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一幕 エリアスが日常に(3)
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「えええ? お姉様も討伐ミッションに参加するんですかぁ!?」
カウンターに戻った私達を出迎えたのはリリアナの高い声だった。
「無理ですよぉ、危ないですよぉ、お姉様はモンスターと戦った経験が無いでしょう?」
受付嬢の彼女は両手で顔の前に拳を作り、イスに座りながらプリプリとお尻を振った。やることなすことオーバーリアクションなのだが、何故かリリアナがやるとしっくりくるんだよね。
「狼とは何度か戦ったこと有るよ? 鞭で脅して追い払っただけだけど」
「狼を? レディも狼に囲まれた経験が有るのか?」
「コイツはギルドに来る前は羊飼いだったんですよ」
「なんと」
「あはは……。故郷では牧羊犬と一緒に羊を追ってました」
毎日走り込んでいたおかげで健脚の持ち主だ。人口よりも羊の方が多いド田舎出身。そんな私だから貴族と知り合いになるなんて夢にも思わなかった。
「納得だ。レディの健康美はそれで培われたものだったんだな」
健康美とは言いようだな。無理して褒めようとしてくれなくてもいいのに。私には本当、健康な肉体しか誇れるものが無い。
「お姉様が行かなくても、エリアスさんとルパートお兄様の二人だけで充分なんじゃないですかぁ?」
「まぁな。俺様は強いからEランク程度の依頼は余裕だよな」
「自慢ウザイですぅ。自信が有るならお姉様を置いて、野郎二人でとっとと行きやがれですぅ」
リリアナは実は口が悪い。動作が可愛いので許されているが。
「……。そういう訳にはいかねぇんだよ。マスターの命令なんだ」
「あの禿げちゃびんたら。禿げ頭に筆で切れ目を描いて、ちんこの先にしてやるのですぅ」
「ぶごほっ」
ルパートとリリアナのやり取りを聞いてエリアスがむせた。慣れない人にとっては驚きの会話だよね、冒険者ギルドではこれが日常なんです。
愛らしい、ただその一点のみで、えげつない下ネタを口にするリリアナを受付嬢にしたマスターは本気で頭がおかしい。決して受付嬢をさせてもらえなかった嫉妬から出た意見ではない。
「レディ……。貴女も普段ああいった会話を?」
「いえ、聞き流しています」
「良かった……」
エリアスは文字通り胸を撫で下ろした。
「お姉様は純情ですから、えっちなこと言ったりしませんよぉ」
「おまえ自分がエロいこと言ってる自覚有ったんかい。もういい、早く手続きしろや」
ルパートにせっつかれてリリアナは頬を膨らませた。悔しいがそんな仕草も可愛い。
「すっごく嫌ですけどぉ、このトロール討伐は皆さんにお任せしますぅ」
リリアナはすぐに該当するフィールドの地図を出した。ただの地図ではない。避難に適した場所や出現するモンスターの種類などが記載された優れものだ。私達回収人が出動した際に気づいたことや、冒険者から寄せられた情報を基に作られた、ギルドでのみ支給される非売品である。
「この谷で最近、頻繫にトロールの目撃情報が出ていますぅ。依頼主は近くの村の村長さんですねぇ」
「了解。サクッと退治してくるわ。んじゃ、用意してきますんでちょっと待ってて下さい」
エリアスをホールに残して、私とルパートは出動準備に取りかかった。
☆☆☆
巨体の人型モンスター、トロールは谷の洞窟に巣くっていた。
一~三体の相手をすればいいと思っていたら、なんとビックリ七体の大所帯だった。身体が大きいので洞窟にミチミチ詰まっている感じ。鞭だと狭い空間は不利だなと私は心配したのだが、
「ふんっ!」
エリアスが大剣で最初の一体を真っ二つに斬り伏せ瞬殺した。
「はっ!」
その後も大剣をブンブン振り回して、
「ほっ!」
トロールの手とか脚とか首とかが飛んで、
「せやぁっ!!」
洞窟壁面が血飛沫で真っ赤に染まる頃には、エリアスによるトロール大虐殺の図が完成されていた。
時間にして三分かかってないと思う。エリアス強い。悪魔じゃないかってくらいに強い。
「済んだよ、レディ」
振り返ったエリアスは爽やかに笑って白い歯を私に見せたが、頬には返り血が怪しく光っていた。うん、完全にデート気分が彼方まで吹っ飛んだわ。
女性に優しく腕っぷしが強くお顔も綺麗なエリアスは、完全無欠のヒーローになれると思う。実際、彼に恋焦がれる女性は多いのだろう。ただし深窓の令嬢にエリアスとのお付き合いは無理だ。彼と関わりを持とうとすると、この血生臭さと足下に転がる肉片がもれなく付いてくる。
「とっとと出ようや」
私以上に死体慣れしているはずのルパートが足早く洞窟を後にした。死後数日間経過した骸を発見するのと、目の前で死体の山を築かれるのは似て非なるものだと知った。主に鮮度が違う。
「ぷはーっ」
洞窟から出て真っ先にしたのは深呼吸だった。外の空気の美味しいことと言ったら!
