ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
193 / 291

燻る火種(4)

しおりを挟む
 食堂へ食器を返却してから私は二階へ上がった。確かにアルクナイトのことで動揺している私では、あのまま仕事を続けてもミスを連発していたかもしれない。
 だからといって自室へ戻ってもゆったり休める気がしなかった。

(独りで悩んで待つのは怖いよ……)

 恐ろしい展開ばかりが脳裏をよぎった。もうアルクナイトに会えないんじゃないかって。
 私の足は自室ではない別の場所へ向かった。

「エリアスさん、いらっしゃいますか?」

 いつも私を信じて肯定してくれる彼にすがりたい気分だった。
 部屋で二人きりになるのは危険だが、今なら食堂が空いている。「下でお茶にしませんか?」と誘ってみよう。早退させてくれたルパートに見られたら烈火の如く怒られるかもしれないが。

「ロックウィーナ」

 エリアスは在室だった。扉を開けてくれた彼のいつもの笑顔に癒される。

「どうかしたのか?」
「あの……良ければですが、一緒に食堂でお茶にしませんか?」

 用意していた言葉を使った。途端にエリアスの瞳が輝いた。

「もちろんOKだ。キミが自らの意思で私を誘ってくれるとは何という僥倖ぎょうこう!」

 そんなに感動されると恐縮なんだが、取り敢えず独りで不安な時間を過ごさなくて済みそうだ。
 ホッとした私の耳に、エリアスの背後から不遜ふそんな声が投げかけられた。

「ほう、庶民育ちの小娘にも午後の茶の習慣が根付いたか。宜しい、付き合ってやるとしよう」

 この上から目線の偉そうな態度は……!
 確認したかったのだが、扉の枠いっぱいにエリアスの大きな身体が収まっていたので室内を覗けなかった。

「エリアスさん、あの馬鹿は戻ってきてるんですか!?」
「ああ。ついさっき馬鹿は戻ってきたぞ」

 馬鹿で通じた。エリアスが身体をずらしてくれたので室内が見えた。
 居た────────!!!!
 エリアスのベッドに足を組んで魔王が座っていた。里帰りしたせいか、落ち着いたローブではなく下乳と腹部を露出した破廉恥衣装を着ていた。

「おい馬鹿とは誰のこと……」
「アルクナイト、アンタはもう!」

 私は早足でヤツに近付いた。怒鳴られた魔王はちょっと驚いたようだ。

「な、何だ小娘」

 何だじゃない。心配したんだよ馬鹿。戻ってきていたのなら、いつものように派手にアピールしなさいよ。腹と下乳は仕舞え。アピールする所はそこじゃない。
 言いたいことが山ほど有った。連絡も寄こさずに何日も留守にしていた彼に腹が立った。

 それなのに私は、無事だったアルクナイトを勢いつけて抱きしめたのだった。

「は…………?」

 ドサッ。
 私を受け止める形でアルクナイトはベッドへ背中から沈んだ。
 ……あれ? これってば私、男の人をベッドに押し倒してない?

「ろっ、ロックウィーナ、それはレディが取るべき行動ではない!!」

 滅多に聞けないエリアスの上ずった声。うん、やっちゃった。異性に堂々と飛び付いて許されるのは幼児までだ。
 ベッドに寝転んだアルクナイトと顔を見合わせて急に恥ずかしくなった。

「うわぁっ、ごめん!」

 私は魔王の背中へ回した自らの腕を回収しようとしたのだが、彼の体重でベッドに押し付けられている為、引き抜くことにけっこうな労力が必要となった。
 ……ヤレヤレ、やっと左腕が抜けたよ。当のアルクナイトは茫然とした表情だ。私から抱き付いてくるとは想定していなかった模様。
 エリアスが軽く一つ咳払いをした。

「……理由は判らないが、一時的に感情がたかぶってしまったんだな。しかしロックウィーナ、積極性を発揮する際には相手をちゃんと選ばなければ。キミの傍にはいつだって胸を空けて待つ私が居る」

 抜け目の無い勇者がちゃっかり自分を売り込みながら、淡々とした動作で魔王から私を引きがそうとした。が、二人の身体は磁石のようにくっ付いて離れない。
 アルクナイトが両腕で私の上半身を抱きしめ、下半身には長い脚を絡めてホールドしてきたからだ。さっきまでポカンとしていたくせに、いつの間にかコイツ臨戦態勢に入っていたよ。

「アル、彼女から離れろ!」
「あ、あのね、抱き付いたのは私の方だけど……もう放してくれるかな?」
「………………」

 黒羽のコートを脱いでいたアルクナイトは上半身ほとんど裸。今日は暖かい気候だったもんで私もけっこう薄着だったりする。彼の筋肉の質感がハッキリと私の身体へ伝わっていた。

(むぎゃあぁぁ。コイツ何で魔術師のクセにこんなにイイ筋肉してんの? 毎日筋トレを欠かさないルパート並みだよ? 賢者って本ばっかり読んでるイメージなんだけど!?)

 自分も戦士として鍛えているせいか、私はそこそこ筋肉が付いた男性が好みだったりする。ヤバイ。アルクナイトの体型めっちゃ素敵。
 そして彼からは良い匂いがしていた。首筋にキスされた時も嗅いだこれは男性用の香水だろうか。大量に付けず、ほのかに香らせる程度なのでついクンクンしたくなる。誰か私を止めて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...