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想いは解放されて願いとなる(3)
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私はアルクナイトとエリアスの間をすり抜けて、エンとマキアとリリアナの前を横切り、今度こそ愛しいキースの元へ向かった。
拍手の音が再度鳴り響いた。さっきよりも大きく。マシューとエドガーの祝福隊にルービックとユーリ、スズネにギルドマスターも加わっていた。ソルと猫達はアルクナイトを心配そうに窺っている。
「ロックウィーナ……」
恋愛小説ならヒーローが両手を広げて迎えてくれるシーンだ。
「キース先輩……♡」
しかしキースは困ったように、彼の胸に飛び込みたい私を右手を前に出して牽制した。
……あれれ? 私は立ち止まってキースを見た。照れている……感じじゃないな。視線をフイと逸らされてしまった。
私ではなく、斜め下の空間を見据えた状態で彼は言ったのであった。
「もう一度……よく考え直した方がいい。キミの選択は間違っている」
「………………へ?」
恋愛小説のヒロインらしからぬ間抜けな擬音が口から漏れてしまった。祝福隊も拍手をやめて場がシーンと静まり返った。
「あの、先輩……?」
「………………」
呼びかけてもキースは応えてくれない。私を見ようともしない。
…………え? ええ? これって拒絶されたの? どうして?
キースは私のことを好きなんだよね? 世界の全てより私を愛してるって前に言った! 聞いた! ……だのに何故?
消されたハートマークに代わって大量の疑問詞が浮かんだ。
「おぉい、どういうこった!!」
怒号を発してルパートが近付いてきた。
「アンタ、ウィーを好きじゃなかったのかよ!? 心変わりしたのか!?」
あ……、心変わり。私はその可能性を失念していた。
人の心は日々変化していく。私がキースを好きになったように、キースが私を嫌いになることだって有り得るのだ。
待たせ過ぎたのかもしれない。いつも優しいキースに甘えていた。隠れてルパートとデートしたことも、勘の良いキースは気づいていたのかもしれない。それなら心が離れても当然だ。
キースとの楽しい思い出と、他の男性の間でフラフラしていた私のやらかしが、走馬灯のように交互に浮かんでは消える。
自分が悪いと解っているのにどうしよう、泣きそう。
だけれど涙はキースの次の言葉で押し留められた。
「……好きだよ。今だって」
それを聞いた瞬間パアッと目の前が開けた。活力が身体にみなぎってくる。
「ロックウィーナは僕にとって唯一無二の女性だ」
キース……! でも手放しで喜べない。彼の顔が曇ったままだから。
「じゃあ何でコイツを受け入れない!」
自分のことのようにルパートが怒ってくれた。目を合わせようとしないキースの胸ぐらまで掴んで。
「ルパート先輩、乱暴はやめて下さい!」
「おまえはいいのかよウィー、こんな訳解んねぇこと言われてさ!!」
どうにかルパートを引き離したところで、キースが静かに心情を吐露した。
「……ロックウィーナが選ぶのは僕以外の誰かだと思っていた。現に僕は前に一度お断りされたしね」
「は……? え、キースさんも振られていたのか?」
「ああ。お兄ちゃんとしてしか見られないって。だから安心して想い続けられたんだ」
「………………」
「もっと言えば……、ロックウィーナは破廉恥魔王と結ばれるのが一番いいと思っている」
えええ!? みんながアルクナイトを振り返った。魔王も目をパチクリさせていたが、すぐに尊大な態度を身に纏った。
「白、ロックウィーナに対する今の貴様の態度は頂けないが、俺を本命と推した所は高く評価できるぞ。チャラ男よ、あまり乱暴に白を扱うな」
機嫌を直したアルクナイトが仲裁に入った。現金な奴。
ルパートは怒りを抑えて尚も聞いた。
「……何で魔王様なんだよ? 他にもイイ男は居るだろ、エリアスさんとか」
ルパートはエリアス推しか。スズネも視界の隅でうんうん頷いていた。
「卑猥な面さえ除けば、魔王が一番頼りになる男だからだよ。ロックウィーナも彼を信頼して相談していたようだし」
「キースさんはそれでいいのかよ? 好きな女を取られるんだぞ?」
「……僕と一緒になるよりはよっぽどいい。僕じゃ彼女を幸せにできないから」
「何言ってやがるうぅぅッ!!!!!!」
「うおっ!?」
「ヒッ」
新たな怒声はギルドマスターのものだった。完全に不意を突かれた。
怒れるマスターから凄まじい闘気が放たれて、空気だけではなく窓ガラスまでもがビリビリ震えた。勇者エリアスの闘気や魔王アルクナイトの魔力放出に勝るとも劣らない。戦士達が反射的に身構え、スズネは恐怖で身を縮めた。
「キース、おめぇはそれでも男か!! 惚れた女が勇気出したってぇのにその体たらくは何だ!!」
「うるさい! 放っておいてくれ!」
怒髪天のマスターによく怒鳴り返せるものだ。キースはマスターと旅をしていたことが有るので、彼の闘気に多少は慣れているようだな。
「放っておけるか! おめぇはな、子供を持てなかった俺とエルダにとって本当のガキみたいな存在なんだよ!!」
マスターのキースへの愛が炸裂した。これは壮絶な親子喧嘩だ。彼が怒鳴る度に闘気が増していき、室内に居る者の身体が感電したかのように痺れた。元Sランク冒険者が凄いんだけど超怖い。
完全に怯えてうずくまってしまったスズネの頭を、黒猫の一匹がよしよしと撫でている。口をモグモグさせているから三男か。意外といいヤツ?
