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想いは解放されて願いとなる(2)
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「頑張れ、ロックウィーナ」
背後のスズネが小声でエールを贈ってくれて、ルパートはもう一度私の背中を叩いた。今度はトンと軽く。
「大丈夫だ。あの人もおまえを好きなんだから」
目を逸らせない。だから私が好きな相手はもう周囲にバレている。後は自分の口から肯定するだけだ。
言おう。
私の曖昧な態度がルパートを傷付けた。それを彼にも他の人にも繰り返しちゃいけない。
本音を明かすとこの場から逃げ出したいくらいに恥ずかしい。告白なんて六年振りだもの。しかも公開告白なんて罰ゲームとしか思えない。
……だけど全員に知ってもらえる確かにいい機会かもしれない。だから頑張れ自分。誠実であれ。
私は呼吸を整えて、そして声に出した。
「す……き、です……」
会議室の全員が固唾を呑んで私に注目した。
頭がガンガンする。全身が心臓になったかのように脈打っている。
私は自分が好きなその人だけを見つめて、心に根付いていた恋心を表に出した。吐息に音を乗せて。
「あなたが好きなんです、キース先輩……!」
「!………………」
言ったあぁぁぁ!! 言っちゃたよぉぉぉ!
「レンフォード!!!!」
大声で叫んだのはマキアではなくマシューだった。王都の若者中心に流行っているフレーズらしいから、マシューも普段使いしているんだろう。
彼と一緒にエドガーが拍手してくれた。勇気を出した私を讃えてくれたのだ。二人には昨日から心配させていたね、ありがとう。
「僕…………?」
そして告げられたキースは一歩後退した。先に私へ告白してくれていたのに、彼は明らかに動揺していた。
「本当に…………僕?」
うん。私が好きになったのはキース、あなたなんだよ。
キースは右手で口元を隠し赤くなった。わあぁ可愛い。私のことでキースが照れている。恥ずかしくて嬉しい。
ありがとうルパート、臆病な私の背中を押してくれて。ロマンティックな告白には程遠いけど、何とかキースに気持ちを伝えられたよ。
「そんな……まさか……僕が選ばれるなんて」
信じられないといった風のキース。隣では彼の親代わりであるギルドマスターがニヤけていた。
(キース先輩……♡)
想いを解放したらさっきまでの緊張感が消えていた。私は可憐な乙女走りで大好きなキースの元へ行こうとした。
しかし二本の腕が左右からニュッと伸びて交差して、無粋にも私を通せんぼしたのだった。
「待て。納得できん」
「ああ。理由を吟味したい」
無駄なチームワークを発揮して、花道を遮断したのは魔王と勇者であった。
「あの……通して」
「質問に答えるまでは通さん」
天神様かと。
「白の何処に惹かれたというのだ」
アルクナイトが鋭い眼光で威圧してきた。怖いんだけど。
「……いつも私に親切にしてくれて、陰日向で支えようとしてくれる所」
「それは他の男にも言えることだろう? どうしてキース殿だけが特別視されるのか知りたい」
エリアスが食い下がった。低音ボイスが響いてこちらも怖い。
「ええと、キース先輩の容姿が好みだし、優しい口調から毒舌へ変わった時のギャップに萌えるし、一緒にお菓子作りをしてみたい」
「人前で惚気るな!」
魔王に怒鳴られた。何処が好きか聞いたのはそっちじゃないか。理不尽にも程がある。
「俺達ではなく、キースさんを選んだ決定的な何かが有るはずだ」
「それを教えて!」
エンと、何故かマキアも興奮した様子で参加してきた。
「有るけど……ちょっと言いづらくて」
口ごもった私へルパートが催促した。
「もう全部言っちゃえよ。そこは俺も知りたい部分だ」
あなたに関わることなんだけどな……。でもそうだね、全部話しておこう。
私は心を決めた。
「昨日の夜……実は私、ルパート先輩の部屋へ行こうとしたの」
「えっ!」
「ロックウィーナ!?」
部屋に行けばルパートに抱かれることになる。そう忠告してくれたマシューとエドガーが驚いていた。私は彼らに微笑んでから続けた。
「傷付いた異性を慰めたら、相手は私の全てを求めるかもしれない……、それを解った上でルパート先輩の部屋へ行こうとしたんだ。大切な先輩に、私ができることを何でもいいからしてあげたいって思った」
「ウィー……」
ルパートは喜びとも悲しみともつかない複雑な表情を浮かべた。彼にも微笑んだ。お互いに泣き笑いみたいな顔になった。
「でもキミは行かなかったんだよね?」
マキアが尋ね、私は頷いた。
「……キース先輩の顔が脳裏に浮かんだから」
ハッとしてマキアは眉をハの字にして、エンが唇を噛んだ。
「キース先輩を泣かせるような真似はしたくない、そう思ったら私は行動できなくなったの。昨夜は部屋に引き籠もるしかなかった」
魔王と勇者の腕が造った遮断機の向こうでキースが私を見ている。私も彼を見つめる。ええい、腕が邪魔だな。キースが近くて遠い。
「それで気づいたんだよ。私が好きなのはキース先輩なんだって」
私は行く手を阻むアルクナイトとエリアスへ、堂々と言い放った。二人は私を眼力で威圧し続けたが、私はもう怯まなかった。
「私を好きだといってくれてありがとう。でも私の気持ちは決まりました。キース先輩以外の男性とはお付き合いできません」
二人の腕が力無く下がり、遮断機が解除された。
「ち……」
「ロックウィーナ……」
罪悪感が生まれたがもう迷わない。迷ってはいけない。
背後のスズネが小声でエールを贈ってくれて、ルパートはもう一度私の背中を叩いた。今度はトンと軽く。
「大丈夫だ。あの人もおまえを好きなんだから」
目を逸らせない。だから私が好きな相手はもう周囲にバレている。後は自分の口から肯定するだけだ。
言おう。
私の曖昧な態度がルパートを傷付けた。それを彼にも他の人にも繰り返しちゃいけない。
本音を明かすとこの場から逃げ出したいくらいに恥ずかしい。告白なんて六年振りだもの。しかも公開告白なんて罰ゲームとしか思えない。
……だけど全員に知ってもらえる確かにいい機会かもしれない。だから頑張れ自分。誠実であれ。
私は呼吸を整えて、そして声に出した。
「す……き、です……」
会議室の全員が固唾を呑んで私に注目した。
頭がガンガンする。全身が心臓になったかのように脈打っている。
私は自分が好きなその人だけを見つめて、心に根付いていた恋心を表に出した。吐息に音を乗せて。
「あなたが好きなんです、キース先輩……!」
「!………………」
言ったあぁぁぁ!! 言っちゃたよぉぉぉ!
「レンフォード!!!!」
大声で叫んだのはマキアではなくマシューだった。王都の若者中心に流行っているフレーズらしいから、マシューも普段使いしているんだろう。
彼と一緒にエドガーが拍手してくれた。勇気を出した私を讃えてくれたのだ。二人には昨日から心配させていたね、ありがとう。
「僕…………?」
そして告げられたキースは一歩後退した。先に私へ告白してくれていたのに、彼は明らかに動揺していた。
「本当に…………僕?」
うん。私が好きになったのはキース、あなたなんだよ。
キースは右手で口元を隠し赤くなった。わあぁ可愛い。私のことでキースが照れている。恥ずかしくて嬉しい。
ありがとうルパート、臆病な私の背中を押してくれて。ロマンティックな告白には程遠いけど、何とかキースに気持ちを伝えられたよ。
「そんな……まさか……僕が選ばれるなんて」
信じられないといった風のキース。隣では彼の親代わりであるギルドマスターがニヤけていた。
(キース先輩……♡)
想いを解放したらさっきまでの緊張感が消えていた。私は可憐な乙女走りで大好きなキースの元へ行こうとした。
しかし二本の腕が左右からニュッと伸びて交差して、無粋にも私を通せんぼしたのだった。
「待て。納得できん」
「ああ。理由を吟味したい」
無駄なチームワークを発揮して、花道を遮断したのは魔王と勇者であった。
「あの……通して」
「質問に答えるまでは通さん」
天神様かと。
「白の何処に惹かれたというのだ」
アルクナイトが鋭い眼光で威圧してきた。怖いんだけど。
「……いつも私に親切にしてくれて、陰日向で支えようとしてくれる所」
「それは他の男にも言えることだろう? どうしてキース殿だけが特別視されるのか知りたい」
エリアスが食い下がった。低音ボイスが響いてこちらも怖い。
「ええと、キース先輩の容姿が好みだし、優しい口調から毒舌へ変わった時のギャップに萌えるし、一緒にお菓子作りをしてみたい」
「人前で惚気るな!」
魔王に怒鳴られた。何処が好きか聞いたのはそっちじゃないか。理不尽にも程がある。
「俺達ではなく、キースさんを選んだ決定的な何かが有るはずだ」
「それを教えて!」
エンと、何故かマキアも興奮した様子で参加してきた。
「有るけど……ちょっと言いづらくて」
口ごもった私へルパートが催促した。
「もう全部言っちゃえよ。そこは俺も知りたい部分だ」
あなたに関わることなんだけどな……。でもそうだね、全部話しておこう。
私は心を決めた。
「昨日の夜……実は私、ルパート先輩の部屋へ行こうとしたの」
「えっ!」
「ロックウィーナ!?」
部屋に行けばルパートに抱かれることになる。そう忠告してくれたマシューとエドガーが驚いていた。私は彼らに微笑んでから続けた。
「傷付いた異性を慰めたら、相手は私の全てを求めるかもしれない……、それを解った上でルパート先輩の部屋へ行こうとしたんだ。大切な先輩に、私ができることを何でもいいからしてあげたいって思った」
「ウィー……」
ルパートは喜びとも悲しみともつかない複雑な表情を浮かべた。彼にも微笑んだ。お互いに泣き笑いみたいな顔になった。
「でもキミは行かなかったんだよね?」
マキアが尋ね、私は頷いた。
「……キース先輩の顔が脳裏に浮かんだから」
ハッとしてマキアは眉をハの字にして、エンが唇を噛んだ。
「キース先輩を泣かせるような真似はしたくない、そう思ったら私は行動できなくなったの。昨夜は部屋に引き籠もるしかなかった」
魔王と勇者の腕が造った遮断機の向こうでキースが私を見ている。私も彼を見つめる。ええい、腕が邪魔だな。キースが近くて遠い。
「それで気づいたんだよ。私が好きなのはキース先輩なんだって」
私は行く手を阻むアルクナイトとエリアスへ、堂々と言い放った。二人は私を眼力で威圧し続けたが、私はもう怯まなかった。
「私を好きだといってくれてありがとう。でも私の気持ちは決まりました。キース先輩以外の男性とはお付き合いできません」
二人の腕が力無く下がり、遮断機が解除された。
「ち……」
「ロックウィーナ……」
罪悪感が生まれたがもう迷わない。迷ってはいけない。
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