5 / 291
一幕 エリアスが日常に(3)
しおりを挟む
「えええ? お姉様も討伐ミッションに参加するんですかぁ!?」
カウンターに戻った私達を出迎えたのはリリアナの高い声だった。
「無理ですよぉ、危ないですよぉ、お姉様はモンスターと戦った経験が無いでしょう?」
受付嬢の彼女は両手で顔の前に拳を作り、イスに座りながらプリプリとお尻を振った。やることなすことオーバーリアクションなのだが、何故かリリアナがやるとしっくりくるんだよね。
「狼とは何度か戦ったこと有るよ? 鞭で脅して追い払っただけだけど」
「狼を? レディも狼に囲まれた経験が有るのか?」
「コイツはギルドに来る前は羊飼いだったんですよ」
「なんと」
「あはは……。故郷では牧羊犬と一緒に羊を追ってました」
毎日走り込んでいたおかげで健脚の持ち主だ。人口よりも羊の方が多いド田舎出身。そんな私だから貴族と知り合いになるなんて夢にも思わなかった。
「納得だ。レディの健康美はそれで培われたものだったんだな」
健康美とは言いようだな。無理して褒めようとしてくれなくてもいいのに。私には本当、健康な肉体しか誇れるものが無い。
「お姉様が行かなくても、エリアスさんとルパートお兄様の二人だけで充分なんじゃないですかぁ?」
「まぁな。俺様は強いからEランク程度の依頼は余裕だよな」
「自慢ウザイですぅ。自信が有るならお姉様を置いて、野郎二人でとっとと行きやがれですぅ」
リリアナは実は口が悪い。動作が可愛いので許されているが。
「……。そういう訳にはいかねぇんだよ。マスターの命令なんだ」
「あの禿げちゃびんたら。禿げ頭に筆で切れ目を描いて、ちんこの先にしてやるのですぅ」
「ぶごほっ」
ルパートとリリアナのやり取りを聞いてエリアスがむせた。慣れない人にとっては驚きの会話だよね、冒険者ギルドではこれが日常なんです。
愛らしい、ただその一点のみで、えげつない下ネタを口にするリリアナを受付嬢にしたマスターは本気で頭がおかしい。決して受付嬢をさせてもらえなかった嫉妬から出た意見ではない。
「レディ……。貴女も普段ああいった会話を?」
「いえ、聞き流しています」
「良かった……」
エリアスは文字通り胸を撫で下ろした。
「お姉様は純情ですから、えっちなこと言ったりしませんよぉ」
「おまえ自分がエロいこと言ってる自覚有ったんかい。もういい、早く手続きしろや」
ルパートにせっつかれてリリアナは頬を膨らませた。悔しいがそんな仕草も可愛い。
「すっごく嫌ですけどぉ、このトロール討伐は皆さんにお任せしますぅ」
リリアナはすぐに該当するフィールドの地図を出した。ただの地図ではない。避難に適した場所や出現するモンスターの種類などが記載された優れものだ。私達回収人が出動した際に気づいたことや、冒険者から寄せられた情報を基に作られた、ギルドでのみ支給される非売品である。
「この谷で最近、頻繫にトロールの目撃情報が出ていますぅ。依頼主は近くの村の村長さんですねぇ」
「了解。サクッと退治してくるわ。んじゃ、用意してきますんでちょっと待ってて下さい」
エリアスをホールに残して、私とルパートは出動準備に取りかかった。
☆☆☆
巨体の人型モンスター、トロールは谷の洞窟に巣くっていた。
一~三体の相手をすればいいと思っていたら、なんとビックリ七体の大所帯だった。身体が大きいので洞窟にミチミチ詰まっている感じ。鞭だと狭い空間は不利だなと私は心配したのだが、
「ふんっ!」
エリアスが大剣で最初の一体を真っ二つに斬り伏せ瞬殺した。
「はっ!」
その後も大剣をブンブン振り回して、
「ほっ!」
トロールの手とか脚とか首とかが飛んで、
「せやぁっ!!」
洞窟壁面が血飛沫で真っ赤に染まる頃には、エリアスによるトロール大虐殺の図が完成されていた。
時間にして三分かかってないと思う。エリアス強い。悪魔じゃないかってくらいに強い。
「済んだよ、レディ」
振り返ったエリアスは爽やかに笑って白い歯を私に見せたが、頬には返り血が怪しく光っていた。うん、完全にデート気分が彼方まで吹っ飛んだわ。
女性に優しく腕っぷしが強くお顔も綺麗なエリアスは、完全無欠のヒーローになれると思う。実際、彼に恋焦がれる女性は多いのだろう。ただし深窓の令嬢にエリアスとのお付き合いは無理だ。彼と関わりを持とうとすると、この血生臭さと足下に転がる肉片がもれなく付いてくる。
「とっとと出ようや」
私以上に死体慣れしているはずのルパートが足早く洞窟を後にした。死後数日間経過した骸を発見するのと、目の前で死体の山を築かれるのは似て非なるものだと知った。主に鮮度が違う。
「ぷはーっ」
洞窟から出て真っ先にしたのは深呼吸だった。外の空気の美味しいことと言ったら!
