ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
276 / 291

女神の宮殿(1)

しおりを挟む
 街の住民らは何が起きているのか知る為に大声で兵士に詰め寄った。それに対して兵士は苛立ちを隠さずに、家の中へ入って施錠するように怒鳴り返す。異様な事態を察して泣いて母親にしがみつく子供達。
 閉じ籠ったところで無駄だろう。この街も時間の問題で陥落する。あの兵士もあの町人もあの子供も全員が死んでしまう。

「行くよロックウィーナ。みんなが待ってる」

 キースに肩を揺さぶられて私は我に返った。
 最後の希望である鈴音。彼女が現実世界に戻って新しい小説を執筆すれば、亡くなった人もまた生命を得て復活できると私達は信じている。その為にリーベルトと聖騎士達は、滅ぶ運命の街に残って戦うことを選んだのだ。鈴音が還る時間を稼ごうと。
 ならば私も自分のすべきことをしよう。

「はい!」

 私はキースと共に仲間が集まる所へ駆けた。

「全員揃ったな、女神の宮殿へ行くぞ。魔力を少しでも抑える為にできるだけ近くへ来い」

 宮殿には侵入者を排除しようとする魔法人形が待ち構えているのだ。戦闘になることを想定して魔力は温存させておかないと。全員がぴったりくっ付いた。
 鈴音、エリアス、アルクナイト、ルパート、エン、マキア、ユーリ、ソル、猫三兄弟に私とキース。総勢十三名の運命共同体。
 キースがいつもより大きな防御障壁を張り、それをアルクナイトが風魔法で浮かばせた。使い魔の猫達が魔力を増幅したので、十三人を乗せた空気のエレベーターが無事に上昇を始めた。

「!………………」

 高さに怖さを感じる間も無くグングンと私達は天へ昇り、眼下の街の灯りがどんどん小さくなっていった。
 リーベルト、アスリー、ギルドマスター、セスと同僚達、ルービック、エドガー、マシュー、ミラにマリナ。あの光の何処かに彼らが居る。今はまだ存在している。

「大丈夫だロックウィーナ。必ず成功する」
「はい……!」

 キースと繋ぐ手が熱い。この温もりを護りたい。

「雲の中へ入るぞ」

 障壁で護られているのについ目をつむってしまった。そして────。

「見えた! あれだな女神!」

 アルクナイトの声でまぶたを開けた私は、皆が顔を向けている方角へ目をやった。私よりも身長の高い男達に囲まれていたので最初は見えなかったが、アルクナイトがエレベーターを操作して対象へ近付けたことによって、徐々に女神の宮殿の全容が明らかとなった。

(わぁ……!)

 闇夜に浮かび上がる白い建造物。本のイラストで見た王都に在る城は要塞のような荘厳そうごんさをかもし出していたが、こちらはまるで白鳥が羽を広げたかのようなデザインで優美だった。
 首に当たる部分の高い塔。あそこが現実世界との交信場所だろうか。

「女神、魔法人形以外にも侵入者排除システムは在るのか?」
「無い。人形だけ」
「人形が配置されている場所は何処だ」
「入ってすぐの大ホール。そこにしか居ない」
「ならばホールさえ制圧すれば敵が居なくなる訳だな」
「うん。頑丈な人形だけど、みんなの力なら充分倒せるはず。心を持たない相手だから容赦しないで」
「了解だ。もう着くぞ、全員戦闘準備!」

 アルクナイトが空に浮かぶ城の門前にエレベーターを横付けした。「すげぇ……」とマキアが魔王の魔法コントロール能力に感心していた。
 まずルパートが足先を石畳の上にそっと乗せ、そして踏みしめた。浮いている城なので心配だったが、どうやら体重をかけても大丈夫そうだ。鈴音が住んでいた場所だもんね。
 みんなはエレベーターから空の城へ降り立った。そしてすぐに武器を抜き身状態にした。マキアが私の鞭に火魔法を付加してくれた。

「時間が無い、急げ」

 ソルを先頭に門を抜けて庭園を駆けた。
 夜間だが城の窓から射し込む灯りで庭の様子がうっすら掴めた。相当な高所なのにオレンジ色の綺麗な花が咲いている。魔法栽培とか?

「あれ? 私が居た頃はお花なんて咲いていなかったのに」

 不思議がったのは城の主だった鈴音で、感想を漏らしたのはエリアスだ。

「……私の好きな花だ。ガーベラにはと言う花言葉が有るんだ。オレンジ色にはという意味も有る」

 なるほど勇者にピッタリな花だな。ちなみに可憐なものに縁の無かった私は花を見ても種類が判らなかった。これはガーベラと言う花なのね。向日葵ひまわりやチューリップくらいなら見分けられるんだけどさ……。

「どうしてガーベラがここに?」

 まだ首を傾げている鈴音の背中を私は軽く叩いた。

「きっと世界があなたを応援しているんだよ」
「世界が? 私を?」
「世界も消えないように戦っているんでしょう? 希望と前進なんて今の状況にピッタリじゃない」
「そう……だね、そうだったらいいな……!」

 ずっと固かった鈴音の顔が少しだけほころんだ。

「扉自体は施錠されていないようです」
「よし。場内へ踏み込むぞ」

 入口に辿り着いたソルとアルクナイトが頷き合って、二人で協力して大扉を開けた。
 大剣を構えたエリアスが正面に立つ。

「……………………」

 数十秒間待ったが魔法人形は現れない。意を決してエリアスとルパートが並んで城内へ入った。彼らと少し距離を置いて私達も後に続いた。

「広いな……!」

 ユーリが漏らした。このエントランスホールだけで城一階の大部分を占めているんじゃないかな。
 床はずいぶんと硬い建材だ。受け身を取らずに転んだら怪我をするな。

「こんな広い玄関が必要か? ここで舞踏会でも開いていたのか?」
「……いいえ。魔法人形が動きやすいように広い造りになっているの」

 鈴音が答えた直後、ビーッ、ビーッ、ビーッとけたたましい音がホールに鳴り響いた。

「なるほどな……」

 ユーリが暗殺者の顔になった。彼の目線の先、ホールの壁の一部が半回転して、中に有った空間に収納されていた人形の目が青く光った。警報に合わせて眠っていた人形が起動したようだ。
 そして魔法人形は一体だけではなかった。次々に壁が回転して何体もの人形達がその姿を現したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...