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新三幕 ガロン荒野再び(2)
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カオスと化した現場だったが、
「あ、魔王様にエリアスさん、おはよーございます」
通りかかったギルドマスターの軽い挨拶によって緊張感が相殺《そうさい》された。
「朝一で集合とは、皆さん朝に強いですね」
昨夜は魔王の登場に慄き、知らされた時間のループにピリピリしていた彼であったのに、一晩で感情を整理することに成功したらしい。歴戦の勇士の心の強さを見せつけられた。
エリアスがマスターに詰め寄った。
「マスター! 私もギルドに泊めて頂きたい!」
「ああ、エリアスさんも協力者なんですってね。いいですよ」
気が抜けるほどにマスターはあっさりと許可を出した。
「マスター、エリアスさんはマズイって!」
「小娘が孕む!」
ルパートとアルクナイトが抗議したが、マスターは涼しい顔で受け流した。
「ルパート、いい加減にウィー離れをしなくちゃ駄目だぜー? 魔王様も勇者とは難しい関係性でしょうが、協力者には近くに居てもらった方が何かと便利です、ここは一つ寛大なお心を。ウィー、エリアスさんを魔王様の隣の空き部屋に後で案内してあげて」
それだけ言うとマスターはカウンターの引き出しから書類の束を取り出し、小脇に抱えて執務室へ消えて行った。
茫然としたルパートの横で、エリアスが小さく拳を上げていた。よっしゃあのポーズですね。
「私の荷物は夕方宿屋から引き払うとして、今日のミッションを決めようか」
めちゃくちゃ上機嫌になったエリアスが、依頼書が留められているボードへ近付いた。
「ウィーおまえ……、毎晩部屋に鍵を必ずかけろよ?」
ピッキング魔のルパートが囁いてからエリアスを追った。
「懐妊したら名付け親になってやる」
シャレにならない軽口を叩いて、アルクナイトも二人に続いた。私は恥ずかしいやら今後の展開が怖いやら、複雑な心境で男達に混ざった。
「ルパート、Bランク以上の依頼を選ぶんだったな?」
「ああ。一つ目のアジトへ行く前に、鈍った腕を鍛え直したい」
「ならこれはどうだ? 追加されたばかりのミッションのようだが、活動フィールドはガロン荒野だ」
「ガロン荒野……いいかもな、確かBランクからDランクまでのモンスターが幅広く出現する所だから、俺達はもちろんのこと、ウィーの戦闘訓練も無理なくできる」
すっかり気安い仲となったエリアスとルパートの会話を聞いて、私はふと既視感を覚えた。ガロン荒野って……。
「あの、そのミッションってもしかして、廃村に残してきた思い出の品を取ってくるってやつですか? 依頼人はかつて村の住民だった人」
私の言葉を受けたエリアスは依頼書を見直した。
「その通りだ。昨日の朝チェックした時は無かった依頼だが、知っていたのか?」
「はい。未来でも行ったんです、ガロン荒野に」
エリアスとルパートが私を注視した。アルクナイトは静かだった。荒野で何が起きたか、彼も知っているのだろう。
☆☆☆
ヒィイイイイン。
悲鳴のような音を立てて風が吹きすさぶガロン荒野に、依頼を受けた私達は再び赴いていた。ああ、いや、二周目では初めてだね。
本来この依頼は、数日後にシモーヌ、ダグラス、アーサー、ニックの四名から成る冒険者パーティが受けるはずだった。
しかし彼らはミッション中にシモーヌを残して死亡してしまう。一周目ではそうだった。
哀しい未来を変えたい。
私はエリアスとルパートに申し出た。私達が代わりに依頼を片付ければ、シモーヌのパーティはガロン荒野へ来ることが無くなる。彼らではこのフィールドで戦うには実力が不足しているのだ。
もっとも、今回ガロン荒野へのルートを私達が潰しても、シモーヌのパーティは別の高難易度の依頼に挑もうとするかもしれない。だから受付嬢のリリアナに頼んでおいた。彼らがBランク以上の依頼書をカウンターに持ってきても受理しないで、もう少し下のランクで経験を積むように勧めて、と。
「リリアナ、泡を食ってたな」
ギルドでのカウンターのやり取りを思い出したルパートが苦笑した。私がBランクフィールドに赴くことを、リリアナはとても心配してくれた。
アルクナイトが「小娘は魔王たる俺が正しい道に誘ってやる」なんて、言わんでいい余計なことを言っちゃったせいでリリアナは錯乱した。魔王に私が攫われると勘違いしてしまったのだ。
リリアナは私を引き止めようとして暴れて、彼女を止めようとしたセスと乱闘になっていた。その隙にギルドを出てきた訳だが……、今はもう落ち着いたかな?
