ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
236 / 257

想いは解放されて願いとなる(5)

しおりを挟む
 まだ解散していなかった祝福隊が告白をやり遂げたマキアへ拍手を贈る中、いつもの調子に戻った彼はキースへ謝罪した。

「すみませんキース先輩、暴言を吐いてしまって。でもこれが俺の正直な気持ちです。あなたが退くと言うのなら俺が前へ出ます」
「………………」
「それとエン、ロックウィーナを好きだって黙っててゴメンな」
「知ってた」

 相棒のエンはあっさり言った。

「え! そうなん!?」
「前に俺を応援すると言ったおまえに聞いたろ? マキアはそれでいいのかって」
「あ……そっか。何だ、けっこう早い段階でバレてたんだ……」
「バディなんだから当たり前だ」
「こっから俺、本気で行くけどいい?」
「そうすべきだ。俺も負けない」

 親友同士の深い絆を感じた。ルパートとギルもこうなれていたら悲劇は訪れなかっただろうに。
 そのルパートが宣言した。

「俺も頑張ろっと。ウィー、やっぱ俺はおまえが好きだわ」

 …………はい?

「あの、先輩? 戻ってこられるとややこしくなるのですが」

 二人で泣いて抱き合って恋を終わらせたアレは何だったんだ。

「だって肝心のキースさんがあのザマなんだ、諦め切れねぇだろうが」

 ルパートが侮蔑の視線をキースへ向けた。

「俺はアンタを認めていた。アンタさえしっかりウィーを受け入れていれば、二人の未来を応援するつもりだったんだぞ? それが何だよ、情けねぇったら」

 挑発されてもキースは言い返さなかった。その様子を見てアルクナイトとエリアスも名乗りを上げた。

「……ワンコやチャラ男の言う通りヘタったな、白。そんなおまえにロックウィーナは渡せん。おまえに言われるまでもなく、ロックウィーナは魔王アルクナイトの妻とする」
「このエリアス・モルガナンも宣誓する。ロックウィーナを護り愛し抜くのは自分であると」

 またカオスになっちゃったよ。でも私も波に乗った。

「私も諦めません!」

 そうだよ。キースが心変わりをして私を嫌いになったのならともかく、まだ好きでいてくれる状況で諦められるもんか。私だって頑張るんだ。

「キース先輩が背負ってきたものの重さを私は知りません。あなたを支えるには力不足かもしれません。私がハッキリと、自信を持って提示できるのはあなたを好きだという気持ちだけです」

 キースはマキアからあれだけ批判されても平然としていたのに、私の訴えからは逃げようと顔をそむけた。

「好きだという気持ちしかないから……私はこれを大切に育てます。あなたに届くように、いつか実を結ぶように!」

 キースが歯を食いしばった。苦しそうだ。
 感情が揺さ振られているってことは、彼の中にも私に対する確かな想いが存在するという証拠だ。
 なら望みは有る。両想いなんだもの。
 彼は前に言った。「自分は幸せになることを諦めている」と。それをくつがえしてやる。意地でも幸せな未来をプレゼントしてみせる。幸せを押し付けてやるんだ、私の心と身体と一緒に彼へ。

 私は願う。私達の想いが通じ合い、寄り添い、更に大きなものへと成長できますように。


☆☆☆


 会議室の告白ラッシュから二時間後。
 マキアとエンを加えたBチームは馬車二台に分乗して、出動先に決まったケベック湿原へ到着した。水溜りが多いので足がぬかるみにまらないよう、注意して歩かなければならないフィールドだ。
 先に馬車から降りたマキアが手を差し出してエスコートしてくれた。私が手を取ると彼は嬉しそうにニコッと笑顔を見せた。積極的になったマキアに戸惑うものの、つい可愛いと感じてしまう。
 逆にキースは私を避けて違う馬車に乗ってここまで来た。寂しいけど焦っちゃ駄目だよね。

「はたしてここにアンドラの構成員が居るかどうか」
「……人気ひとけが無いな」
「地形が悪いし、で立ち入り自体が制限されているからな」

 最後に発言したのは我らがギルドマスターのケイシーだ。今回のミッションには急遽、普段は事務仕事の彼も同行することになった。キースの精神状態が不安定だから、それも有るが主にもう一つの理由によって、マスターは久々に戦士のよそおいでこの地に降り立った。
 私達は仕事モードに切り替わり、湿原の地図を見ながら輪になって本日のミッションについて話し合った。

「ガチでドラゴンが出てきたらどうします~?」

 そう言ったマシューはあまり怖がっていない様子だったが、私は非常におびえていた。ドラゴンなんかと戦いたくない。
 そう、これこそがマスターが同行した理由。このケベック湿原には犯罪者の他に、恐ろしいドラゴンが棲息しているかもしれないのだ。
 実は一ヶ月ほど前に冒険者ギルドへ、Sランクに相当する超高難易度の依頼が入っていたのだ。それがサンダードラゴンの討伐だ。ちなみに国からは500万ゴル預かり、仲介料と保険料を差し引いた成功報酬は300万ゴルとなっている。
 とはいえドラゴンを倒せるSランクパーティなどそうそう居ない。依頼は未達成のまま放置されていた。

「ドラゴン発見情報は一ヶ月前なんでしょう? もう別のフィールドへ移動しているのでは?」

 エンの指摘通りだったらいいのに。ドラゴン怖いよぉ。

「だがこの湿った空気と温度は、爬虫類系モンスターが好む環境だ」

 ソルの意見にうへぇとなった。定住しちゃってるのかなぁドラゴンさん。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

処理中です...