57 / 291
新三幕 ガロン荒野再び(1)
しおりを挟む
朝だ。チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえた。それ以前に目覚めていたが。
アルクナイトに自室のベッドを奪われた私は、ベッドメイクしたばかりの空き部屋で夜を明かすことになった。ところがどっこい、カーテンが付いていない東向きの部屋だったりしたので、昇りかけの朝日がとにかく眩しい。顔を照らされて嫌でも老人並みの早起きとなる。
明るくて二度寝できないしやることが無いので、5時半に目覚めていた私はとっとと自分の部屋に戻りたかった。それでも寝ている相手を起こすのは可哀想だと、気を遣って一時間以上待った。
7時ちょい前。もういいよね?
私は上着を上半身に引っ掛けて自室へ向かい、自分の部屋なのにノックをした。
「おう。誰だ?」
「その部屋の正当な持ち主」
「小娘か。入れ」
偉そうな態度で入室を許可された。突っ込みたかったが倍になって返ってきそうなのでやめた。
ベッドの上に寝転がっていたアルクナイトは、読んでいた本から私へと視線を移し替えた。
「おはよう魔王様。起きてて良かった」
「とっくだ。4時には起きていた」
「えっ、そうだったの!?」
遠慮せずさっさと来れば良かった!
「俺の朝は早い」
奴は得意気だが早いにも程がある。流石は御年482歳のお爺ちゃん。
「じゃ、部屋交換ね。アンタは用意した空き部屋へ行って。忠告だけど、雑貨屋でカーテンをすぐ用意した方がいいよ」
「ここの食堂が開く時間は?」
「7時半」
「あと三十分有るな。それまで暇だから話し相手になれ」
「いやあの、朝の支度をしたいんだけど」
「すれば?」
「……ズバリ言うとね、着替えたいんだ」
「着替えたら?」
コイツ。
「アンタは大人でしょう? 女性が着替える時は同じ空間に居ることを遠慮するべきだよ」
「安心しろ。おまえ程度の貧相な身体を見ても劣情は湧き上がらんから」
うわあぁぁコイツ、首絞めたい。
…………ん? そうだ、私はアルクナイトに確認しなくてはならないことが有るんだった。二周目で記憶の無いエリアスとルパートの前で問い質すと、大変な騒ぎとなりそうなので黙っていた。二人きりの今なら……。
「ねぇアルクナイト、一周目……アンタにとっては十六か十七周目のことだけど……」
「何だ」
「どうして私の首を絞めたの?」
「……………………」
アルクナイトは持っていた本をシーツの上に伏せた。そして言い切った。
「おまえを、殺したかった」
不思議なことに私はショックを受けなかった。
「そうだろうね。完全に気道を塞がれたから、あの時は私ここで死ぬんだって覚悟したよ」
「………………」
「どうして?」
「……時のループを破壊したかった。結婚相手をエリーから別の奴に代えるくらいでは、大きな変化を起こせなかった」
「だから、神によって世界の中心に据えられた私自身を消そうと考えたのね」
彼の殺害動機は判った。でも……。
「それなら何故途中でやめたの? アンタの実力ならエリアスさんが到着する前に、私を仕留めるなんて簡単だったはずだよ?」
「………………」
「あの時のアンタ、凄くつらそうだった」
アルクナイトはベッドから立ち上がった。
「魔王たる俺が、小娘ごときを手にかけるなどプライドが許さん。……それだけだ」
「アルク……」
「部屋を出てやるから、さっさと着替えろ」
そのままアルクナイトはドアを開けて出ていってしまった。
プライドを守る為だと彼は主張したが、何となく噓だと私は思った。
☆☆☆
9時。朝食と出動準備を済ませた私達は、エリアスと冒険者ギルドのエントランスホールで合流した。
私とルパートの後ろに、アルクナイトの姿を見つけたエリアスは疑問を口にした。
「アル、早いな。ギルドで朝食を摂ったのか?」
「というかギルドに泊まった」
「は?」
当然だがエリアスは困惑した。
「冒険者ギルドは魔王も受け入れるのか……? いやそれよりも、ここは外部の者が宿泊できるのか?」
「正当な理由が有ればな。マスターのケイシーは俺を快く迎えてくれたぞ?」
「おまえの正当な理由とは何だ」
「街で宿が取れなくて困っていた」
「………………」
エリアスは私へ向き直った。
「未来を変えるという共通の目的を持つ同志として、即座に連携可能な場所に私も身を置くべきだと思う。ロックウィーナ、私がギルドに宿泊できるようにマスターに口添えしてもらえないだろうか?」
「駄目だ」
「許さん」
ルパートとアルクナイトが、エリアスの申し出を一刀両断にした。
「何故アルが良くて私は駄目なんだ!」
「エリアスさん、ここに泊まったら何かと理由を付けて、ウィーの部屋に入り浸るつもりだろう?」
「そして子供の数を増やす算段だ」
「ばっ……、言ったはずだ、彼女の同意無く手は出さないと!」
ルパートとアルクナイトは同時に肩を竦めた。またも動作がシンクロしていた。
「じゃあエリアスさん、もしウィーが同意したらどうする気だ? ウィーは単純だからな、男から甘い言葉の一つでも囁かれたら、すぐに頷いてしまうかもしれないお馬鹿さんだぞ? それでも適度な距離を取り続けると約束できるか?」
「ナニをする気だ? 男慣れしていない小娘は簡単にのぼせ上がるぞ? 無防備な状態になったお馬鹿を前にしてエリー、おまえは果たして紳士でいられるかな?」
「馬鹿はアンタ達だ!!」
馬鹿馬鹿言われた私は頭に血が上った。
「もう! 私はもう25歳の大人なんだから放っておいて下さいよ! 私とエリアスさんがどうなろうが私達の勝手でしょ!?」
「ロックウィーナ……」
エリアスが私を見つめた後、右手で自分の口元を隠した。え、何? キョトンとした私にルパートが雷を落とした。
「馬鹿たれ! 今の言い方だとエリアスさんにOK出したも同然だぞ!」
「え……ええ!?」
「エリーな、隠した口元で絶対ニヤけてるぞ」
ニヤけている? まさか。 確認しようとしたらエリアスは後ろを向いた。マジか。私やっちゃった?
「OKなんて、そ、そんなつもりで言ったんじゃないです! 先輩達に馬鹿にされたのが悔しくて言い返しただけなんです!」
「解ってるわ!! でもな、ズルい男は女の迂闊な言動を利用して急接近を図るんだ! だから隙を見せるなといつも注意してんだろーが!」
「おお、チャラ男、本当にお父さんだな……」
アルクナイトに自室のベッドを奪われた私は、ベッドメイクしたばかりの空き部屋で夜を明かすことになった。ところがどっこい、カーテンが付いていない東向きの部屋だったりしたので、昇りかけの朝日がとにかく眩しい。顔を照らされて嫌でも老人並みの早起きとなる。
明るくて二度寝できないしやることが無いので、5時半に目覚めていた私はとっとと自分の部屋に戻りたかった。それでも寝ている相手を起こすのは可哀想だと、気を遣って一時間以上待った。
7時ちょい前。もういいよね?
私は上着を上半身に引っ掛けて自室へ向かい、自分の部屋なのにノックをした。
「おう。誰だ?」
「その部屋の正当な持ち主」
「小娘か。入れ」
偉そうな態度で入室を許可された。突っ込みたかったが倍になって返ってきそうなのでやめた。
ベッドの上に寝転がっていたアルクナイトは、読んでいた本から私へと視線を移し替えた。
「おはよう魔王様。起きてて良かった」
「とっくだ。4時には起きていた」
「えっ、そうだったの!?」
遠慮せずさっさと来れば良かった!
