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想いは解放されて願いとなる(1)
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朝食を終えた私とルパートはスズネの屋根裏部屋を訪れた。彼女はずっとベッドの上でゴロゴロしていたようだが、私達の姿を見ると走り寄ってきた。
「ロックウィーナ、ルパート……大丈夫?」
二人揃って赤い目をしていたので気遣われた。そう言うスズネ自身も赤かったのだが。彼女の精神的ダメージも深刻なようだ。
「ごめんなさいルパート、私が作った設定があなたを苦しめた」
「昨日も言ったろ、ギルがアンドラに入ったことはスズネとは関係無い。アイツが自分で決めたことなんだ」
「………………」
「ここには俺が復活したってことを見せに来た。おまえもメシでも食って気分を浮上させろ」
そっけない態度だが、自分もキツイ時にスズネを励ましに来たルパート。彼の優しさはちゃんとスズネに届いたようだ。
「うん解った……! 浮上してみせる」
「ならいい。今日はAチームとしての出動は無くすからしっかり休めよ」
「あなたはどうするの?」
「俺もお節介どもから止められてるから、今日は出動を諦めてギルドで留守番する。朝の会議にだけは出てくるわ。じゃあな」
立ち去ろうとした私達にスズネが付いてきた。
「私も会議には出る。ご飯はその後に食べる」
こうして私達三人は連れ立って会議室へ入った。既に聖騎士を含む全員が揃って何やら話し合っていた。ギルドマスターに書類へサインを貰いに来たのかリリアナも居た。
ルパートの姿を見たキースが眉を顰めた。
「おい、おまえは休めって言っただろう?」
「休むよ。ただし今日のみんなの出動予定を決めてからな。これでも主任なんでね」
「……その後は本当に休むんだな?」
「約束する」
ルパートは会議室の長テーブルへ近付いた。
「今日は俺とスズネが出られないので、Aチームは解散させる。ルービックさんはB……じゃなくてCチームに、マキアとエンはBチームへ合流してくれ」
あ、陽キャのルービックはヤンデレBチームと相性が悪いと咄嗟に判断したな。流石デキる主任ルパート。
「Bチームの人数やたらと多くね? 七人で行動すると目立つぞ? 街中だと歩きにくいし」
ユーリから当然な反応が返ってきた。
「だから今日はBチーム、街の外のポイントに絞って出動場所を決めてくれ」
「了解。Aチーム所属の猫はどうする?」
「ウチには絶対に要らない! 食料を全て喰い尽くされる!」
マシューの強い拒絶で少し三男猫が可哀想になったが、黒猫を見上げるとまた口をモグモグしていたので同情心は捨てた。
「ルディオはギルドに残れ。チャラ男が無茶しないように見張っていろ」
主人のアルクナイトに指示されて三男猫はルパートの傍へ飛んできた。ルパートの本日の昼食は争奪戦になりそうだ。
ここでルービックが申し入れた。
「私が加入せずともCチームの戦力は充分に高い。私もギルドに残っていいだろうか? ……ルパート、今日は二人で話をしよう」
親友を殺めたルパートの嘆きを目の当たりにしたルービックは、カウンセリング役を買って出たのだ。
「……俺は大丈夫だよ」
「そうは見えない。無理をしている」
ルパートはいつもより艶《つや》の無い自身の金髪を搔いた。
「まーな。幼馴染みと決別して、おまけにウィーにもキッパリ振られた後だからな。そりゃ魂が削られてるよ」
「は」
サラッと私とのことを口にしたルパート。
「え?」
「振られた? ルパートが?」
「ええ?」
「ガチで?」
「えええええ~~~~!?」
みんなが驚いた顔をした。私もだ。あなたはいったい何を言い出すんですかルパート輩セン。
一際大きな声を出したリリアナをルパートが睨んだ。
「何だよエロ女装男。文句あっか」
「だ、だって……本当に!? 何だかんだ言ってもルパートお兄様が一番、ウィーお姉様の近くに居ると思っていたから……」
聞いたルパートがすっかり不貞腐れた。
「あーあー、俺もそう思ってたよ。顔が良くて強くて頼れる先輩、こんな優良物件はそうそう無いよな? でもウィーにはさ、俺以上に好きなヤツが居るんだってよ」
「えええ!?」
ぎゃあぁぁぁ、それも言う!?
再び男達がザワめいた。爽やかな朝の空気が下衆なゴシップ臭に変化した。ルパートの馬鹿~。アンタを信頼して打ち明けた私が愚かだったよ!
「それはいったい誰だ!?」
「まさか俺様の知らない水面下で交際していたのか!? この魔王を欺くなど不届きな!」
「いやでもロックウィーナにそんな素振り有った?」
「単純だからすぐ顔に出そうなモンだが……」
何だか失礼なことを言われている気がする。みんなが私を見てヒソヒソして居たたまれない。
私は混乱を招いた戦犯へ抗議しようとジト目を向けたのだが、ルパートは晴れやかに笑っていた。あのねぇ。
「……先輩? この騒ぎをどうやって収拾つけるんですか?」
「ハッ、ここで言ってしまえよ。いい機会だ」
ほぇ!? 好きな相手が誰だか自ら表明しろと!?
「いやそんな御無体な。昨日の今日でまだ心の準備ができていませんよ」
無理だよと尻込みする私の背中を、ルパートがパン!と叩いた。
「痛っ、な、何ですか!?」
「いつまでも変わらない日々が続く保証は無いんだ。できる時にやっておかないと後悔するぞ? おまえは俺みたいになるな」
「!…………」
ルパートは後悔しているのだ。親友だったギルと騎士時代にもっと話し合っておけば良かったと。そしてそのギルはもう居ない。
「先輩……」
「今おまえが向き合うべき相手は俺じゃない」
言われて私はつい、迂闊にも好きな人へ目線を向けてしまったのだった。このタイミングで。
男達が息を呑み、私から視線を受けたその人は戸惑いの表情を浮かべた。
ど、どうしよう。心臓が跳ねてピョコンと口から飛び出しそう。
「ロックウィーナ、ルパート……大丈夫?」
二人揃って赤い目をしていたので気遣われた。そう言うスズネ自身も赤かったのだが。彼女の精神的ダメージも深刻なようだ。
「ごめんなさいルパート、私が作った設定があなたを苦しめた」
「昨日も言ったろ、ギルがアンドラに入ったことはスズネとは関係無い。アイツが自分で決めたことなんだ」
「………………」
「ここには俺が復活したってことを見せに来た。おまえもメシでも食って気分を浮上させろ」
そっけない態度だが、自分もキツイ時にスズネを励ましに来たルパート。彼の優しさはちゃんとスズネに届いたようだ。
「うん解った……! 浮上してみせる」
「ならいい。今日はAチームとしての出動は無くすからしっかり休めよ」
「あなたはどうするの?」
「俺もお節介どもから止められてるから、今日は出動を諦めてギルドで留守番する。朝の会議にだけは出てくるわ。じゃあな」
立ち去ろうとした私達にスズネが付いてきた。
「私も会議には出る。ご飯はその後に食べる」
こうして私達三人は連れ立って会議室へ入った。既に聖騎士を含む全員が揃って何やら話し合っていた。ギルドマスターに書類へサインを貰いに来たのかリリアナも居た。
ルパートの姿を見たキースが眉を顰めた。
「おい、おまえは休めって言っただろう?」
「休むよ。ただし今日のみんなの出動予定を決めてからな。これでも主任なんでね」
「……その後は本当に休むんだな?」
「約束する」
ルパートは会議室の長テーブルへ近付いた。
「今日は俺とスズネが出られないので、Aチームは解散させる。ルービックさんはB……じゃなくてCチームに、マキアとエンはBチームへ合流してくれ」
あ、陽キャのルービックはヤンデレBチームと相性が悪いと咄嗟に判断したな。流石デキる主任ルパート。
「Bチームの人数やたらと多くね? 七人で行動すると目立つぞ? 街中だと歩きにくいし」
ユーリから当然な反応が返ってきた。
「だから今日はBチーム、街の外のポイントに絞って出動場所を決めてくれ」
「了解。Aチーム所属の猫はどうする?」
「ウチには絶対に要らない! 食料を全て喰い尽くされる!」
マシューの強い拒絶で少し三男猫が可哀想になったが、黒猫を見上げるとまた口をモグモグしていたので同情心は捨てた。
「ルディオはギルドに残れ。チャラ男が無茶しないように見張っていろ」
主人のアルクナイトに指示されて三男猫はルパートの傍へ飛んできた。ルパートの本日の昼食は争奪戦になりそうだ。
ここでルービックが申し入れた。
「私が加入せずともCチームの戦力は充分に高い。私もギルドに残っていいだろうか? ……ルパート、今日は二人で話をしよう」
親友を殺めたルパートの嘆きを目の当たりにしたルービックは、カウンセリング役を買って出たのだ。
「……俺は大丈夫だよ」
「そうは見えない。無理をしている」
ルパートはいつもより艶《つや》の無い自身の金髪を搔いた。
「まーな。幼馴染みと決別して、おまけにウィーにもキッパリ振られた後だからな。そりゃ魂が削られてるよ」
「は」
サラッと私とのことを口にしたルパート。
「え?」
「振られた? ルパートが?」
「ええ?」
「ガチで?」
「えええええ~~~~!?」
みんなが驚いた顔をした。私もだ。あなたはいったい何を言い出すんですかルパート輩セン。
一際大きな声を出したリリアナをルパートが睨んだ。
「何だよエロ女装男。文句あっか」
「だ、だって……本当に!? 何だかんだ言ってもルパートお兄様が一番、ウィーお姉様の近くに居ると思っていたから……」
聞いたルパートがすっかり不貞腐れた。
「あーあー、俺もそう思ってたよ。顔が良くて強くて頼れる先輩、こんな優良物件はそうそう無いよな? でもウィーにはさ、俺以上に好きなヤツが居るんだってよ」
「えええ!?」
ぎゃあぁぁぁ、それも言う!?
再び男達がザワめいた。爽やかな朝の空気が下衆なゴシップ臭に変化した。ルパートの馬鹿~。アンタを信頼して打ち明けた私が愚かだったよ!
「それはいったい誰だ!?」
「まさか俺様の知らない水面下で交際していたのか!? この魔王を欺くなど不届きな!」
「いやでもロックウィーナにそんな素振り有った?」
「単純だからすぐ顔に出そうなモンだが……」
何だか失礼なことを言われている気がする。みんなが私を見てヒソヒソして居たたまれない。
私は混乱を招いた戦犯へ抗議しようとジト目を向けたのだが、ルパートは晴れやかに笑っていた。あのねぇ。
「……先輩? この騒ぎをどうやって収拾つけるんですか?」
「ハッ、ここで言ってしまえよ。いい機会だ」
ほぇ!? 好きな相手が誰だか自ら表明しろと!?
「いやそんな御無体な。昨日の今日でまだ心の準備ができていませんよ」
無理だよと尻込みする私の背中を、ルパートがパン!と叩いた。
「痛っ、な、何ですか!?」
「いつまでも変わらない日々が続く保証は無いんだ。できる時にやっておかないと後悔するぞ? おまえは俺みたいになるな」
「!…………」
ルパートは後悔しているのだ。親友だったギルと騎士時代にもっと話し合っておけば良かったと。そしてそのギルはもう居ない。
「先輩……」
「今おまえが向き合うべき相手は俺じゃない」
言われて私はつい、迂闊にも好きな人へ目線を向けてしまったのだった。このタイミングで。
男達が息を呑み、私から視線を受けたその人は戸惑いの表情を浮かべた。
ど、どうしよう。心臓が跳ねてピョコンと口から飛び出しそう。
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