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霧に囲まれる街(1)
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「それで女神、おまえが現実世界へ戻るには具体的にどうしたらいいんだ?」
鈴音が泣き止むのを待ってから、アルクナイトが肝心な点を確認した。エリアスから借りたハンカチで遠慮がちに涙を拭き取り、鈴音は顔を上げた。
「私が以前使っていた休憩スポット……、女神の宮殿が現実世界と繋がる唯一の場所なんだ」
「休憩スポットは消えたとか言っていなかったか?」
「あれはゴメン、嘘。まだ宮殿は存在しているよ。でも力を失った今の私では辿り着けないの」
「宮殿か……。何処に在るんだ?」
「この街の上空に」
私を含めた数人が間抜けにも視線を上へずらした。見上げてもそこは会議室の味気ない天井だ。
つられなかった魔王が尚も尋ねた。
「俺は何度もこの辺りを飛行しているが、空に浮かぶ建造物なんて見た記憶が無いぞ?」
「雲の更に上だもの。流石のあなたもそんな高くは飛ばないでしょ?」
ハンカチを握りしめて鈴音は言った。
「お願い魔王、あなたの魔法で私を宮殿へ届けて欲しいの」
「雲を突き抜けてか……」
いくらアルクナイトでもそこまでは難しいかな?
「いいだろう。猫達の手を借りれば充分に可能だ」
そうか、にゃんこ達は魔力を増幅させる能力を持っているんだった。
「俺が風魔法で運ぶが、高所は空気が薄く寒い。雲の中は雷が発生している箇所が有って危険だ。白、おまえも協力して空気を包む強力な障壁を張れ」
「了解。女神の宮殿に僕がお邪魔することになるとはね」
キースが行くなら私も同行したいな。女神の宮殿がどんな所か興味が有る。
「それと……」
鈴音が思い詰めた表情になった。
「私の護衛も頼みたい。宮殿には侵入者を排除する魔法人形が居るの」
「ん? 宮殿の主であるおまえは排斥されないだろう?」
「……されたの。力の大半を失った私は女神として彼らに認識されず、侵入者として宮殿の外へ投げ捨てられてしまった」
「は? 投げ捨てられた!?」
「うん。天候を操る能力で風を発生させて落下スピードを殺して、何とか地上に死なずに降りられたよ……。上昇することはとてもできなかった」
「おい……。もしかして女神のくせに追い出されたことが恥ずかしくて、宮殿が消えたと嘘を吐いたのか?」
アルクナイトが完全に可哀想なものを見る目で鈴音を見た。ループ破壊後の鈴音は散々な目に遭っていたんだな。
「護衛役、引き受けた」
エリアスが力強い声で承諾した。
「何だエリー、おまえも行くのか?」
「スズネが世界の希望なんだ。護り抜かなければ」
「そんなエリアスさん、希望だなんて。私のせいで世界が崩壊しかけているのに」
エリアスは鈴音の瞳の奥を覗くように見つめた。
「その世界を創造したのは誰だ? キミが居なければそもそも私達は存在していなかった。私は生まれてからずっと、とても有意義な人生を歩めていると思っている。キミのおかげだ」
「エリアスさん……」
また鈴音が泣きそうになった。
そうなんだよね。設定については文句をつけたくなる部分も有るけれど、鈴音は私達の生みの親なんだよ。みんなが魅力的なのは自我に目覚めたことも大きいが、ベースをデザインしたのは鈴音だ。創造主の愛が無ければ中身の薄いキャラクターばかりだったろう。
「ルパート、おまえもここに居るみんなを連れて一緒に行け」
「俺達もか?」
ギルドマスターが私達を見て命令した。
「そうだ。街の守護は俺達残りのメンバーでやる。何としても女神さんを護れ」
「……解ったよ。で、いつ出発すればいい? 明日の朝一か?」
「今すぐだ」
割り込んだルービックの発言にギルド関係者は驚いた。
「こんな夜遅くにか!?」
「そうだルパート。王都が陥落したんだ、もはや猶予は残されていない。一刻も早く女神の宮殿へ行って、スズネを現実世界へ送り届けるんだ。国を喰らう霧は普通のものとは違う。いずれ女神の宮殿にすら届くかもしれない」
その可能性は充分に有ると思った。鈴音の生命を脅かす病魔である霧は、世界の全てを無にしようと動いている。上空すら安全圏内になるとは思えない。
「でもさ、一晩くらいの猶予は……」
「無い」
ルービックだけではなくエドガーとマシューも鋭い眼差しとなっていた。私達にした報告は端的であったが、王都から落ち延びた兵士はもっと具体的に、悲惨な状況を聖騎士達に話して聞かせたのだろう。
「事態は緊急を要する。だからシュターク商会にも協力を仰いだ」
「あっ、リリアナがここに居るのって……」
いくつも衝撃な事実を聞かされて頭が麻痺していた。定時で帰っているはずのリリアナがこんな遅い時間にギルドに居るのは、聖騎士達に呼ばれて一緒に来たからだったのか。
リリアナは優美に微笑んだ。
「シュターク商会は傭兵達と広く繋がりを持ちます。傭兵部隊と共に商会も街の守護に当たりますので、お姉様達は憂い無く女神の宮殿へ向かって下さい!」
そう言った彼は男性の……リーベルトの顔だった。
鈴音が泣き止むのを待ってから、アルクナイトが肝心な点を確認した。エリアスから借りたハンカチで遠慮がちに涙を拭き取り、鈴音は顔を上げた。
「私が以前使っていた休憩スポット……、女神の宮殿が現実世界と繋がる唯一の場所なんだ」
「休憩スポットは消えたとか言っていなかったか?」
「あれはゴメン、嘘。まだ宮殿は存在しているよ。でも力を失った今の私では辿り着けないの」
「宮殿か……。何処に在るんだ?」
「この街の上空に」
私を含めた数人が間抜けにも視線を上へずらした。見上げてもそこは会議室の味気ない天井だ。
つられなかった魔王が尚も尋ねた。
「俺は何度もこの辺りを飛行しているが、空に浮かぶ建造物なんて見た記憶が無いぞ?」
「雲の更に上だもの。流石のあなたもそんな高くは飛ばないでしょ?」
ハンカチを握りしめて鈴音は言った。
「お願い魔王、あなたの魔法で私を宮殿へ届けて欲しいの」
「雲を突き抜けてか……」
いくらアルクナイトでもそこまでは難しいかな?
「いいだろう。猫達の手を借りれば充分に可能だ」
そうか、にゃんこ達は魔力を増幅させる能力を持っているんだった。
「俺が風魔法で運ぶが、高所は空気が薄く寒い。雲の中は雷が発生している箇所が有って危険だ。白、おまえも協力して空気を包む強力な障壁を張れ」
「了解。女神の宮殿に僕がお邪魔することになるとはね」
キースが行くなら私も同行したいな。女神の宮殿がどんな所か興味が有る。
「それと……」
鈴音が思い詰めた表情になった。
「私の護衛も頼みたい。宮殿には侵入者を排除する魔法人形が居るの」
「ん? 宮殿の主であるおまえは排斥されないだろう?」
「……されたの。力の大半を失った私は女神として彼らに認識されず、侵入者として宮殿の外へ投げ捨てられてしまった」
「は? 投げ捨てられた!?」
「うん。天候を操る能力で風を発生させて落下スピードを殺して、何とか地上に死なずに降りられたよ……。上昇することはとてもできなかった」
「おい……。もしかして女神のくせに追い出されたことが恥ずかしくて、宮殿が消えたと嘘を吐いたのか?」
アルクナイトが完全に可哀想なものを見る目で鈴音を見た。ループ破壊後の鈴音は散々な目に遭っていたんだな。
「護衛役、引き受けた」
エリアスが力強い声で承諾した。
「何だエリー、おまえも行くのか?」
「スズネが世界の希望なんだ。護り抜かなければ」
「そんなエリアスさん、希望だなんて。私のせいで世界が崩壊しかけているのに」
エリアスは鈴音の瞳の奥を覗くように見つめた。
「その世界を創造したのは誰だ? キミが居なければそもそも私達は存在していなかった。私は生まれてからずっと、とても有意義な人生を歩めていると思っている。キミのおかげだ」
「エリアスさん……」
また鈴音が泣きそうになった。
そうなんだよね。設定については文句をつけたくなる部分も有るけれど、鈴音は私達の生みの親なんだよ。みんなが魅力的なのは自我に目覚めたことも大きいが、ベースをデザインしたのは鈴音だ。創造主の愛が無ければ中身の薄いキャラクターばかりだったろう。
「ルパート、おまえもここに居るみんなを連れて一緒に行け」
「俺達もか?」
ギルドマスターが私達を見て命令した。
「そうだ。街の守護は俺達残りのメンバーでやる。何としても女神さんを護れ」
「……解ったよ。で、いつ出発すればいい? 明日の朝一か?」
「今すぐだ」
割り込んだルービックの発言にギルド関係者は驚いた。
「こんな夜遅くにか!?」
「そうだルパート。王都が陥落したんだ、もはや猶予は残されていない。一刻も早く女神の宮殿へ行って、スズネを現実世界へ送り届けるんだ。国を喰らう霧は普通のものとは違う。いずれ女神の宮殿にすら届くかもしれない」
その可能性は充分に有ると思った。鈴音の生命を脅かす病魔である霧は、世界の全てを無にしようと動いている。上空すら安全圏内になるとは思えない。
「でもさ、一晩くらいの猶予は……」
「無い」
ルービックだけではなくエドガーとマシューも鋭い眼差しとなっていた。私達にした報告は端的であったが、王都から落ち延びた兵士はもっと具体的に、悲惨な状況を聖騎士達に話して聞かせたのだろう。
「事態は緊急を要する。だからシュターク商会にも協力を仰いだ」
「あっ、リリアナがここに居るのって……」
いくつも衝撃な事実を聞かされて頭が麻痺していた。定時で帰っているはずのリリアナがこんな遅い時間にギルドに居るのは、聖騎士達に呼ばれて一緒に来たからだったのか。
リリアナは優美に微笑んだ。
「シュターク商会は傭兵達と広く繋がりを持ちます。傭兵部隊と共に商会も街の守護に当たりますので、お姉様達は憂い無く女神の宮殿へ向かって下さい!」
そう言った彼は男性の……リーベルトの顔だった。
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