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女神の宮殿(1)
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街の住民らは何が起きているのか知る為に大声で兵士に詰め寄った。それに対して兵士は苛立ちを隠さずに、家の中へ入って施錠するように怒鳴り返す。異様な事態を察して泣いて母親にしがみつく子供達。
閉じ籠ったところで無駄だろう。この街も時間の問題で陥落する。あの兵士もあの町人もあの子供も全員が死んでしまう。
「行くよロックウィーナ。みんなが待ってる」
キースに肩を揺さぶられて私は我に返った。
最後の希望である鈴音。彼女が現実世界に戻って新しい小説を執筆すれば、亡くなった人もまた生命を得て復活できると私達は信じている。その為にリーベルトと聖騎士達は、滅ぶ運命の街に残って戦うことを選んだのだ。鈴音が還る時間を稼ごうと。
ならば私も自分のすべきことをしよう。
「はい!」
私はキースと共に仲間が集まる所へ駆けた。
「全員揃ったな、女神の宮殿へ行くぞ。魔力を少しでも抑える為にできるだけ近くへ来い」
宮殿には侵入者を排除しようとする魔法人形が待ち構えているのだ。戦闘になることを想定して魔力は温存させておかないと。全員がぴったりくっ付いた。
鈴音、エリアス、アルクナイト、ルパート、エン、マキア、ユーリ、ソル、猫三兄弟に私とキース。総勢十三名の運命共同体。
キースがいつもより大きな防御障壁を張り、それをアルクナイトが風魔法で浮かばせた。使い魔の猫達が魔力を増幅したので、十三人を乗せた空気のエレベーターが無事に上昇を始めた。
「!………………」
高さに怖さを感じる間も無くグングンと私達は天へ昇り、眼下の街の灯りがどんどん小さくなっていった。
リーベルト、アスリー、ギルドマスター、セスと同僚達、ルービック、エドガー、マシュー、ミラにマリナ。あの光の何処かに彼らが居る。今はまだ存在している。
「大丈夫だロックウィーナ。必ず成功する」
「はい……!」
キースと繋ぐ手が熱い。この温もりを護りたい。
「雲の中へ入るぞ」
障壁で護られているのについ目を瞑ってしまった。そして────。
「見えた! あれだな女神!」
アルクナイトの声で瞼を開けた私は、皆が顔を向けている方角へ目をやった。私よりも身長の高い男達に囲まれていたので最初は見えなかったが、アルクナイトがエレベーターを操作して対象へ近付けたことによって、徐々に女神の宮殿の全容が明らかとなった。
(わぁ……!)
闇夜に浮かび上がる白い建造物。本のイラストで見た王都に在る城は要塞のような荘厳さを醸し出していたが、こちらはまるで白鳥が羽を広げたかのようなデザインで優美だった。
首に当たる部分の高い塔。あそこが現実世界との交信場所だろうか。
「女神、魔法人形以外にも侵入者排除システムは在るのか?」
「無い。人形だけ」
「人形が配置されている場所は何処だ」
「入ってすぐの大ホール。そこにしか居ない」
「ならばホールさえ制圧すれば敵が居なくなる訳だな」
「うん。頑丈な人形だけど、みんなの力なら充分倒せるはず。心を持たない相手だから容赦しないで」
「了解だ。もう着くぞ、全員戦闘準備!」
アルクナイトが空に浮かぶ城の門前にエレベーターを横付けした。「すげぇ……」とマキアが魔王の魔法コントロール能力に感心していた。
まずルパートが足先を石畳の上にそっと乗せ、そして踏みしめた。浮いている城なので心配だったが、どうやら体重をかけても大丈夫そうだ。鈴音が住んでいた場所だもんね。
みんなはエレベーターから空の城へ降り立った。そしてすぐに武器を抜き身状態にした。マキアが私の鞭に火魔法を付加してくれた。
「時間が無い、急げ」
ソルを先頭に門を抜けて庭園を駆けた。
夜間だが城の窓から射し込む灯りで庭の様子がうっすら掴めた。相当な高所なのにオレンジ色の綺麗な花が咲いている。魔法栽培とか?
「あれ? 私が居た頃はお花なんて咲いていなかったのに」
不思議がったのは城の主だった鈴音で、感想を漏らしたのはエリアスだ。
「……私の好きな花だ。ガーベラには希望と前進と言う花言葉が有るんだ。オレンジ色には我慢強さという意味も有る」
なるほど勇者にピッタリな花だな。ちなみに可憐なものに縁の無かった私は花を見ても種類が判らなかった。これはガーベラと言う花なのね。向日葵やチューリップくらいなら見分けられるんだけどさ……。
「どうしてガーベラがここに?」
まだ首を傾げている鈴音の背中を私は軽く叩いた。
「きっと世界があなたを応援しているんだよ」
「世界が? 私を?」
「世界も消えないように戦っているんでしょう? 希望と前進なんて今の状況にピッタリじゃない」
「そう……だね、そうだったらいいな……!」
ずっと固かった鈴音の顔が少しだけ綻んだ。
「扉自体は施錠されていないようです」
「よし。場内へ踏み込むぞ」
入口に辿り着いたソルとアルクナイトが頷き合って、二人で協力して大扉を開けた。
大剣を構えたエリアスが正面に立つ。
「……………………」
数十秒間待ったが魔法人形は現れない。意を決してエリアスとルパートが並んで城内へ入った。彼らと少し距離を置いて私達も後に続いた。
「広いな……!」
ユーリが漏らした。このエントランスホールだけで城一階の大部分を占めているんじゃないかな。
床はずいぶんと硬い建材だ。受け身を取らずに転んだら怪我をするな。
「こんな広い玄関が必要か? ここで舞踏会でも開いていたのか?」
「……いいえ。魔法人形が動きやすいように広い造りになっているの」
鈴音が答えた直後、ビーッ、ビーッ、ビーッとけたたましい音がホールに鳴り響いた。
「なるほどな……」
ユーリが暗殺者の顔になった。彼の目線の先、ホールの壁の一部が半回転して、中に有った空間に収納されていた人形の目が青く光った。警報に合わせて眠っていた人形が起動したようだ。
そして魔法人形は一体だけではなかった。次々に壁が回転して何体もの人形達がその姿を現したのだ。
閉じ籠ったところで無駄だろう。この街も時間の問題で陥落する。あの兵士もあの町人もあの子供も全員が死んでしまう。
「行くよロックウィーナ。みんなが待ってる」
キースに肩を揺さぶられて私は我に返った。
最後の希望である鈴音。彼女が現実世界に戻って新しい小説を執筆すれば、亡くなった人もまた生命を得て復活できると私達は信じている。その為にリーベルトと聖騎士達は、滅ぶ運命の街に残って戦うことを選んだのだ。鈴音が還る時間を稼ごうと。
ならば私も自分のすべきことをしよう。
「はい!」
私はキースと共に仲間が集まる所へ駆けた。
「全員揃ったな、女神の宮殿へ行くぞ。魔力を少しでも抑える為にできるだけ近くへ来い」
宮殿には侵入者を排除しようとする魔法人形が待ち構えているのだ。戦闘になることを想定して魔力は温存させておかないと。全員がぴったりくっ付いた。
鈴音、エリアス、アルクナイト、ルパート、エン、マキア、ユーリ、ソル、猫三兄弟に私とキース。総勢十三名の運命共同体。
キースがいつもより大きな防御障壁を張り、それをアルクナイトが風魔法で浮かばせた。使い魔の猫達が魔力を増幅したので、十三人を乗せた空気のエレベーターが無事に上昇を始めた。
「!………………」
高さに怖さを感じる間も無くグングンと私達は天へ昇り、眼下の街の灯りがどんどん小さくなっていった。
リーベルト、アスリー、ギルドマスター、セスと同僚達、ルービック、エドガー、マシュー、ミラにマリナ。あの光の何処かに彼らが居る。今はまだ存在している。
「大丈夫だロックウィーナ。必ず成功する」
「はい……!」
キースと繋ぐ手が熱い。この温もりを護りたい。
「雲の中へ入るぞ」
障壁で護られているのについ目を瞑ってしまった。そして────。
「見えた! あれだな女神!」
アルクナイトの声で瞼を開けた私は、皆が顔を向けている方角へ目をやった。私よりも身長の高い男達に囲まれていたので最初は見えなかったが、アルクナイトがエレベーターを操作して対象へ近付けたことによって、徐々に女神の宮殿の全容が明らかとなった。
(わぁ……!)
闇夜に浮かび上がる白い建造物。本のイラストで見た王都に在る城は要塞のような荘厳さを醸し出していたが、こちらはまるで白鳥が羽を広げたかのようなデザインで優美だった。
首に当たる部分の高い塔。あそこが現実世界との交信場所だろうか。
「女神、魔法人形以外にも侵入者排除システムは在るのか?」
「無い。人形だけ」
「人形が配置されている場所は何処だ」
「入ってすぐの大ホール。そこにしか居ない」
「ならばホールさえ制圧すれば敵が居なくなる訳だな」
「うん。頑丈な人形だけど、みんなの力なら充分倒せるはず。心を持たない相手だから容赦しないで」
「了解だ。もう着くぞ、全員戦闘準備!」
アルクナイトが空に浮かぶ城の門前にエレベーターを横付けした。「すげぇ……」とマキアが魔王の魔法コントロール能力に感心していた。
まずルパートが足先を石畳の上にそっと乗せ、そして踏みしめた。浮いている城なので心配だったが、どうやら体重をかけても大丈夫そうだ。鈴音が住んでいた場所だもんね。
みんなはエレベーターから空の城へ降り立った。そしてすぐに武器を抜き身状態にした。マキアが私の鞭に火魔法を付加してくれた。
「時間が無い、急げ」
ソルを先頭に門を抜けて庭園を駆けた。
夜間だが城の窓から射し込む灯りで庭の様子がうっすら掴めた。相当な高所なのにオレンジ色の綺麗な花が咲いている。魔法栽培とか?
「あれ? 私が居た頃はお花なんて咲いていなかったのに」
不思議がったのは城の主だった鈴音で、感想を漏らしたのはエリアスだ。
「……私の好きな花だ。ガーベラには希望と前進と言う花言葉が有るんだ。オレンジ色には我慢強さという意味も有る」
なるほど勇者にピッタリな花だな。ちなみに可憐なものに縁の無かった私は花を見ても種類が判らなかった。これはガーベラと言う花なのね。向日葵やチューリップくらいなら見分けられるんだけどさ……。
「どうしてガーベラがここに?」
まだ首を傾げている鈴音の背中を私は軽く叩いた。
「きっと世界があなたを応援しているんだよ」
「世界が? 私を?」
「世界も消えないように戦っているんでしょう? 希望と前進なんて今の状況にピッタリじゃない」
「そう……だね、そうだったらいいな……!」
ずっと固かった鈴音の顔が少しだけ綻んだ。
「扉自体は施錠されていないようです」
「よし。場内へ踏み込むぞ」
入口に辿り着いたソルとアルクナイトが頷き合って、二人で協力して大扉を開けた。
大剣を構えたエリアスが正面に立つ。
「……………………」
数十秒間待ったが魔法人形は現れない。意を決してエリアスとルパートが並んで城内へ入った。彼らと少し距離を置いて私達も後に続いた。
「広いな……!」
ユーリが漏らした。このエントランスホールだけで城一階の大部分を占めているんじゃないかな。
床はずいぶんと硬い建材だ。受け身を取らずに転んだら怪我をするな。
「こんな広い玄関が必要か? ここで舞踏会でも開いていたのか?」
「……いいえ。魔法人形が動きやすいように広い造りになっているの」
鈴音が答えた直後、ビーッ、ビーッ、ビーッとけたたましい音がホールに鳴り響いた。
「なるほどな……」
ユーリが暗殺者の顔になった。彼の目線の先、ホールの壁の一部が半回転して、中に有った空間に収納されていた人形の目が青く光った。警報に合わせて眠っていた人形が起動したようだ。
そして魔法人形は一体だけではなかった。次々に壁が回転して何体もの人形達がその姿を現したのだ。
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