ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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新四幕 ルパートの焦り(6)

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「!?」

 キースが導いた結論に、ルパート、そして私は息を吞んだ。

「ロックウィーナに告白されたのは六年前だそうですが、僕が知る限り、キミはその後も彼女にべったりしていました。自分が振った相手である彼女に」
「それは……、女としては見れなくても、ウィーはイイ奴だから」
「あのですね、その気も無い相手に好きだなんて言われたら、普通は気まずくなって距離を置くものなんですよ」

 だよね。少なくとも振られた側の私は遠ざかりたかった。

「だけど、仕事に私情は挟めないから」
「そうですか? 命懸けで任務に当たる出動班は、相性の良い者同士がバディを組みます。そもそもロックウィーナの教育係は、当初はセスがなる予定でした。ルパート、キミがバディを解消したいとケイシーに申し出ていたら、希望はすんなり通ったはずです」
「………………」
「でもキミはロックウィーナの傍から離れなかった。ロックウィーナが自分から離れることも許さなかった」
「………………」
「ルパート、キミはもう恋で傷付きたくないんです。だから……」

 キースは一瞬躊躇ためらったが、意を決して言った。

「だから、ロックウィーナに恋をしたのに、それを認めることができないでいるんです」
「!……………………」

 ルパートは静かにコップを机に置いて沈黙した。まばたきを忘れてしまったのか、目を見開いたままだ。
 私はというと、イスに座ったまま金縛りに遭っていた。キースってばとんでもないことを言い放ったよ。よりにもよって、ルパートが私に恋してるなんて。

 ……馬鹿馬鹿しいと思うのに、どうして私はショックを受けているんだろう? どうしてルパートは言い返さないんだろう?

「る、ルパート先輩……」

 身体は硬直したままだが声は何とか出た。

「否定……しないと。キース先輩の勘違いを……正さないと」

 顔の筋肉も強張こわばってしまったから喋りにくいな。

「否定は……できない」

 ほえ?

「キースさんの……言う通りかもしれない」

 ほえ?
 ほええ?
 ほええええええ!?

「なっ、何言ってるんですか、先輩まで!」
「魔王様が……」

 ん? ぐっすりおやすみマンがどうかした?

「魔王様が、俺とおまえが結婚する未来も存在したと言っていた」
「それは……」
「ええ!?」

 私以上にキースが反応した。

「ルパートとロックウィーナは将来結婚するんですか!? そこまで仲が進展するんですか!? 険悪になったここから大逆転ですね!」
「……そういう未来も有るって話。昨日の晩にさ、俺達は時間のループに閉じ込められているけど、行動によって未来が変わるって話したろ? ウィーの結婚相手もそうなんだ。何もしなければエリアスさんだが、彼の代わりに俺やキースさんが結婚相手になった未来も有ったそうだ」

 キースは目を見開いた。

「ぼっ、僕もですか!? 僕は独身主義者なんですが!?」
「時間のループを十七周も体験した魔王様情報だ」
「そんな……まさか……」

 キースがイスの上であわあわし出した。ルパートをさとしていた彼であったが、自分のこととなると冷静さを欠くようだ。

「俺、魔王様からそれを聞いてから何て言うか、ずっと心にモヤがかかったみたいな気分になってたんだ……」

 ルパートは再度項垂うなだれた。

「でもキースさんに指摘されて、そのモヤが晴れた気がする」

 顔を上げたルパートが真っ直ぐに私を見た。
 私は熱を帯びた彼の瞳にとらえられた。キースに魅了された時の表情と同じだ。それを私に向けるなんて。

 怖い。大きな変化がもたらされようとしていた。

「今になって解ったよ。ウィー、俺は……」

 駄目だよルパート。その先は言っちゃ駄目。やっと落ち着いた私達の関係がまた壊れてしまう。
 私は彼を止めたかったが、彼はもう覚悟を決めていた。

「おまえを愛していたんだ。一人の男として、ずっと前から」
「!………………」

 ドクン。心臓が跳ね上がった。
 エリアスに押し倒された時と同等、いやそれ以上の激しいリズムが私の身体を駆け巡った。

「今さら虫のいいことを言っているのは承知の上だ。それでも、気づいてしまった心はもういつわれない」

 ルパートは一旦立ち上がり、私の傍へ移動すると、左手でガッチガチに固まっていた私の右手を取った。そして己の右膝を折って私の前にひざまずいた。
 エリアスが私にプロポーズした時を思い出した。

「ウィー、いやロックウィーナ。おまえを傷付けた償いはする。もしも俺を許して受け入れてくれるなら、俺はおまえの心に生涯を懸けて忠誠を誓おう」

 ふっと、腰に剣を差して騎士の制服を着たルパートが見えた気がした。シャワーの後でラフな服装の彼であるのに。
 さっきのなんちゃってプロポーズではなく、今のはルパートの本気のプロポーズだ。
 ど、どうしよう? カウンターパンチを……入れられる空気じゃないよね!?

 私の思考が定まる前に、ルパートは私の右手の甲へキスをした。どっひゃあぁ。
 ドックン、バックン、ドックン。短期間で心臓に負担をかけ過ぎて早死にしそう。

「返事は急がない。だがいつか俺を選んで貰えるように頑張るよ」

 あのルパートが私にここまでするなんて、言うなんて。
 かつて彼に恋をしていた記憶が走馬灯のように蘇った。やっぱり死ぬのかな。意識が遠のいていく。

「ウィー!?」

 ふにゃあ。イスの背もたれからずり落ちた私をルパートが支えた。それだけではなく、彼は軽々と私を両手を使って身体の前に抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
 恋愛小説を読んで憧れていたこの抱っこ、まさかルパートにしてもらう日が来るとは。

「キースさんおやすみ、邪魔をしたな」
「おやすみ……ってルパート、何処へ行くつもりですか?」
「え? コイツを部屋へ送り届けてくるんだよ。ベッドに寝かせてやらなきゃ」
「僕も同行します」
「俺一人でやれるよ」
「阿保か。恋心を自覚したおまえと、気絶しかけているロックウィーナを二人きりにしたら危ないだろうが」
「……キースさん?」

 あれ? キースの話し方が変わった?

「誰かに見られたら誤解される状況ですからね、キミが彼女の部屋を出るまで同行しますよ。彼女をベッドに寝かせて、それから間違いが起きないようにサッと退出しましょう」

 気のせいだったようだ。キースはいつもと同じ穏やかな話し方だ。ルパートが小さく舌打ちしたような気もしたが、これも聞き違いだろうな。

 衝撃展開の連続で神経が擦り減っていた私は、ルパートの腕の中で眠りに落ちたのであった。 
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