒険者登録とは?」
「ああ、ルービックさん達が身分を隠してアンダー・ドラゴンを追う為にさ……」
みんなが話し合うのを聞きながら私はモソモソと食事をした。心中に在るのはアルクナイトのことだ。
あの馬鹿、ちゃんと無事でいるんでしょうね……?
仲間内で誰よりも強い彼。だからこそ独りで突っ走ってしまうことが有る。
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