遅れて陽の下へ出てきたエリアスは、丁寧に汚れた大剣を布で拭いていた。刃に血糊を付着させたまま鞘に仕舞うと抜けなくなるそうな。
カウンターに戻った私達を出迎えたのはリリアナの高い声だった。
「無理ですよぉ、危ないですよぉ、お姉様はモンスターと戦った経験が無いでしょう?」
受付嬢の彼女は両手で顔の前に拳を作り、イスに座りながらプリプリとお尻を振った。やることなすことオーバーリアクションなのだが、何故かリリアナがやるとしっくりくるんだよね。
「狼とは何度か戦ったこと有るよ? 鞭で脅して追い払っただけだけど」
「狼を? レディも狼に囲まれた経験が有るのか?」
「コイツはギルドに来る前は羊飼いだったんですよ」
「なんと」
「あはは……。故郷では牧羊犬と一緒に羊を追ってました」
毎日走り込んでいたおかげで健脚の持ち主だ。人口よりも羊の方が多いド田舎出身。そんな私だから貴族と知り合いになるなんて夢にも思わなかった。
「納得だ。レディの健康美はそれで培われたものだったんだな」
健康美とは言いようだな。無理して褒めようとしてくれなくてもいいのに。私には本当、健康な肉体しか誇れるものが無い。
「お姉様が行かなくても、エリアスさんとルパートお兄様の二人だけで充分なんじゃないですかぁ?」
「まぁな。俺様は強いからEランク程度の依頼は余裕だよな」
「自慢ウザイですぅ。自信が有るならお姉様を置いて、野郎二人でとっとと行きやがれですぅ」
リリアナは実は口が悪い。動作が可愛いので許されているが。
「……。そういう訳にはいかねぇんだよ。マスターの命令なんだ」
「あの禿げちゃびんたら。禿げ頭に筆で切れ目を描いて、ちんこの先にしてやるのですぅ」
「ぶごほっ」
ルパートとリリアナのやり取りを聞いてエリアスがむせた。慣れない人にとっては驚きの会話だよね、冒険者ギルドではこれが日常なんです。
愛らしい、ただその一点のみで、えげつない下ネタを口にするリリアナを受付嬢にしたマスターは本気で頭がおかしい。決して受付嬢をさせてもらえなかった嫉妬から出た意見ではない。
「レディ……。貴女も普段ああいった会話を?」
「いえ、聞き流しています」
「良かった……」
エリアスは文字通り胸を撫で下ろした。
「お姉様は純情ですから、えっちなこと言ったりしませんよぉ」
「おまえ自分がエロいこと言ってる自覚有ったんかい。もういい、早く手続きしろや」
ルパートにせっつかれてリリアナは頬を膨らませた。悔しいがそんな仕草も可愛い。
「すっごく嫌ですけどぉ、このトロール討伐は皆さんにお任せしますぅ」
リリアナはすぐに該当するフィールドの地図を出した。ただの地図ではない。避難に適した場所や出現するモンスターの種類などが記載された優れものだ。私達回収人が出動した際に気づいたことや、冒険者から寄せられた情報を基に作られた、ギルドでのみ支給される非売品である。
「この谷で最近、頻繫にトロールの目撃情報が出ていますぅ。依頼主は近くの村の村長さんですねぇ」
「了解。サクッと退治してくるわ。んじゃ、用意してきますんでちょっと待ってて下さい」
エリアスをホールに残して、私とルパートは出動準備に取りかかった。
☆☆☆
巨体の人型モンスター、トロールは谷の洞窟に巣くっていた。
一~三体の相手をすればいいと思っていたら、なんとビックリ七体の大所帯だった。身体が大きいので洞窟にミチミチ詰まっている感じ。鞭だと狭い空間は不利だなと私は心配したのだが、
「ふんっ!」
エリアスが大剣で最初の一体を真っ二つに斬り伏せ瞬殺した。
「はっ!」
その後も大剣をブンブン振り回して、
「ほっ!」
トロールの手とか脚とか首とかが飛んで、
「せやぁっ!!」
洞窟壁面が血飛沫で真っ赤に染まる頃には、エリアスによるトロール大虐殺の図が完成されていた。
時間にして三分かかってないと思う。エリアス強い。悪魔じゃないかってくらいに強い。
「済んだよ、レディ」
振り返ったエリアスは爽やかに笑って白い歯を私に見せたが、頬には返り血が怪しく光っていた。うん、完全にデート気分が彼方まで吹っ飛んだわ。
女性に優しく腕っぷしが強くお顔も綺麗なエリアスは、完全無欠のヒーローになれると思う。実際、彼に恋焦がれる女性は多いのだろう。ただし深窓の令嬢にエリアスとのお付き合いは無理だ。彼と関わりを持とうとすると、この血生臭さと足下に転がる肉片がもれなく付いてくる。
「とっとと出ようや」
私以上に死体慣れしているはずのルパートが足早く洞窟を後にした。死後数日間経過した骸を発見するのと、目の前で死体の山を築かれるのは似て非なるものだと知った。主に鮮度が違う。
「ぷはーっ」
洞窟から出て真っ先にしたのは深呼吸だった。外の空気の美味しいことと言ったら!
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