「人間は視野が狭い」
「そう言えばアルクナイト、アンタは大丈夫なの?」
「何がだ小娘」
「私達はこれから戦闘訓練で、魔族と戦うことになるんだよ? アンタにとっては身内でしょ?」
アルクナイトが鼻で笑った。
「有史以来、同族同士で殺し合ってきた人間がそれを言うのか?」
私は言葉に詰まった。確かにそうだ。私達人間の歴史は戦争の歴史でもある。
「こういった場所に居る輩は俺の部下ではない。はぐれ魔族だ」
「……そっか」
「だが同族が殺されることに嫌悪感が無いと言えば噓になる。戦う相手は、向こうから襲ってきた好戦的な馬鹿だけに限定してくれ」
「あ、うん!」
「気遣いには感謝してやる」
やっぱりコイツはツンデレだな。魔王と言っても考え方は人間と一緒みたいだ。
「……ストーカー行為と尻文字さえなければイイ奴なのに」
魔王とうっかり親友になってしまった勇者のエリアスが呟いた。アルクナイトはどこ吹く風だった。
「あ、魔王様にエリアスさん、おはよーございます」
通りかかったギルドマスターの軽い挨拶によって緊張感が相殺《そうさい》された。
「朝一で集合とは、皆さん朝に強いですね」
昨夜は魔王の登場に慄き、知らされた時間のループにピリピリしていた彼であったのに、一晩で感情を整理することに成功したらしい。歴戦の勇士の心の強さを見せつけられた。
エリアスがマスターに詰め寄った。
「マスター! 私もギルドに泊めて頂きたい!」
「ああ、エリアスさんも協力者なんですってね。いいですよ」
気が抜けるほどにマスターはあっさりと許可を出した。
「マスター、エリアスさんはマズイって!」
「小娘が孕む!」
ルパートとアルクナイトが抗議したが、マスターは涼しい顔で受け流した。
「ルパート、いい加減にウィー離れをしなくちゃ駄目だぜー? 魔王様も勇者とは難しい関係性でしょうが、協力者には近くに居てもらった方が何かと便利です、ここは一つ寛大なお心を。ウィー、エリアスさんを魔王様の隣の空き部屋に後で案内してあげて」
それだけ言うとマスターはカウンターの引き出しから書類の束を取り出し、小脇に抱えて執務室へ消えて行った。
茫然としたルパートの横で、エリアスが小さく拳を上げていた。よっしゃあのポーズですね。
「私の荷物は夕方宿屋から引き払うとして、今日のミッションを決めようか」
めちゃくちゃ上機嫌になったエリアスが、依頼書が留められているボードへ近付いた。
「ウィーおまえ……、毎晩部屋に鍵を必ずかけろよ?」
ピッキング魔のルパートが囁いてからエリアスを追った。
「懐妊したら名付け親になってやる」
シャレにならない軽口を叩いて、アルクナイトも二人に続いた。私は恥ずかしいやら今後の展開が怖いやら、複雑な心境で男達に混ざった。
「ルパート、Bランク以上の依頼を選ぶんだったな?」
「ああ。一つ目のアジトへ行く前に、鈍った腕を鍛え直したい」
「ならこれはどうだ? 追加されたばかりのミッションのようだが、活動フィールドはガロン荒野だ」
「ガロン荒野……いいかもな、確かBランクからDランクまでのモンスターが幅広く出現する所だから、俺達はもちろんのこと、ウィーの戦闘訓練も無理なくできる」
すっかり気安い仲となったエリアスとルパートの会話を聞いて、私はふと既視感を覚えた。ガロン荒野って……。
「あの、そのミッションってもしかして、廃村に残してきた思い出の品を取ってくるってやつですか? 依頼人はかつて村の住民だった人」
私の言葉を受けたエリアスは依頼書を見直した。
「その通りだ。昨日の朝チェックした時は無かった依頼だが、知っていたのか?」
「はい。未来でも行ったんです、ガロン荒野に」
エリアスとルパートが私を注視した。アルクナイトは静かだった。荒野で何が起きたか、彼も知っているのだろう。
☆☆☆
ヒィイイイイン。
悲鳴のような音を立てて風が吹きすさぶガロン荒野に、依頼を受けた私達は再び赴いていた。ああ、いや、二周目では初めてだね。
本来この依頼は、数日後にシモーヌ、ダグラス、アーサー、ニックの四名から成る冒険者パーティが受けるはずだった。
しかし彼らはミッション中にシモーヌを残して死亡してしまう。一周目ではそうだった。
哀しい未来を変えたい。
私はエリアスとルパートに申し出た。私達が代わりに依頼を片付ければ、シモーヌのパーティはガロン荒野へ来ることが無くなる。彼らではこのフィールドで戦うには実力が不足しているのだ。
もっとも、今回ガロン荒野へのルートを私達が潰しても、シモーヌのパーティは別の高難易度の依頼に挑もうとするかもしれない。だから受付嬢のリリアナに頼んでおいた。彼らがBランク以上の依頼書をカウンターに持ってきても受理しないで、もう少し下のランクで経験を積むように勧めて、と。
「リリアナ、泡を食ってたな」
ギルドでのカウンターのやり取りを思い出したルパートが苦笑した。私がBランクフィールドに赴くことを、リリアナはとても心配してくれた。
アルクナイトが「小娘は魔王たる俺が正しい道に誘ってやる」なんて、言わんでいい余計なことを言っちゃったせいでリリアナは錯乱した。魔王に私が攫われると勘違いしてしまったのだ。
リリアナは私を引き止めようとして暴れて、彼女を止めようとしたセスと乱闘になっていた。その隙にギルドを出てきた訳だが……、今はもう落ち着いたかな?
「人間は視野が狭い」
「そう言えばアルクナイト、アンタは大丈夫なの?」
「何がだ小娘」
「私達はこれから戦闘訓練で、魔族と戦うことになるんだよ? アンタにとっては身内でしょ?」
アルクナイトが鼻で笑った。
「有史以来、同族同士で殺し合ってきた人間がそれを言うのか?」
私は言葉に詰まった。確かにそうだ。私達人間の歴史は戦争の歴史でもある。
「こういった場所に居る輩は俺の部下ではない。はぐれ魔族だ」
「……そっか」
「だが同族が殺されることに嫌悪感が無いと言えば噓になる。戦う相手は、向こうから襲ってきた好戦的な馬鹿だけに限定してくれ」
「あ、うん!」
「気遣いには感謝してやる」
やっぱりコイツはツンデレだな。魔王と言っても考え方は人間と一緒みたいだ。
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