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五幕 ルパートとの契約(1)
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食事の後、マキアとエンは早々に自室へ引っ込んでしまった。峠を二つ越えてフィースノーの支部まで来たんだものね、そりゃ疲れが溜まっているからギリギリまで休みたいよね。
でもヤバイ。ルパートと二人きりになっちゃうじゃん。まだ彼と真面目な話をする心の準備というものが、私にはできていないのですよ。
「食堂、混んできたな」
正午近くなって大量の腹ペコくん達が食堂へ押し寄せてきた。食事を終えた者はテーブルを譲るのがマナーだ。
「ウィー、おまえの部屋に行ってもいいか……?」
らしくもなく遠慮がちにルパートが私に尋ねた。ううううう。
「すみません、火急の用事が有りまして」
「用事って何だ? 手伝うぞ」
「ええと、アレですよ」
「アレって何だ」
無いんだよ、用事なんか。アンタと居たくないだけだっつーの。
「訓練場で準備運動です! 出動前に身体を温めておきたいんです。だから昼食も早めに済ませたんです」
「準備運動?」
「ええ。犯罪グループの本拠地を探るなんて危険な任務ですからね、やれることは全部やっておきたいんです。昨日の出動では先輩達やエリアスさんに助けられるだけで、私は何の役にも立てませんでしたし。焦るつもりは有りませんが、今日の努力は明日の幸せ、毎日コツコツ鍛錬を積んで少しでも実力を上げていきたいんです」
後ろ暗いことが有ると人間は饒舌になるというのは本当だな。スラスラと言い訳が出てきたよ。
ルパートは感心したように言った。
「そりゃあイイ心がけだ。俺も付き合うよ」
そう来たか。
くそ、そんな風に言われたら断れないじゃないか。まぁ訓練場には誰かしら居るだろうから、ルパートも込み入った話はしないだろう。私は食器をカウンターへ戻して、ルパートと一緒に訓練場へ向かうことになった。
食堂の出入口でキースとセスに鉢合わせした。
「おー、二人とも今日は初めて会うな。もうメシ食ったん?」
陽気な親父のセスとは対照的に、キースは心配げに私達を見た。
「これから二人で話し合いをするのですか……?」
「あ~いえ、ちょっと訓練場で打ち込みをしてスッキリしてきます」
答えた私にキースは優しい笑みを返した。
「そうですか、身体を動かせば思考も健康的になるかもしれないですね。頑張って、ロックウィーナ。ルパートは彼女に優しくしてあげて下さいね?」
更にキースはルパートに近付いて彼の耳元で囁いた。
「もし彼女を泣かせたら、おまえを完全に魅了して僕の奴隷にするから覚悟しろよ?」
小さな声だったのでセスには届かなかったようだが私には聞こえた。魅了? 奴隷ってどういう意味だろう?
キースは謎を残したままセスと共に去ってしまった。発言の意味が気になったが、ルパートの怯えぶりが半端なかったので怖くて確かめられなかった。
☆☆☆
やっちゃった。訓練場には人っ子一人居なかったよ。みんなご飯食べに行っちゃってた。元々訓練場はギルド職員しか使えないから人少ないんだけどさ、誰も居ないとは思わなかったよ。みんなもっと筋肉と語り合おうよ。
静かな所でルパートさんと二人きり。避けたいことこそ遭遇してしまう。
「……誰も居ねぇな」
声に出さんでも見れば判るよ。だから私は途方に暮れているんじゃないか。
ルパートは出入り口から離れた一角に歩を進め、そこで私を手招きした。
「こっち来いウィー。ここで話そう」
私は長い息を吐いた。もう逃げられないな。よし、腹を決めよう。決意してルパートの隣に並んだ。
「何ですか、話って」
「うん……」
ルパートは両手の指を絡ませて物憂げな表情を作った。
「ごめん」
まず出たのは謝罪の言葉だった。食堂でもそうだったし、今回は本気で謝るつもりのようだ。
「俺さ、十代の頃に酷い失恋をしてるんだよ。親友だと思っていた相手に裏切られたんだ」
失恋? ルパートも?
「十代って、騎士団に所属していた頃の話ですか?」
「そう。15の時に幼馴染みと二人で故郷の村を出てな、王都で騎士の試験を受けたんだ。二人とも合格して騎士になれたけどその後、魔法の素質が有った俺は聖騎士に選出された。ここで俺と幼馴染みの明暗が別れたんだ」
ルパートは遠い目をした。
「前にも話したけど、騎士団の役職には貴族や役人の息子が大抵任命される。例外となるのは実力勝負の聖騎士だけだ。何の後ろ盾も無い幼馴染みは出世がほぼ絶望的な状態だった。二人ともそうだったら別に気にしなかっただろうが、俺だけ聖騎士になっちまったからな……。すぐに隊長職に就いてエリート街道まっしぐらで女達から滅茶苦茶モテる俺を、幼馴染みは複雑な想いでずっと見ていたようだ」
実力と権力、そしてルックスも兼ね備えていたルパートは輝ける騎士様だったのだろう。
「……俺には結婚を意識していた恋人が居た。だから他に言い寄ってくる女達なんて相手にしなかった。だけど、それで恨まれることになっちまった。俺にフラれた女達や恋人に去られた男達がな、根も葉も無い俺の悪評を広めるようになったんだ」
何となくその内容は想像できた。
でもヤバイ。ルパートと二人きりになっちゃうじゃん。まだ彼と真面目な話をする心の準備というものが、私にはできていないのですよ。
「食堂、混んできたな」
正午近くなって大量の腹ペコくん達が食堂へ押し寄せてきた。食事を終えた者はテーブルを譲るのがマナーだ。
「ウィー、おまえの部屋に行ってもいいか……?」
らしくもなく遠慮がちにルパートが私に尋ねた。ううううう。
「すみません、火急の用事が有りまして」
「用事って何だ? 手伝うぞ」
「ええと、アレですよ」
「アレって何だ」
無いんだよ、用事なんか。アンタと居たくないだけだっつーの。
「訓練場で準備運動です! 出動前に身体を温めておきたいんです。だから昼食も早めに済ませたんです」
「準備運動?」
「ええ。犯罪グループの本拠地を探るなんて危険な任務ですからね、やれることは全部やっておきたいんです。昨日の出動では先輩達やエリアスさんに助けられるだけで、私は何の役にも立てませんでしたし。焦るつもりは有りませんが、今日の努力は明日の幸せ、毎日コツコツ鍛錬を積んで少しでも実力を上げていきたいんです」
後ろ暗いことが有ると人間は饒舌になるというのは本当だな。スラスラと言い訳が出てきたよ。
ルパートは感心したように言った。
「そりゃあイイ心がけだ。俺も付き合うよ」
そう来たか。
くそ、そんな風に言われたら断れないじゃないか。まぁ訓練場には誰かしら居るだろうから、ルパートも込み入った話はしないだろう。私は食器をカウンターへ戻して、ルパートと一緒に訓練場へ向かうことになった。
食堂の出入口でキースとセスに鉢合わせした。
「おー、二人とも今日は初めて会うな。もうメシ食ったん?」
陽気な親父のセスとは対照的に、キースは心配げに私達を見た。
「これから二人で話し合いをするのですか……?」
「あ~いえ、ちょっと訓練場で打ち込みをしてスッキリしてきます」
答えた私にキースは優しい笑みを返した。
「そうですか、身体を動かせば思考も健康的になるかもしれないですね。頑張って、ロックウィーナ。ルパートは彼女に優しくしてあげて下さいね?」
更にキースはルパートに近付いて彼の耳元で囁いた。
「もし彼女を泣かせたら、おまえを完全に魅了して僕の奴隷にするから覚悟しろよ?」
小さな声だったのでセスには届かなかったようだが私には聞こえた。魅了? 奴隷ってどういう意味だろう?
キースは謎を残したままセスと共に去ってしまった。発言の意味が気になったが、ルパートの怯えぶりが半端なかったので怖くて確かめられなかった。
☆☆☆
やっちゃった。訓練場には人っ子一人居なかったよ。みんなご飯食べに行っちゃってた。元々訓練場はギルド職員しか使えないから人少ないんだけどさ、誰も居ないとは思わなかったよ。みんなもっと筋肉と語り合おうよ。
静かな所でルパートさんと二人きり。避けたいことこそ遭遇してしまう。
「……誰も居ねぇな」
声に出さんでも見れば判るよ。だから私は途方に暮れているんじゃないか。
ルパートは出入り口から離れた一角に歩を進め、そこで私を手招きした。
「こっち来いウィー。ここで話そう」
私は長い息を吐いた。もう逃げられないな。よし、腹を決めよう。決意してルパートの隣に並んだ。
「何ですか、話って」
「うん……」
ルパートは両手の指を絡ませて物憂げな表情を作った。
「ごめん」
まず出たのは謝罪の言葉だった。食堂でもそうだったし、今回は本気で謝るつもりのようだ。
「俺さ、十代の頃に酷い失恋をしてるんだよ。親友だと思っていた相手に裏切られたんだ」
失恋? ルパートも?
「十代って、騎士団に所属していた頃の話ですか?」
「そう。15の時に幼馴染みと二人で故郷の村を出てな、王都で騎士の試験を受けたんだ。二人とも合格して騎士になれたけどその後、魔法の素質が有った俺は聖騎士に選出された。ここで俺と幼馴染みの明暗が別れたんだ」
ルパートは遠い目をした。
「前にも話したけど、騎士団の役職には貴族や役人の息子が大抵任命される。例外となるのは実力勝負の聖騎士だけだ。何の後ろ盾も無い幼馴染みは出世がほぼ絶望的な状態だった。二人ともそうだったら別に気にしなかっただろうが、俺だけ聖騎士になっちまったからな……。すぐに隊長職に就いてエリート街道まっしぐらで女達から滅茶苦茶モテる俺を、幼馴染みは複雑な想いでずっと見ていたようだ」
実力と権力、そしてルックスも兼ね備えていたルパートは輝ける騎士様だったのだろう。
「……俺には結婚を意識していた恋人が居た。だから他に言い寄ってくる女達なんて相手にしなかった。だけど、それで恨まれることになっちまった。俺にフラれた女達や恋人に去られた男達がな、根も葉も無い俺の悪評を広めるようになったんだ」
何となくその内容は想像できた。
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