「俺の朝は早い」
奴は得意気だが早いにも程がある。流石は御年482歳のお爺ちゃん。
「じゃ、部屋交換ね。アンタは用意した空き部屋へ行って。忠告だけど、雑貨屋でカーテンをすぐ用意した方がいいよ」
「ここの食堂が開く時間は?」
「7時半」
「あと三十分有るな。それまで暇だから話し相手になれ」
「いやあの、朝の支度をしたいんだけど」
「すれば?」
「……ズバリ言うとね、着替えたいんだ」
「着替えたら?」
コイツ。
「アンタは大人でしょう? 女性が着替える時は同じ空間に居ることを遠慮するべきだよ」
「安心しろ。おまえ程度の貧相な身体を見ても劣情は湧き上がらんから」
うわあぁぁコイツ、首絞めたい。
…………ん? そうだ、私はアルクナイトに確認しなくてはならないことが有るんだった。二周目で記憶の無いエリアスとルパートの前で問い質すと、大変な騒ぎとなりそうなので黙っていた。二人きりの今なら……。
「ねぇアルクナイト、一周目……アンタにとっては十六か十七周目のことだけど……」
「何だ」
「どうして私の首を絞めたの?」
「……………………」
アルクナイトは持っていた本をシーツの上に伏せた。そして言い切った。
「おまえを、殺したかった」
不思議なことに私はショックを受けなかった。
「そうだろうね。完全に気道を塞がれたから、あの時は私ここで死ぬんだって覚悟したよ」
「………………」
「どうして?」
「……時のループを破壊したかった。結婚相手をエリーから別の奴に代えるくらいでは、大きな変化を起こせなかった」
「だから、神によって世界の中心に据えられた私自身を消そうと考えたのね」
彼の殺害動機は判った。でも……。
「それなら何故途中でやめたの? アンタの実力ならエリアスさんが到着する前に、私を仕留めるなんて簡単だったはずだよ?」
「………………」
「あの時のアンタ、凄くつらそうだった」
アルクナイトはベッドから立ち上がった。
「魔王たる俺が、小娘ごときを手にかけるなどプライドが許さん。……それだけだ」
「アルク……」
「部屋を出てやるから、さっさと着替えろ」
そのままアルクナイトはドアを開けて出ていってしまった。
プライドを守る為だと彼は主張したが、何となく噓だと私は思った。
☆☆☆
9時。朝食と出動準備を済ませた私達は、エリアスと冒険者ギルドのエントランスホールで合流した。
私とルパートの後ろに、アルクナイトの姿を見つけたエリアスは疑問を口にした。
「アル、早いな。ギルドで朝食を摂ったのか?」
「というかギルドに泊まった」
「は?」
当然だがエリアスは困惑した。
「冒険者ギルドは魔王も受け入れるのか……? いやそれよりも、ここは外部の者が宿泊できるのか?」
「正当な理由が有ればな。マスターのケイシーは俺を快く迎えてくれたぞ?」
「おまえの正当な理由とは何だ」
「街で宿が取れなくて困っていた」
「………………」
エリアスは私へ向き直った。
「未来を変えるという共通の目的を持つ同志として、即座に連携可能な場所に私も身を置くべきだと思う。ロックウィーナ、私がギルドに宿泊できるようにマスターに口添えしてもらえないだろうか?」
「駄目だ」
「許さん」
ルパートとアルクナイトが、エリアスの申し出を一刀両断にした。
「何故アルが良くて私は駄目なんだ!」
「エリアスさん、ここに泊まったら何かと理由を付けて、ウィーの部屋に入り浸るつもりだろう?」
「そして子供の数を増やす算段だ」
「ばっ……、言ったはずだ、彼女の同意無く手は出さないと!」
ルパートとアルクナイトは同時に肩を竦めた。またも動作がシンクロしていた。
「じゃあエリアスさん、もしウィーが同意したらどうする気だ? ウィーは単純だからな、男から甘い言葉の一つでも囁かれたら、すぐに頷いてしまうかもしれないお馬鹿さんだぞ? それでも適度な距離を取り続けると約束できるか?」
「ナニをする気だ? 男慣れしていない小娘は簡単にのぼせ上がるぞ? 無防備な状態になったお馬鹿を前にしてエリー、おまえは果たして紳士でいられるかな?」
「馬鹿はアンタ達だ!!」
馬鹿馬鹿言われた私は頭に血が上った。
「もう! 私はもう25歳の大人なんだから放っておいて下さいよ! 私とエリアスさんがどうなろうが私達の勝手でしょ!?」
「ロックウィーナ……」
エリアスが私を見つめた後、右手で自分の口元を隠した。え、何? キョトンとした私にルパートが雷を落とした。
「馬鹿たれ! 今の言い方だとエリアスさんにOK出したも同然だぞ!」
「え……ええ!?」
「エリーな、隠した口元で絶対ニヤけてるぞ」
ニヤけている? まさか。 確認しようとしたらエリアスは後ろを向いた。マジか。私やっちゃった?
「OKなんて、そ、そんなつもりで言ったんじゃないです! 先輩達に馬鹿にされたのが悔しくて言い返しただけなんです!」
「解ってるわ!! でもな、ズルい男は女の迂闊な言動を利用して急接近を図るんだ! だから隙を見せるなといつも注意してんだろーが!」
「おお、チャラ男、本当にお父さんだな……」
2
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる