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新四幕 ルパートの焦り(2)
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「お、エリーが来たぞ」
大きな鞄を二つ持ったエリアスが入ってきた。大荷物だな。
「待たせた。そこでリーベルトとすれ違ったが、彼はここで生活していないのか?」
「はい。彼女……じゃなくて彼は、毎日自宅から通っているんです」
「エリー、取り敢えず荷物を部屋に置いて早めの飯にしよう。腹が減った」
「そうですね。お部屋に案内します」
エリアスを二階の独身寮に案内しようと私達は階段を上りかけたが、ルパートが付いてこようとしなかった。
「ワリィ、俺は訓練場でもう少し身体動かしておくわ。構わず飯食っててくれ」
「あ、はい」
「じゃな。あ、魔王様、ウィーとエリアスさんが二人きりにならないように見てて下さい」
「任せろお父さん」
ルパートと別れた私達は二階へ上がり、リネン室から必要な寝具を取って空き部屋へ向かった。
「こちらの部屋を使って下さい」
「ありがとう」
「判らないことが有ったら何でも聞くんだぞ? 先輩の俺様が懇切丁寧に教えてやる」
「たった一日早く泊まっただけで偉そうに」
エリアスは抱えていた荷物を降ろした。ドシン、と振動が床に伝わる。野営用のキャンプ用具も入っていると見た。
「ロックウィーナ、ルパートは普段からトレーニングに熱心な男なのか?」
「そこまでは……。もちろん毎日筋トレは欠かさずやっているようですが、三十分くらいでさっと上がっていますね」
「そうか」
私がベッドメイクを終えて振り返ると、エリアスは考え込むような仕草をしていた。
「あの……どうかしましたか?」
「いや、すまない。食事に行こう」
彼はそう言ってから戦闘用の手袋を外し、私の腰に手を回してエスコートしてくれた。ふわぁぁ。一流レストランのディナーじゃなくて冒険者ギルドの安食堂なんですけど……。
☆☆☆
19時。ゆっくり食事したというのに、まるで姿を表さないルパートが流石に心配になってきた。
食器を食堂のカウンターに戻している最中、エリアスから甘いお誘いが入った。
「ロックウィーナ、この後私の部屋へ来ないか? いろいろとお喋りをしたい」
「食事中に散々喋っただろうが。貴族の男が夜に異性を部屋に招き入れたら、周囲からは婚約関係だと見なされるぞ? それ狙ってる?」
アルクナイトの突っ込みをエリアスは軽くかわした。
「まだ話し足りないんだ。ロックウィーナの魅力は表面上の美しさだけではない。もっともっと時間をかけてキミを深く知りたい」
うっきゃあぁ。理想の美男子にそんなことを言われて頭がぼうっとした。本音を言うと全力で誘いに乗りたい。でも……。
「ごめんなさい。私、寄りたい所が有るので」
告げた私にエリアスが優しく微笑んだ。誘いを断ったというのに。
「ルパートが気になるんだね? 訓練場に行くなら私も付き会おう」
見透かされていたか。この人ってば凄いよなぁ。流石は神様一推しの結婚相手だけのことはある。
私とエリアスは並んで訓練場へ歩いた。
「ふっ、ふっ」
訓練場ではルパートが木刀で素振りを繰り返していた。上半身の服を脱いでいたが、凄い汗だ。あれから真面目にずっと鍛錬を積んでいたらしい。ガロン荒野に出動して疲れているだろうに。
やはり付いてきていたアルクナイトが苦言を呈した。
「チャラ男、明らかなオーバーワークだ。今日はもう上がって休息を取れ」
ルパートはチラリとこちらを窺ったが、素振りをやめなかった。
「大丈夫だ、もう少しだけ……」
「何をそんなに焦っている?」
エリアスの低い声に静かに指摘され、ルパートの身体が一瞬だけ強張った。
「……別に」
「明日もミッションに挑むのだろう? 今日の疲れを残すと明日碌に動けなくなるぞ」
「解ってる。あと十分したら上がるよ。約束する」
「そうしろ。おやすみ」
エリアスは私の肩を抱いて訓練場を去ろうとした。
「あの、エリアスさんっ……」
「今は駄目だ。ルパートと話したかったら奴の頭が冷めるのを待つんだ」
「………………」
そうかもしれない。下手に言葉をかけたらルパートは余計に意固地になりそうだ。
私はエリアスに従って訓練場を後にした。
☆☆☆
シャワーの後、結局私はエリアスの部屋にお邪魔した。もちろんアルクナイトにも声をかけて同行してもらった。エリアスを信頼しているが、夜に異性と二人きりになるのはちょっと怖かった。
三人でいろいろ話した。主に私とエリアスの幼少期のこと、そこへアルクナイトが茶々を入れるという形で。
「そうか、ロックウィーナの姉君はもう結婚されているんだね」
「はい、故郷の幼馴染みと。田舎は結婚が早いですね。同年代の好きな相手と結婚できた姉は幸運でした」
「と言うと?」
「若者の数が少なくて取り合いになるんです。特に女の子は、小さい頃からウチの嫁にって縁談が持ち込まれます。ずいぶんと歳が離れた相手からも」
それが凄く嫌だった。昔の私が色気の無い少年のような見た目だったのは、羊飼いの仕事で走り回っていたせいも有るが、勝手に縁組みされないようにとの自衛でもあったのだ。それでもしつこくオジさん達から求婚されたけど。
「ロックウィーナにもそういった話が有ったのか?」
「ええ、たくさん。でも私は自由恋愛に憧れてて、それで故郷を出て人の多い都会へ来たんです。姉も応援してくれました」
「おまえの本棚、戦術指南書と恋愛小説だけだもんな。どういう組み合わせだよ」
あ、魔王め。夕べ私の部屋で寝落ちして、今朝は私の愛蔵本を読んでいたんだった!
大きな鞄を二つ持ったエリアスが入ってきた。大荷物だな。
「待たせた。そこでリーベルトとすれ違ったが、彼はここで生活していないのか?」
「はい。彼女……じゃなくて彼は、毎日自宅から通っているんです」
「エリー、取り敢えず荷物を部屋に置いて早めの飯にしよう。腹が減った」
「そうですね。お部屋に案内します」
エリアスを二階の独身寮に案内しようと私達は階段を上りかけたが、ルパートが付いてこようとしなかった。
「ワリィ、俺は訓練場でもう少し身体動かしておくわ。構わず飯食っててくれ」
「あ、はい」
「じゃな。あ、魔王様、ウィーとエリアスさんが二人きりにならないように見てて下さい」
「任せろお父さん」
ルパートと別れた私達は二階へ上がり、リネン室から必要な寝具を取って空き部屋へ向かった。
「こちらの部屋を使って下さい」
「ありがとう」
「判らないことが有ったら何でも聞くんだぞ? 先輩の俺様が懇切丁寧に教えてやる」
「たった一日早く泊まっただけで偉そうに」
エリアスは抱えていた荷物を降ろした。ドシン、と振動が床に伝わる。野営用のキャンプ用具も入っていると見た。
「ロックウィーナ、ルパートは普段からトレーニングに熱心な男なのか?」
「そこまでは……。もちろん毎日筋トレは欠かさずやっているようですが、三十分くらいでさっと上がっていますね」
「そうか」
私がベッドメイクを終えて振り返ると、エリアスは考え込むような仕草をしていた。
「あの……どうかしましたか?」
「いや、すまない。食事に行こう」
彼はそう言ってから戦闘用の手袋を外し、私の腰に手を回してエスコートしてくれた。ふわぁぁ。一流レストランのディナーじゃなくて冒険者ギルドの安食堂なんですけど……。
☆☆☆
19時。ゆっくり食事したというのに、まるで姿を表さないルパートが流石に心配になってきた。
食器を食堂のカウンターに戻している最中、エリアスから甘いお誘いが入った。
「ロックウィーナ、この後私の部屋へ来ないか? いろいろとお喋りをしたい」
「食事中に散々喋っただろうが。貴族の男が夜に異性を部屋に招き入れたら、周囲からは婚約関係だと見なされるぞ? それ狙ってる?」
アルクナイトの突っ込みをエリアスは軽くかわした。
「まだ話し足りないんだ。ロックウィーナの魅力は表面上の美しさだけではない。もっともっと時間をかけてキミを深く知りたい」
うっきゃあぁ。理想の美男子にそんなことを言われて頭がぼうっとした。本音を言うと全力で誘いに乗りたい。でも……。
「ごめんなさい。私、寄りたい所が有るので」
告げた私にエリアスが優しく微笑んだ。誘いを断ったというのに。
「ルパートが気になるんだね? 訓練場に行くなら私も付き会おう」
見透かされていたか。この人ってば凄いよなぁ。流石は神様一推しの結婚相手だけのことはある。
私とエリアスは並んで訓練場へ歩いた。
「ふっ、ふっ」
訓練場ではルパートが木刀で素振りを繰り返していた。上半身の服を脱いでいたが、凄い汗だ。あれから真面目にずっと鍛錬を積んでいたらしい。ガロン荒野に出動して疲れているだろうに。
やはり付いてきていたアルクナイトが苦言を呈した。
「チャラ男、明らかなオーバーワークだ。今日はもう上がって休息を取れ」
ルパートはチラリとこちらを窺ったが、素振りをやめなかった。
「大丈夫だ、もう少しだけ……」
「何をそんなに焦っている?」
エリアスの低い声に静かに指摘され、ルパートの身体が一瞬だけ強張った。
「……別に」
「明日もミッションに挑むのだろう? 今日の疲れを残すと明日碌に動けなくなるぞ」
「解ってる。あと十分したら上がるよ。約束する」
「そうしろ。おやすみ」
エリアスは私の肩を抱いて訓練場を去ろうとした。
「あの、エリアスさんっ……」
「今は駄目だ。ルパートと話したかったら奴の頭が冷めるのを待つんだ」
「………………」
そうかもしれない。下手に言葉をかけたらルパートは余計に意固地になりそうだ。
私はエリアスに従って訓練場を後にした。
☆☆☆
シャワーの後、結局私はエリアスの部屋にお邪魔した。もちろんアルクナイトにも声をかけて同行してもらった。エリアスを信頼しているが、夜に異性と二人きりになるのはちょっと怖かった。
三人でいろいろ話した。主に私とエリアスの幼少期のこと、そこへアルクナイトが茶々を入れるという形で。
「そうか、ロックウィーナの姉君はもう結婚されているんだね」
「はい、故郷の幼馴染みと。田舎は結婚が早いですね。同年代の好きな相手と結婚できた姉は幸運でした」
「と言うと?」
「若者の数が少なくて取り合いになるんです。特に女の子は、小さい頃からウチの嫁にって縁談が持ち込まれます。ずいぶんと歳が離れた相手からも」
それが凄く嫌だった。昔の私が色気の無い少年のような見た目だったのは、羊飼いの仕事で走り回っていたせいも有るが、勝手に縁組みされないようにとの自衛でもあったのだ。それでもしつこくオジさん達から求婚されたけど。
「ロックウィーナにもそういった話が有ったのか?」
「ええ、たくさん。でも私は自由恋愛に憧れてて、それで故郷を出て人の多い都会へ来たんです。姉も応援してくれました」
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