拍手の音が再度鳴り響いた。さっきよりも大きく。マシューとエドガーの祝福隊にルービックとユーリ、スズネにギルドマスターも加わっていた。ソルと猫達はアルクナイトを心配そうに窺っている。
「ロックウィーナ……」
恋愛小説ならヒーローが両手を広げて迎えてくれるシーンだ。
「キース先輩……♡」
しかしキースは困ったように、彼の胸に飛び込みたい私を右手を前に出して牽制した。
……あれれ? 私は立ち止まってキースを見た。照れている……感じじゃないな。視線をフイと逸らされてしまった。
私ではなく、斜め下の空間を見据えた状態で彼は言ったのであった。
「もう一度……よく考え直した方がいい。キミの選択は間違っている」
「………………へ?」
恋愛小説のヒロインらしからぬ間抜けな擬音が口から漏れてしまった。祝福隊も拍手をやめて場がシーンと静まり返った。
「あの、先輩……?」
「………………」
呼びかけてもキースは応えてくれない。私を見ようともしない。
…………え? ええ? これって拒絶されたの? どうして?
キースは私のことを好きなんだよね? 世界の全てより私を愛してるって前に言った! 聞いた! ……だのに何故?
消されたハートマークに代わって大量の疑問詞が浮かんだ。
「おぉい、どういうこった!!」
怒号を発してルパートが近付いてきた。
「アンタ、ウィーを好きじゃなかったのかよ!? 心変わりしたのか!?」
あ……、心変わり。私はその可能性を失念していた。
人の心は日々変化していく。私がキースを好きになったように、キースが私を嫌いになることだって有り得るのだ。
待たせ過ぎたのかもしれない。いつも優しいキースに甘えていた。隠れてルパートとデートしたことも、勘の良いキースは気づいていたのかもしれない。それなら心が離れても当然だ。
キースとの楽しい思い出と、他の男性の間でフラフラしていた私のやらかしが、走馬灯のように交互に浮かんでは消える。
自分が悪いと解っているのにどうしよう、泣きそう。
だけれど涙はキースの次の言葉で押し留められた。
「……好きだよ。今だって」
それを聞いた瞬間パアッと目の前が開けた。活力が身体にみなぎってくる。
「ロックウィーナは僕にとって唯一無二の女性だ」
キース……! でも手放しで喜べない。彼の顔が曇ったままだから。
「じゃあ何でコイツを受け入れない!」
自分のことのようにルパートが怒ってくれた。目を合わせようとしないキースの胸ぐらまで掴んで。
「ルパート先輩、乱暴はやめて下さい!」
「おまえはいいのかよウィー、こんな訳解んねぇこと言われてさ!!」
どうにかルパートを引き離したところで、キースが静かに心情を吐露した。
「……ロックウィーナが選ぶのは僕以外の誰かだと思っていた。現に僕は前に一度お断りされたしね」
「は……? え、キースさんも振られていたのか?」
「ああ。お兄ちゃんとしてしか見られないって。だから安心して想い続けられたんだ」
「………………」
「もっと言えば……、ロックウィーナは破廉恥魔王と結ばれるのが一番いいと思っている」
えええ!? みんながアルクナイトを振り返った。魔王も目をパチクリさせていたが、すぐに尊大な態度を身に纏った。
「白、ロックウィーナに対する今の貴様の態度は頂けないが、俺を本命と推した所は高く評価できるぞ。チャラ男よ、あまり乱暴に白を扱うな」
機嫌を直したアルクナイトが仲裁に入った。現金な奴。
ルパートは怒りを抑えて尚も聞いた。
「……何で魔王様なんだよ? 他にもイイ男は居るだろ、エリアスさんとか」
ルパートはエリアス推しか。スズネも視界の隅でうんうん頷いていた。
「卑猥な面さえ除けば、魔王が一番頼りになる男だからだよ。ロックウィーナも彼を信頼して相談していたようだし」
「キースさんはそれでいいのかよ? 好きな女を取られるんだぞ?」
「……僕と一緒になるよりはよっぽどいい。僕じゃ彼女を幸せにできないから」
「何言ってやがるうぅぅッ!!!!!!」
「うおっ!?」
「ヒッ」
新たな怒声はギルドマスターのものだった。完全に不意を突かれた。
怒れるマスターから凄まじい闘気が放たれて、空気だけではなく窓ガラスまでもがビリビリ震えた。勇者エリアスの闘気や魔王アルクナイトの魔力放出に勝るとも劣らない。戦士達が反射的に身構え、スズネは恐怖で身を縮めた。
「キース、おめぇはそれでも男か!! 惚れた女が勇気出したってぇのにその体たらくは何だ!!」
「うるさい! 放っておいてくれ!」
怒髪天のマスターによく怒鳴り返せるものだ。キースはマスターと旅をしていたことが有るので、彼の闘気に多少は慣れているようだな。
「放っておけるか! おめぇはな、子供を持てなかった俺とエルダにとって本当のガキみたいな存在なんだよ!!」
マスターのキースへの愛が炸裂した。これは壮絶な親子喧嘩だ。彼が怒鳴る度に闘気が増していき、室内に居る者の身体が感電したかのように痺れた。元Sランク冒険者が凄いんだけど超怖い。
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