遅れて陽の下へ出てきたエリアスは、丁寧に汚れた大剣を布で拭いていた。刃に血糊を付着させたまま鞘に仕舞うと抜けなくなるそうな。
カウンターに戻った私達を出迎えたのはリリアナの高い声だった。
「無理ですよぉ、危ないですよぉ、お姉様はモンスターと戦った経験が無いでしょう?」
受付嬢の彼女は両手で顔の前に拳を作り、イスに座りながらプリプリとお尻を振った。やることなすことオーバーリアクションなのだが、何故かリリアナがやるとしっくりくるんだよね。
「狼とは何度か戦ったこと有るよ? 鞭で脅して追い払っただけだけど」
「狼を? レディも狼に囲まれた経験が有るのか?」
「コイツはギルドに来る前は羊飼いだったんですよ」
「なんと」
「あはは……。故郷では牧羊犬と一緒に羊を追ってました」
毎日走り込んでいたおかげで健脚の持ち主だ。人口よりも羊の方が多いド田舎出身。そんな私だから貴族と知り合いになるなんて夢にも思わなかった。
「納得だ。レディの健康美はそれで培われたものだったんだな」
健康美とは言いようだな。無理して褒めようとしてくれなくてもいいのに。私には本当、健康な肉体しか誇れるものが無い。
「お姉様が行かなくても、エリアスさんとルパートお兄様の二人だけで充分なんじゃないですかぁ?」
「まぁな。俺様は強いからEランク程度の依頼は余裕だよな」
「自慢ウザイですぅ。自信が有るならお姉様を置いて、野郎二人でとっとと行きやがれですぅ」
リリアナは実は口が悪い。動作が可愛いので許されているが。
「……。そういう訳にはいかねぇんだよ。マスターの命令なんだ」
「あの禿げちゃびんたら。禿げ頭に筆で切れ目を描いて、ちんこの先にしてやるのですぅ」
「ぶごほっ」
ルパートとリリアナのやり取りを聞いてエリアスがむせた。慣れない人にとっては驚きの会話だよね、冒険者ギルドではこれが日常なんです。
愛らしい、ただその一点のみで、えげつない下ネタを口にするリリアナを受付嬢にしたマスターは本気で頭がおかしい。決して受付嬢をさせてもらえなかった嫉妬から出た意見ではない。
「レディ……。貴女も普段ああいった会話を?」
「いえ、聞き流しています」
「良かった……」
エリアスは文字通り胸を撫で下ろした。
「お姉様は純情ですから、えっちなこと言ったりしませんよぉ」
「おまえ自分がエロいこと言ってる自覚有ったんかい。もういい、早く手続きしろや」
ルパートにせっつかれてリリアナは頬を膨らませた。悔しいがそんな仕草も可愛い。
「すっごく嫌ですけどぉ、このトロール討伐は皆さんにお任せしますぅ」
リリアナはすぐに該当するフィールドの地図を出した。ただの地図ではない。避難に適した場所や出現するモンスターの種類などが記載された優れものだ。私達回収人が出動した際に気づいたことや、冒険者から寄せられた情報を基に作られた、ギルドでのみ支給される非売品である。
「この谷で最近、頻繫にトロールの目撃情報が出ていますぅ。依頼主は近くの村の村長さんですねぇ」
「了解。サクッと退治してくるわ。んじゃ、用意してきますんでちょっと待ってて下さい」
エリアスをホールに残して、私とルパートは出動準備に取りかかった。
☆☆☆
巨体の人型モンスター、トロールは谷の洞窟に巣くっていた。
一~三体の相手をすればいいと思っていたら、なんとビックリ七体の大所帯だった。身体が大きいので洞窟にミチミチ詰まっている感じ。鞭だと狭い空間は不利だなと私は心配したのだが、
「ふんっ!」
エリアスが大剣で最初の一体を真っ二つに斬り伏せ瞬殺した。
「はっ!」
その後も大剣をブンブン振り回して、
「ほっ!」
トロールの手とか脚とか首とかが飛んで、
「せやぁっ!!」
洞窟壁面が血飛沫で真っ赤に染まる頃には、エリアスによるトロール大虐殺の図が完成されていた。
時間にして三分かかってないと思う。エリアス強い。悪魔じゃないかってくらいに強い。
「済んだよ、レディ」
振り返ったエリアスは爽やかに笑って白い歯を私に見せたが、頬には返り血が怪しく光っていた。うん、完全にデート気分が彼方まで吹っ飛んだわ。
女性に優しく腕っぷしが強くお顔も綺麗なエリアスは、完全無欠のヒーローになれると思う。実際、彼に恋焦がれる女性は多いのだろう。ただし深窓の令嬢にエリアスとのお付き合いは無理だ。彼と関わりを持とうとすると、この血生臭さと足下に転がる肉片がもれなく付いてくる。
「とっとと出ようや」
私以上に死体慣れしているはずのルパートが足早く洞窟を後にした。死後数日間経過した骸を発見するのと、目の前で死体の山を築かれるのは似て非なるものだと知った。主に鮮度が違う。
「ぷはーっ」
洞窟から出て真っ先にしたのは深呼吸だった。外の空気の美味しいことと言ったら!
遅れて陽の下へ出てきたエリアスは、丁寧に汚れた大剣を布で拭いていた。刃に血糊を付着させたまま鞘に仕舞うと抜けなくなるそうな。
11
あなたにおすすめの小説
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる